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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第101話 町人Sは役割を果たす
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それからの日々、闇主たちを引き連れて、僕とデゼルはフィールドやダンジョンを回った。
近衛隊と衛兵隊は、それぞれの副隊長に任せて、魔物に変えられてしまった人達を元に戻すために。
オプスキュリテ公国が滅亡しなかったことをはじめ、デゼルが打った様々な布石が功を奏して、起きるはずだった戦争が、実はまだ、起きていないんだ。
ケイナ様の口止めもあって、聖サファイアの人々が魔物になってしまった異変を、ネプチューン様の仕業と知っているのは、闇の使徒と光の使徒くらい。
デゼルの預言によれば、今年、皇帝陛下が何か月も政務を執らずに光の聖女と行動を共にしていても、帝国にこれといった問題が起きないことは、運命に約束されているんだって。
実際、問題は起きていないから、近衛隊と衛兵隊にも、いつも通りの警ら以外の仕事はない。
おかげで、各隊の副隊長に任せておけるんだけど。
むしろ、僕が指揮を執る必要は、陛下を裏切る仕事の方にあるんだ。
陛下が魔物にしてしまった人々をすべて、元通りの姿に戻して、無事に町まで送り届けてあげる仕事は、確実にこなしたい。
陛下がしたことなのに、デゼルがしたことにされる悪事だから。
デゼルに救われた人達が、一人でも二人でも、真実を信じてくれたらいいんだけど。
美しい銀の髪を風にたなびかせ、手にした聖杖からまばゆい聖光を迸らせ、獰猛な魔物を人に戻してゆくデゼルの姿は、まさに聖女そのもの。
デゼルは命を懸けて人々を救ってるんだ。
それなのに、あんなに儚くて優しいデゼルに微笑みかけてもらってなお、デゼルを世紀の悪女だと信じて疑わない人達ばかりなのかな。
本当に綺麗で、素敵な笑顔なのに。
デゼルは蠱惑の魔女なんかじゃないって、信じてくれない人達のことも、デゼルはそのまま、闇主に守らせて町に帰しているけど――
僕達は、最後かもしれない日々を、大切に、大切に、過ごした。
夜が明けてから日が暮れるまで、デゼルと一緒に仕事を続けて。
夜にはエトランジュを抱いたデゼルなんていう、とてつもなく可愛いご褒美を、僕の胸に抱いて眠った。
デゼルの綺麗な笑顔を、優しいあたたかさを、いつまでも、感じていたい。
エトランジュと一緒に、何度でも、デゼルになかよくイタズラだってしたい。
デゼルを喜ばせるのも、悲しませるのも。
デゼルに構ってもらって困らせるのが、僕とエトランジュは大好き。
泣きやまないエトランジュをデゼルに「はい」って渡して、「泣きやませてくれる? お願い」って言うんだ。
そんな時、エトランジュったら、よくわかってて凄い声で泣くんだよ。
デゼルがあたふた、涙目になって一生懸命にあやしてくれるのが、とっても楽しくて、嬉しくて。
エトランジュを抱きとった僕があやすと、エトランジュが泣くのをやめて、天使みたいに笑うんだ。
デゼルがわぁあって、サイファ様すごいって感心してくれるのが、言葉にできないくらいおかしくて。
僕とエトランジュ、ぐるなだけなのにね。
デゼルがいつ気がつくか、とっても楽しみ。
僕、エトランジュが考えてることなら、なんだか手に取るようにわかるんだ。
すごく不思議。
「デゼル様!」
魔物への攻撃を禁じられている闇主たちが、身を呈してデゼルを庇う。
彼ら、今は身綺麗にさせてるから、カッコイイくらいだけどね。
彼らが彼らの意思でこの仕事に従事してるなら、僕はもう、許してあげたくなってたかもしれない。
だけど、彼らは魔法が解ければならず者。
その一方で、彼らに命を救われた人達が大勢いるのも事実で。
僕には、彼らはもう、十分な償いをしたようにも思えたんだ。
闇主たちの半数くらいは既に命を落とした。
ネプチューン様に斬り捨てられたのが三人、山賊に倒されたのが二人、光の使徒に討たれたのが六人、魔物に喰い殺されたのが三人。
魔物に喰い殺された三人は別として、元締めや幹部たち、悪逆非道な人から、捨て駒になってもらったから。
今、魔物にされた人達を助けるために痛い思いをし続け、命を懸け続けている闇主達の多くは、ただ、ならず者になるしか生きるすべがなかったような人達なのかもしれない。
彼らには、すべて終わったら処刑だよって伝えてあるけど、彼らが最後まで生き残れた時に、悪いことはもうやめると誓えたら、許してあげてもいいんじゃないかって。
辛い思い、苦しい思い、痛い思いをし続けたあげくに殺されるだけ、彼らがその絶望を思い知ってくれたら、彼らが悪いことをもうしないなら、僕は、処刑まではしなくてもいいんだ。
僕はただ、彼らが何をしたか、わからせたかった。
デゼルはどうするつもりだろう。
僕は闇主だから、それだけのことをしてきた彼らを、公国の法に則って処刑することをためらったりはしない。
でも、僕は闇主だから、闇巫女様が許すなら、彼らを許してあげてもいいよ。
人の姿を取り戻して、涙ながらに喜んでる、魔物にされていた人達にも免じて。
デゼルの話では、魔物は三千体。
遂に、僕達がケイナ様達ともう一度、あいまみえたのは、残りの魔物が千体を切った頃だった。
近衛隊と衛兵隊は、それぞれの副隊長に任せて、魔物に変えられてしまった人達を元に戻すために。
オプスキュリテ公国が滅亡しなかったことをはじめ、デゼルが打った様々な布石が功を奏して、起きるはずだった戦争が、実はまだ、起きていないんだ。
ケイナ様の口止めもあって、聖サファイアの人々が魔物になってしまった異変を、ネプチューン様の仕業と知っているのは、闇の使徒と光の使徒くらい。
デゼルの預言によれば、今年、皇帝陛下が何か月も政務を執らずに光の聖女と行動を共にしていても、帝国にこれといった問題が起きないことは、運命に約束されているんだって。
実際、問題は起きていないから、近衛隊と衛兵隊にも、いつも通りの警ら以外の仕事はない。
おかげで、各隊の副隊長に任せておけるんだけど。
むしろ、僕が指揮を執る必要は、陛下を裏切る仕事の方にあるんだ。
陛下が魔物にしてしまった人々をすべて、元通りの姿に戻して、無事に町まで送り届けてあげる仕事は、確実にこなしたい。
陛下がしたことなのに、デゼルがしたことにされる悪事だから。
デゼルに救われた人達が、一人でも二人でも、真実を信じてくれたらいいんだけど。
美しい銀の髪を風にたなびかせ、手にした聖杖からまばゆい聖光を迸らせ、獰猛な魔物を人に戻してゆくデゼルの姿は、まさに聖女そのもの。
デゼルは命を懸けて人々を救ってるんだ。
それなのに、あんなに儚くて優しいデゼルに微笑みかけてもらってなお、デゼルを世紀の悪女だと信じて疑わない人達ばかりなのかな。
本当に綺麗で、素敵な笑顔なのに。
デゼルは蠱惑の魔女なんかじゃないって、信じてくれない人達のことも、デゼルはそのまま、闇主に守らせて町に帰しているけど――
僕達は、最後かもしれない日々を、大切に、大切に、過ごした。
夜が明けてから日が暮れるまで、デゼルと一緒に仕事を続けて。
夜にはエトランジュを抱いたデゼルなんていう、とてつもなく可愛いご褒美を、僕の胸に抱いて眠った。
デゼルの綺麗な笑顔を、優しいあたたかさを、いつまでも、感じていたい。
エトランジュと一緒に、何度でも、デゼルになかよくイタズラだってしたい。
デゼルを喜ばせるのも、悲しませるのも。
デゼルに構ってもらって困らせるのが、僕とエトランジュは大好き。
泣きやまないエトランジュをデゼルに「はい」って渡して、「泣きやませてくれる? お願い」って言うんだ。
そんな時、エトランジュったら、よくわかってて凄い声で泣くんだよ。
デゼルがあたふた、涙目になって一生懸命にあやしてくれるのが、とっても楽しくて、嬉しくて。
エトランジュを抱きとった僕があやすと、エトランジュが泣くのをやめて、天使みたいに笑うんだ。
デゼルがわぁあって、サイファ様すごいって感心してくれるのが、言葉にできないくらいおかしくて。
僕とエトランジュ、ぐるなだけなのにね。
デゼルがいつ気がつくか、とっても楽しみ。
僕、エトランジュが考えてることなら、なんだか手に取るようにわかるんだ。
すごく不思議。
「デゼル様!」
魔物への攻撃を禁じられている闇主たちが、身を呈してデゼルを庇う。
彼ら、今は身綺麗にさせてるから、カッコイイくらいだけどね。
彼らが彼らの意思でこの仕事に従事してるなら、僕はもう、許してあげたくなってたかもしれない。
だけど、彼らは魔法が解ければならず者。
その一方で、彼らに命を救われた人達が大勢いるのも事実で。
僕には、彼らはもう、十分な償いをしたようにも思えたんだ。
闇主たちの半数くらいは既に命を落とした。
ネプチューン様に斬り捨てられたのが三人、山賊に倒されたのが二人、光の使徒に討たれたのが六人、魔物に喰い殺されたのが三人。
魔物に喰い殺された三人は別として、元締めや幹部たち、悪逆非道な人から、捨て駒になってもらったから。
今、魔物にされた人達を助けるために痛い思いをし続け、命を懸け続けている闇主達の多くは、ただ、ならず者になるしか生きるすべがなかったような人達なのかもしれない。
彼らには、すべて終わったら処刑だよって伝えてあるけど、彼らが最後まで生き残れた時に、悪いことはもうやめると誓えたら、許してあげてもいいんじゃないかって。
辛い思い、苦しい思い、痛い思いをし続けたあげくに殺されるだけ、彼らがその絶望を思い知ってくれたら、彼らが悪いことをもうしないなら、僕は、処刑まではしなくてもいいんだ。
僕はただ、彼らが何をしたか、わからせたかった。
デゼルはどうするつもりだろう。
僕は闇主だから、それだけのことをしてきた彼らを、公国の法に則って処刑することをためらったりはしない。
でも、僕は闇主だから、闇巫女様が許すなら、彼らを許してあげてもいいよ。
人の姿を取り戻して、涙ながらに喜んでる、魔物にされていた人達にも免じて。
デゼルの話では、魔物は三千体。
遂に、僕達がケイナ様達ともう一度、あいまみえたのは、残りの魔物が千体を切った頃だった。
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