77 / 139
第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第71話 町人Sは痛恨の失策をする
しおりを挟む
デゼルを見失ってから、十三日が過ぎた。
僕をかくまってくれたユリシーズの話によれば、デゼルを助けてくれたのは、やっぱり、ネプチューン皇子だったみたいで、それが三日前のこと。
助けられたデゼルは丸一日、昏睡して生死の境をさまよったのに。
意識が戻ると、高熱すら引かないうちに、闇主たちを率いて帝国の内戦に参加、皇帝を討ったらしいんだ。
その後、皇子に夜伽を命じられると、デゼルは水神になって逃げてしまって、行方がわからなくなったんだって。
信じられないよ。いったい、どういうことなんだろう。
デゼルじゃなく、ネプチューン皇子が何を考えているのか理解できないんだ。
まだ十歳の、瀕死のデゼルに皇帝を討たせたあげく、夜伽を命じるなんて。
デゼルを助けてくれたことには感謝するけど――
ユリシーズが帝国に来たのはユリア様のご不幸について聞いてすぐ、ちょうど、僕達と入れ違いになるタイミングだったみたい。
デゼル、いつまで待てば、僕のところに戻ってきてくれるんだろう。
エリス様にまた、酷い目に遭わされたりしないか、心配だな。
だけど、もう本当に、追いかけようがないから。
先回りする意味でも、帝国の動向から目を離さない意味でも、ここにいるしかないんだ。
フォンと、虚空からきらめく光が波紋のように拡がったのは、ユリシーズにレモングラスっていう、爽やかな香りのハーブティーを淹れてもらっていた時だった。
「デゼル!」
クロノスの魔法で、デゼルが戻って来てくれたんだ。
「急に姿を隠したから、心配したんだよ」
「サイファ様……」
僕、絶対に、お仕置きしようと思ってたのに。
無事なデゼルの姿を見たら、それだけで、何もかも許せてしまって。
だって、邪神に追われて、すごく酷い目に遭わされて、それでも帰ってきてくれたんだ。
どんなに、つらかっただろう。
僕、何のためにお仕置きしようとしてたんだろう。
きっと、さっきまでの僕は、今の僕に比べたら、あんまり、頭が良くなかったんだ。
僕、成長期だから、たちまち成長したんだね。
「……?」
うつむいたきり、デゼルは僕の手を取ろうとしなかった。
「こどもを……」
胸が、どきんとした。
ガゼル様のお子様ならともかく、そうじゃなかった時、僕は、デゼルが孕まされた子供を愛せる――?
デゼルがどうして僕の手を取れないのか、今さら、わかったんだ。
デゼルの頬を、涙が一滴、もう一滴、零れ落ちた。
ただの悪夢なら、よかった。
デゼルの身に起きた、エリス様にさらわれてからのことは、忘れることも、なかったことにも、できないんだ。
「殺します」
それは、思いがけないデゼルの言葉で。
考える時間なら、たくさんあったのに。
僕は、考えなきゃいけないこと、何にも、考えていなかった。
デゼルに代わって、僕がしてあげなきゃいけない決断だったのに。
この決断をデゼルにさせてしまったことは、ずっと、響いた。
『私は何の罪もないこどもを殺したんだよ』って、デゼルは何度も、命を大切にしない選択を繰り返すことになるんだ。
僕が決断していれば、デゼルほど苦しんだりしなかったのに。
だって僕は、デゼルより遥かに冷酷だから。
デゼルを手籠めにした闇主の子に命を与えない決断に、僕なら、良心の呵責なんてなかったんだ。
僕をかくまってくれたユリシーズの話によれば、デゼルを助けてくれたのは、やっぱり、ネプチューン皇子だったみたいで、それが三日前のこと。
助けられたデゼルは丸一日、昏睡して生死の境をさまよったのに。
意識が戻ると、高熱すら引かないうちに、闇主たちを率いて帝国の内戦に参加、皇帝を討ったらしいんだ。
その後、皇子に夜伽を命じられると、デゼルは水神になって逃げてしまって、行方がわからなくなったんだって。
信じられないよ。いったい、どういうことなんだろう。
デゼルじゃなく、ネプチューン皇子が何を考えているのか理解できないんだ。
まだ十歳の、瀕死のデゼルに皇帝を討たせたあげく、夜伽を命じるなんて。
デゼルを助けてくれたことには感謝するけど――
ユリシーズが帝国に来たのはユリア様のご不幸について聞いてすぐ、ちょうど、僕達と入れ違いになるタイミングだったみたい。
デゼル、いつまで待てば、僕のところに戻ってきてくれるんだろう。
エリス様にまた、酷い目に遭わされたりしないか、心配だな。
だけど、もう本当に、追いかけようがないから。
先回りする意味でも、帝国の動向から目を離さない意味でも、ここにいるしかないんだ。
フォンと、虚空からきらめく光が波紋のように拡がったのは、ユリシーズにレモングラスっていう、爽やかな香りのハーブティーを淹れてもらっていた時だった。
「デゼル!」
クロノスの魔法で、デゼルが戻って来てくれたんだ。
「急に姿を隠したから、心配したんだよ」
「サイファ様……」
僕、絶対に、お仕置きしようと思ってたのに。
無事なデゼルの姿を見たら、それだけで、何もかも許せてしまって。
だって、邪神に追われて、すごく酷い目に遭わされて、それでも帰ってきてくれたんだ。
どんなに、つらかっただろう。
僕、何のためにお仕置きしようとしてたんだろう。
きっと、さっきまでの僕は、今の僕に比べたら、あんまり、頭が良くなかったんだ。
僕、成長期だから、たちまち成長したんだね。
「……?」
うつむいたきり、デゼルは僕の手を取ろうとしなかった。
「こどもを……」
胸が、どきんとした。
ガゼル様のお子様ならともかく、そうじゃなかった時、僕は、デゼルが孕まされた子供を愛せる――?
デゼルがどうして僕の手を取れないのか、今さら、わかったんだ。
デゼルの頬を、涙が一滴、もう一滴、零れ落ちた。
ただの悪夢なら、よかった。
デゼルの身に起きた、エリス様にさらわれてからのことは、忘れることも、なかったことにも、できないんだ。
「殺します」
それは、思いがけないデゼルの言葉で。
考える時間なら、たくさんあったのに。
僕は、考えなきゃいけないこと、何にも、考えていなかった。
デゼルに代わって、僕がしてあげなきゃいけない決断だったのに。
この決断をデゼルにさせてしまったことは、ずっと、響いた。
『私は何の罪もないこどもを殺したんだよ』って、デゼルは何度も、命を大切にしない選択を繰り返すことになるんだ。
僕が決断していれば、デゼルほど苦しんだりしなかったのに。
だって僕は、デゼルより遥かに冷酷だから。
デゼルを手籠めにした闇主の子に命を与えない決断に、僕なら、良心の呵責なんてなかったんだ。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
悪役令嬢には、まだ早い!!
皐月うしこ
ファンタジー
【完結】四人の攻略対象により、悲運な未来を辿る予定の悪役令嬢が生きる世界。乙女ゲーム『エリスクローズ』の世界に転生したのは、まさかのオタクなヤクザだった!?
「繁栄の血族」と称された由緒あるマトラコフ伯爵家。魔女エリスが魔法を授けてから1952年。魔法は「パク」と呼ばれる鉱石を介して生活に根付き、飛躍的に文化や文明を発展させてきた。これは、そんな異世界で、オタクなヤクザではなく、数奇な人生を送る羽目になるひとりの少女の物語である。
※小説家になろう様でも同時連載中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】妃が毒を盛っている。
井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる