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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第64話 月の見えない夜に
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もうすぐ、ガゼル様がデゼルにかけて下さった夜明けの守護が消滅してしまう。
デゼルは毎日のように、夜が明ける頃と日が暮れる頃に夜明けの守護を使っているけど、その度に、ガゼル様が瀕死に近い状態になることを思うと、僕は背筋が凍る思いがした。
夜明けの守護が消滅したら、デゼルにはもう、僕のヒールも届かなくなるんだ。
死んじゃうよ。
デゼルが死んじゃったら、僕はもちろん、夜明けの守護をかけるために契ったガゼル様まで――
「サイファ、私が以前、闇主になったサイファがデゼルを裏切った時には許さないと言ったことを覚えている?」
僕もガゼル様も、すっかり、口数が少なくなってしまっていた、六日目の夜。
月の見えない夜だった。
僕がうなずくと、ガゼル様が綺麗な碧の瞳を翳らせた。
「デゼルがさらわれた時、傍にいたのはサイファじゃなくて私なんだ。サイファ、今、デゼルが何をされているかは、わかっているよね」
闇の神様の幻に視たし、ガゼル様の状態から言っても。
悪くて汚い男の人達が、よってたかって、泣き叫ぶデゼルを慰み者にしてるんだ。
「サイファ、君はこれからも、これまでと同じようにデゼルを愛せる?」
僕は息を吞んで、ガゼル様を見た。
そんなこと――
僕、考えてもみなかったんだ。
「次にデゼルと会った時、サイファは、これまでと同じ気持ちでデゼルを抱き締めてあげられる? もしも、できそうにないなら、この後は、私に闇主としてデゼルを守らせて欲しい。今度だけは、サイファが裏切ったと責めるつもりはないから」
もう、気が狂ってしまっているかもしれないデゼルを、これまでと同じように?
闇の神様の幻に視た、慰み者にされた後のデゼルの瞳は、感情をなくしてしまっていた。
あの瞳――
デゼル、僕のこと覚えてる?
まさか、デゼルの最期って。
ずっと、僕のことすら忘れたまま、僕が殺されかけてようやく思い出して、僕を庇って死んでしまうような?
僕には、答えられなかった。
デゼルが変わってしまっていた時、デゼルが僕を忘れてしまっていた時、それでも、僕だけは変わらずにデゼルを愛せる?
そんなこと――
胸が苦しくなって、涙が一雫、頬を伝い落ちた。
ぼくは。
デゼルに笑いかけてもらうと、いつも、すごく嬉しくてフワフワした気持ちになったのは、どうして?
どこへ行くのにも、いつも、ついてきてくれた。
高い高いしてあげた時の、軽やかな笑い声。
デゼルの命だけ助けてあげられても、心が壊れてしまっていたら、何一つ取り戻せないんだ。
闇の神様の幻に視た、闇の使徒になったデゼルの心は、――壊れてしまっていた。
ガゼル様に答えられないまま、涙だけが伝い落ちた。
今、こうしている間にも、デゼルの心が壊されてゆくのに。
どこにいるの。
「サイファ」
デゼルに出会う前。
父さんがいなくなって、友達がいなくなった。
働きに出れば大人の人に殴られて、学校に行けばジャイロに殴られた。
あの頃の僕の世界には色がなかった。
灰色だった。
色も、音も、香りも。
何もなくなってた僕の世界に、デゼルが色彩を取り戻してくれたのは。
あれは、何の力?
デゼルのいる場所から彩りが戻って、最初に、デゼルの綺麗な蒼の瞳が見えた。
きらきら、緩く流れる銀の波が見えた。
ほっぺ、つついてみたら、んって小さな声がして、デゼルがぷくっと、つつかれたほっぺをふくらせて、たたかう!? って、僕を見た。
デゼルのいる場所から――
喜びが戻って、感情が戻って、秋の日の晴れた青空と、紅葉の彩りが見えた。
小川のせせらぎが聞こえて、鳥のさえずりが聞こえて、草の香り、花の香り、世界のすべてが、ただいまって僕のところに帰ってきた。
どうして、帰ってきたのかわからない。
心の壊れたデゼルを抱いても、僕の世界にも、デゼルの世界にも、彩りが戻ることはないのかもしれない。
それでも――
デゼルは毎日のように、夜が明ける頃と日が暮れる頃に夜明けの守護を使っているけど、その度に、ガゼル様が瀕死に近い状態になることを思うと、僕は背筋が凍る思いがした。
夜明けの守護が消滅したら、デゼルにはもう、僕のヒールも届かなくなるんだ。
死んじゃうよ。
デゼルが死んじゃったら、僕はもちろん、夜明けの守護をかけるために契ったガゼル様まで――
「サイファ、私が以前、闇主になったサイファがデゼルを裏切った時には許さないと言ったことを覚えている?」
僕もガゼル様も、すっかり、口数が少なくなってしまっていた、六日目の夜。
月の見えない夜だった。
僕がうなずくと、ガゼル様が綺麗な碧の瞳を翳らせた。
「デゼルがさらわれた時、傍にいたのはサイファじゃなくて私なんだ。サイファ、今、デゼルが何をされているかは、わかっているよね」
闇の神様の幻に視たし、ガゼル様の状態から言っても。
悪くて汚い男の人達が、よってたかって、泣き叫ぶデゼルを慰み者にしてるんだ。
「サイファ、君はこれからも、これまでと同じようにデゼルを愛せる?」
僕は息を吞んで、ガゼル様を見た。
そんなこと――
僕、考えてもみなかったんだ。
「次にデゼルと会った時、サイファは、これまでと同じ気持ちでデゼルを抱き締めてあげられる? もしも、できそうにないなら、この後は、私に闇主としてデゼルを守らせて欲しい。今度だけは、サイファが裏切ったと責めるつもりはないから」
もう、気が狂ってしまっているかもしれないデゼルを、これまでと同じように?
闇の神様の幻に視た、慰み者にされた後のデゼルの瞳は、感情をなくしてしまっていた。
あの瞳――
デゼル、僕のこと覚えてる?
まさか、デゼルの最期って。
ずっと、僕のことすら忘れたまま、僕が殺されかけてようやく思い出して、僕を庇って死んでしまうような?
僕には、答えられなかった。
デゼルが変わってしまっていた時、デゼルが僕を忘れてしまっていた時、それでも、僕だけは変わらずにデゼルを愛せる?
そんなこと――
胸が苦しくなって、涙が一雫、頬を伝い落ちた。
ぼくは。
デゼルに笑いかけてもらうと、いつも、すごく嬉しくてフワフワした気持ちになったのは、どうして?
どこへ行くのにも、いつも、ついてきてくれた。
高い高いしてあげた時の、軽やかな笑い声。
デゼルの命だけ助けてあげられても、心が壊れてしまっていたら、何一つ取り戻せないんだ。
闇の神様の幻に視た、闇の使徒になったデゼルの心は、――壊れてしまっていた。
ガゼル様に答えられないまま、涙だけが伝い落ちた。
今、こうしている間にも、デゼルの心が壊されてゆくのに。
どこにいるの。
「サイファ」
デゼルに出会う前。
父さんがいなくなって、友達がいなくなった。
働きに出れば大人の人に殴られて、学校に行けばジャイロに殴られた。
あの頃の僕の世界には色がなかった。
灰色だった。
色も、音も、香りも。
何もなくなってた僕の世界に、デゼルが色彩を取り戻してくれたのは。
あれは、何の力?
デゼルのいる場所から彩りが戻って、最初に、デゼルの綺麗な蒼の瞳が見えた。
きらきら、緩く流れる銀の波が見えた。
ほっぺ、つついてみたら、んって小さな声がして、デゼルがぷくっと、つつかれたほっぺをふくらせて、たたかう!? って、僕を見た。
デゼルのいる場所から――
喜びが戻って、感情が戻って、秋の日の晴れた青空と、紅葉の彩りが見えた。
小川のせせらぎが聞こえて、鳥のさえずりが聞こえて、草の香り、花の香り、世界のすべてが、ただいまって僕のところに帰ってきた。
どうして、帰ってきたのかわからない。
心の壊れたデゼルを抱いても、僕の世界にも、デゼルの世界にも、彩りが戻ることはないのかもしれない。
それでも――
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