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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第67話 必ず探し出すから
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大公陛下から、公国内に『グノース』という小さな村があるとの知らせが届いたのは、ガゼル様とそんな話をしていた八日目のことだった。
「しまった、公国か!」
「急いで戻りましょう!」
ああもう、まどろっこしいな。
肝心な時にクロノスで帰還できないなんて。
ようやく、デゼルが公国にいるとわかったのに、戻るだけのことに三日もかかってしまうなんて。
改めて、破滅するはずだった闇の使徒を助けてあげられたのは、デゼルが授かっていた神々の祝福のおかげなんだって、思い知らされた。
運命って、そんなに簡単に変えられるものじゃないんだ。
どんなに強く望んで、どんなに頑張っても。
運があって、命があって、望みがあって、その上で頑張って、はじめて、願いを叶えられるんだ。
**――*――**
「ガゼル様、ここ!」
十一日目、僕達はグノースの村のはずれに、闇の神様の幻に視た洞窟をついに見つけ出した。
粗末な食材や衣類、ゴミ、火をおこした跡――
人が暮らしているのは間違いないはずなのに、出払っているのか、誰もいなかった。
近衛の人達に外を見張ってもらって、慎重に中を調べていく。
洞窟の奥、汚い寝ワラが敷かれた辺りに、泥や汚物にまみれてボロボロになったデゼルの衣装が落ちていて、息が止まるかと思った。
「サイファ!?」
奥の壁に、死にたいって――
拾い上げたデゼルの衣装を握り締めて、僕は、涙が止まらなかった。
生まれて初めて、人を殺したいと思ったんだ。
**――*――**
洞窟の中にも外にも、もう誰もいなかった。
近衛の人達に交替で、誰か戻ってこないか見張ってもらっているけど、誰も戻ってこなかったら、もう、何の手がかりもなくなってしまう。
山賊のことだから、デゼルを連れて山中に逃げ込んだんだろうって、大公陛下が山狩りの手配をして下さっているけど、僕には、デゼルはもうここにはいないと感じられて仕方なかった。
「あ!」
「サイファ?」
「ガゼル様、デゼルが闇の使徒になるのはどうしてなのか、今、ふと考えて。ネプチューン皇子が助けてくれるからなんじゃ」
「あ! ……そうか、そうだね。そうでもなければ、公国を滅ぼした皇子にデゼルが仕える理由がない――」
ガゼル様もすぐ、うなずいてくれた。
「サイファ、私は今からでも、また帝国に向かおうと思う。疲れているだろうけど、サイファも向かう?」
「はい!」
後追いできないなら、先回りすればよかったんだ。
デゼルは十歳で死ぬ予定じゃなかった。
きっと、デゼルの運命は狂っていない。
もう、ネプチューン皇子に助けてもらったから、ここにはいないんだ。
でも――
闇の使徒って、みんな、心が壊れてしまった後で、闇の皇子に手を差し伸べられて配下になるんだ。
デゼル、僕、探してあげてるから頑張って。
必ず、探し出すから。
どうか、まだ、デゼルの心が壊れる前であって欲しい。
闇の神様が、あと少しの間、デゼルの心をお守り下さいますように。
「しまった、公国か!」
「急いで戻りましょう!」
ああもう、まどろっこしいな。
肝心な時にクロノスで帰還できないなんて。
ようやく、デゼルが公国にいるとわかったのに、戻るだけのことに三日もかかってしまうなんて。
改めて、破滅するはずだった闇の使徒を助けてあげられたのは、デゼルが授かっていた神々の祝福のおかげなんだって、思い知らされた。
運命って、そんなに簡単に変えられるものじゃないんだ。
どんなに強く望んで、どんなに頑張っても。
運があって、命があって、望みがあって、その上で頑張って、はじめて、願いを叶えられるんだ。
**――*――**
「ガゼル様、ここ!」
十一日目、僕達はグノースの村のはずれに、闇の神様の幻に視た洞窟をついに見つけ出した。
粗末な食材や衣類、ゴミ、火をおこした跡――
人が暮らしているのは間違いないはずなのに、出払っているのか、誰もいなかった。
近衛の人達に外を見張ってもらって、慎重に中を調べていく。
洞窟の奥、汚い寝ワラが敷かれた辺りに、泥や汚物にまみれてボロボロになったデゼルの衣装が落ちていて、息が止まるかと思った。
「サイファ!?」
奥の壁に、死にたいって――
拾い上げたデゼルの衣装を握り締めて、僕は、涙が止まらなかった。
生まれて初めて、人を殺したいと思ったんだ。
**――*――**
洞窟の中にも外にも、もう誰もいなかった。
近衛の人達に交替で、誰か戻ってこないか見張ってもらっているけど、誰も戻ってこなかったら、もう、何の手がかりもなくなってしまう。
山賊のことだから、デゼルを連れて山中に逃げ込んだんだろうって、大公陛下が山狩りの手配をして下さっているけど、僕には、デゼルはもうここにはいないと感じられて仕方なかった。
「あ!」
「サイファ?」
「ガゼル様、デゼルが闇の使徒になるのはどうしてなのか、今、ふと考えて。ネプチューン皇子が助けてくれるからなんじゃ」
「あ! ……そうか、そうだね。そうでもなければ、公国を滅ぼした皇子にデゼルが仕える理由がない――」
ガゼル様もすぐ、うなずいてくれた。
「サイファ、私は今からでも、また帝国に向かおうと思う。疲れているだろうけど、サイファも向かう?」
「はい!」
後追いできないなら、先回りすればよかったんだ。
デゼルは十歳で死ぬ予定じゃなかった。
きっと、デゼルの運命は狂っていない。
もう、ネプチューン皇子に助けてもらったから、ここにはいないんだ。
でも――
闇の使徒って、みんな、心が壊れてしまった後で、闇の皇子に手を差し伸べられて配下になるんだ。
デゼル、僕、探してあげてるから頑張って。
必ず、探し出すから。
どうか、まだ、デゼルの心が壊れる前であって欲しい。
闇の神様が、あと少しの間、デゼルの心をお守り下さいますように。
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