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第四章 叶わない願いはないと信じてる

第108話 叶わない願いはないと信じてる【後編】

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「――サイファ様、キス、してもいい?」

 僕がくすっと笑って、いつものように優しいキスを降らせたら、苦しさに、僕にすがるようにしたデゼルがささやいた。

「サイファ様、する方が好き?」

 そういうわけじゃないんだけど。
 なんだか、嬉しいような、楽しいようなくすぐったさに、くすくす笑っちゃった。

「だってデゼルが、されたがるから。デゼルの甘くて綺麗な啼き声を聞くの、好きだよ」

 雪明りの中でもわかるくらい、初々しく頬を紅潮させたデゼルの震える手をとって、また、デゼルが感じるようにキスを降らせた。
 デゼルの甘い啼き声に誘われて、したくなっちゃうけど――

「デゼル、この頃、僕にすごく甘えるね。可愛いからいいけど、何か、不安だったり、怖いことがあったりするなら、話してね?」
「……」

 デゼルの凍える蒼の瞳が泣き出しそうに見えたのは、どうしてだろう。
 こくんとうなずいたデゼルが、僕の胸に頬をすり寄せた。

「話せないこと?」
「……ううん、わからない。私にも、わからないの。だけど、サイファ様に――」
「なに?」
「あまえたい」

 左腕できゅっとデゼルを抱き締めて、可愛らしく紅潮した耳元にそっと、ささやいた。

「じゃあ、お姫様を心ゆくまで、甘やかしてあげようか」

 びくっと震えたデゼルが、僕にますます、頭を押しつけてきた。
 何が怖いのか、デゼルが僕にぎゅっとしがみつくから、愛しさがこみ上げて――
 なるべく優しく抱いて、頭をなでたら、デゼルの頬を涙が一筋、伝い落ちた。

「デゼル、どうして泣くの?」
「サイファ様が優しくて、失ったら、心が砕けそうで怖いの」

 えぇ!?
 全然、デゼルが僕を失うような状況じゃないのに、何が怖いんだろう……。
 僕、ピンチでも何でもないのに心配してたら、キリがないよ。
 心配性が過ぎるデゼルには、おしおきが必要だね?

 唇でそっと、デゼルの涙をすくい取って、微笑んだ。

「じゃあね。もっとだね」
「――っ! や、サイファさ……」

 儚い抵抗に誘われて、デゼルが感じるところを攻めて追い込むと、僕を求めるように、デゼルが僕の腕にすがった。

「あっ……あぁっ!」
「啼き声が甘くて、とっても綺麗。デゼル、可愛い」

 片腕じゃ、難しいかと思ったけど。
 僕がどうしたいか知ってるデゼルが、僕がやりやすいように、自分で自分を支えてくれるんだ。
 耳まで紅潮させて、息も絶え絶えなのに、デゼルって健気で可愛い。
 僕だって、デゼルがして欲しいようにしてあげるけどね?


 片目を失っても、片腕を失っても。
 デゼルとエトランジュがこれまでと変わらずに、いっぱいの笑顔で僕を迎えて、愛してくれるから。
 僕には何にも足りなくなかった。すべての願いが満たされて、幸せだった。


 デゼルと一緒にエトランジュの成長を見守ってゆきたい。
 片腕での暮らしに慣れてきたら、エトランジュに弟だって、妹だって、つくってあげるんだ。
 この十年間、本当に短かった。
 毎日が、ずっと、楽しくて幸せだったから。
 きっと、これからも。


 ねぇ、デゼル。
 ずっと、この幸せを僕達の力で守ってゆこう?
 僕は、叶わない願いはないと信じてる。

 いつか、死がふたりを分かつまで。
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