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第四章 叶わない願いはないと信じてる

第84話 物語のはじまり【前編】

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 不思議だね。
 ガゼル様に呼ばれると、僕はときめいて、いつも、すごく気分が高揚したのに。
 ネプチューン様に呼ばれても、何も、感じないんだ。
 もちろん、皇帝陛下を無視はしないけど。

「おまえは何のつもりで、デゼルを犯った俺に仕えている?」

 ネプチューン様が何を仰ったのか、僕はすぐには、呑み込めなかった。

「デゼルをいつ……!?」

 どうしよう。
 手が震えそう。
 怖いんじゃない、この感情はなに?

「ああ、知らなかったのか。デゼルを闇主どもから助けて魅了の魔力を与えてやった時だ。もっとも、デゼルは抵抗しなかったし、すべて、俺の言いなりになって皇帝を討つまでしてくれたからな。そこまでして俺に尽くしたデゼルに応えてやらなかったのは、悪かったと思ってな」

 何を言って――
 応えてやらなかったって、デゼルはネプチューン様がよかった?
 そんなはず、ないと思う。
 七年前のデゼルはガゼル様を選ぶことだってできたんだ。
 僕に、僕自身のよさを測ることはできないけど、ガゼル様が断然、ネプチューン様より素敵だよ。

「あの洞窟で、さんざ、させられたんだろう。奉仕の仕方も上手かった。俺にされて、随分、感じるようだったしな。気持ちよさそうにしてたぜ? 久しぶりに抱きたくなった。今夜、俺の夜伽よとぎに寄越せば、それなりの見返りは約束するが?」

 駄目だ――
 僕の中に、もう一人の僕がいる。
 ネプチューン様を斬り殺したい、僕が。
 抑え、なきゃ。

「俺の愛人になった方が、今より、デゼルはいい暮らしができるぜ?」

 僕は混乱してた。
 ネプチューン様はデゼルを助けてくれたはずなのに。
 僕は闇の神様オプスキュリテの幻に視た悪夢のフラッシュバックを起こして、もう一人の僕に、僕を乗っ取られそうになっていた。


  **――*――**


「……デゼル」
「おかえりなさい、サイファ様」

 いつも通り、笑顔で出迎えてくれたデゼルに、笑顔を向けられなくて。
 僕は黙ったまま、うつむいてしまった。
 この感情はなに?
 ネプチューン様が仰ったのは――

「サイファ様?」
「デゼル、その、ネプチューン様にされたことがあるって、本当なの」
「えっ……」

 デゼルの方も、鳩が豆鉄砲でも喰らったみたいに、なに? なに? って、途惑った顔。

「ネプチューン様が、今夜、デゼルを夜伽に寄越せって」

 途端に、デゼルの表情が強張った。
 ほとんど僕には見せたことのない表情だけど、小学生の頃にも一度だけ、見たことがあると思った。
 キノコ狩りの日に、ジャイロがスニールに僕を押さえさせて殴った時のデゼルの表情に、よく似てるんだ。

「サイファ様、それ、誰に聞いたの……?」
「ネプチューン様ご本人に」

 わっ、デゼルの三白眼。
 初めて見た。
 すごく怒ってる。デゼルのこぶしが怒りに震えるなんて。

「サイファ様、一緒に来て下さいますか。私が、ネプチューンに何かされそうになったら守って」

 もう一人の僕が、喜んだ。
 デゼルがネプチューン様に怒ってるのが、もう一人の僕には、胸がすくような痛快さだったんだ。
 ネプチューン様のこと、皇帝陛下なのに呼び捨てだし。
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