117 / 139
第四章 叶わない願いはないと信じてる
第100話 天使の揺り籠【前編】
しおりを挟む
「ねぇ、デゼル。月齢の首飾りをかけるなら、エトランジュはガゼル様に預けたい。デゼルが死んでしまったら、次に命を狙われるのはユリシーズ様だよね」
これは絶対に。
デゼルは臆病だから、なけなしの勇気を振り絞った覚悟は尊いけど、どうしても、もろいと思うんだ。
僕に月齢の首飾りをかけさせたところで、デゼルが死んでしまったら、次はユリシーズだからねって。
死んでしまったら駄目だよって、わからせておかなくちゃ。
デゼルもさすがに、エトランジュの命にも関わるんだって、わかってくれたみたい。神妙な顔をしてうなずいた。
**――*――**
大公に即位したガゼル様はお忙しいはずなのに、謁見を申し入れたら、すぐに公務をキャンセルして会って下さった。
「会えてよかった、デゼル! サイファ!」
デゼルが十七歳で命を落とす運命なのは、ガゼル様もご存知だから。
きっと、無理をして、時間をとって下さったんだ。
「可愛いね。エトランジュっていうの?」
デゼルの腕から、ガゼル様が優しい笑顔でエトランジュを抱きとって、あやして下さってほっとした。
エトランジュはかなり人見知りなのに、ガゼル様のことは好きみたいで、初めての人には滅多に見せない天使の笑顔。すっごく、可愛いんだよ。
「おいで、ガゼル」
僕もデゼルもびっくりしちゃった。
ガゼル様、お子様に同じお名前をつけたみたいなんだ。
呼ばれたのは、綺麗なプラチナ・ブロンドの、三、四歳の男の子。
端正で優しそうな顔立ちは、ガゼル様によく似た印象で、瞳だけが青い。
「ねぇ、デゼル。エトランジュはもちろん、私が責任を持って預からせてもらうけど。このガゼルとエトランジュを婚約させるのはどう?」
「えっ!?」
エトランジュとガゼル公子はお互い、猫の子みたいにじーっと見詰め合ってうかがいあってる。
あ! エトランジュが先に動いた!
すごい勢いで這ってく!
まずいかも。
ルーカス様と初めて会わせた時もこんな感じで、いきなりぺちって叩いて嚙みついたんだ。
「あ」
抱きつかれて、小さなガゼル公子がびっくりして、でも、可愛らしく頬を染めた。
わぁ、すごいや。
エトランジュ、ガゼル公子がとっても気に入ったみたい。
ガゼル様も握りこぶしで、会心の麗しい笑顔。
「どう? ガゼルは夜明け前だし年も近いし、お似合いだと思うんだけど」
うん、僕もとっても、お似合いだと思った。
だけど、デゼルは少し困った顔。
「あの、でも、私の知らないところで婚約が決まっていたの、私はすごく、……怖くて、困ったので……」
エトランジュが嬉しそうにガゼル公子にだっこしてもらっているからか、ガゼル様はあまり、気を落とされないようだった。
「それなら、エトランジュがガゼルを気に入ってくれたら? その時には、もらってもいい?」
デゼルがこそっと僕をうかがったから、僕は笑顔でうなずいた。
すごく、いいお話だと思うよ。
僕、ちょっと心配してたんだ。このまま、ユリシーズによく預けてたら、エトランジュをルーカスに持っていかれるんじゃないかって。
僕はガゼル様派だから。
すべて終わったら、一緒に公国に帰りたい。
僕の気持ちは公国を追放されたあの日から、何にも、変わっていないんだ。
「はい。あの、よろしくお願いします」
僕に確かめたデゼルが、笑顔でガゼル様にお返事したら、ガゼル様が喜んでエトランジュを高い高いした。
エトランジュも喜んで、可愛らしい声できゃっきゃと笑った。
「エトランジュはいつまででも、万が一の時にも、責任を持って私が預かるよ。心配しないで。だけど、二人とも、必ず生還して欲しい。エトランジュの泣き顔なんて、私は見たくないから」
自信がなくて答えられないデゼルの代わりに、僕が答えた。
「はい。必ず、二人で帰ります」
ガゼル様はその意志を求めてる。はいと答えていいんだよ、デゼル。
「エトランジュを私に預けるくらいだから、大詰めなのかな。戦況はどう?」
これは絶対に。
デゼルは臆病だから、なけなしの勇気を振り絞った覚悟は尊いけど、どうしても、もろいと思うんだ。
僕に月齢の首飾りをかけさせたところで、デゼルが死んでしまったら、次はユリシーズだからねって。
死んでしまったら駄目だよって、わからせておかなくちゃ。
デゼルもさすがに、エトランジュの命にも関わるんだって、わかってくれたみたい。神妙な顔をしてうなずいた。
**――*――**
大公に即位したガゼル様はお忙しいはずなのに、謁見を申し入れたら、すぐに公務をキャンセルして会って下さった。
「会えてよかった、デゼル! サイファ!」
デゼルが十七歳で命を落とす運命なのは、ガゼル様もご存知だから。
きっと、無理をして、時間をとって下さったんだ。
「可愛いね。エトランジュっていうの?」
デゼルの腕から、ガゼル様が優しい笑顔でエトランジュを抱きとって、あやして下さってほっとした。
エトランジュはかなり人見知りなのに、ガゼル様のことは好きみたいで、初めての人には滅多に見せない天使の笑顔。すっごく、可愛いんだよ。
「おいで、ガゼル」
僕もデゼルもびっくりしちゃった。
ガゼル様、お子様に同じお名前をつけたみたいなんだ。
呼ばれたのは、綺麗なプラチナ・ブロンドの、三、四歳の男の子。
端正で優しそうな顔立ちは、ガゼル様によく似た印象で、瞳だけが青い。
「ねぇ、デゼル。エトランジュはもちろん、私が責任を持って預からせてもらうけど。このガゼルとエトランジュを婚約させるのはどう?」
「えっ!?」
エトランジュとガゼル公子はお互い、猫の子みたいにじーっと見詰め合ってうかがいあってる。
あ! エトランジュが先に動いた!
すごい勢いで這ってく!
まずいかも。
ルーカス様と初めて会わせた時もこんな感じで、いきなりぺちって叩いて嚙みついたんだ。
「あ」
抱きつかれて、小さなガゼル公子がびっくりして、でも、可愛らしく頬を染めた。
わぁ、すごいや。
エトランジュ、ガゼル公子がとっても気に入ったみたい。
ガゼル様も握りこぶしで、会心の麗しい笑顔。
「どう? ガゼルは夜明け前だし年も近いし、お似合いだと思うんだけど」
うん、僕もとっても、お似合いだと思った。
だけど、デゼルは少し困った顔。
「あの、でも、私の知らないところで婚約が決まっていたの、私はすごく、……怖くて、困ったので……」
エトランジュが嬉しそうにガゼル公子にだっこしてもらっているからか、ガゼル様はあまり、気を落とされないようだった。
「それなら、エトランジュがガゼルを気に入ってくれたら? その時には、もらってもいい?」
デゼルがこそっと僕をうかがったから、僕は笑顔でうなずいた。
すごく、いいお話だと思うよ。
僕、ちょっと心配してたんだ。このまま、ユリシーズによく預けてたら、エトランジュをルーカスに持っていかれるんじゃないかって。
僕はガゼル様派だから。
すべて終わったら、一緒に公国に帰りたい。
僕の気持ちは公国を追放されたあの日から、何にも、変わっていないんだ。
「はい。あの、よろしくお願いします」
僕に確かめたデゼルが、笑顔でガゼル様にお返事したら、ガゼル様が喜んでエトランジュを高い高いした。
エトランジュも喜んで、可愛らしい声できゃっきゃと笑った。
「エトランジュはいつまででも、万が一の時にも、責任を持って私が預かるよ。心配しないで。だけど、二人とも、必ず生還して欲しい。エトランジュの泣き顔なんて、私は見たくないから」
自信がなくて答えられないデゼルの代わりに、僕が答えた。
「はい。必ず、二人で帰ります」
ガゼル様はその意志を求めてる。はいと答えていいんだよ、デゼル。
「エトランジュを私に預けるくらいだから、大詰めなのかな。戦況はどう?」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
気づいたら隠しルートのバッドエンドだった
かぜかおる
ファンタジー
前世でハマった乙女ゲームのヒロインに転生したので、
お気に入りのサポートキャラを攻略します!
ザマァされないように気をつけて気をつけて、両思いっぽくなったし
ライバル令嬢かつ悪役である異母姉を断罪しようとしたけれど・・・
本編完結済順次投稿します。
1話ごとは短め
あと、番外編も投稿予定なのでまだ連載中のままにします。
ざまあはあるけど好き嫌いある結末だと思います。
タグなどもしオススメあったら教えて欲しいです_|\○_オネガイシヤァァァァァス!!
感想もくれるとうれしいな・・・|ョ・ω・`)チロッ・・・
R15保険(ちょっと汚い言葉遣い有りです)
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
破滅回避の契約結婚だったはずなのに、お義兄様が笑顔で退路を塞いでくる!~意地悪お義兄様はときどき激甘~
狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
☆おしらせ☆
8/25の週から更新頻度を変更し、週に2回程度の更新ペースになります。どうぞよろしくお願いいたします。
☆あらすじ☆
わたし、マリア・アラトルソワは、乙女ゲーム「ブルーメ」の中の悪役令嬢である。
十七歳の春。
前世の記憶を思い出し、その事実に気が付いたわたしは焦った。
乙女ゲームの悪役令嬢マリアは、すべての攻略対象のルートにおいて、ヒロインの恋路を邪魔する役割として登場する。
わたしの活躍(?)によって、ヒロインと攻略対象は愛を深め合うのだ。
そんな陰の立役者(?)であるわたしは、どの攻略対象ルートでも悲しいほどあっけなく断罪されて、国外追放されたり修道院送りにされたりする。一番ひどいのはこの国の第一王子ルートで、刺客を使ってヒロインを殺そうとしたわたしを、第一王子が正当防衛とばかりに斬り殺すというものだ。
ピンチだわ。人生どころか前世の人生も含めた中での最大のピンチ‼
このままではまずいと、わたしはあまり賢くない頭をフル回転させて考えた。
まだゲームははじまっていない。ゲームのはじまりは来年の春だ。つまり一年あるが…はっきり言おう、去年の一年間で、もうすでにいろいろやらかしていた。このままでは悪役令嬢まっしぐらだ。
うぐぐぐぐ……。
この状況を打破するためには、どうすればいいのか。
一生懸命考えたわたしは、そこでピコンと名案ならぬ迷案を思いついた。
悪役令嬢は、当て馬である。
ヒロインの恋のライバルだ。
では、物理的にヒロインのライバルになり得ない立場になっておけば、わたしは晴れて当て馬的な役割からは解放され、悪役令嬢にはならないのではあるまいか!
そしておバカなわたしは、ここで一つ、大きな間違いを犯す。
「おほほほほほほ~」と高笑いをしながらわたしが向かった先は、お兄様の部屋。
お兄様は、実はわたしの従兄で、本当の兄ではない。
そこに目を付けたわたしは、何も考えずにこう宣った。
「お兄様、わたしと(契約)結婚してくださいませ‼」
このときわたしは、失念していたのだ。
そう、お兄様が、この上なく厄介で意地悪で、それでいて粘着質な男だったと言うことを‼
そして、わたしを嫌っていたはずの攻略対象たちの様子も、なにやら変わってきて……。
これは、ヒロインに選ばれない攻略対象たちの救済に動き始めた、悪役令嬢の物語――
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜
和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」
王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。
※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27)
※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる