123 / 139
第四章 叶わない願いはないと信じてる
第104話 聖女の杖をヒロインに【前編】
しおりを挟む
「容姿端麗を【Lv10】に上げます! 誘惑!」
デゼルが立て続けに魔法を使う。
僕は意識が朦朧としてしまって、何が起きているのか、よく、わからなかった。
「動かないで! そこで待って! ――サイファ様!」
僕に駆け寄ってきたデゼルが、斬り落とされた僕の腕を拾ってつけようとするんだ。
デゼルのすることがあんまり可愛くて、笑っちゃった。
それ、つかないと思うよ?
笑い声は、立てられなかったけど。
こんな、楽しい気持ち、優しい情景が最後なら、悪くないかも。
「生命の水【Lv7】――水神の名を借りて命ずる、サイファを癒したまえ」
冷え切って、もう、二度とぬくもりが戻ることはないと思った僕の身体に、生命が急激に戻ってきて、朦朧としていた意識がみるみる覚醒して、なんだか、すごく驚いた。
「死なないで、死なないで、サイファ様!」
水神の癒術で腕がついて、傷がふさがって、僕の震えは、死の予感が嘘だったみたいにおさまったんだ。
でも、右腕は上がらなかった。
指先もぴくりとも動かせない。
「あー……右腕、動かなくなっちゃった……」
うつむきがちに微笑んだ僕を、デゼルが泣きながら抱き締めてくれて、心地好かった。
「よく頑張ったね、デゼル」
しゃくり上げるデゼルの頭を左手でなでてあげながら、顔を上げて、優しく声をかけてみた。
「まだ、頑張れる?」
デゼルは泣きながらうなずいた。
僕がにっこり微笑んで励ますと、デゼルはまず闇主たちに、命令を与え直した。
「デゼルの闇主に命ずる、我が命に従い、困難にある人々に救いの手を差し伸べることを喜びとせよ。傷つけることなく、魔物たちをデゼルの前に狩り出せ」
デゼルはそれから、ヒドい、ヒドいと、壊れたように泣き続けるケイナ様の傍にかがんだ。
「京奈、泣いていては駄目。あなたは聖サファイアの聖女よ」
「もう駄目よ! エリス様がいなくなって、災禍が解けた光の使徒達が私を見たあの目……! 蔑んでた! 悪魔を見る目をしてた! どうして……!? 聖女に生まれてさえ、私は醜悪な魔女なの!? どうして!!」
「違う。ユリアだった時、京奈は綺麗だった。ちゃんと、ネプチューンに愛されてた」
「私……ユリアにも転生したの……?」
「そうだよ。私にも、優しくしてくれた」
なんだろう、『ユリアにも転生』って、まるで、二人はユリア様が生まれる前から知り合いだったみたいな会話だよね?
「京奈が持つべき聖女の杖だよ。京奈、聖女としてのあなたの力は失われていない。災いが去っただけ。ほら、私の闇主たちが魔物を狩り出した。人に戻してあげて」
すっかり、自信をなくしてしまった様子でも。
ケイナ様がおずおずと聖女の杖をふると、まばゆい光が溢れて、魔物はちゃんと人の姿に戻ったんだ。
邪神を降ろして、ケイナ様の魂は壊れてしまったんじゃないかと思ったけど、無事だったみたいだ。
それに、もしかしたら――
「その人を安全に町まで送ってあげて」
闇主の一人に命じたデゼルが、ポンポンとケイナ様の背中を叩いた。
「あなた、闇主たちにあんなことを命じていたの……」
「うん。……へんかな?」
「へんっていうか、……なんでもない」
エリス様の影響がなくなったケイナ様なら、デゼルを助けてくれるかもしれない。
二人の様子を見ていて、そんな期待が、僕の胸に芽生えたんだ。
ケイナ様は聖女の杖をしばらく見詰めていた後、首を横にふった。
デゼルが立て続けに魔法を使う。
僕は意識が朦朧としてしまって、何が起きているのか、よく、わからなかった。
「動かないで! そこで待って! ――サイファ様!」
僕に駆け寄ってきたデゼルが、斬り落とされた僕の腕を拾ってつけようとするんだ。
デゼルのすることがあんまり可愛くて、笑っちゃった。
それ、つかないと思うよ?
笑い声は、立てられなかったけど。
こんな、楽しい気持ち、優しい情景が最後なら、悪くないかも。
「生命の水【Lv7】――水神の名を借りて命ずる、サイファを癒したまえ」
冷え切って、もう、二度とぬくもりが戻ることはないと思った僕の身体に、生命が急激に戻ってきて、朦朧としていた意識がみるみる覚醒して、なんだか、すごく驚いた。
「死なないで、死なないで、サイファ様!」
水神の癒術で腕がついて、傷がふさがって、僕の震えは、死の予感が嘘だったみたいにおさまったんだ。
でも、右腕は上がらなかった。
指先もぴくりとも動かせない。
「あー……右腕、動かなくなっちゃった……」
うつむきがちに微笑んだ僕を、デゼルが泣きながら抱き締めてくれて、心地好かった。
「よく頑張ったね、デゼル」
しゃくり上げるデゼルの頭を左手でなでてあげながら、顔を上げて、優しく声をかけてみた。
「まだ、頑張れる?」
デゼルは泣きながらうなずいた。
僕がにっこり微笑んで励ますと、デゼルはまず闇主たちに、命令を与え直した。
「デゼルの闇主に命ずる、我が命に従い、困難にある人々に救いの手を差し伸べることを喜びとせよ。傷つけることなく、魔物たちをデゼルの前に狩り出せ」
デゼルはそれから、ヒドい、ヒドいと、壊れたように泣き続けるケイナ様の傍にかがんだ。
「京奈、泣いていては駄目。あなたは聖サファイアの聖女よ」
「もう駄目よ! エリス様がいなくなって、災禍が解けた光の使徒達が私を見たあの目……! 蔑んでた! 悪魔を見る目をしてた! どうして……!? 聖女に生まれてさえ、私は醜悪な魔女なの!? どうして!!」
「違う。ユリアだった時、京奈は綺麗だった。ちゃんと、ネプチューンに愛されてた」
「私……ユリアにも転生したの……?」
「そうだよ。私にも、優しくしてくれた」
なんだろう、『ユリアにも転生』って、まるで、二人はユリア様が生まれる前から知り合いだったみたいな会話だよね?
「京奈が持つべき聖女の杖だよ。京奈、聖女としてのあなたの力は失われていない。災いが去っただけ。ほら、私の闇主たちが魔物を狩り出した。人に戻してあげて」
すっかり、自信をなくしてしまった様子でも。
ケイナ様がおずおずと聖女の杖をふると、まばゆい光が溢れて、魔物はちゃんと人の姿に戻ったんだ。
邪神を降ろして、ケイナ様の魂は壊れてしまったんじゃないかと思ったけど、無事だったみたいだ。
それに、もしかしたら――
「その人を安全に町まで送ってあげて」
闇主の一人に命じたデゼルが、ポンポンとケイナ様の背中を叩いた。
「あなた、闇主たちにあんなことを命じていたの……」
「うん。……へんかな?」
「へんっていうか、……なんでもない」
エリス様の影響がなくなったケイナ様なら、デゼルを助けてくれるかもしれない。
二人の様子を見ていて、そんな期待が、僕の胸に芽生えたんだ。
ケイナ様は聖女の杖をしばらく見詰めていた後、首を横にふった。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません
Rohdea
恋愛
───あなたのお役に立てない私は身を引こうとした……のに、あれ? 逃げられない!?
伯爵令嬢のルキアは、幼い頃からこの国の王太子であるシグルドの婚約者。
家柄も容姿も自分よりも優れている数多の令嬢を跳ね除けてルキアが婚約者に選ばれた理由はたった一つ。
多大な魔力量と貴重な属性を持っていたから。
(私がこの力でシグルド様をお支えするの!)
そう思ってずっと生きて来たルキア。
しかしある日、原因不明の高熱を発症した後、目覚めるとルキアの魔力はすっからかんになっていた。
突然、役立たずとなってしまったルキアは、身を引く事を決めてシグルドに婚約解消を申し出る事にした。
けれど、シグルドは──……
そして、何故か力を失ったルキアと入れ替わるかのように、
同じ属性の力を持っている事が最近判明したという令嬢が王宮にやって来る。
彼女は自分の事を「ヒロイン」と呼び、まるで自分が次期王太子妃になるかのように振る舞い始めるが……
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる