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第二章 白馬の王子様

第46話 知らない人を中心に回っている世界

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「ねぇ、あの人達は――天使みたいな輝かしい姿なのに、デゼルを殺しにくる人達は、何なの? 神様はどうして、僕たちの公国を滅ぼして、デゼルがあんなにも酷い目に遭う運命を紡ぐの? デゼル、知ってる?」

 デゼルはしばらく黙っていたけど、どう伝えたらいいのか、考えてくれているみたいだった。
 たとえば、闇の神様オプスキュリテに視せられたものをジャイロに伝えることを考えたら、僕だって、言葉にして伝えるのは難しいんだ。
 だって、僕は視たんだ。
 聞いたんじゃ、ないから。
 公国が滅ぶとか、デゼルが酷い目に遭わされるとか、そんな言葉じゃ伝わらない。
 少なくとも僕には、伝わらなかった。公国が滅ぶのは知っていたけど、それがどういうことか、僕、わかっていなかったんだ。
 血と、炎と、凌辱が。
 公国をまたたくまに蹂躙して、地獄に変えて、後には黒焦げになった家々と人々の残骸だけが――
 言葉で聞いて知っていた僕でさえ、闇の神様オプスキュリテに視せられた未来には、とてつもないショックを受けたんだ。
 何も知らなかったガゼル様が、どうしてお倒れになったのか、同じものを視た僕にはわかるけど、このショックを言葉でどう説明したらいい?

「あのね、あの人たちは聖サファイアの光の聖女と光の十二使徒。神様は、私たちを不幸にしたいわけじゃないの。すべては光の聖女のために紡がれた物語。この世界は光の聖女を中心に回っている。ただ、それだけなの」
「…………何がどう、光の聖女様のためなの?」
「崩壊に向かう世界を光の聖女が救うためには、世界が崩壊に向かっていないとならないの」

 僕、愕然とした。
 デゼルが何を言おうとするのか、心当たりがあったんだ。
 僕の大好きな聖闘士セイントの物語。
 聖闘士セイントが活躍するためには、聖闘士セイントに倒されるべき悪者がいないとならない。
 つまり、僕たちはきっと、光の聖女様の物語の悪者なんだ。
 物語の背景として滅ぼされるのが、僕たちの公国なんだ。
 闇の神様オプスキュリテが告げた、より高次の神って――
 それは、僕たちは主役じゃなくて、闇の神様オプスキュリテさえ背景だということ……?

 僕の背筋を冷たいものが駆け抜けた。
 それだけなんだ。誰にも悪意なんてなくても。
 誰かのための物語は、他の誰かにこんなにも残酷になれるんだ。
 僕達にだって心があって暮らしがあるなんて、そんなこと気にしていたら、僕達は今日から食事ができない。
 僕に食べられる鳥にだって魚にだって、野草にだって、心がないとは限らない。

 どうしたら――

 なんて、難しいんだろう。
 みんなのことを考えたら、僕にはもう、答えがわからなかった。
 じゃあ、僕はどうしたい?

 デゼルを守りたい。
 ガゼル様を守りたい。
 僕たちの公国を守りたい。

 うん、僕がどうしたいかなら、僕、わかるみたいだ。
 そのためには――

 ああ、そうか。

 デゼルはそのために、僕を守りたくて、ガゼル様を守りたくて、僕たちの公国を守りたくて、闘ってくれていたんだ。
 闇の神様オプスキュリテが告げた、運命に立ち向かい得る者はって、きっと、デゼルのこと。
 光の聖女様が物語の主役なら、闇の聖女様であるデゼルは対の存在なんだ。

 そう――

 きっと、間違ってない。
 僕たちは、僕たちにできることなら、みんなしてきた。
 ただ、ガゼル様にも知らせるべきだったから、闇の神様オプスキュリテが知らせてくれたんだ。
 僕が割り込んだために、このことを知っているべきガゼル様が、知らないままだったから。

 運命の前に、僕の力はあまりにささやかで、僕にできることなんて、ほんのわずかなのかもしれない。
 それでも、デゼルにとっては、僕だけが頼りで、いつだって、僕の手を握り締めて頑張ってくれるんだ。
 闇の神様オプスキュリテにとっても、ガゼル様にとっても、僕はかけがえのない味方なんだ。
 僕にとって、それぞれがそういう存在であるように。

 僕、頑張ろう。
 だって、僕にはみんな大切だから。

 僕、デゼルを信じよう。
 だって、僕はデゼルを、きっと、愛してるから。
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