26 / 38
第二章 聖サファイア
第14話 何度でも君を探し出す
しおりを挟む
「昨夜の査定で、光の十二使徒すべてが、グレイスよりもエトランジュを高く評価したぞ。グレイスはエトランジュにしてやられたと焦っただろう。おまえなんかにかまけている場合じゃなかったとな」
「ルーカス様は、光の十二使徒でも私でもなく、あなたこそがエトランジュを射止めると、今なお確信を?」
私の言葉に、ルーカスは心底、不思議そうな顔をした。
「おまえ、本気で、この俺がエトランジュを射止め損ねるとでも思っているのか? 世界広しといえど、エトランジュがためらわず攻撃魔法を撃ってじゃれてくるのは俺だけだ。エトランジュがそこまで心を許せる男は、この俺だけなんだぞ。エトランジュが俺を選ばぬわけがない!」
……最初の日、私も生まれて初めて、ルーカスにだけは問答無用で攻撃魔法を撃ちたくなったんだよね……。
なんだったんだろう、あれ。
恋愛感情とは違う気がするんだけど。
まぁ、いいか。
ここまで自信過剰だと、もうほんとに、魅力的でしかないよ。
皮肉ではなく、ね。
ルーカスがクツクツと笑いながら、「どうした、ご麗容だけの公子様?」って、私をからかったけど。
構わずに笑顔で挨拶すれば、ルーカスはかえって、感心したみたいだった。
これまでの私は、実際、そんなものだったんだ。
だけど、私をいつまでもそのままだと侮るなら、痛い目に遭うかもね?
そういう視線をルーカスに送れば、ほう、と、ルーカスも美しい黄金の視線で返してきた。
さすが、ルーカス様ファンクラブ二万人かな。
真剣になれば、迫力も風格も超一級の皇子様。
それでも――
エトランジュは譲れない。
悪いね、ルーカス。
エトランジュはオプスキュリテ公国の闇巫女で、私は公子なんだよ。
子供の頃に、何度も聞かされた御伽噺。建国神話。
暗闇に覆われた荒野に、一人の少年が迷い込んだ。
女神オプスキュリテを探して行き倒れた少年は、美しい少女に出会う。
「こんなところへ何をしに?」
「夜が明けなくなってしまったので、女神様に夜明けを願うために」
世にも稀な麗容の少女こそは、久遠の孤独の中に過ごすうちに、澄んだ闇に心を満たされ、夜明けを忘れてしまった女神オプスキュリテの化身だった。
女神と少年は一目で恋に落ち、少年が永遠に女神を愛することを、この命が終わっても、何度でも生まれ変わって女神を傍で守ることを誓うと、明けることのなかった夜が遂に明け、公国の大地にあえかに輝く黎明の光が降り注いだ――
公子である私さえ、夢物語だと思っていたよ。エトランジュに出会うまでは。
だけど、今は、この胸に確信がある。
私はエトランジュを愛するために生まれてきたんだ。
この魂は必ず闇巫女に惹かれるんだ、エトランジュだって、私を求めてる。
それが、公家が闇の女神と神代に交わした約束なんだから。
闇巫女が可愛くて可愛くて仕方ないように、この魂ができているんだから。
たぶん、夜明けの公子である兄上とエトランジュの年齢が近ければ、私のように、もたもたしたりはしなかったんだ。
私は夜明けじゃなく、夜明け前だから。
少し、目覚めが遅れてしまったみたいだ。
だけど、遅れは取り戻してみせる。
グレイスにも感謝かな。
父上が激昂されたのも当然だよ、いったい私は、私に抜きん出た麗容以外のどんな取り柄があるつもりで、私を容姿だけで選ばない異性を求めていたんだろう。
私がエトランジュを探し出すべきだったのに、私さえ知らない私の価値を見つけてくれて、私を選んでくれる、そんな、可愛い女の子をただ待っていたんだ。何の覚悟もなく。
――馬鹿だよ。
何度でも君を見つけてあげると約束したのは、きっと、私の方だったのにね。
エトランジュに先に見つけられてしまって。
たとえ、最初から、そうだったんだとしても。
王子様が人魚姫を見つけたんじゃなく、溺れていた王子様を見つけて助けてくれた人魚姫みたいに――
死を待つばかりだった初代を、闇の女神が見つけて助けてくれた。それが、公国の始まりなんだとしても。
遠くから見詰め合うしかできなかった間に募った想いを、ようやく、君に伝えられるんだ。
――どうか、待っていて。
「ルーカス様は、光の十二使徒でも私でもなく、あなたこそがエトランジュを射止めると、今なお確信を?」
私の言葉に、ルーカスは心底、不思議そうな顔をした。
「おまえ、本気で、この俺がエトランジュを射止め損ねるとでも思っているのか? 世界広しといえど、エトランジュがためらわず攻撃魔法を撃ってじゃれてくるのは俺だけだ。エトランジュがそこまで心を許せる男は、この俺だけなんだぞ。エトランジュが俺を選ばぬわけがない!」
……最初の日、私も生まれて初めて、ルーカスにだけは問答無用で攻撃魔法を撃ちたくなったんだよね……。
なんだったんだろう、あれ。
恋愛感情とは違う気がするんだけど。
まぁ、いいか。
ここまで自信過剰だと、もうほんとに、魅力的でしかないよ。
皮肉ではなく、ね。
ルーカスがクツクツと笑いながら、「どうした、ご麗容だけの公子様?」って、私をからかったけど。
構わずに笑顔で挨拶すれば、ルーカスはかえって、感心したみたいだった。
これまでの私は、実際、そんなものだったんだ。
だけど、私をいつまでもそのままだと侮るなら、痛い目に遭うかもね?
そういう視線をルーカスに送れば、ほう、と、ルーカスも美しい黄金の視線で返してきた。
さすが、ルーカス様ファンクラブ二万人かな。
真剣になれば、迫力も風格も超一級の皇子様。
それでも――
エトランジュは譲れない。
悪いね、ルーカス。
エトランジュはオプスキュリテ公国の闇巫女で、私は公子なんだよ。
子供の頃に、何度も聞かされた御伽噺。建国神話。
暗闇に覆われた荒野に、一人の少年が迷い込んだ。
女神オプスキュリテを探して行き倒れた少年は、美しい少女に出会う。
「こんなところへ何をしに?」
「夜が明けなくなってしまったので、女神様に夜明けを願うために」
世にも稀な麗容の少女こそは、久遠の孤独の中に過ごすうちに、澄んだ闇に心を満たされ、夜明けを忘れてしまった女神オプスキュリテの化身だった。
女神と少年は一目で恋に落ち、少年が永遠に女神を愛することを、この命が終わっても、何度でも生まれ変わって女神を傍で守ることを誓うと、明けることのなかった夜が遂に明け、公国の大地にあえかに輝く黎明の光が降り注いだ――
公子である私さえ、夢物語だと思っていたよ。エトランジュに出会うまでは。
だけど、今は、この胸に確信がある。
私はエトランジュを愛するために生まれてきたんだ。
この魂は必ず闇巫女に惹かれるんだ、エトランジュだって、私を求めてる。
それが、公家が闇の女神と神代に交わした約束なんだから。
闇巫女が可愛くて可愛くて仕方ないように、この魂ができているんだから。
たぶん、夜明けの公子である兄上とエトランジュの年齢が近ければ、私のように、もたもたしたりはしなかったんだ。
私は夜明けじゃなく、夜明け前だから。
少し、目覚めが遅れてしまったみたいだ。
だけど、遅れは取り戻してみせる。
グレイスにも感謝かな。
父上が激昂されたのも当然だよ、いったい私は、私に抜きん出た麗容以外のどんな取り柄があるつもりで、私を容姿だけで選ばない異性を求めていたんだろう。
私がエトランジュを探し出すべきだったのに、私さえ知らない私の価値を見つけてくれて、私を選んでくれる、そんな、可愛い女の子をただ待っていたんだ。何の覚悟もなく。
――馬鹿だよ。
何度でも君を見つけてあげると約束したのは、きっと、私の方だったのにね。
エトランジュに先に見つけられてしまって。
たとえ、最初から、そうだったんだとしても。
王子様が人魚姫を見つけたんじゃなく、溺れていた王子様を見つけて助けてくれた人魚姫みたいに――
死を待つばかりだった初代を、闇の女神が見つけて助けてくれた。それが、公国の始まりなんだとしても。
遠くから見詰め合うしかできなかった間に募った想いを、ようやく、君に伝えられるんだ。
――どうか、待っていて。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい
小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。
エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。
しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。
――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。
安心してください、ハピエンです――
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる