上 下
1 / 8

デゼル ~お姫様だっこ~

しおりを挟む
 みんなの悪意が重たくて、寝たり起きたりを繰り返していたある日。
 お忙しい合間をぬって、私の様子を見にきてくれたマリベル様が仰ったの。

「困りましたな、一向によくなられないとあっては……」

 私のせいで、闇神殿は存続が危ぶまれているのに、マリベル様は私を責めない。

「サイファ、デゼル様を湯あみさせて頂けますかな」
「えっ……!?」

 私もサイファも、たちまち、ゆでだこになった。
 なのに、マリベル様は不思議そうに私達を見たの。

「デゼル様を一人で湯あみさせて、浴室で倒れられてはいけません」

 マリベル様は大真面目よ。
 からかってる顔じゃないんだけど、なんで!?

「あの、ええと……」

 私、サイファがゆでだこになるのなんて初めて見た。
 私がゆでだこにされるのはいつものことなんだけど。
 私をちらっと見たサイファが、口許を片手で覆うように手をやりながら、うなずいたの。
 
「わかりました」

 えぇえええ!!?

「デゼル、ひとりで入れないよね?」

 は、入れると思う!
 そこまで重病人じゃないもの。
 何度も、高熱を出しては倒れての繰り返しだけど、今日は、病み上がりっていうのか、体の重さはなくならないけど小康状態よ。

 サイファの優しい手が横顔にかかって、私が息も吐けずにいたら、サイファが私を抱き上げたの。お姫様だっこで。

 マリベル様は満足げにうなずくと、さっさと出て行かれてしまった。
 マリベル様も侍女達も、今は本当に忙しいから。責任者を出せって、大騒ぎになってしまって、みんなに、頭を下げて回らないといけないの。
 私は絶対に出ないようにって言われて、みんなが守ってくれているのに、よくならないの。

 でも――

 サイファにお姫様だっこで運んでもらうの、久しぶりで、その、こんな時なんだけど、嬉しかったりして。
 優しいサイファの胸に頭を預けて目を閉じたら、とっても、心地好かった。

 黒曜石のタイルが敷き詰められた脱衣所に私をおろす頃には、サイファはもう、ついさっき、ゆでだこだったのが嘘みたいな落ち着いた顔。
 バスタオルと着替えを確かめたサイファが、テキパキと私を脱がせて、タオルを巻く前、私の白い肌を眩しそうに見て、また少し頬を染めたけど、それだけよ。
 子供だからか、サイファがあんまり淡白で、この状況でも別に嬉しくないのかなって、へんなことが心配になった私に、サイファが微笑んで言ったの。

「デゼル、おいで。洗ってあげる」
「え……」

 おいでって。
 動けない私の手をつかんだサイファが、ぐいって引っ張ったの。

「きゃ」
「もぉ。デゼル、突っ立ってたら冷えるでしょ。僕が一緒に入った意味がなくなるよ」

 うそ、うそ、うそ!
 サイファの膝の上に座らされて、サイファの左腕が私の胸に回ったの。左手は私の肩をつかんだ。
 私が冷えないように抱いてくれてるだけなんだけど、私、きっと首まで赤い。
 鼓動がサイファに聞こえてしまうんじゃないかと思ったけど、すぐに、そんなこと考えていられなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

彼氏が完璧すぎるから別れたい

しおだだ
恋愛
月奈(ユエナ)は恋人と別れたいと思っている。 なぜなら彼はイケメンでやさしくて有能だから。そんな相手は荷が重い。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

先生と生徒のいかがわしいシリーズ

夏緒
恋愛
①先生とイケナイ授業、する?  保健室の先生と男子生徒です。 ②生徒会長さまの思惑  生徒会長と新任女性教師です。 ③悪い先生だな、あんた  体育教師と男子生徒です。これはBLです。 どんな理由があろうが学校でいかがわしいことをしてはいけませんよ〜! これ全部、やったらダメですからねっ!

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

処理中です...