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第一章 舞い降りた天使
第21話 悪役令嬢は町人Sを割とSだと思いました
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キノコ狩りの日みたいに、デゼルが眠るまで傍についててあげるつもりだったのに。
僕だけ寝台に寝転がって、なかなかやすまない、水晶球とのにらめっこを続けるデゼルを眺めてるだけ。
僕また、何の役にも立ってない。
「ねぇ、デゼル。何してるの? まだ、寝ないの?」
「うん、もう少し――」
すごく疲れてるはずなのに、デゼルは手元のノートに占ったことを書き出していくんだ。やすまないと駄目だよって、どう言ったら、わかってくれるだろう。
今夜のデゼルは、ちっとも、僕の言うことを聞いてくれない。
僕がむくれてデゼルを眺めていたら、ふと目が合った。
「サイファ様……」
あ。
デゼルがふらふら、僕のとなりに潜り込んできた。
よかった、ようやく、やすんでくれるみたい。
僕が微笑んで抱き寄せたら、デゼルも心地好さそうに、僕の胸に頭をすり寄せてきたんだ。すごく、可愛い。
しばらく、そのまま、優しく抱いていたんだけど。
契るってどうしたら――
いつの間にか、僕はまたそのことを真剣に考えていて。
見詰めたデゼルの額に、耳元に、唇に、優しくキスを降らせてた。
「――デゼル、抱いてもいい?」
怖いのか、腕の中のデゼルが緊張したのがわかった。
「サイファ様なら、いいよ。――闇主にはなれないけど」
「そう――」
十歳と七歳じゃ、やっぱり、まだ、契れないのかな。
「どうしたら、デゼルを守れるんだろう」
僕にできることは、してるつもりなんだ。
デゼルに生活の仕方を教えた後、戦闘訓練も受けて、闇魔法の練習もして、学校の宿題だって、きちんとしてる。
帰りの遅い母さんのために、夕飯の支度もしないとならない。
時間は全然、足りなくて。
「私ね、明日にも、クライス様に会いに行きたいの。それから、時の神殿を訪ねて、時の精霊を探して回りたいの。誰とも戦ったりはしないはずだから、私が迷子にならないように、サイファ様が地図を読んで道案内してくれたら、守れると思う」
虚を突かれるって、こういうことなのかな。
緊張の連続だったからか、ふだんのデゼルを思い出したら、つい、吹き出しちゃった。
「そういえばデゼルって、一本道でも迷うもんね」
「そうよ。だから、サイファ様がついてきてくれないと、目的地にたどり着けないんだよ。デゼルはまじめに言ってるんだよ」
デゼル、すごい地図を書けるのに、自分で書いた地図を読めないみたいなんだ。
分かれ道の度、地図をぐるぐる、ぐるぐる回しながら見て、こっちかな? こっちだと思う? って、頼りなさそうに僕に聞くんだもん。
ちょっと転んで、落とし物を拾ったら、たった今、どっちから歩いてきたのか、もう、わからなくなるみたいなんだ。前を見て、後ろを見て、「どっちから来たか、サイファ様、覚えてる?」って、涙ぐんで僕に聞くんだもん。
デゼルって、すごく頭がいいのに、すごく不思議。
つないだ僕の手に、デゼルがそっとキスしてくれた。
今夜の僕は、何の役にも立たなかったけど。
ふだんのデゼルが、僕を頼りにしてくれてるのは間違いないのに、どうしてかな、すっかり忘れてたみたい。
「サイファ様も、きっと、三年後までには闇主になれると思う。すぐには無理だけど。だから、ジャイロが死鬼になってくれて、よかったかもしれないと思うの。危ない所には、ジャイロと三人で行こう?」
「……それって、僕が行ったら、足手まといになるんじゃないのかな」
地図ならきっと、ジャイロにだって読めるから。
僕を庇ったデゼルが見る間に血に染まったのを思い出すと、胸に黒い感情がわだかまるんだ。
「サイファ様は、足手まといなんかじゃないよ。サイファ様にしか頼めないことがたくさんあるもの。ジャイロにしか頼めないこともあるし、私が頑張るしかないこともある」
「――こうして抱いていたら、少しは、力になれるの?」
ほんとかなって、デゼルを疑ってしまって。
初めて会った頃から、デゼル、割とだっこして欲しがったから。
だっこ好きなのかなと思ってたんだけど、小学校に通うようになってからも、デゼル、だっこは僕にしか頼まなかったから。
優しくだっこしてあげたら、耳まで桜色に染めたデゼルが、こくんとうなずいた。
「ふふ、可愛い」
僕が可愛いって言ったら、桜色だったデゼルの頬がどんどん紅潮して。
デゼルがそれを隠そうとするしぐさがすごく可愛くて。
胸にわだかまったはずの黒い感情があっさり消えて、それよりも、デゼルがこんなに可愛いの、もっと見たいなと思ったんだ。
だから、今夜、僕の言うことを何にも聞いてくれなかったおしおきに、デゼルの手を隠せないようにつかんで、真っ直ぐに瞳を見詰めたら、ますます可愛らしく、デゼルが頬を紅潮させた。
「や、サイファ様」
涙ぐんだデゼルが僕の手を振りほどこうとしたけど、全然、力が足りなくて振りほどけない。
僕だけ寝台に寝転がって、なかなかやすまない、水晶球とのにらめっこを続けるデゼルを眺めてるだけ。
僕また、何の役にも立ってない。
「ねぇ、デゼル。何してるの? まだ、寝ないの?」
「うん、もう少し――」
すごく疲れてるはずなのに、デゼルは手元のノートに占ったことを書き出していくんだ。やすまないと駄目だよって、どう言ったら、わかってくれるだろう。
今夜のデゼルは、ちっとも、僕の言うことを聞いてくれない。
僕がむくれてデゼルを眺めていたら、ふと目が合った。
「サイファ様……」
あ。
デゼルがふらふら、僕のとなりに潜り込んできた。
よかった、ようやく、やすんでくれるみたい。
僕が微笑んで抱き寄せたら、デゼルも心地好さそうに、僕の胸に頭をすり寄せてきたんだ。すごく、可愛い。
しばらく、そのまま、優しく抱いていたんだけど。
契るってどうしたら――
いつの間にか、僕はまたそのことを真剣に考えていて。
見詰めたデゼルの額に、耳元に、唇に、優しくキスを降らせてた。
「――デゼル、抱いてもいい?」
怖いのか、腕の中のデゼルが緊張したのがわかった。
「サイファ様なら、いいよ。――闇主にはなれないけど」
「そう――」
十歳と七歳じゃ、やっぱり、まだ、契れないのかな。
「どうしたら、デゼルを守れるんだろう」
僕にできることは、してるつもりなんだ。
デゼルに生活の仕方を教えた後、戦闘訓練も受けて、闇魔法の練習もして、学校の宿題だって、きちんとしてる。
帰りの遅い母さんのために、夕飯の支度もしないとならない。
時間は全然、足りなくて。
「私ね、明日にも、クライス様に会いに行きたいの。それから、時の神殿を訪ねて、時の精霊を探して回りたいの。誰とも戦ったりはしないはずだから、私が迷子にならないように、サイファ様が地図を読んで道案内してくれたら、守れると思う」
虚を突かれるって、こういうことなのかな。
緊張の連続だったからか、ふだんのデゼルを思い出したら、つい、吹き出しちゃった。
「そういえばデゼルって、一本道でも迷うもんね」
「そうよ。だから、サイファ様がついてきてくれないと、目的地にたどり着けないんだよ。デゼルはまじめに言ってるんだよ」
デゼル、すごい地図を書けるのに、自分で書いた地図を読めないみたいなんだ。
分かれ道の度、地図をぐるぐる、ぐるぐる回しながら見て、こっちかな? こっちだと思う? って、頼りなさそうに僕に聞くんだもん。
ちょっと転んで、落とし物を拾ったら、たった今、どっちから歩いてきたのか、もう、わからなくなるみたいなんだ。前を見て、後ろを見て、「どっちから来たか、サイファ様、覚えてる?」って、涙ぐんで僕に聞くんだもん。
デゼルって、すごく頭がいいのに、すごく不思議。
つないだ僕の手に、デゼルがそっとキスしてくれた。
今夜の僕は、何の役にも立たなかったけど。
ふだんのデゼルが、僕を頼りにしてくれてるのは間違いないのに、どうしてかな、すっかり忘れてたみたい。
「サイファ様も、きっと、三年後までには闇主になれると思う。すぐには無理だけど。だから、ジャイロが死鬼になってくれて、よかったかもしれないと思うの。危ない所には、ジャイロと三人で行こう?」
「……それって、僕が行ったら、足手まといになるんじゃないのかな」
地図ならきっと、ジャイロにだって読めるから。
僕を庇ったデゼルが見る間に血に染まったのを思い出すと、胸に黒い感情がわだかまるんだ。
「サイファ様は、足手まといなんかじゃないよ。サイファ様にしか頼めないことがたくさんあるもの。ジャイロにしか頼めないこともあるし、私が頑張るしかないこともある」
「――こうして抱いていたら、少しは、力になれるの?」
ほんとかなって、デゼルを疑ってしまって。
初めて会った頃から、デゼル、割とだっこして欲しがったから。
だっこ好きなのかなと思ってたんだけど、小学校に通うようになってからも、デゼル、だっこは僕にしか頼まなかったから。
優しくだっこしてあげたら、耳まで桜色に染めたデゼルが、こくんとうなずいた。
「ふふ、可愛い」
僕が可愛いって言ったら、桜色だったデゼルの頬がどんどん紅潮して。
デゼルがそれを隠そうとするしぐさがすごく可愛くて。
胸にわだかまったはずの黒い感情があっさり消えて、それよりも、デゼルがこんなに可愛いの、もっと見たいなと思ったんだ。
だから、今夜、僕の言うことを何にも聞いてくれなかったおしおきに、デゼルの手を隠せないようにつかんで、真っ直ぐに瞳を見詰めたら、ますます可愛らしく、デゼルが頬を紅潮させた。
「や、サイファ様」
涙ぐんだデゼルが僕の手を振りほどこうとしたけど、全然、力が足りなくて振りほどけない。
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