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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第57話 悪役令嬢は中学校を中退する
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そんなこんなで、中学校なんだけど。
実は、入学したその月のうちに、デゼルが中退してしまうことになったんだ。
**――*――**
あれは、中学校の授業が本格的に始まってすぐのことだった。
小学校は卒業まで、四年生の時に担任だった先生が、僕達をそのまま受け持ってくれたから。
デゼル、生活科の実技以外、授業は聞かないのが当たり前になっていて、中学校でも同じようにしてしまったんだ。
なぜって、小学校のクラスでは、デゼルが誰よりもできること、みんな知っていたから、誰も、それをへんだとは思わなくて。
それより、クラスに可愛くてかしこい動物がいるのを嬉しがって、興味津々でそわそわしてた。
闇巫女様って、ちっちゃいのに四年生の言葉がわかるよ、かしこい! って。
だけど、中学校の先生は歓迎しなかった。
チョークでトントンとデゼルの机を叩いて、デゼルに教科書はって聞いたんだ。
デゼルは持ってきていませんって答えた。
そうしたら、怒った先生がデゼルを廊下に立たせたから、僕、すごく驚いたんだ。
だって、十歳だって闇巫女様だよ。
大公陛下を廊下に立たせるようなものなのに。
デゼルは泣きながら、水晶球と攻略ノートと筆記用具を持って、廊下に出て行った。
公国を滅ぼさないために、デゼルは命懸けで頑張ってきたのに、僕、デゼルがあんまり可哀相で、黙っていられなかった。
授業が終わり次第、先生に事情を話そうと思ったんだ。
だけど、廊下に出たデゼルが立たずに、座って水晶占いを続けているのを見た先生は、それすら許さなかった。
青ざめた顔を引きつらせたかと思うと、授業が終わる前に廊下に出て行って、まだ十歳のデゼルにどうしてそこまでって思うくらい、バチンって強く叩いたんだ。
「先生!」
僕はほとんど、叫ぶように声を上げていた。
「デゼルは小学校でずっと、こうすることを許されていたんです。悪いことだとわからなかったんです。廊下に出されて泣いているデゼルを、この上、叩くなんて!」
そうしたら、二人を追って廊下に出てきていた僕を、先生がギッとにらみつけた。
今度は、僕が叩かれたんだ。
でも、まるで痛くなくて、僕は少し途惑った。
なんだろう、手加減してくれたのかな。
先生、すごく怒って見えて、手加減してくれた表情じゃないんだけど――
どうして痛くないんだろうって、途惑った僕が反応できずにいたら、デゼルが泣きながら「もう、明日から来ません」って。
ああっ。
手の甲で涙を拭おうとして、拭っても拭っても涙が溢れるデゼルはあっという間に、クロノスの魔法で闇神殿に帰還してしまった。
きっと、デゼルは僕が叩かれたこと、デゼルのせいだと思ってショックを受けたんだ。
小学校の頃、僕の机に「まじょのどれい」って書かれていた時にも、全然、気にしなくていいのに、すごく気にして今みたいに泣いていたから。
デゼルって、僕に何かあると気にし過ぎるんだ。
泣いているデゼルの傍についていてあげなくていいのか、すごく気になったけど、学校の授業を受けないわけにもいかないし、困ったな。
急に、デゼルがいなくなった教室は、まるで、火が消えたみたいに寂しかった。
先生に叩かれたことより、僕はよっぽど、教室にデゼルがいないことに動揺して、授業に身が入らなかった。
だって、教室にデゼルがいなかったことなんて、この三年間、一度もなかったんだ。一緒の教室にいたって、席も隣じゃないし、授業中には話しかけもしない。
それでも、ただ、デゼルの気配がするだけで、僕は随分と安心して、居心地よく過ごせていたんだって、思い知った。
そしてそれは、デゼルがいない教室に途惑ったのは、僕だけじゃなかったんだ。
実は、入学したその月のうちに、デゼルが中退してしまうことになったんだ。
**――*――**
あれは、中学校の授業が本格的に始まってすぐのことだった。
小学校は卒業まで、四年生の時に担任だった先生が、僕達をそのまま受け持ってくれたから。
デゼル、生活科の実技以外、授業は聞かないのが当たり前になっていて、中学校でも同じようにしてしまったんだ。
なぜって、小学校のクラスでは、デゼルが誰よりもできること、みんな知っていたから、誰も、それをへんだとは思わなくて。
それより、クラスに可愛くてかしこい動物がいるのを嬉しがって、興味津々でそわそわしてた。
闇巫女様って、ちっちゃいのに四年生の言葉がわかるよ、かしこい! って。
だけど、中学校の先生は歓迎しなかった。
チョークでトントンとデゼルの机を叩いて、デゼルに教科書はって聞いたんだ。
デゼルは持ってきていませんって答えた。
そうしたら、怒った先生がデゼルを廊下に立たせたから、僕、すごく驚いたんだ。
だって、十歳だって闇巫女様だよ。
大公陛下を廊下に立たせるようなものなのに。
デゼルは泣きながら、水晶球と攻略ノートと筆記用具を持って、廊下に出て行った。
公国を滅ぼさないために、デゼルは命懸けで頑張ってきたのに、僕、デゼルがあんまり可哀相で、黙っていられなかった。
授業が終わり次第、先生に事情を話そうと思ったんだ。
だけど、廊下に出たデゼルが立たずに、座って水晶占いを続けているのを見た先生は、それすら許さなかった。
青ざめた顔を引きつらせたかと思うと、授業が終わる前に廊下に出て行って、まだ十歳のデゼルにどうしてそこまでって思うくらい、バチンって強く叩いたんだ。
「先生!」
僕はほとんど、叫ぶように声を上げていた。
「デゼルは小学校でずっと、こうすることを許されていたんです。悪いことだとわからなかったんです。廊下に出されて泣いているデゼルを、この上、叩くなんて!」
そうしたら、二人を追って廊下に出てきていた僕を、先生がギッとにらみつけた。
今度は、僕が叩かれたんだ。
でも、まるで痛くなくて、僕は少し途惑った。
なんだろう、手加減してくれたのかな。
先生、すごく怒って見えて、手加減してくれた表情じゃないんだけど――
どうして痛くないんだろうって、途惑った僕が反応できずにいたら、デゼルが泣きながら「もう、明日から来ません」って。
ああっ。
手の甲で涙を拭おうとして、拭っても拭っても涙が溢れるデゼルはあっという間に、クロノスの魔法で闇神殿に帰還してしまった。
きっと、デゼルは僕が叩かれたこと、デゼルのせいだと思ってショックを受けたんだ。
小学校の頃、僕の机に「まじょのどれい」って書かれていた時にも、全然、気にしなくていいのに、すごく気にして今みたいに泣いていたから。
デゼルって、僕に何かあると気にし過ぎるんだ。
泣いているデゼルの傍についていてあげなくていいのか、すごく気になったけど、学校の授業を受けないわけにもいかないし、困ったな。
急に、デゼルがいなくなった教室は、まるで、火が消えたみたいに寂しかった。
先生に叩かれたことより、僕はよっぽど、教室にデゼルがいないことに動揺して、授業に身が入らなかった。
だって、教室にデゼルがいなかったことなんて、この三年間、一度もなかったんだ。一緒の教室にいたって、席も隣じゃないし、授業中には話しかけもしない。
それでも、ただ、デゼルの気配がするだけで、僕は随分と安心して、居心地よく過ごせていたんだって、思い知った。
そしてそれは、デゼルがいない教室に途惑ったのは、僕だけじゃなかったんだ。
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