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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第78話 公子様は悪役令嬢を救いたい
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先に使者を出して無事を知らせてはいたけど、僕とデゼルがようやくガゼル様への挨拶に一時帰国したのは、翌月になってからのことだった。
「デゼル! サイファ! よく無事で!!」
公邸のガゼル様の私室に通されて、最敬礼したデゼルと僕を、ガゼル様は順に抱き締めて下さった。
「心配したよ、デゼルもサイファも邪神エリスに連れ去られたきりで」
「ガゼル様、ありがとう。ガゼル様は私とサイファの命の恩人。ごめんなさい、私、何度も、何度も、夜明けの守護を使ったの。ごめんなさい」
優しく笑ったガゼル様が、かぶりをふった。
「もっと、遠慮なく使うように伝えたかったよ。それでも、私の力でデゼルを助けられたならよかった」
「ガゼル様……」
「サイファと一生懸命に探したんだけど、見つけてあげられなくて、つらい思いをさせてしまったね」
ガゼル様って本当に――
僕が、デゼルをこれまでと同じように愛せるかわからないと言ったことなんて、おくびにも出さないんだ。
「私、見つけて欲しくなかった。エリス様に呪いをかけられて、ずっと、ガゼル様にもサイファにも、会うわけにいかなかったの。でも」
ガゼル様がデゼルを安心させる話し方をして下さるから、会う前には不安そうにしていたデゼルも、すぐに、嬉しそうな笑顔になった。
「ガゼル様、私達、公国の滅亡を阻止できたよ……! 神様がもう、大丈夫だって」
それを聞いたガゼル様も、喜びに顔を輝かせて、もう一度、デゼルを腕に抱き締めた。
「よかった……! ありがとう、デゼル、サイファ、二人には、どんなに感謝してもしきれないよ。本当に、公国のために力を尽くしてくれてありがとう」
「ガゼル様だって、力を尽くして下さいました」
顔を曇らせたガゼル様が、真剣な瞳をしてデゼルを見た。
「ねぇ、デゼル、私と駆け落ちしない……?」
どきんとして、心臓がどくどく打ち始めた。
ガゼル様、いきなり、核心なんだ。
これまで通りにデゼルを愛しますって、誓えなかった僕が認めた約束だから。
邪魔にならないように部屋の隅に控えていたけど、デゼルが改めて、僕を選んでくれるか自信なんてなかった。
デゼルがガゼル様に向けた笑顔、とっても、綺麗だったし。
当たり前だけど、デゼルもガゼル様が大好きなんだ。
「え」
デゼルはぽけっとガゼル様を見た後、くすぐったげに吹き出した。
「やだ、ガゼル様、どうしてそんな冗談……」
「私は本気だよ」
ガゼル様が怒った顔でデゼルを見たから、僕は少し、慌てたんだけど。
「公国を滅亡から救ったのは、間違いなくデゼルとサイファだ。それなのに、どうして、そのデゼルが淫売の魔女だなんだと蔑まれなければならないんだ! 私は……私はもう、公子の立場では、デゼルを妃に迎えることさえできない! デゼルより公妃にふさわしい令嬢なんて、公国中探したっているはずがないのに、この報いはどういうことなんだ!」
ガゼル様は、デゼルに怒っていたわけじゃなかった。
起きなかった戦争が起きるはずだったことを知っているのは、僕とデゼルとガゼル様だけ。
あとは、神様だけ。
だから、僕達がみんなに感謝されることはなくて。
それどころか、デゼルは帝国の内戦による犠牲者を最小限に抑えるために、闇主たちを使ってしまったから。
十数名の死者が出ただけで、内戦は終結したけど、まだ十歳のデゼルが何十人もの闇主たちと交わったことが、みんなの知るところとなってしまった。
公国の裏切り者、堕ちた闇巫女、淫売の魔女。
公国の滅亡と帝国の内戦を阻止したデゼルに与えられたのは、そういった称号と、苛烈な迫害だった。
闇神殿もそのままでは到底、存続できなくて、水神を祀る神殿に立場をかえて、今はガゼル様が祭主を務めて下さっているんだ。
だけど、僕とデゼルの部屋は、そのまま残してもらえているんだよ。
だって、デゼルが水神だから。
「ごめんね、ガゼル様。ガゼル様の御代には政教分離を求めたいって、私が望んだのに。結局、どちらもガゼル様に背負わせてしまった」
「そんなことはいいんだ。私は、もとよりデゼルを妃に迎えるつもりでいた、私の責任のことはいいんだ。だけど私には……! デゼルとサイファが公民から受ける迫害を、止めてあげることさえできない!」
顔を覆ったガゼル様の指の間から、涙が零れ落ちた。
僕達が無事だと知っても、ガゼル様は帰国を催促なさらなかったんだ。もちろん、追放もなさらなかったけど。
僕達が受ける迫害を止めようと、今日まで、手を尽くして下さっていたんだと思う。
【挿絵】カゴ様
「デゼル! サイファ! よく無事で!!」
公邸のガゼル様の私室に通されて、最敬礼したデゼルと僕を、ガゼル様は順に抱き締めて下さった。
「心配したよ、デゼルもサイファも邪神エリスに連れ去られたきりで」
「ガゼル様、ありがとう。ガゼル様は私とサイファの命の恩人。ごめんなさい、私、何度も、何度も、夜明けの守護を使ったの。ごめんなさい」
優しく笑ったガゼル様が、かぶりをふった。
「もっと、遠慮なく使うように伝えたかったよ。それでも、私の力でデゼルを助けられたならよかった」
「ガゼル様……」
「サイファと一生懸命に探したんだけど、見つけてあげられなくて、つらい思いをさせてしまったね」
ガゼル様って本当に――
僕が、デゼルをこれまでと同じように愛せるかわからないと言ったことなんて、おくびにも出さないんだ。
「私、見つけて欲しくなかった。エリス様に呪いをかけられて、ずっと、ガゼル様にもサイファにも、会うわけにいかなかったの。でも」
ガゼル様がデゼルを安心させる話し方をして下さるから、会う前には不安そうにしていたデゼルも、すぐに、嬉しそうな笑顔になった。
「ガゼル様、私達、公国の滅亡を阻止できたよ……! 神様がもう、大丈夫だって」
それを聞いたガゼル様も、喜びに顔を輝かせて、もう一度、デゼルを腕に抱き締めた。
「よかった……! ありがとう、デゼル、サイファ、二人には、どんなに感謝してもしきれないよ。本当に、公国のために力を尽くしてくれてありがとう」
「ガゼル様だって、力を尽くして下さいました」
顔を曇らせたガゼル様が、真剣な瞳をしてデゼルを見た。
「ねぇ、デゼル、私と駆け落ちしない……?」
どきんとして、心臓がどくどく打ち始めた。
ガゼル様、いきなり、核心なんだ。
これまで通りにデゼルを愛しますって、誓えなかった僕が認めた約束だから。
邪魔にならないように部屋の隅に控えていたけど、デゼルが改めて、僕を選んでくれるか自信なんてなかった。
デゼルがガゼル様に向けた笑顔、とっても、綺麗だったし。
当たり前だけど、デゼルもガゼル様が大好きなんだ。
「え」
デゼルはぽけっとガゼル様を見た後、くすぐったげに吹き出した。
「やだ、ガゼル様、どうしてそんな冗談……」
「私は本気だよ」
ガゼル様が怒った顔でデゼルを見たから、僕は少し、慌てたんだけど。
「公国を滅亡から救ったのは、間違いなくデゼルとサイファだ。それなのに、どうして、そのデゼルが淫売の魔女だなんだと蔑まれなければならないんだ! 私は……私はもう、公子の立場では、デゼルを妃に迎えることさえできない! デゼルより公妃にふさわしい令嬢なんて、公国中探したっているはずがないのに、この報いはどういうことなんだ!」
ガゼル様は、デゼルに怒っていたわけじゃなかった。
起きなかった戦争が起きるはずだったことを知っているのは、僕とデゼルとガゼル様だけ。
あとは、神様だけ。
だから、僕達がみんなに感謝されることはなくて。
それどころか、デゼルは帝国の内戦による犠牲者を最小限に抑えるために、闇主たちを使ってしまったから。
十数名の死者が出ただけで、内戦は終結したけど、まだ十歳のデゼルが何十人もの闇主たちと交わったことが、みんなの知るところとなってしまった。
公国の裏切り者、堕ちた闇巫女、淫売の魔女。
公国の滅亡と帝国の内戦を阻止したデゼルに与えられたのは、そういった称号と、苛烈な迫害だった。
闇神殿もそのままでは到底、存続できなくて、水神を祀る神殿に立場をかえて、今はガゼル様が祭主を務めて下さっているんだ。
だけど、僕とデゼルの部屋は、そのまま残してもらえているんだよ。
だって、デゼルが水神だから。
「ごめんね、ガゼル様。ガゼル様の御代には政教分離を求めたいって、私が望んだのに。結局、どちらもガゼル様に背負わせてしまった」
「そんなことはいいんだ。私は、もとよりデゼルを妃に迎えるつもりでいた、私の責任のことはいいんだ。だけど私には……! デゼルとサイファが公民から受ける迫害を、止めてあげることさえできない!」
顔を覆ったガゼル様の指の間から、涙が零れ落ちた。
僕達が無事だと知っても、ガゼル様は帰国を催促なさらなかったんだ。もちろん、追放もなさらなかったけど。
僕達が受ける迫害を止めようと、今日まで、手を尽くして下さっていたんだと思う。
【挿絵】カゴ様
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