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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第85話 禁断の魔術
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僕は、初めてかもしれない、可愛いお姫様に頼られる騎士様か王子様みたいなシチュエーションに、胸が高鳴ってた。
デゼルが僕を引っ張るようにして、さらに後ろにさがった。
「――ネプチューン様、あなたが拒否するデゼルに強いるつもりなら、これ以上、あなたにお仕えすることはできません」
僕達、公国を追放されて、帝国に帰属していてよかった。
公国の闇巫女と闇主のままだったら、ここまで強気な対応はできなかったけど、僕とデゼルとエトランジュだけなら、あてのない放浪の旅をしても、生きてゆく自信はあるから。
「ありがとう、サイファ様」
つないだ手を、きゅっと握ってあげたら、デゼルが可愛らしく僕に微笑いかけてくれたんだ。
それで、気がついた。
花が綻ぶような笑顔って、僕の胸の中で花が綻ぶような笑顔のことだったんだ。
ネプチューン様は押し黙ったまま、僕とデゼルを冷たく一瞥して立ち去った。
少し、ほっとした。
剣を抜かれたら、決闘にだって応じるつもりだったけど、僕の腕じゃ、まず間違いなく敵わない。
デゼルとエトランジュを残して逝ったら、きっと、泣かせてしまうよね。
泣きやませてあげられない泣かせ方は、なるべく、したくないから。
**――*――**
それから、ほどなく。
とてつもない魔力が皇宮の地下神殿から放たれたと感じたんだ。
「何だろう、今の……。デゼルは何か感じた?」
胸騒ぎがする。
デゼルも同じだったみたいで、こくんとうなずいた。
むしろ、デゼルの方が僕よりよほど、はっきりと感じ取ったのかもしれない。
鬼気迫る様相で、僕に告げたんだ。
「サイファ様、ネプチューンが地下神殿で、禁断の魔術を使った。今、たくさんの人達が魔物に変えられてしまった」
目を見張ってデゼルを見た後、僕は短く答えた。
「行こう」
**――*――**
燭台の灯だけが頼りの地下神殿に、山羊か何かを生贄に捧げた様子のネプチューン様が佇んでいた。
「ネプチューン、どうしてこんなことを!」
「おまえこそ、どうしたデゼル。俺の副官などやめるんじゃなかったのか?」
むせかえるような、血の匂い。
血の海の中で妖艶に嗤うネプチューン様の気が知れなかった。
事ここに至ってふと、僕は気がついたんだ。
ネプチューン様は、正気なんだろうか――
よく考えてみれば、ネプチューン様の常軌を逸した行動はすべて、ユリア様を亡くされた後のことなんだ。
公国への侵攻を命じられるのは罠だからと教えたデゼルの勧めに従って、皇太子に対抗するため、ネプチューン様が皇宮を留守にした隙に、ユリア様が襲われてしまって。
七年前、破滅の運命を変えられなかったのは、デゼルだけじゃない。
ユリア様もまた、運命につかまってしまったんだ。
そんな運命なんて知らないネプチューン様が瀕死のデゼルを手籠めにしたのは、デゼルへの復讐だった……?
ネプチューン様が真剣にユリア様を愛されていたなら、それでも、公国を滅ぼすことも、デゼルを殺めることもしないで下さったことに、感謝しなきゃいけなかった――?
「ああまで言われて、誰がおまえを信用するんだ。京奈がユリアなものか。信用しろと言うなら――」
いったい、誰のことだろう。
ケイナって?
邪悪に微笑んだネプチューン様が、デゼルに血塗られた手を差し伸べた。
「俺に身も心も任せるんだな」
デゼルが僕を引っ張るようにして、さらに後ろにさがった。
「――ネプチューン様、あなたが拒否するデゼルに強いるつもりなら、これ以上、あなたにお仕えすることはできません」
僕達、公国を追放されて、帝国に帰属していてよかった。
公国の闇巫女と闇主のままだったら、ここまで強気な対応はできなかったけど、僕とデゼルとエトランジュだけなら、あてのない放浪の旅をしても、生きてゆく自信はあるから。
「ありがとう、サイファ様」
つないだ手を、きゅっと握ってあげたら、デゼルが可愛らしく僕に微笑いかけてくれたんだ。
それで、気がついた。
花が綻ぶような笑顔って、僕の胸の中で花が綻ぶような笑顔のことだったんだ。
ネプチューン様は押し黙ったまま、僕とデゼルを冷たく一瞥して立ち去った。
少し、ほっとした。
剣を抜かれたら、決闘にだって応じるつもりだったけど、僕の腕じゃ、まず間違いなく敵わない。
デゼルとエトランジュを残して逝ったら、きっと、泣かせてしまうよね。
泣きやませてあげられない泣かせ方は、なるべく、したくないから。
**――*――**
それから、ほどなく。
とてつもない魔力が皇宮の地下神殿から放たれたと感じたんだ。
「何だろう、今の……。デゼルは何か感じた?」
胸騒ぎがする。
デゼルも同じだったみたいで、こくんとうなずいた。
むしろ、デゼルの方が僕よりよほど、はっきりと感じ取ったのかもしれない。
鬼気迫る様相で、僕に告げたんだ。
「サイファ様、ネプチューンが地下神殿で、禁断の魔術を使った。今、たくさんの人達が魔物に変えられてしまった」
目を見張ってデゼルを見た後、僕は短く答えた。
「行こう」
**――*――**
燭台の灯だけが頼りの地下神殿に、山羊か何かを生贄に捧げた様子のネプチューン様が佇んでいた。
「ネプチューン、どうしてこんなことを!」
「おまえこそ、どうしたデゼル。俺の副官などやめるんじゃなかったのか?」
むせかえるような、血の匂い。
血の海の中で妖艶に嗤うネプチューン様の気が知れなかった。
事ここに至ってふと、僕は気がついたんだ。
ネプチューン様は、正気なんだろうか――
よく考えてみれば、ネプチューン様の常軌を逸した行動はすべて、ユリア様を亡くされた後のことなんだ。
公国への侵攻を命じられるのは罠だからと教えたデゼルの勧めに従って、皇太子に対抗するため、ネプチューン様が皇宮を留守にした隙に、ユリア様が襲われてしまって。
七年前、破滅の運命を変えられなかったのは、デゼルだけじゃない。
ユリア様もまた、運命につかまってしまったんだ。
そんな運命なんて知らないネプチューン様が瀕死のデゼルを手籠めにしたのは、デゼルへの復讐だった……?
ネプチューン様が真剣にユリア様を愛されていたなら、それでも、公国を滅ぼすことも、デゼルを殺めることもしないで下さったことに、感謝しなきゃいけなかった――?
「ああまで言われて、誰がおまえを信用するんだ。京奈がユリアなものか。信用しろと言うなら――」
いったい、誰のことだろう。
ケイナって?
邪悪に微笑んだネプチューン様が、デゼルに血塗られた手を差し伸べた。
「俺に身も心も任せるんだな」
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