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第2章 お金が欲しい

第1話 ヤベー話し

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「ヤベーよ、ヤベーよ、マジ、ホント、ヤベーよ」

オレは思わずそう言いながら、雑居ビルの裏口から出てきた。

「あと10万ありゃあ、ゼッテエ、100万くらいにはなってたのによぉ」
「マジ、ヤベーよ・・・」
「殺されっちまうよぉ・・・」

オレは来週までに返済するはずだった金を使いこんでしまい、その穴埋めをどうしようかずっと考えていた。
思いつくありとあらゆるヤツらから、半ば恐喝まがいに金をかき集めようやく工面した50万円。
これを元手に倍にしてやろうと、再び違法バカラに投じたのに全くついてねぇ。

あんちゃんは常連だから、大目に見てツケで打たしてやったけどさぁ、もう今日で100万だぜ」
「ちゃーんと返せねえと、それなりのお仕置きが待ってるってもんだぜぇ」

賭場で胴元からそう言われ、ホントにヤバイ状況だった。

「しっかしそれにしてもよぉ、今日は何であんなにバタバタしてたんだ?」
「おかげでこっちは、挽回できずに追い出されちまったよ」

バカラで勝負している部屋の薄い壁一枚隔てた隣の部屋で騒々しい音がして、何を言っているのか分からなかったが怒鳴り声もして、そのままいきなり賭場が閉じられてしまったのだ。
ただ、誕生日が平成12年12月25日でクリスマスと同じだとか何とか言っているのだけは聞こえた。

どうせ彼女へのプレゼントが、誕生日とクリスマスで重なって2倍金がかかるとでも言ってるんだろうと思った。

いづれにしても賭場を追い出された後、途方に暮れて仕方なく夜中じゅう街を歩き回り、あてどなく公園を彷徨っていたら木陰のその奥の暗がりに人影が見えた。

「ヤベーよ、ヤベーよ」
「何か、埋めてるよ・・・」

人影が立ち去った後、オレは気味悪ィーと思いながら何を埋めたのか気になったけど、やっぱり怖くなってそのままその場を立ち去った。

家に帰ると、弟、妹たちがいつものようにギャーギャー騒いでいる。
その頭をひとつづつひっぱたきながら、冷蔵庫からビールを取り出し部屋に籠った。
オレは長男で下に弟と妹が合わせて5人いる。
親父は3度結婚していて、自分と2番目の弟、3番目と4番目の2人の妹、5番目の妹と6番目の弟という組み合わせがそれぞれ同じ母親だ。

それにしても考えても考えても、来週までに100万円なんて到底どうにもならない金額だった。

「ヤベーよなー、マジで」
「あー、もーやっぱあれっきゃねぇかなぁ」
「カミダノミ、ってやつ?」

いつも公園で末っ子のタイヨーが一緒に遊んでたガキ。

えーっとぉ、何だったけかなぁ、名前・・・
確か・・・、まーくんって呼んでたな、タイヨーのやつ・・・
そいつの母親が急にきれいになって、噂になったんだよな・・・
神さまに願いを叶えてもらったとか、何とか・・・
あの話って、本当なのかな・・・

オレは必死になってスマホで検索した。
そしてようやく、ネットの裏サイトでそれらしい情報を見つけた。
なんか色々書いてあって全部読むのめんど。
小学生くらいの男のガキ連れてって、そこに一晩泊まらせろって書いてある。

やっぱここはタイヨー君の出番っしょ・・・
家には男で小学生つったら、あいつっきゃいねえし・・・

その日の夜、オレは早速、タイヨーと一緒にその場所へ行くことにした。
なんたって、オレには時間がねーんだ。

「タイヨー、来い」
「出かけるぞ」

「どこ行くんだよ」

「いいから、来い」

「だから、どこ!」

行くと決めたのはオレで、タイヨーは無理矢理、連れて行かれるって感じ。

「来たら、金、やるよ」

「いくら?」

「1000円」

「行かない」

即答かよ。
なめやがって!

「いくら欲しい?」

「1万」

「わかった」
「行くぞ」

「えっ?」
「ホントに1万くれるの?」

オレにだって1万はインパクトでけーんだよ!
特に今のオレには。

「ああ、やるよ」
「お前がちゃんとやってくれれば」

「何するの?」

「知らね」

「約束だかんな、逃げんなよ」
「あと、ほかのヤツにはぜってーに言うな」
「兄ちゃんと姉ちゃんにもだぞ」

タイヨーは軽々しくオッケーと言った。

ホントにあてになるんか、コイツの返事は・・・

「行く前に準備がある」

オレは前もって用意しておいた褌を取り出した。
裏サイトにそう書いてあったから。

通販で買ったものだが、なんかエロい感じのヤツだった。
一番小さい大人用を買ったが、そっち系に喜ばれる下着のようだ。
ホントは死んだじいさんが残した衣類かなんかの中に残ってないかと思ったけど、さすがにそんなものはなかった。
もしあったとしても、じいさんが使っていた褌なんて触りたくもねえ。
だから仕方なく通販で買った。
これは先行投資ってヤツか?

「なにそれ?」

「フンドシだ」

「お神輿、担ぐの?」

「まあ、そんなところだ」

実はタイヨーがそこで何をするのかは、オレも知らない。
適当に答えただけだ。
オレはとにかく、自分が殺されないために金を手に入れなくちゃならない。

タイヨーのズボンとパンツに指を引っ掛け、一気に引きずり下ろした。

「ホラ、自分でシャツ持っとけ」

オレが胡座あぐらをかいてタイヨーの目の前に座ると、ちょうど目の高さのところにガキンチョの包茎チンコがあった。
皮はまだ剥いたことがないみたいで、ちょっとしょんべん臭い。

仕方ねえなぁ、金が手に入ったら今度一緒に風呂入って、臭せーチンコの皮剥いて洗ってやっか・・・
それにしても、何でこんなオスガキが神さまへのお礼なんだ?
世の中には物好きな神さまもいるもんだ・・・

そう思いながら、タイヨーに褌を穿かせた。
褌というよりは、フロントを覆い隠す逆三角の小さな布と細い紐だけでできた、要するにTバックの水着のようなものだった。

「これで、よし」

タイヨーの尻を平手打ちしたら、ペチッときれいな破裂音がした。

外はもう、すっかり陽が落ちている。
オレはタイヨーを連れて、その場所へ行った。

部屋は薄暗い和室で、なんだか落ち着かない場所だった。
真ん中にデカいテーブルみたいのがあったが、シーツっぽいものが被せてあるところをみると、これはベッドか何かか?

「ここ、どこだよ?」
「1万円いらないから、帰る!」

タイヨーは急にぐずり出した。
今ここでタイヨーに帰られたら、最後の「神頼み」も全ておじゃんだ。

「バカヤロ!」
「ここまで来て、なに言ってんだ!」

「でも何かヤダ、この場所」

部屋が薄暗いので怖いのか?

「 どっかに線香がある、って書いてあったよな」
「これのことか?」

木枠と障子紙でできた衝立ついたての裏に、蝋燭とハロウィンのカボチャみたいな丸いくてフタのついた陶器が置いてあった。
フタに空いた穴から、一筋の煙が真っ直ぐ筋になって立ち昇っている。

「服、脱げ!」

「はぁ?」
「何それ、何で脱ぐの!」

「そのために、褌着けたんだろーが!」

「ヤダ、帰る!」

反抗的になったタイヨーをオレは羽交い絞めにして、いい匂いのする線香の煙を嗅がせた。
すると、タイヨーは急に大人しくなった。
これもネットの情報の通りだ。

「神さま、オレ、金が手に入んねーと、マジぶっ殺されます」
「今日は、オレの一番下の弟を連れてきました」
「3年生の男です」
「名前は、汰鷹タイヨウです」
「前歯2本、生え変わりで抜けちゃってるけど気にしねぇでください」
「チビで生意気だけど、手懐てなずければ何でもしますから」
「どうぞ、煮るなり焼くなり好きにしてもらっていいです」

煮るなり焼くなりはちょっと言い過ぎと思ったけど、神さまにお願いするんだからこういう場合は多少大げさに言ったほうがアピール度が大きくて、その方がいいってもんだ。

「神さま、どうか、お願いします」
「オレの願い、叶えてください」
「お頼み申しますから、ソッコー、金が手に入りますように・・・」

神さまの前だと、ものすごく丁寧な言葉がしゃべれたと、自分でもびっくりした。

そしてタイヨーは、いつの間にか衝立ついたての裏で自分から服を脱ぎ、褌一枚の姿になっていた。

その姿を確認して、オレは部屋を出た。
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