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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第82話 神罰【前編】
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あとは、そう。
この七年の間に、僕は一つだけ、デゼルには教えられないこともしたんだ。
隠し事、ひとつだけ。
それは、デゼルが十一歳になって、ようやく、たまには笑顔を見せてくれるようになった頃のことだった。
**――*――**
「ねぇ、デゼル」
デゼルの心に負担をかけないために、考えないようにして、ずっと、言わないできたことを、僕は言ってみた。
「彼ら、殺してしまってもいい?」
デゼルはもちろん、耳を疑う顔で僕を見た。
だけど、頭ごなしに駄目と言ったりはしなかった。
「彼らって、闇主たちのこと?」
「うん」
デゼルが口許に軽く握った手を当てて考える仕種は、デゼルにも迷いがある時のものなんだ。
だから、僕はデゼルが何を迷うのか、その言葉を待った。
「あのね、サイファ様。私が十七歳で殺されるのは、見たよね」
「……うん」
「そうならないようにしたいけど、そうなってしまう時には、まず、何の罪もない人達が三千人も魔物にされてしまう大惨事が起きるの。闇主たちには、魔物に変えられてしまった人達を探して、呪いを解いてあげる仕事を手伝ってもらわないとならなくて。それは命懸けのすごく危険な仕事だから、犠牲者を抑えるためには、ヒールを使える闇主たちが適任なの」
「……その仕事の後なら、殺してしまってもいい?」
「私が死ぬ時に、月齢の首飾りを持ってない闇主はみんな死ぬよ。――彼らに月齢の首飾りを用意してあげるつもりは、ないから」
僕、知らないうちに冷たく微笑んでた。
だって、僕は別にいい人じゃないから。
彼らにだって、彼らなりの事情はあるんだろうけど、いなくなって欲しいと、ずっと、思ってたから。
デゼルにも、彼らを助けてあげるつもりはないんだ。
僕だけに、月齢の首飾りを用意してくれるつもりなんだ。
僕だけが、デゼルの本物の闇主だからだよね。
月齢の首飾りっていうのは、闇巫女様が命を落とす時にかけていれば、闇主の命の代わりに砕けてくれる首飾りなんだって。
まだ研究中とのことだけど、散逸してしまった月齢の首飾りの製法を、クライス様が復活させてくれるみたいなんだ。
デゼルを死なせるつもりはないから、今度こそ、デゼルを守れた時に彼らをどうするかは、その時にまた、考えるとしても――
僕の気持ち、デゼルにわかってもらえてよかった。
この七年の間に、僕は一つだけ、デゼルには教えられないこともしたんだ。
隠し事、ひとつだけ。
それは、デゼルが十一歳になって、ようやく、たまには笑顔を見せてくれるようになった頃のことだった。
**――*――**
「ねぇ、デゼル」
デゼルの心に負担をかけないために、考えないようにして、ずっと、言わないできたことを、僕は言ってみた。
「彼ら、殺してしまってもいい?」
デゼルはもちろん、耳を疑う顔で僕を見た。
だけど、頭ごなしに駄目と言ったりはしなかった。
「彼らって、闇主たちのこと?」
「うん」
デゼルが口許に軽く握った手を当てて考える仕種は、デゼルにも迷いがある時のものなんだ。
だから、僕はデゼルが何を迷うのか、その言葉を待った。
「あのね、サイファ様。私が十七歳で殺されるのは、見たよね」
「……うん」
「そうならないようにしたいけど、そうなってしまう時には、まず、何の罪もない人達が三千人も魔物にされてしまう大惨事が起きるの。闇主たちには、魔物に変えられてしまった人達を探して、呪いを解いてあげる仕事を手伝ってもらわないとならなくて。それは命懸けのすごく危険な仕事だから、犠牲者を抑えるためには、ヒールを使える闇主たちが適任なの」
「……その仕事の後なら、殺してしまってもいい?」
「私が死ぬ時に、月齢の首飾りを持ってない闇主はみんな死ぬよ。――彼らに月齢の首飾りを用意してあげるつもりは、ないから」
僕、知らないうちに冷たく微笑んでた。
だって、僕は別にいい人じゃないから。
彼らにだって、彼らなりの事情はあるんだろうけど、いなくなって欲しいと、ずっと、思ってたから。
デゼルにも、彼らを助けてあげるつもりはないんだ。
僕だけに、月齢の首飾りを用意してくれるつもりなんだ。
僕だけが、デゼルの本物の闇主だからだよね。
月齢の首飾りっていうのは、闇巫女様が命を落とす時にかけていれば、闇主の命の代わりに砕けてくれる首飾りなんだって。
まだ研究中とのことだけど、散逸してしまった月齢の首飾りの製法を、クライス様が復活させてくれるみたいなんだ。
デゼルを死なせるつもりはないから、今度こそ、デゼルを守れた時に彼らをどうするかは、その時にまた、考えるとしても――
僕の気持ち、デゼルにわかってもらえてよかった。
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