上 下
7 / 139
第一章 舞い降りた天使

第6話 小さな嘘

しおりを挟む
 デゼルの家庭教師になって、十日ほどが過ぎた頃。

「――ねぇ、デゼルは学校には行かないの?」

 そう聞いてみたら、デゼルがふわっと微笑んだ。
 わぁ、可愛い。

「うん、行かない。サイファ様の教え方がわかりやすいから、行かなくていい」
「でも――」

 そんな風に言ってもらえるのは、すごく、嬉しいんだけど。

「デゼルなら友達もたくさんできると思うし、これだけできたら、デゼル、一番になれると思うよ。もったいなくない?」
「ふふ、もったいなくない」

 やわらかく微笑んだデゼルが、頬杖をついて上目遣いに僕を見た。
 わ、なんだろう、小悪魔みたい。
 すっごく可愛いんだけど、なんだか、してやったりのカオ。
 敵わないなぁ、もう。
 デゼルがあんまり可愛くて、つい、僕が笑顔をこぼしたら、デゼルがますます嬉しそうに笑った。
 デゼルって、僕が笑うとすごく喜ぶんだ。
 嬉しいんだけど、僕がデゼルを独占していていいのかな。
 デゼルなら、もっと、みんなに好かれて、もっと、誰よりも幸せな人生を送れるんじゃないかと思うんだけど。

 ふいに、デゼルが何かに気がついた顔で、目を丸くして僕を見た。

「サイファ様、お怪我は、どうして……?」

 ぎくっとして、息を呑んでしまって。
 ヒールしたつもりだったんだけど、不十分だったのかな。

「……なんでもないよ、生活の授業とか……」

 知られるのが怖くて、目を逸らして、――デゼルに嘘、ついたんだ。
 そうした僕にバチが当たるのは、冗談みたいにはやかった。

「やっぱり、デゼルも学校に行こうかな。――サイファ様と同じクラスに編入できたら、行きたい」
「そんな、四年生の生活の実技とか、デゼルにはまだ無理だよ」
「背が届かなかったら、サイファ様が助けて下さいね」

 なんで!?

 デゼルが学校には行かないって言った時、正直、ほっとしたんだ。
 それなのに、僕と同じクラスに編入したいなんて。

 学校を勧めはしたけど、貴族向けの学校に、一年生として入学することを勧めたつもりだった。
 こんなことになるなんて、思いもよらなかったんだ。

「サイファ様のいないクラスには通いたくないの。デゼルができない、生活の実技をなるべく教えて下さい。来週、編入試験を受けてみますね」
「来週って!」
「サイファ様、今から教えて下さい」

 言って、デゼルが僕の手を取った。
 そうしたら、不思議と、少し気持ちが落ち着いたけど。
 どうしよう、こんな――

 知られたくないんだ、僕が学校でどう過ごしているのか。
 友達の一人もいなくて、ジャイロに黙って殴られてるだけ、すごく、悪いことばかりする子だって、みんなに思われてるなんて。

 デゼルにだけは、楽しそうな笑顔で僕の傍にいて欲しいのに。
 母さんみたいな悲しい顔はさせたくないんだ。
 僕のことを、知らないで。
 みんなが僕をなんて言っているのか、知らないで。

 たったひとつの小さな嘘のバチが、こんなに重く、こんなに早く当たるなんて――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】役立たずになったので身を引こうとしましたが、溺愛王子様から逃げられません

Rohdea
恋愛
───あなたのお役に立てない私は身を引こうとした……のに、あれ? 逃げられない!? 伯爵令嬢のルキアは、幼い頃からこの国の王太子であるシグルドの婚約者。 家柄も容姿も自分よりも優れている数多の令嬢を跳ね除けてルキアが婚約者に選ばれた理由はたった一つ。 多大な魔力量と貴重な属性を持っていたから。 (私がこの力でシグルド様をお支えするの!) そう思ってずっと生きて来たルキア。 しかしある日、原因不明の高熱を発症した後、目覚めるとルキアの魔力はすっからかんになっていた。 突然、役立たずとなってしまったルキアは、身を引く事を決めてシグルドに婚約解消を申し出る事にした。 けれど、シグルドは──…… そして、何故か力を失ったルキアと入れ替わるかのように、 同じ属性の力を持っている事が最近判明したという令嬢が王宮にやって来る。 彼女は自分の事を「ヒロイン」と呼び、まるで自分が次期王太子妃になるかのように振る舞い始めるが……

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...