サイファ ~少年と舞い降りた天使~

冴條玲

文字の大きさ
上 下
92 / 139
第三章 闇を彷徨う心を癒したい

第82話 神罰【前編】

しおりを挟む
 あとは、そう。
 この七年の間に、僕は一つだけ、デゼルには教えられないこともしたんだ。
 隠し事、ひとつだけ。
 それは、デゼルが十一歳になって、ようやく、たまには笑顔を見せてくれるようになった頃のことだった。


  **――*――**


「ねぇ、デゼル」

 デゼルの心に負担をかけないために、考えないようにして、ずっと、言わないできたことを、僕は言ってみた。

「彼ら、殺してしまってもいい?」

 デゼルはもちろん、耳を疑う顔で僕を見た。
 だけど、頭ごなしに駄目と言ったりはしなかった。

「彼らって、闇主たちのこと?」
「うん」

 デゼルが口許に軽く握った手を当てて考える仕種は、デゼルにも迷いがある時のものなんだ。
 だから、僕はデゼルが何を迷うのか、その言葉を待った。

「あのね、サイファ様。私が十七歳で殺されるのは、見たよね」
「……うん」
「そうならないようにしたいけど、そうなってしまう時には、まず、何の罪もない人達が三千人も魔物にされてしまう大惨事が起きるの。闇主たちには、魔物に変えられてしまった人達を探して、呪いを解いてあげる仕事を手伝ってもらわないとならなくて。それは命懸けのすごく危険な仕事だから、犠牲者を抑えるためには、ヒールを使える闇主たちが適任なの」
「……その仕事の後なら、殺してしまってもいい?」
「私が死ぬ時に、月齢の首飾りを持ってない闇主はみんな死ぬよ。――彼らに月齢の首飾りを用意してあげるつもりは、ないから」

 僕、知らないうちに冷たく微笑んでた。
 だって、僕は別にいい人じゃないから。
 彼らにだって、彼らなりの事情はあるんだろうけど、いなくなって欲しいと、ずっと、思ってたから。
 デゼルにも、彼らを助けてあげるつもりはないんだ。
 僕だけに、月齢の首飾りを用意してくれるつもりなんだ。
 僕だけが、デゼルの本物の闇主だからだよね。
 月齢の首飾りっていうのは、闇巫女様が命を落とす時にかけていれば、闇主の命の代わりに砕けてくれる首飾りなんだって。
 まだ研究中とのことだけど、散逸してしまった月齢の首飾りの製法を、クライス様が復活させてくれるみたいなんだ。
 デゼルを死なせるつもりはないから、今度こそ、デゼルを守れた時に彼らをどうするかは、その時にまた、考えるとしても――
 僕の気持ち、デゼルにわかってもらえてよかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

悪役令嬢には、まだ早い!!

皐月うしこ
ファンタジー
【完結】四人の攻略対象により、悲運な未来を辿る予定の悪役令嬢が生きる世界。乙女ゲーム『エリスクローズ』の世界に転生したのは、まさかのオタクなヤクザだった!? 「繁栄の血族」と称された由緒あるマトラコフ伯爵家。魔女エリスが魔法を授けてから1952年。魔法は「パク」と呼ばれる鉱石を介して生活に根付き、飛躍的に文化や文明を発展させてきた。これは、そんな異世界で、オタクなヤクザではなく、数奇な人生を送る羽目になるひとりの少女の物語である。 ※小説家になろう様でも同時連載中

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫

梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。 それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。 飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!? ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 ★他サイトからの転載てす★

蓮華

釜瑪 秋摩
ファンタジー
小さな島国。 荒廃した大陸の四国はその豊かさを欲して幾度となく侵略を試みて来る。 国の平和を守るために戦う戦士たち、その一人は古より語られている伝承の血筋を受け継いだ一人だった。 守る思いの強さと迷い、悩み。揺れる感情の向かう先に待っていたのは――

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

処理中です...