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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第90話 悪役令嬢は町人Sに切り裂かれる
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「これは、魅了を解除する聖杖イレイズ。サイファ、今、解放してあげるから。あなたがデゼルから酷い仕打ちを受けて、これ以上の犠牲を出したくないと願うのなら、その時は――」
ああ、そうか。
ケイナ様は僕のこと、デゼルに魅了された操り人形だと思っていたから、僕が口をきけて驚いたんだね。
よかった。
解放してもらえたら、僕、デゼルの潔白を誠心誠意、訴えよう。
状況は悪いけど、心を込めて訴えれば、きっと、伝わるものはあると思うんだ。
「災禍【Lv9】――サイファ、デゼルを殺しなさい」
――……。
「蒼紫、サイファを放してあげて」
僕は懐剣を抜いて、デゼルを見た。
デゼルを殺さないと――
「サイファ」
デゼルの震える声が聞こえて、僕はなぜなのか、ひどく、悲しくなった。
たけど、デゼルを殺すんだ。
構わず、懐剣をふりかざした。
「残念だわ、デゼル。あなたはやっぱり、魔女だったのね」
ケイナ様が僕にロッドを向けた。
「サイファ!」
僕をケイナ様の光魔法から庇って、クロノスに巻き込むため、僕をつかみにきたデゼルの身体に。
「時空【Lv7】――目標、ユリシーズ!」
僕が懐剣を突き立てたのと、デゼルがクロノスを宣言したのは、ほとんど、同時だった。あと少し――
どうしてなのか、手元が狂って。
急所を外してしまったんだ。この至近距離で外すなんて。
**――*――**
「きゃっ! デゼルったらま…た……?」
ユリシーズが言葉を失って僕達を見た。
デゼルを押し倒して、いったん引き抜いた懐剣をまた振り上げる僕と、血まみれで押し倒されたデゼルを。
「サイファ、何してるの! デゼルよ!?」
知ってる。早く、殺さなくちゃ――
「サイファ、やめて! 何してるの!」
ユリシーズが組みついてきて、狙いが定まらない。
もう一度、デゼルの身に懐剣を突き立てたけど、やっぱり、急所は外してしまった。
「あぁッ!!」
「サイファ!」
血がたくさん出てるし、すごく痛いと思う。
早く、ラクにしてあげないと――
「忘却【Lv9】――ターゲット・サイファ」
デゼルが泣きながら、絶え絶えの声で宣言した。
続けて、忘却【Lv8】を宣言しようとするのを聞いて、僕はとっさに、デゼルの口を片手でふさいだ。
忘却【Lv8】は駄目だよ、闇主からの解放――
――え?
ここ、どこ。
なんで、デゼルが僕に押し倒されて血まみれになって――
「デゼ……」
「サイファ、よかっ…た……」
デゼルが伸ばしてきた震える手を取って、僕はようやく、何が起きたのか、何をしたのか、思い出したんだ。
「デゼル!!」
僕、どうしてデゼルを殺そうなんて!
デゼルの血が止まらない、はやく、はやく、神癒術――
駄目だ、神癒術は詠唱が長すぎるんだ、きっと、間に合わない。
「癒術!」
ああ、そうか。
ケイナ様は僕のこと、デゼルに魅了された操り人形だと思っていたから、僕が口をきけて驚いたんだね。
よかった。
解放してもらえたら、僕、デゼルの潔白を誠心誠意、訴えよう。
状況は悪いけど、心を込めて訴えれば、きっと、伝わるものはあると思うんだ。
「災禍【Lv9】――サイファ、デゼルを殺しなさい」
――……。
「蒼紫、サイファを放してあげて」
僕は懐剣を抜いて、デゼルを見た。
デゼルを殺さないと――
「サイファ」
デゼルの震える声が聞こえて、僕はなぜなのか、ひどく、悲しくなった。
たけど、デゼルを殺すんだ。
構わず、懐剣をふりかざした。
「残念だわ、デゼル。あなたはやっぱり、魔女だったのね」
ケイナ様が僕にロッドを向けた。
「サイファ!」
僕をケイナ様の光魔法から庇って、クロノスに巻き込むため、僕をつかみにきたデゼルの身体に。
「時空【Lv7】――目標、ユリシーズ!」
僕が懐剣を突き立てたのと、デゼルがクロノスを宣言したのは、ほとんど、同時だった。あと少し――
どうしてなのか、手元が狂って。
急所を外してしまったんだ。この至近距離で外すなんて。
**――*――**
「きゃっ! デゼルったらま…た……?」
ユリシーズが言葉を失って僕達を見た。
デゼルを押し倒して、いったん引き抜いた懐剣をまた振り上げる僕と、血まみれで押し倒されたデゼルを。
「サイファ、何してるの! デゼルよ!?」
知ってる。早く、殺さなくちゃ――
「サイファ、やめて! 何してるの!」
ユリシーズが組みついてきて、狙いが定まらない。
もう一度、デゼルの身に懐剣を突き立てたけど、やっぱり、急所は外してしまった。
「あぁッ!!」
「サイファ!」
血がたくさん出てるし、すごく痛いと思う。
早く、ラクにしてあげないと――
「忘却【Lv9】――ターゲット・サイファ」
デゼルが泣きながら、絶え絶えの声で宣言した。
続けて、忘却【Lv8】を宣言しようとするのを聞いて、僕はとっさに、デゼルの口を片手でふさいだ。
忘却【Lv8】は駄目だよ、闇主からの解放――
――え?
ここ、どこ。
なんで、デゼルが僕に押し倒されて血まみれになって――
「デゼ……」
「サイファ、よかっ…た……」
デゼルが伸ばしてきた震える手を取って、僕はようやく、何が起きたのか、何をしたのか、思い出したんだ。
「デゼル!!」
僕、どうしてデゼルを殺そうなんて!
デゼルの血が止まらない、はやく、はやく、神癒術――
駄目だ、神癒術は詠唱が長すぎるんだ、きっと、間に合わない。
「癒術!」
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