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第五章 闇血呪
5-1h. 闇血呪
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「ご側室、ゼルダは少し眠らせたから、あなたも眠るといい。私の術は、そう長くはもたない。また、あの子が苦しみ始めたら、ついていてあげて」
廊下に滴り落ちた血の痕が、シルフィスを不安にさせていた。ほんの数滴でも、皇都からライゼールまでの道程で、血が止まらないのだとしたら――
シルフィスはこくんと頷いた後、遠慮しながら、ヴァン・ガーディナに伺いを立てた。
「あの、解呪しては、ならないでしょうか。皇帝陛下のご意向は、ゼルダ様が亡くなるまで、なのでしょうか……?」
シルフィスも、ヴァン・ガーディナと同じことを考えたのだ。闇血呪を受け、死霊に心身を侵されながらでは、十日を生き長らえることなど出来まい。
もっとも、それは、シルフィスの方術で解呪できるからこその言葉であり、ヴァン・ガーディナには心強かった。
たいした後宮だと思う。王家の血を引く侯爵令嬢に、聖アンナ神殿のサクリファイス、長男を出産し、既に次の子を宿している、幼馴染の貴族の令嬢――
ゼルダの恐るべきは、それぞれの妃を本気で愛しているところだ。ヴァン・ガーディナにも妃はいるが、政略結婚で、愛そうと努力したことさえない。
妃はおそらく、ゼルシアが彼の動向をつかんでおくために用意した間者なのだ。気が重く、会うことさえ厭われた。ゼルダなら、それでも愛したろうか。愛して、その忠誠をゼルシアから自分に変えさせるくらいのことはしそうだなと思う。
自らが愛せる、愛されると信じる力が、ヴァン・ガーディナには欠けているのだ。それがために、ゼルダの真似はできない。
「皇帝に嘆願して、ご許可を願う。少し待って」
廊下に滴り落ちた血の痕が、シルフィスを不安にさせていた。ほんの数滴でも、皇都からライゼールまでの道程で、血が止まらないのだとしたら――
シルフィスはこくんと頷いた後、遠慮しながら、ヴァン・ガーディナに伺いを立てた。
「あの、解呪しては、ならないでしょうか。皇帝陛下のご意向は、ゼルダ様が亡くなるまで、なのでしょうか……?」
シルフィスも、ヴァン・ガーディナと同じことを考えたのだ。闇血呪を受け、死霊に心身を侵されながらでは、十日を生き長らえることなど出来まい。
もっとも、それは、シルフィスの方術で解呪できるからこその言葉であり、ヴァン・ガーディナには心強かった。
たいした後宮だと思う。王家の血を引く侯爵令嬢に、聖アンナ神殿のサクリファイス、長男を出産し、既に次の子を宿している、幼馴染の貴族の令嬢――
ゼルダの恐るべきは、それぞれの妃を本気で愛しているところだ。ヴァン・ガーディナにも妃はいるが、政略結婚で、愛そうと努力したことさえない。
妃はおそらく、ゼルシアが彼の動向をつかんでおくために用意した間者なのだ。気が重く、会うことさえ厭われた。ゼルダなら、それでも愛したろうか。愛して、その忠誠をゼルシアから自分に変えさせるくらいのことはしそうだなと思う。
自らが愛せる、愛されると信じる力が、ヴァン・ガーディナには欠けているのだ。それがために、ゼルダの真似はできない。
「皇帝に嘆願して、ご許可を願う。少し待って」
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