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第四章 叶わない願いはないと信じてる

第86話 悪役令嬢は町人Sとなら最初のキスから甘く啼く【後編】

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 どうだったっけと思って、抱き寄せて深くキスしたら、途端に、デゼルが反応したんだ。僕から逃げようとする身体が震えて、動けない。
 そのまま、首筋から胸元の方へ、唇でなぞった。

「…あ、あっ……」

 ふふ、ほんとだった。
 とっても綺麗な、甘い啼き声。

「ほんとだね、綺麗な声。――愛してる、デゼル」
「あぁっ!」

 僕――
 二年前、エトランジュを取り上げてくれた産婆さんから、まだ、身体が成熟してない女の子を孕ませるなんて、一つ間違えばデゼルも子供も死んでたって言われて。
 愕然としたんだ。
 だって、デゼルがエトランジュを産んだのは、十六歳になる少し前。
 十五歳で成熟してないとしたら、十歳で孕まされたのは――?
 七年前の惨事は、本当に残酷なことだったんだ。
 堕ろそうとしても、しなくても、水神の奥義がなかったら、きっと、デゼルは命を落としてしまってた。
 その上、他の人が知ってる十歳のデゼルを、僕が知らないなんて、なんだか嫌で。
 一度だけ、拒否こそしなかったけど、すごく怖がった十歳のデゼルを押し倒して、無理強いしてしまったんだ。
 デゼルが僕を拒否できるはず、なかったのに。
 あの時には、デゼルはもう水神の奥義を使い切っていたから、孕ませたら死なせてしまったなんて。
 そんなこと、思いもよらなかった僕は、――たのしかった。
 怖がって、泣いてすがるデゼルを押さえつけて無理やりするのが、たのしかったんだ。
 それでも、デゼルが僕を嫌わないことが。
 ねぇ、そんなに僕が好き? って、震える耳元にささやいたら、こくんとうなずくデゼルが、可愛らしくて。

 デゼルは、知ってたって言ったんだ。
 知ってて、やめてって言わなかったから、いいんだって。
 どうしてって聞いたら、身体の成熟を待ってる間に僕の心が離れて、僕じゃない人にされたのが最後のまま、十七歳になって殺されたら、耐えられないと思ったからって。
 その心配を、ずっと、し続けるくらいなら。
 たとえ、十歳で死んでしまっても、サイファ様の腕の中なら幸せだからって。
 デゼル、怖がってたのに。
 あれが幸せってなに。

 だから僕は。
 闇主たちを殺してしまいたかった。
 同じことをしたと仰るなら、陛下も。
 話し合いなんて、彼らと話し合いたいことなんて、僕にはないんだ。

 でも、僕達には闇の神様オプスキュリテの加護があったから。
 デゼルがその時に孕むことはなくて、一年と少し前に、僕達の大切な宝物、エトランジュを授かることができたんだ。



 僕、怖がるのはやめにするよ。
 十七歳なら、もう、大丈夫だよね。
 僕とデゼルには時間がないかもしれないんだから。
 デゼルが二人目を孕むとしても、孕まないとしても。
 たとえ、僕達の命が明日まででも悔いのないように生きたい。
 愛してるって、デゼルにまだ、教え足りない。
 
 二年ぶりに抱いたデゼルは優しくて、甘やかで、やっぱり、可愛らしかった。
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