猫を救え！ ～死神と守神の可憐な子猫争奪戦～

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治療できない獣医さんと飼い主の事情

実は、月ちゃんの命の恩人の一人である女医さんは、『治療に必要な薬の在庫がないのに、中途半端に処方する無責任な獣医』という誤解を受けてしまっているそうで、「目先の一週間分でいいので、モルヌピラビルを処方して頂けませんか」とお願いしたのですが、断られてしまいました。

女医さんはまったく無責任ではなく、この誤解はあんまりなので、「なぜ、FIPを治療するのに十分な薬の在庫と知識を持たない獣医さんだと、中途半端な処方をして別の病院に送り出さざるを得なくなるのか」を、飼い主側の事情としてお話したいと思います。

話は割と簡単です。

◆ 正解 ◆
【昨日まで『猫伝染性腹膜炎』という病気の存在すら知らなかった飼い主が、「治療に150万円かかりますが、治療しますか？」と聞かれて即答できるものではないから】

当然ですが、何の冗談だ、何かの詐欺じゃないかと疑いますし、そんな大金を余らせたセレブは多くありません。
150万円かけて治療したとして、回復の可能性はどれくらい上昇するのでしょうか？
後遺症とか、深刻なものはない？
決断する前に調べなければならないことが、山のようにあります。
150万円という金額は庶民にとって、ことほどさように大金なのです。
だって、私の１ヶ月の食費は２万円ですよ！
月９万円でのアパート暮らしなんですよ！（税金・保険料・NHK別）（内、家賃４万円）
クラファンで寄付を集めて治療する飼い主さんが多いと言ったって、クラファンって誰でも簡単に150万円もの大金を寄付してもらえるもの？？　そんな、都合のいい話があるの？？

というわけで、飼い主は帰宅して、FIPという病気のこと、治療のこと、クラファンのこと、たくさん調べなければなりません。
治療するとしたら大金が必要なのでお仕事も休めません。
診断後の平均余命９日だなんて、まだ知らない飼い主は、とにかく、今、苦しんでいる子猫をラクにしてあげるために、１週間分くらいのお薬をもらっておきたいと考えるのです。
ラプコン１週間分だと約７万円になってしまって、これも即決できないので、１週間分なら１万円程度らしいモルヌピラビルをとりあえず下さいと、FIPの治療に十分な在庫と知識を持たない獣医さんを拝み倒すことになるのです。

FIPを治療できる獣医さんからしたら、モルヌピラビル『だけ』処方された猫は別の病気になってしまうため、怒り心頭――
それはそうなのですが、『150万円は高すぎます』。
女医さんが無責任なのではなく、即決できない飼い主が無責任といえば無責任なのです。
でも、猫一匹の治療（それも助かる保証も、何の保証もない未承認薬）に150万円をポンと出すことを即決できないからって、飼い主を無責任呼ばわりするのもあんまりですよね。
ただただ、『あやしげな未承認薬が高すぎる』――
飼い主の心情としては、これに尽きるのです。

一銭の得もないのに、治療できる獣医さんを教えてくれた女医さんには、感謝しかありません。
誠実で動物を愛する女医さんでした。
不幸な誤解がいつか、解けることを祈ります。

※ FIPの場合、治療費のほとんどが薬代なので、決して、治療できる獣医さんがぼったくっているわけではありません。誤解のないよう、念のため。