6 / 21
第2章 お金が欲しい
第3話 えくぼ
しおりを挟む
オレがそのニュースを知ったのは、タイヨーを神さまへの「お礼」として捧げた翌日の夜のことだった。
公園で男の死体が発見されたと報じている。
「マジかよ」
「オレがバカラで負けて賭場を追い出された後、フラフラ立ち寄ったあの公園じゃねえかよ」
「埋めてたのってあれ、死体だったのか?」
「じゃあ、オレって目撃者?」
「マジでヤッベーよぉ」
「でも、サツなんか行けねーし」
「だってオレがバカラやってたのがバレちまう」
普段ニュースなんか全然見ないのに、その後の捜査状況が気になってずっとテレビを見ていたら、ふと気づいたことがあった。
遺体が発見された場所は確かに同じ公園だったが、オレが何かを埋めているあの人影を見たのはそことは違う別の場所だった。
「え?」
「埋めていたのは、遺体じゃねーのか?」
「じゃあ、一体何を埋めてたんだ?」
「これはもしかして、早速神さまがオレの願いを聞いてくれたのかも知れねぇ」
「タイヨー君、でかした!」
オレはその日、深夜になるのを待って再び公園を訪れた。
でもよく考えたら、そんな都合よく金が埋められてるなんて話しあるわきゃねーかと思いながら、夜の公園の薄気味悪さにおどおどしつつ、オレはその場所を掘り返し始めた。
でもしばらく掘っても何も出て来ない。
随分と深く埋めたのか、またはもう誰かに掘り返されたか、あるいは埋めたとオレが勝手に勘違いしているだけで最初から何も埋まっていないのか。
「チッキショー、腕が痛てーや」
前に鳶の見習いをやってて、足場から落ちた時に骨折したところが痛む。
金が手に入ったら、またあのヤブ整体院へでも行くか。
そんなことを考えながら掘り続けていたら、何やらまだ新しいコンビニ袋のようなものに包まれたものが出てきた。
「マジか!」
「この形この大きさは、たぶんそうだ」
やたら理由のない確信ばかりが気を急かすが、怖くてその場で開けてみることはできなかった。
「誰かが見てたらヤベーし」
右手から左手、左手から右手に何度も持ち換えてみるが、この感じはテレビドラマとかでよく見る札束に実によく似ていた。
オレはとにかく急いでその場を立ち去り、家でその包みを開けてみた。
「マジかよ・・・」
声が裏返った。
数えてみると300万あった。
「神さま、サイコー!」
「褌のタイヨー、サイコー!」
これで借金返して、おまけにまたバカラができる。
オレは有頂天になった。
翌日、さっそくヤブ整体院に行った。
骨折の古傷を癒してもらうために。
「オヤジ、腕痛てーから見てよ」
「今日はちゃんと金、払えるぜ」
「ナンクセ付けたりしねからよ」
「金?」
「もちろんあるさ」
「まぁちょっとな、神さまに願い事叶えてもらったんだよ」
「ホントにいるんだな、神さま仏さまってのはよ」
整骨院のジイさん先生は、オレが気分よくしてるのを気味悪がっていたが、ひと通りの施術をしてくれた。
そしてその日の夜、バカラのツケを返すのと、ちょっと遊ぶために雑居ビルの賭場へ向かった。
「おー、兄ちゃん、金はできたんかい?」
「でねーと、今日は帰れねーぜ」
下っ端の目つきが、実に険しい。
オレはまず万札100枚の束を渡した。
「ほう、やればできんじゃんか」
そして次にもう100枚渡してトークンに替えた。
「今日は随分と羽振りがいいなぁ」
「まー、せいぜい楽しんでいきな」
下っ端はいまオレが払った200万を持って隣の部屋へ入った。
それからしばらくして再び現れ、オレを隣の部屋へ案内した。
「お客様、どうぞこちらへ」
「なによ?」
「どーしちゃったってーの、お客様だなんて急に」
「うちのボスがVIPのご挨拶したいと言ってます」
ビップ?
オレは下っ端に付いて部屋に入った。
部屋のあちこちにバニーガールをイメージした黒いウサギのデザインが散りばめられている。
「あんたかい」
ソファーに座らされた。
会ったこともない、でも妙に威圧感のある男だった。
「数日前にな、うちの若けーのがちょっとした厄介を起こしてな」
何の話だ?
「組の金持って、どっか行っちまったんだよ」
何か不穏な空気だ。
不吉な予感もする。
「この金は、いまオメーがこいつに渡した金だ」
「実はその中によぉ、これが入ってたんだよ」
「121225って番号の、イチマンエン、が」
「因みに教えてやっけど、オレの女の誕生日、クリスマスなんだよ」
「なぁ、縁起いいじゃねえか、自分の彼女の誕生日と全く同じ番号の万札なんてよ」
「これぇ気に入っててさぁ、アルファベットの部分までぜーんぶ、覚えてたんだよ」
「だけどよぉ、うちの若けーのがその金持ってドロンしちゃったってわけ」
じっとこちらを直視しているその迫力がハンパない。
「もちろんその後その若けーの捕まえて、ちゃーんとお仕置きしたんだけど、ちとやりすぎてなぁ」
「金の隠し場所聞き出す前に、2度と喋れなくなっちまったんだよ」
オレは固唾を飲んで聞いていた。
「でな・・・」
「これ、同じだなんだよなあ、番号が」
「ニッポンのお金っつーのは優秀だからよ、同じ番号ってのは、ねえんだって」
あたりめーだろーが
同じ番号だったら、そりゃ偽札だよっ
って、ここはツッコミとこ?
・・・やっぱ、やめとこ
「悪いことでもしなけりゃよ、同じ番号なんてありえねーらしい」
「オレたちは偽札作りなんて、そんな悪いことはしねえ」
平成12年12月25日、憶えやすい誕生日と、憶えやすい番号の1万円札・・・
「兄ちゃん、ありがとな」
「金、見つけてくれて」
「たっぷりと礼はさせてもらっからよぉ」
そしてオレは、両腕を掴まれたまま引きずられるようにどこかへ連れて行かれた。
もはや何をしても無駄な抵抗だった。
あーあ、まだタイヨーに1万円払ってやってなかったなぁ・・・
先にやっとけばよかった・・・
もう一緒に風呂入って、あいつの包茎チンコ洗ってやれねぇかもなぁ・・・
あいつのあの変なえくぼ、もう見らんねえのかなぁ・・・
オレは酷くボコられながら、だんだんと遠のく意識の中でぼんやりとタイヨーのことを思い出していた。
そしてそれっきり、オレは2度と家へ帰れないような状態にされてしまった。
公園で男の死体が発見されたと報じている。
「マジかよ」
「オレがバカラで負けて賭場を追い出された後、フラフラ立ち寄ったあの公園じゃねえかよ」
「埋めてたのってあれ、死体だったのか?」
「じゃあ、オレって目撃者?」
「マジでヤッベーよぉ」
「でも、サツなんか行けねーし」
「だってオレがバカラやってたのがバレちまう」
普段ニュースなんか全然見ないのに、その後の捜査状況が気になってずっとテレビを見ていたら、ふと気づいたことがあった。
遺体が発見された場所は確かに同じ公園だったが、オレが何かを埋めているあの人影を見たのはそことは違う別の場所だった。
「え?」
「埋めていたのは、遺体じゃねーのか?」
「じゃあ、一体何を埋めてたんだ?」
「これはもしかして、早速神さまがオレの願いを聞いてくれたのかも知れねぇ」
「タイヨー君、でかした!」
オレはその日、深夜になるのを待って再び公園を訪れた。
でもよく考えたら、そんな都合よく金が埋められてるなんて話しあるわきゃねーかと思いながら、夜の公園の薄気味悪さにおどおどしつつ、オレはその場所を掘り返し始めた。
でもしばらく掘っても何も出て来ない。
随分と深く埋めたのか、またはもう誰かに掘り返されたか、あるいは埋めたとオレが勝手に勘違いしているだけで最初から何も埋まっていないのか。
「チッキショー、腕が痛てーや」
前に鳶の見習いをやってて、足場から落ちた時に骨折したところが痛む。
金が手に入ったら、またあのヤブ整体院へでも行くか。
そんなことを考えながら掘り続けていたら、何やらまだ新しいコンビニ袋のようなものに包まれたものが出てきた。
「マジか!」
「この形この大きさは、たぶんそうだ」
やたら理由のない確信ばかりが気を急かすが、怖くてその場で開けてみることはできなかった。
「誰かが見てたらヤベーし」
右手から左手、左手から右手に何度も持ち換えてみるが、この感じはテレビドラマとかでよく見る札束に実によく似ていた。
オレはとにかく急いでその場を立ち去り、家でその包みを開けてみた。
「マジかよ・・・」
声が裏返った。
数えてみると300万あった。
「神さま、サイコー!」
「褌のタイヨー、サイコー!」
これで借金返して、おまけにまたバカラができる。
オレは有頂天になった。
翌日、さっそくヤブ整体院に行った。
骨折の古傷を癒してもらうために。
「オヤジ、腕痛てーから見てよ」
「今日はちゃんと金、払えるぜ」
「ナンクセ付けたりしねからよ」
「金?」
「もちろんあるさ」
「まぁちょっとな、神さまに願い事叶えてもらったんだよ」
「ホントにいるんだな、神さま仏さまってのはよ」
整骨院のジイさん先生は、オレが気分よくしてるのを気味悪がっていたが、ひと通りの施術をしてくれた。
そしてその日の夜、バカラのツケを返すのと、ちょっと遊ぶために雑居ビルの賭場へ向かった。
「おー、兄ちゃん、金はできたんかい?」
「でねーと、今日は帰れねーぜ」
下っ端の目つきが、実に険しい。
オレはまず万札100枚の束を渡した。
「ほう、やればできんじゃんか」
そして次にもう100枚渡してトークンに替えた。
「今日は随分と羽振りがいいなぁ」
「まー、せいぜい楽しんでいきな」
下っ端はいまオレが払った200万を持って隣の部屋へ入った。
それからしばらくして再び現れ、オレを隣の部屋へ案内した。
「お客様、どうぞこちらへ」
「なによ?」
「どーしちゃったってーの、お客様だなんて急に」
「うちのボスがVIPのご挨拶したいと言ってます」
ビップ?
オレは下っ端に付いて部屋に入った。
部屋のあちこちにバニーガールをイメージした黒いウサギのデザインが散りばめられている。
「あんたかい」
ソファーに座らされた。
会ったこともない、でも妙に威圧感のある男だった。
「数日前にな、うちの若けーのがちょっとした厄介を起こしてな」
何の話だ?
「組の金持って、どっか行っちまったんだよ」
何か不穏な空気だ。
不吉な予感もする。
「この金は、いまオメーがこいつに渡した金だ」
「実はその中によぉ、これが入ってたんだよ」
「121225って番号の、イチマンエン、が」
「因みに教えてやっけど、オレの女の誕生日、クリスマスなんだよ」
「なぁ、縁起いいじゃねえか、自分の彼女の誕生日と全く同じ番号の万札なんてよ」
「これぇ気に入っててさぁ、アルファベットの部分までぜーんぶ、覚えてたんだよ」
「だけどよぉ、うちの若けーのがその金持ってドロンしちゃったってわけ」
じっとこちらを直視しているその迫力がハンパない。
「もちろんその後その若けーの捕まえて、ちゃーんとお仕置きしたんだけど、ちとやりすぎてなぁ」
「金の隠し場所聞き出す前に、2度と喋れなくなっちまったんだよ」
オレは固唾を飲んで聞いていた。
「でな・・・」
「これ、同じだなんだよなあ、番号が」
「ニッポンのお金っつーのは優秀だからよ、同じ番号ってのは、ねえんだって」
あたりめーだろーが
同じ番号だったら、そりゃ偽札だよっ
って、ここはツッコミとこ?
・・・やっぱ、やめとこ
「悪いことでもしなけりゃよ、同じ番号なんてありえねーらしい」
「オレたちは偽札作りなんて、そんな悪いことはしねえ」
平成12年12月25日、憶えやすい誕生日と、憶えやすい番号の1万円札・・・
「兄ちゃん、ありがとな」
「金、見つけてくれて」
「たっぷりと礼はさせてもらっからよぉ」
そしてオレは、両腕を掴まれたまま引きずられるようにどこかへ連れて行かれた。
もはや何をしても無駄な抵抗だった。
あーあ、まだタイヨーに1万円払ってやってなかったなぁ・・・
先にやっとけばよかった・・・
もう一緒に風呂入って、あいつの包茎チンコ洗ってやれねぇかもなぁ・・・
あいつのあの変なえくぼ、もう見らんねえのかなぁ・・・
オレは酷くボコられながら、だんだんと遠のく意識の中でぼんやりとタイヨーのことを思い出していた。
そしてそれっきり、オレは2度と家へ帰れないような状態にされてしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
49
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる