サイファ ~少年と舞い降りた天使~

冴條玲

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第三章 闇を彷徨う心を癒したい

第59話 悪役令嬢が傍にいなければ町人Sはモテる

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 デゼルの声が聞こえた気がして、危ないところでジャイロの攻撃を受け流した後。
 ジャイロに待ってって手をあげて、僕は急いでデゼルを探した。
 気のせいだよね、デゼルがここにいるはず――
 
「サイファ様」

 ないと思ったのに、泣きそうな顔をしたデゼルが駆け寄って来て、びっくりしたんだ。ジャイロも目を丸くしてた。

「サイファ様、サイファ様」
「デゼル、どうしたの!?」

 ジャイロに断って剣を納めた後、何かあったのかと思って、抱きとめたデゼルの髪を優しくなでてあげながら、そう聞いた僕に。

「――サイファ様、キス、してもいい?」

 えぇ!

 ためらったけど、デゼルが泣いてたから、抱き上げてキスしたんだ。
 そうしたら、デゼルが僕の耳元に小さな声で懺悔ざんげした。

「私、ずるいの。私が泣きながらこう言えば、サイファ様がしてくれるって、知ってて言ったの」
「? なんで、それがずるいの?」
「私、サイファ様が……」

 デゼル、僕にこうして欲しかったんだ。
 そう思ったら、なんだかくすぐったくて。
 微笑ましいってこういう気持ちなのかな。

「サイファ様が、女の子達に騒がれてるのがいやだった……」

 また、泣き出してしまったデゼルが、僕の肩に顔を埋めた。
 デゼル、やきもち焼いてくれたんだ。
 とっても嬉しい。
 僕のこと、誰にも渡したくない、大好きって言われたみたいで。

「それはずるくないと思うけど。僕も、デゼルが男の子達に注目されてて、いやだなと思った時に、今みたいにキスしてもいい?」
「えっ」

 デゼルがびっくりした拍子に泣きやんで、僕を見た。
 そうかと思えば、桜色に染まったほっぺを隠すようにしながら、震える小さな声でささやいた。

「し、て、いいよ」

 すごく、可愛い。
 お言葉に甘えて、もう一度、デゼルにキスして、軽く舌を挿して絡めたら、デゼルがびくっと震えて、僕にしがみつく手に力を込めた。
 ふふ、甘さに一生懸命、耐えてるみたい。

「…ん……」

 恍惚こうこつとした目で、僕を見たデゼルがあんまり可愛くて。

「よかった?」

 デゼルが恥ずかしそうにこくんとうなずいたから。
 僕が満足して、帰ろうかって、デゼルと手をつないだ時だった。

「君達ね、学校でそういうことをしていいと思っているのか」

 先生の怒った声が降ってきた。
 覚えたのは、違和感。
 何だろう、この違和感。
 何か、今ここで、それを注意するのは違う気がしたんだ。

「……先生は、デゼルを叩いていいと思っていたんですか」

 先生、いつからいたんだろう?
 いたんなら、僕とジャイロの決闘、どうして止めなかったんだろう。
 刃を潰した模擬刀でも、バスタードソードなら人を殺せるんだ。
 まして、僕は真剣を使ってたんだ。
 僕とジャイロが決闘してたことの方が大問題な気がするんだけど。
 もやもやするけど、僕はあんまり、考えをまとめるのが速くない。
 デゼルやガゼル様のようには、いかないから。
 数日前、デゼルが叩かれた日のことの方を聞いてみた。

「……っ!」

 先生は真っ赤な顔をして、僕を睨んだだけで、答えなかった。
 そうしたら、ジャイロがハッて笑ったんだ。
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