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第一章 舞い降りた天使
第10話 優しくて甘い夜
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「私、明日ね、ジャイロと話をつけるから。ジャイロがもし、サイファ様に助けを求めたら、許してあげてね」
「えっ……!?」
あんまりびっくりして、頭が冷えたみたい。
僕は目を丸くして、デゼルの顔を見ていたと思う。
「サイファ様、ジャイロがたまに怪我をしてるのは、気がついた?」
「うん、それは。何度も、ケンカで僕が殴ったことにされたし」
だから先生は、僕が一方的に殴られてるとは思ってないんだ。
僕が本当なら五年生だってこと、先生は知ってるし。
「ジャイロとはたぶん、お友達になれるよ。でも、スニールとは――サイファ様、ごめんなさい。デゼルはサイファ様に、もうスニールとは関わってほしくない」
「えっと、スニールと? ジャイロじゃなくて? スニールは、ジャイロに逆らえないだけだよ?」
「もとは、スニールがジャイロにいじめられてた?」
僕はすごく驚いて、また、デゼルを見詰めた。
僕のことも、スニールのことも、どうしてわかるの。
「……なんで……そんなこと……、そうだけど、クラスの誰かから、聞いたの?」
ううんと、デゼルがかぶりをふった。
「スニールは弱すぎて、今日、私がジャイロに撃ったような闇魔法を放てば発狂してしまうし、私の手には負えないの。スニールはサイファ様に、あの子より惨めであって欲しがってる。世界で一番、弱くて惨めなのは自分じゃないと思うために、あの子より惨めな誰かを求めてる。スニールは、サイファ様にどんな酷いことでもできる。だからお願い、スニールがどんなに可哀相でも、もう、関わらないで欲しい」
「そんな……」
自分より惨めな誰かを求めるって、何のために?
どうしよう、デゼルが何を言ってるのか、わからない。
「……やっぱり、いい。その時には、デゼルが今日みたいに、サイファ様を守るから」
僕はたまらず、強い口調でデゼルを叱りつけてた。
「駄目だよ、それは!」
「へいき」
僕、デゼルに怒りを覚えたのって、初めてかもしれない。
「サイファ様、キス、してもいい?」
「……」
だからかな。
させる気になれなかった。
優しくデゼルの髪をなでた後、僕の方から、デゼルにキスした。
唇の後、額に、ほっぺに、首筋に。
デゼルがびくっと震えたから、首筋へのキスは、軽くデゼルの肌を吸うようにして、少しだけ、長くした。
僕の腕の中で、華奢なデゼルが震えて、つらそうな甘い吐息がもれた。
――ねぇ、つらい? こういう風にされたら苦しい?
「デゼル」
僕は冷たく微笑んで、しばらく、デゼルを見詰めていたと思う。
――僕の言うこと、聞いてね?
もう一度、唇にキスして。
デゼルの唇の隙間から舌を挿して、驚いたみたいに逃げるデゼルのそれに、絡めた。
「…んっ……」
デゼルが僕の肩をつかむ手が、小さく震えた。
デゼルはもう、何もわからないみたいで、僕に何をされても、声にならない悲鳴のような、切ない吐息をもらして震えてた。
「あ、…ぁあっ!」
ふふ。女の子の声って、すごく綺麗。
――僕の言うこと、聞くよね?
誰かに、言うことを聞かせたいなんて思ったのは初めて。
だけど、だって、許せないもの。
デゼルのへいきは、ちっとも平気じゃない。
デゼルが僕に逆らえなくなるようにしたかったんだ。何をしても。
できると思ったんだ。デゼルが僕を求めたから。
だけど、僕の考えは甘かった。
デゼルがきちんと僕の言うことを聞いてくれるようになるまでに、十年もかかるなんて。
この夜の僕は、思いもしなかったんだ。
「えっ……!?」
あんまりびっくりして、頭が冷えたみたい。
僕は目を丸くして、デゼルの顔を見ていたと思う。
「サイファ様、ジャイロがたまに怪我をしてるのは、気がついた?」
「うん、それは。何度も、ケンカで僕が殴ったことにされたし」
だから先生は、僕が一方的に殴られてるとは思ってないんだ。
僕が本当なら五年生だってこと、先生は知ってるし。
「ジャイロとはたぶん、お友達になれるよ。でも、スニールとは――サイファ様、ごめんなさい。デゼルはサイファ様に、もうスニールとは関わってほしくない」
「えっと、スニールと? ジャイロじゃなくて? スニールは、ジャイロに逆らえないだけだよ?」
「もとは、スニールがジャイロにいじめられてた?」
僕はすごく驚いて、また、デゼルを見詰めた。
僕のことも、スニールのことも、どうしてわかるの。
「……なんで……そんなこと……、そうだけど、クラスの誰かから、聞いたの?」
ううんと、デゼルがかぶりをふった。
「スニールは弱すぎて、今日、私がジャイロに撃ったような闇魔法を放てば発狂してしまうし、私の手には負えないの。スニールはサイファ様に、あの子より惨めであって欲しがってる。世界で一番、弱くて惨めなのは自分じゃないと思うために、あの子より惨めな誰かを求めてる。スニールは、サイファ様にどんな酷いことでもできる。だからお願い、スニールがどんなに可哀相でも、もう、関わらないで欲しい」
「そんな……」
自分より惨めな誰かを求めるって、何のために?
どうしよう、デゼルが何を言ってるのか、わからない。
「……やっぱり、いい。その時には、デゼルが今日みたいに、サイファ様を守るから」
僕はたまらず、強い口調でデゼルを叱りつけてた。
「駄目だよ、それは!」
「へいき」
僕、デゼルに怒りを覚えたのって、初めてかもしれない。
「サイファ様、キス、してもいい?」
「……」
だからかな。
させる気になれなかった。
優しくデゼルの髪をなでた後、僕の方から、デゼルにキスした。
唇の後、額に、ほっぺに、首筋に。
デゼルがびくっと震えたから、首筋へのキスは、軽くデゼルの肌を吸うようにして、少しだけ、長くした。
僕の腕の中で、華奢なデゼルが震えて、つらそうな甘い吐息がもれた。
――ねぇ、つらい? こういう風にされたら苦しい?
「デゼル」
僕は冷たく微笑んで、しばらく、デゼルを見詰めていたと思う。
――僕の言うこと、聞いてね?
もう一度、唇にキスして。
デゼルの唇の隙間から舌を挿して、驚いたみたいに逃げるデゼルのそれに、絡めた。
「…んっ……」
デゼルが僕の肩をつかむ手が、小さく震えた。
デゼルはもう、何もわからないみたいで、僕に何をされても、声にならない悲鳴のような、切ない吐息をもらして震えてた。
「あ、…ぁあっ!」
ふふ。女の子の声って、すごく綺麗。
――僕の言うこと、聞くよね?
誰かに、言うことを聞かせたいなんて思ったのは初めて。
だけど、だって、許せないもの。
デゼルのへいきは、ちっとも平気じゃない。
デゼルが僕に逆らえなくなるようにしたかったんだ。何をしても。
できると思ったんだ。デゼルが僕を求めたから。
だけど、僕の考えは甘かった。
デゼルがきちんと僕の言うことを聞いてくれるようになるまでに、十年もかかるなんて。
この夜の僕は、思いもしなかったんだ。
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