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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第60話 町人Sも中学校を中退する
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「言ったろ、サイファ。男はこぶしで語るもんだって。俺はわかったぜ? デゼルを叩いたセンコーが何を語りたかったかくらい」
「えっ!? あれって、どういうことだったの?」
「だぁーら、言葉で理解しようとすんな。感じろよ、センコーのこぶしを。あん時、おまえだって叩かれたろーが。何を感じたよ」
「何って……」
何も、感じなかったんだ。
僕、わからないみたいだ。僕、こぶしで語れないのかな、男の子なのに。
僕が情けない顔をしてしょげたら、ジャイロが笑い飛ばした。
「あー、あー、しょげんな。俺が語れるからよ、センコーとの話し合いは俺に任せとけ。センコーが何を語りたいのか、おまえ、全ッ然わかんねーんだろ?」
僕がうなずいたら、帰れ、いーってことよって、ジャイロがひらひら手をふった。
ジャイロって、すごい。
先生、何にも言わないのにわかるんだ。
こぶしって、いったい何を、どんな風に語るんだろう。
「先生、僕も中退しようと思います。僕が中退すると、ジャイロがクラスで暴れるかもしれないと思って、ためらっていたけど」
「何っ……」
ジャイロに任せることにしたら、ようやく、心が決まった。
僕も、もう中学校は、中退しようって。
公国が滅亡するかもしれない時に、デゼルを一人にして中学校に通うなんて、きっと、闇主として間違いなんだ。
「先生、デゼルは怖いんです。今年、公国に大変な危機が迫っていて、僕達は三年も前から、時には公子様とも一緒に、公国を守るために働いてきました。小学校に問い合わせて頂ければ、何度も、公欠を取った記録があるはずです。――デゼルがしたことも、僕がしたことも不適切でした。だけど、デゼルは公家に一言、先生に叩かれたと訴えれば、先生の首を飛ばせる闇巫女です。デゼルがそうしなかったことの意味を、先生は、どうお考えなのでしょうか」
デゼルがいない教室で、ずっと、考えてた。
こぶしでの語り合いより、僕はやっぱり、話し合いたい。
だって、僕はハーフゴリラじゃなくて人間だから。
話し合いをする前から、諦めてしまいたくないんだ。
「闇巫女……? なんだね、それは。私はデゼルを学業成績に優れた生徒と認識しているが、それは、授業放棄をしていい理由にはならない」
僕、思わずデゼルと顔を見合わせてた。
闇巫女を知らない先生がいるんだ……。
何年生だったか忘れたけど、小学校で習うことなんだけどな。
「ご存知なかったのであれば――わかりました、デゼルがしたことも、僕がしたことも不適切でした。認めます。中退します」
「サイファ様!」
デゼルがびっくりした顔で叫んだけど、僕は苦笑してかぶりをふった。
なんだか、吹っ切れたみたい。
「デゼル、デゼルの十一歳の誕生日まで、残り五ヶ月を切ってるんだ。デゼルの無事な姿を確認できない教室じゃ、授業が頭に入らなくて、苦しいだけだった。先生には、十月になってから謝るから。十月まで公国が存続していれば、僕達の勝ちだ」
一年休学しても、二年休学しても、たいして変わらない。
公国の滅亡の阻止が優先。中学校には後で通えばいいんだ。
僕が迷いのない瞳で笑いかけたら、デゼルが瞳をきらきらさせて僕を見詰めた。
すごく、嬉しいみたい。
「さっきみたいに、デゼルを泣かせた記憶が最後になるのは絶対にいやだから。一緒にいようね、僕が必ずデゼルを守るから」
つないだ手を、デゼルがきゅっと握り返してくれた。
「逃げんのか、サイファ」
「続きはまた、ユリシーズの火傷が癒えてからつきあうよ。ジャイロ、僕も楽しかった。また神殿でね」
**――*――**
だけど、僕達が中学校に戻ることは、二度となかったんだ。
デゼルが十一歳になる前に、僕達は、公国を追放されてしまうことになったから。
「えっ!? あれって、どういうことだったの?」
「だぁーら、言葉で理解しようとすんな。感じろよ、センコーのこぶしを。あん時、おまえだって叩かれたろーが。何を感じたよ」
「何って……」
何も、感じなかったんだ。
僕、わからないみたいだ。僕、こぶしで語れないのかな、男の子なのに。
僕が情けない顔をしてしょげたら、ジャイロが笑い飛ばした。
「あー、あー、しょげんな。俺が語れるからよ、センコーとの話し合いは俺に任せとけ。センコーが何を語りたいのか、おまえ、全ッ然わかんねーんだろ?」
僕がうなずいたら、帰れ、いーってことよって、ジャイロがひらひら手をふった。
ジャイロって、すごい。
先生、何にも言わないのにわかるんだ。
こぶしって、いったい何を、どんな風に語るんだろう。
「先生、僕も中退しようと思います。僕が中退すると、ジャイロがクラスで暴れるかもしれないと思って、ためらっていたけど」
「何っ……」
ジャイロに任せることにしたら、ようやく、心が決まった。
僕も、もう中学校は、中退しようって。
公国が滅亡するかもしれない時に、デゼルを一人にして中学校に通うなんて、きっと、闇主として間違いなんだ。
「先生、デゼルは怖いんです。今年、公国に大変な危機が迫っていて、僕達は三年も前から、時には公子様とも一緒に、公国を守るために働いてきました。小学校に問い合わせて頂ければ、何度も、公欠を取った記録があるはずです。――デゼルがしたことも、僕がしたことも不適切でした。だけど、デゼルは公家に一言、先生に叩かれたと訴えれば、先生の首を飛ばせる闇巫女です。デゼルがそうしなかったことの意味を、先生は、どうお考えなのでしょうか」
デゼルがいない教室で、ずっと、考えてた。
こぶしでの語り合いより、僕はやっぱり、話し合いたい。
だって、僕はハーフゴリラじゃなくて人間だから。
話し合いをする前から、諦めてしまいたくないんだ。
「闇巫女……? なんだね、それは。私はデゼルを学業成績に優れた生徒と認識しているが、それは、授業放棄をしていい理由にはならない」
僕、思わずデゼルと顔を見合わせてた。
闇巫女を知らない先生がいるんだ……。
何年生だったか忘れたけど、小学校で習うことなんだけどな。
「ご存知なかったのであれば――わかりました、デゼルがしたことも、僕がしたことも不適切でした。認めます。中退します」
「サイファ様!」
デゼルがびっくりした顔で叫んだけど、僕は苦笑してかぶりをふった。
なんだか、吹っ切れたみたい。
「デゼル、デゼルの十一歳の誕生日まで、残り五ヶ月を切ってるんだ。デゼルの無事な姿を確認できない教室じゃ、授業が頭に入らなくて、苦しいだけだった。先生には、十月になってから謝るから。十月まで公国が存続していれば、僕達の勝ちだ」
一年休学しても、二年休学しても、たいして変わらない。
公国の滅亡の阻止が優先。中学校には後で通えばいいんだ。
僕が迷いのない瞳で笑いかけたら、デゼルが瞳をきらきらさせて僕を見詰めた。
すごく、嬉しいみたい。
「さっきみたいに、デゼルを泣かせた記憶が最後になるのは絶対にいやだから。一緒にいようね、僕が必ずデゼルを守るから」
つないだ手を、デゼルがきゅっと握り返してくれた。
「逃げんのか、サイファ」
「続きはまた、ユリシーズの火傷が癒えてからつきあうよ。ジャイロ、僕も楽しかった。また神殿でね」
**――*――**
だけど、僕達が中学校に戻ることは、二度となかったんだ。
デゼルが十一歳になる前に、僕達は、公国を追放されてしまうことになったから。
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