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第二章 白馬の王子様
第48話 はじめての密談
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翌日、闇主の修行の時間に、マリベル様から大切なお話があるとのことで、闇神殿の奥の小塔に通された。
これまで、一度も足を踏み入れたことのなかった場所。
狭い螺旋階段の先の狭い部屋が、僕には、何だか少し怖かった。
「今から話すことは、ガゼル様から固く口止めされたことでしてな。よいかな、サイファ、誰にも口外しないように」
それって、ガゼル様から誰にも話さないように言われたことを、マリベル様は僕に話してしまうつもりなのかな。
どうしてだろう、いつものマリベル様なら、ガゼル様をすごく尊重なさるのに。
「君の母君の件、ガゼル様が手を打って下さいましたぞ」
「えっ!?」
どうして、それを僕に話したらいけないの?
「あの、それでしたら、またご挨拶に伺わないと」
マリベル様がいつになく険しい表情で、横にかぶりをふった。
「ガゼル様が闇主にならないならば、闇主になりたいという貴族の子弟は多くいて、皆、ガゼル様には敵わないと諦めても、君に敵わないと諦めたりはしない。それは、わかりますかな?」
「えっと、はい。あの、でもそれって、どういうことですか……?」
「昨日のことは、公民に過ぎない君さえ潰せば闇主になれると浅はかなる考えを持つ者達に、闇主になられるのはガゼル様であると知らしめるための、デモンストレーションでしてな。君や、君の母君に手出しをする者がいなくなるよう、君を庇われてのこと。しかしながら、たとえ真意がそこにあっても、ガゼル様はああいった真似を、君のためとすることを潔しとなさらない」
冷たい、石造りのテーブルの上で、僕はこぶしを強く握り締めてた。
デゼルに闇の神を降ろすためだと思ってたんだ。
あれを僕のためなんて言われたら、いくら母さんのためでも、とても、ガゼル様に感謝なんてできない。
ガゼル様、わかっていて――
僕が絶対に、ガゼル様に感謝しないこと、ガゼル様はわかっていて、それなのに、デゼルにだって泣かれると承知でしたのは。
――デゼルのため?
僕に何かあれば、デゼルが悲しむから?
いやだな、もう。
ガゼル様が誠実すぎて、デゼルを心から愛されすぎていて。
胸が痛いよ。
僕なんかが二人の間に割り込んでしまってよかったのか、自信がなくなって――
僕はぎゅっと、闇主の礼装の袖を握り締めてた。
「サイファ、君はガゼル様に身を引かせたことを、それでも、後悔しないのですかな」
マリベル様のお言葉に、僕、どきんとした。
問われるまでもなく、後悔しかけていたから。
僕は――……
僕は何が起きたら、後悔するんだろう。
デゼルを守れなかったら?
何か、違う気がする。
だって、ガゼル様が闇主になったって、デゼルの闇主はデゼルを守れない予定なんだ。
――僕は。
「マリベル様、デゼルの闇主は、デゼルが選びます。デゼルが僕を選ばなかったら、僕が身を引きます」
僕がマリベル様の深緑の瞳を真っ直ぐに見詰めて答えると、マリベル様が軽く目を見張った。
僕はきっと、僕を選んだことを、デゼルに後悔されたら後悔するんだ。
それに気がついたら、これでいいんだと思えた。
デゼルはガゼル様の御心を知ってる。
知らないから僕を選ぶんじゃない。
デゼルは誠心誠意、あんな立派なご挨拶までして、ガゼル様をお断りしたんだ。
そのデゼルを僕が信じてあげなくてどうするんだ。
デゼルはいつだって、僕がいいって、僕の傍にいたいって、笑顔で僕についてきてくれて、メッセージにだってしてくれるんだから。
デゼルが迷わないのに、僕が迷ってどうするんだ。
信じよう、デゼルが僕を選んでくれた時には。
だって、デゼルだけじゃない。
ガゼル様だって、僕を認めてくれたんだから。
僕、やっぱり緊張してるのかもしれない。
三日後のデゼルの誕生日には、デゼルと契るつもりだから。
そうしたらもう、後戻りはできない。
するべき覚悟の意味を知った上で、その覚悟ができるのか、闇の神様とガゼル様に念入りに試されてるかのように感じるんだ。
本当にそうなら、感謝しなくちゃいけないよね。
だって、闇の神様にとっても、ガゼル様にとっても、デゼルは大切な、秘蔵の闇巫女様なのに、僕が任されたいと望めば、任せて下さるんだから。
これまで、一度も足を踏み入れたことのなかった場所。
狭い螺旋階段の先の狭い部屋が、僕には、何だか少し怖かった。
「今から話すことは、ガゼル様から固く口止めされたことでしてな。よいかな、サイファ、誰にも口外しないように」
それって、ガゼル様から誰にも話さないように言われたことを、マリベル様は僕に話してしまうつもりなのかな。
どうしてだろう、いつものマリベル様なら、ガゼル様をすごく尊重なさるのに。
「君の母君の件、ガゼル様が手を打って下さいましたぞ」
「えっ!?」
どうして、それを僕に話したらいけないの?
「あの、それでしたら、またご挨拶に伺わないと」
マリベル様がいつになく険しい表情で、横にかぶりをふった。
「ガゼル様が闇主にならないならば、闇主になりたいという貴族の子弟は多くいて、皆、ガゼル様には敵わないと諦めても、君に敵わないと諦めたりはしない。それは、わかりますかな?」
「えっと、はい。あの、でもそれって、どういうことですか……?」
「昨日のことは、公民に過ぎない君さえ潰せば闇主になれると浅はかなる考えを持つ者達に、闇主になられるのはガゼル様であると知らしめるための、デモンストレーションでしてな。君や、君の母君に手出しをする者がいなくなるよう、君を庇われてのこと。しかしながら、たとえ真意がそこにあっても、ガゼル様はああいった真似を、君のためとすることを潔しとなさらない」
冷たい、石造りのテーブルの上で、僕はこぶしを強く握り締めてた。
デゼルに闇の神を降ろすためだと思ってたんだ。
あれを僕のためなんて言われたら、いくら母さんのためでも、とても、ガゼル様に感謝なんてできない。
ガゼル様、わかっていて――
僕が絶対に、ガゼル様に感謝しないこと、ガゼル様はわかっていて、それなのに、デゼルにだって泣かれると承知でしたのは。
――デゼルのため?
僕に何かあれば、デゼルが悲しむから?
いやだな、もう。
ガゼル様が誠実すぎて、デゼルを心から愛されすぎていて。
胸が痛いよ。
僕なんかが二人の間に割り込んでしまってよかったのか、自信がなくなって――
僕はぎゅっと、闇主の礼装の袖を握り締めてた。
「サイファ、君はガゼル様に身を引かせたことを、それでも、後悔しないのですかな」
マリベル様のお言葉に、僕、どきんとした。
問われるまでもなく、後悔しかけていたから。
僕は――……
僕は何が起きたら、後悔するんだろう。
デゼルを守れなかったら?
何か、違う気がする。
だって、ガゼル様が闇主になったって、デゼルの闇主はデゼルを守れない予定なんだ。
――僕は。
「マリベル様、デゼルの闇主は、デゼルが選びます。デゼルが僕を選ばなかったら、僕が身を引きます」
僕がマリベル様の深緑の瞳を真っ直ぐに見詰めて答えると、マリベル様が軽く目を見張った。
僕はきっと、僕を選んだことを、デゼルに後悔されたら後悔するんだ。
それに気がついたら、これでいいんだと思えた。
デゼルはガゼル様の御心を知ってる。
知らないから僕を選ぶんじゃない。
デゼルは誠心誠意、あんな立派なご挨拶までして、ガゼル様をお断りしたんだ。
そのデゼルを僕が信じてあげなくてどうするんだ。
デゼルはいつだって、僕がいいって、僕の傍にいたいって、笑顔で僕についてきてくれて、メッセージにだってしてくれるんだから。
デゼルが迷わないのに、僕が迷ってどうするんだ。
信じよう、デゼルが僕を選んでくれた時には。
だって、デゼルだけじゃない。
ガゼル様だって、僕を認めてくれたんだから。
僕、やっぱり緊張してるのかもしれない。
三日後のデゼルの誕生日には、デゼルと契るつもりだから。
そうしたらもう、後戻りはできない。
するべき覚悟の意味を知った上で、その覚悟ができるのか、闇の神様とガゼル様に念入りに試されてるかのように感じるんだ。
本当にそうなら、感謝しなくちゃいけないよね。
だって、闇の神様にとっても、ガゼル様にとっても、デゼルは大切な、秘蔵の闇巫女様なのに、僕が任されたいと望めば、任せて下さるんだから。
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