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第四章 叶わない願いはないと信じてる

第94話 悪役令嬢は聖なる衣をまとう

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 僕は、その日の目的をすっかり忘れてたんだけど。
 デゼルはいつの間にか、神様の承認を授かったらしくて、様々な呪いから対象者を守る『聖なる衣』の魔法を使えるようになっていた。
 この『聖なる衣』をまとっておけば、もう、ケイナ様に支配されたりしないんだ。
 光の使徒にあっさり捕虜にされたくらい、闇主としての僕の力が足りないっていう、そもそもの問題が解決していないけど、交渉の余地はあると思う。
 聖サファイアは平和主義を標榜する国。
 ネプチューン様の悪事に加担するつもりがない僕達に、彼らと戦う必要は、本来、ないはずなんだ。
 光の聖女ケイナ様を邪神エリス様からどう解放するかが鍵だよね。

 方法そのものはあるんだ。
 デゼルが神様から授かることのできる魔法の中に、エリス様をはらう『昇華』という奥義があって。
 昇華の魔法をデゼルが獲得するためには、軍神マルス様の祝福が必要で。
 軍神マルス様の祝福を獲得するためには、風神エンリル様の承認が必要で。
 風神エンリル様の承認を獲得するためには、僕やデゼルと同じ『災禍』の呪いを受けた、たくさんの人達の呪いを解いてあげることが必要なんだって。

 風神の承認を別にしても、呪われてしまったままの人達がいるなら、助けてあげたい。
 だから、デゼルが無理していそうで心配だったけど、僕達は手始めに、山賊に襲われかけた村を確かめに戻ることにしたんだ。
 すぐに戻ると光の聖女と使徒達がまだいるかもしれなかったから、昨日は息抜きがてら、あの街を訪ねたんだけど。
 文字通りの息抜きにはしないで、『聖なる衣』を授かってくるあたり、デゼルらしいよね。
 デゼルがいると、たいていの仕事がとんでもなくはかどるけど、でも、デゼルの体が弱いのって、単に、無理し過ぎじゃないのかな。
 デゼルが僕に殺されかけたの、一昨日なのに。
 魔法で癒しはしたけど、デゼルの心も身体も、きっと、悲鳴を上げてるよ。
 やすませたいけど、やすんでって言ったら駄目なのかな……。
 ゆっくりしては、いられないのかな……。

「綺麗よ、デゼル」

 白を基調に翠のアクセントが入った軽やかな聖衣をデゼルがまとったら、ユリシーズがそう言って褒めてくれたけど、本当に綺麗。
 たくさんの人に会うためには、闇巫女デゼルでは都合が悪いからって、風神の巫女の名と衣装をユリシーズから借りにきたんだ。

「わぁ、デゼル、すごく可愛い。綺麗だよ」
「嬉しい。サイファ様も、すごく素敵だよ。私、淡い色彩の衣装の方が好きみたい」

 僕も、いつもの闇主の黒衣じゃなくて、薄い青紫を基調に銀糸の装飾が入った近衛の礼装にして、デゼルに合わせた。
 そうしたら、苦笑したユリシーズが言ったんだ。

「本来なら、あなたが風神の巫女なのよ? 風の聖女の称号、あなたに返上しましょうか?」
「ううん、私は闇巫女デゼルでいいの。でも、サイファ様が気に入って下さるなら、闇巫女の礼装も、こういう色合いにしたら駄目かなぁ」

 闇巫女の礼装は夜闇の蒼。
 そうだね、デゼルには、もっと爽やかで淡い色彩の衣装をまとわせたいかも。
 だって、僕を選んだデゼルは水神や風神は降ろせても、闇の神は降ろせないから。
 世襲ではないはずの闇巫女に、エトランジュが聖別されたって、マリベル様からご祝儀と一緒に言伝ことづてがあったし。

「ふふ、困ってしまうわね。あなたに名をかたられたら、私がますます絶世の美女として名を馳せてしまうわ?」
「ユリシーズ、いつも、本当にありがとう。行ってくるね」

 闇幽鬼スペクター様だと思っていたから、昔は少し怖かったけど、ユリシーズはジャイロのお姉さんだけあって、すごく親切で、面倒見がよくて優しい。
 デゼルもよく懐いて、侍女にさえ預けたがらないエトランジュを、ユリシーズになら、よく預かってもらってるくらい。
 僕は少しだけ、思うところがあるけど……。
 ルーカスはエトランジュのお友達。僕は、ガゼル様派だから。
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