霞月 ~魂盗り~

冴條玲

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弐 夢見た朝

弐 夢見た朝【2】

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 夕暮れ時。一日がかりで呪羅の里、霞月の住む小さな平屋にたどり着くと、御影は真っ直ぐ戸口に向かい、その戸を叩いた。
 幼い子が一人、立て付けの悪い戸の隙間から顔をのぞかせた。

「霞月は? いるか?」

 子が首をふる。いないと。

「どこへ――?」

 山に行ったと聞くと、御影はまずは、とりあえずの霞月の無事にほっとした。
 けれど、行き先が山では、あまり安心できたものではない。
 長距離の乗馬に疲れきり、へろへろになった由良を認めたが、御影は容赦なく、彼女に夕飯の支度したくを指示して馬に戻った。由良のことだ、多少の無理は平気だろうし、子供が手伝うだろうから、こちらはいいとして――
 御影はすぐに馬首を返すと、休みもせずに山へと向かった。
 いやな予感がするのだ。
 
 霞月――!
 
 無事でと、何故か湧き上がってくる焦りを抑えつけながら、御影は霞月を探した。


  **――*――**


「……はっ……はっ……」

 日が暮れようとしていた。
 たくさん、木の実や野草が採れた。せいぜい、三日分というところだけれど――
 とにかく、これを持って帰れば子が喜ぶと、霞月は疲れた体にムチ打って、重い荷を背負って山を下っていた。
 ただ、これだけの量。
 ただ半日、山を歩き回っただけなのに、こんなに疲れるなんて――

 随分、体力が落ちてしまったと、悲しく思った。
 先のことを考えると、不安に胸が押し潰されそうになる。だから、極力考えないようにしていた。ただ、これを持って帰った時の、子らの喜ぶ顔だけを思い描いた。
 
 ガサ……
 
 急速に日が落ちて、闇が広がろうとする頃だった。
 人目につかないよう、わざと、この時間を選んで山に向かったのだ。
 もう、下りるだけのはずだったのに――

 霞月は息を呑んだ。

 大きな月の輪熊が、

 ――いた。
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