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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第88話 聖なる杖が暴く闇【前編】
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魔物の出現と神隠しに世界が混乱して、二ヶ月ほどが経った頃。
陛下の仕業だということは、光の聖女ケイナと光の十二使徒、闇の聖女デゼルと闇の十二使徒しかまだ知らない。
聖サファイア共和国のはずれの小さな村に、僕達は八人の闇主を連れてきた。
今日、この村が山賊に襲われるって、デゼルの占いに出たんだ。
光の聖女達がたまたま通りかかるらしいんだけど、僕達が山賊を足止めしないと間に合わない。
僕とガゼル様はデゼルが殺される運命を視たけど、デゼルの運命には二つの結末があって、それはデゼルではなく、ケイナ様が選ぶんだって。
世界が平和を取り戻すのに、デゼルが殺される必要はなくて、ケイナ様がデゼルの罪を問わなければ、それで済む話みたいなんだ。
それは、そうだよ。
だって、デゼルは世界を混沌に陥れたりしていないもの。
すべて冤罪なのに、デゼルが殺される方がおかしいんだ。
だから僕達は今日、光の聖女達に攻撃しない。
聖サファイアの村を助けてあげて、戦意がないことをわかってもらうんだ。
デゼルの占いでは、子供が一人、逃げ遅れてしまうそうだから、僕が助けてあげる手筈なんだ。お芝居じゃないから失敗できない。慎重に、迅速に。
「エトランジュ、今頃、どうしてるかな」
「ルーカスを泣かせていないといいけど」
僕達が皇宮の外で動く時には、エトランジュは侍女よりも、ユリシーズにお願いすることが多かった。
ユリシーズなら、優しくて、しっかりしていて、誰よりも信頼できるからね。
「きた」
少し緊張したデゼルの声に、僕も気を引き締めて、樹上から山道を見た。
やってくる山賊たちに気がついて、広場で子供を遊ばせていた母親たちが、あわてて、子供を連れて逃げて行く。
追おうとする山賊と、まずは闇主たちが交戦し始めた。
あわてたあまり、子供が一人、木の切り株に足をかけて転んでしまった。
僕が助けてあげるのは、あの子だね。
お母さんは赤ちゃんをだっこして逃げるのに必死で、気がつかないんだ。
ほどなく、光の聖女達がやってきた。
デゼルも気がついたみたいで、僕にうなずいて見せてから、ケイナ様に聞こえるように言ったんだ。
「聖女様がいらしたから、あとは、大丈夫。逃げ遅れた子供だけ、私達で村の人達に返してあげよう」
デゼル、棒読み!
これ、ケイナ様に聞こえるように言うの不自然だから、このセリフを言うことそのものが、戦略ミスだったかも。
もぉ~、デゼルったらやだな。笑わせないでよ。
おかしくって、つい微笑んでしまいながら、逃げ遅れた子供を助けに走った。
可哀相に、転んで痛いのと、逃げ遅れて怖いのとで、ぎゃんぎゃん泣いてる子供に、優しく声をかけて、抱き上げようとした時だった。
「動くな!」
抜いた短剣を喉元に突きつけられて、僕は息を吞んだ。
信じられない、僕、油断していたつもりはないのに。
全然、気配を感じなかった。
これが、デゼルを殺せる人達の実力――
僕は急に、この状況、僕達が村を山賊に襲わせたようにも見えてしまうかもって、気がついた。
陛下の仕業だということは、光の聖女ケイナと光の十二使徒、闇の聖女デゼルと闇の十二使徒しかまだ知らない。
聖サファイア共和国のはずれの小さな村に、僕達は八人の闇主を連れてきた。
今日、この村が山賊に襲われるって、デゼルの占いに出たんだ。
光の聖女達がたまたま通りかかるらしいんだけど、僕達が山賊を足止めしないと間に合わない。
僕とガゼル様はデゼルが殺される運命を視たけど、デゼルの運命には二つの結末があって、それはデゼルではなく、ケイナ様が選ぶんだって。
世界が平和を取り戻すのに、デゼルが殺される必要はなくて、ケイナ様がデゼルの罪を問わなければ、それで済む話みたいなんだ。
それは、そうだよ。
だって、デゼルは世界を混沌に陥れたりしていないもの。
すべて冤罪なのに、デゼルが殺される方がおかしいんだ。
だから僕達は今日、光の聖女達に攻撃しない。
聖サファイアの村を助けてあげて、戦意がないことをわかってもらうんだ。
デゼルの占いでは、子供が一人、逃げ遅れてしまうそうだから、僕が助けてあげる手筈なんだ。お芝居じゃないから失敗できない。慎重に、迅速に。
「エトランジュ、今頃、どうしてるかな」
「ルーカスを泣かせていないといいけど」
僕達が皇宮の外で動く時には、エトランジュは侍女よりも、ユリシーズにお願いすることが多かった。
ユリシーズなら、優しくて、しっかりしていて、誰よりも信頼できるからね。
「きた」
少し緊張したデゼルの声に、僕も気を引き締めて、樹上から山道を見た。
やってくる山賊たちに気がついて、広場で子供を遊ばせていた母親たちが、あわてて、子供を連れて逃げて行く。
追おうとする山賊と、まずは闇主たちが交戦し始めた。
あわてたあまり、子供が一人、木の切り株に足をかけて転んでしまった。
僕が助けてあげるのは、あの子だね。
お母さんは赤ちゃんをだっこして逃げるのに必死で、気がつかないんだ。
ほどなく、光の聖女達がやってきた。
デゼルも気がついたみたいで、僕にうなずいて見せてから、ケイナ様に聞こえるように言ったんだ。
「聖女様がいらしたから、あとは、大丈夫。逃げ遅れた子供だけ、私達で村の人達に返してあげよう」
デゼル、棒読み!
これ、ケイナ様に聞こえるように言うの不自然だから、このセリフを言うことそのものが、戦略ミスだったかも。
もぉ~、デゼルったらやだな。笑わせないでよ。
おかしくって、つい微笑んでしまいながら、逃げ遅れた子供を助けに走った。
可哀相に、転んで痛いのと、逃げ遅れて怖いのとで、ぎゃんぎゃん泣いてる子供に、優しく声をかけて、抱き上げようとした時だった。
「動くな!」
抜いた短剣を喉元に突きつけられて、僕は息を吞んだ。
信じられない、僕、油断していたつもりはないのに。
全然、気配を感じなかった。
これが、デゼルを殺せる人達の実力――
僕は急に、この状況、僕達が村を山賊に襲わせたようにも見えてしまうかもって、気がついた。
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