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弐 一つ目の夜
第20話 迦陵と御影
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「あの……あの、御影様は、紫苑様のこと……?」
「迦陵です」
「え?」
「迦陵ですわ、由良様」
由良が目をぱちくりしていると、女装している時には迦陵と呼ぶように、と注意されてしまった。
「迦陵はもちろん、紫苑様が大好きですわ。他に質問は?」
「え……あ、あの、どうしてそんな格好で……その、女装なんてなさってるんですか?」
もう少し上手に聞けばいいのだが、動揺していて、由良はうまくしゃべれなかった。
一方で御影――改め迦陵の方は、実になめらかだ。
「紫苑様の恋人になるために決まっているじゃありませんか! 由良様ったら☆ それに、この格好をしていると紫苑様に御影が見つかりませんのよ~」
……それはそうだろう。
「あの、いつから紫苑様のことを……?」
「もちろん、生まれた時からですわ♪」
「……」
なぜだろう。何となく、体よくあしらわれている気がする。
「他に質問は?」
「え、ええと………ないです……」
じゃあ馬屋へ行きましょうかと、迦陵が手を差し伸べる。
由良はその手を取れず、一歩身を引いた。
「……由良様?」
「……」
どうして仲良くできるだろう。
迦陵は好きだった。頼りにしていた。
けれど、全て偽りだったのだ。
昨夜の御影こそが、その正体で――
由良なんて、犯して殺せばいいと平然と言った。
それなのに、どうして仲良くできる?
「……もう、馬はよろしいんですの?」
よくないと、由良はかぶりを横にふった。
馬に、乗れるようにならないと。
逃げないと。
迦陵はふう、と息を吐くと、「子供のお守は疲れますわ~」などとぼやきながら、それでも由良を先導してくれた。
でも、迦陵の方こそ子供のくせに。
「……由良は十六です。迦陵様と、そんなに違わないと思います」
由良が言うと、即座に迦陵が言った。
「精神年齢が十ほど違います。全く、どうして3日目にもなって、一人で馬に乗れませんの!? 暴れ馬と言うならともかく、選りすぐりの気立ての良い、穏やかな馬に乗せて差し上げてますのに……」
ああもうグズだ間抜けだ不器用だと、迦陵が言いたい放題言う。
「そ、それと精神年齢とは関係ありません!」
由良の抗議に、迦陵はひょうひょうとして言った。
「ありますわ~。由良様が子供だから、馬にばかにされるんです。迦陵なんて、どんな馬も一発で乗りこなしますわよ!」
え、と。真に受けた由良が言葉に詰まると、迦陵が爆笑した。
「やだ、由良様、本気にしましたの!? ああもう、やっぱりお子様ですわ~☆」
由良は真っ赤になって、なけなしの抗議を込めて、迦陵を睨みつけた。精一杯。
しかし、迦陵はおかしそうに笑うばかりだ。
由良は泣きたくなった。
正体を知られた途端、迦陵ときたら、急に意地悪になって。
今まで猫をかぶっていたのだ。
大嫌いだ、迦陵も御影も。
由良に優しくしてくれる、お館内でたった一人の味方だと思っていたのに……。
迦陵が憎たらしくて、散々に言われたことが悔しくて、由良はもう迦陵の手は借りず、死ぬ思いで自力で馬にまたがった。
指示を仰ぐのも悔しかったけれど、こればかりは仕方ない。
「どう……したら……?」
由良がもごもご尋ねると、迦陵がにやっと笑って、それでも案外素直に教えてくれた。
飲み込みの悪い由良に、根気良く一から十まで教えてくれる。
あんな、ひどいことが言える人なのに……。
由良にはやはり、色々な意味で迦陵がわからなかった。
「迦陵です」
「え?」
「迦陵ですわ、由良様」
由良が目をぱちくりしていると、女装している時には迦陵と呼ぶように、と注意されてしまった。
「迦陵はもちろん、紫苑様が大好きですわ。他に質問は?」
「え……あ、あの、どうしてそんな格好で……その、女装なんてなさってるんですか?」
もう少し上手に聞けばいいのだが、動揺していて、由良はうまくしゃべれなかった。
一方で御影――改め迦陵の方は、実になめらかだ。
「紫苑様の恋人になるために決まっているじゃありませんか! 由良様ったら☆ それに、この格好をしていると紫苑様に御影が見つかりませんのよ~」
……それはそうだろう。
「あの、いつから紫苑様のことを……?」
「もちろん、生まれた時からですわ♪」
「……」
なぜだろう。何となく、体よくあしらわれている気がする。
「他に質問は?」
「え、ええと………ないです……」
じゃあ馬屋へ行きましょうかと、迦陵が手を差し伸べる。
由良はその手を取れず、一歩身を引いた。
「……由良様?」
「……」
どうして仲良くできるだろう。
迦陵は好きだった。頼りにしていた。
けれど、全て偽りだったのだ。
昨夜の御影こそが、その正体で――
由良なんて、犯して殺せばいいと平然と言った。
それなのに、どうして仲良くできる?
「……もう、馬はよろしいんですの?」
よくないと、由良はかぶりを横にふった。
馬に、乗れるようにならないと。
逃げないと。
迦陵はふう、と息を吐くと、「子供のお守は疲れますわ~」などとぼやきながら、それでも由良を先導してくれた。
でも、迦陵の方こそ子供のくせに。
「……由良は十六です。迦陵様と、そんなに違わないと思います」
由良が言うと、即座に迦陵が言った。
「精神年齢が十ほど違います。全く、どうして3日目にもなって、一人で馬に乗れませんの!? 暴れ馬と言うならともかく、選りすぐりの気立ての良い、穏やかな馬に乗せて差し上げてますのに……」
ああもうグズだ間抜けだ不器用だと、迦陵が言いたい放題言う。
「そ、それと精神年齢とは関係ありません!」
由良の抗議に、迦陵はひょうひょうとして言った。
「ありますわ~。由良様が子供だから、馬にばかにされるんです。迦陵なんて、どんな馬も一発で乗りこなしますわよ!」
え、と。真に受けた由良が言葉に詰まると、迦陵が爆笑した。
「やだ、由良様、本気にしましたの!? ああもう、やっぱりお子様ですわ~☆」
由良は真っ赤になって、なけなしの抗議を込めて、迦陵を睨みつけた。精一杯。
しかし、迦陵はおかしそうに笑うばかりだ。
由良は泣きたくなった。
正体を知られた途端、迦陵ときたら、急に意地悪になって。
今まで猫をかぶっていたのだ。
大嫌いだ、迦陵も御影も。
由良に優しくしてくれる、お館内でたった一人の味方だと思っていたのに……。
迦陵が憎たらしくて、散々に言われたことが悔しくて、由良はもう迦陵の手は借りず、死ぬ思いで自力で馬にまたがった。
指示を仰ぐのも悔しかったけれど、こればかりは仕方ない。
「どう……したら……?」
由良がもごもご尋ねると、迦陵がにやっと笑って、それでも案外素直に教えてくれた。
飲み込みの悪い由良に、根気良く一から十まで教えてくれる。
あんな、ひどいことが言える人なのに……。
由良にはやはり、色々な意味で迦陵がわからなかった。
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