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番外編SS

番外編 パワーアップオブラブ

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「ビリジアン先生ーーー!」

 明るい声が聞こえて来て、ビリジアンはのっそりと顔を上げた。
 学園の校門の前で、目に飛び込んできたのは、お洒落なチェック柄のスーツと、ピカピカに磨かれて光り輝いている尖った靴。
 来るとは聞いていたが、あまりの変貌ぶりにポカンと口を開けてしまった。

「お久しぶりです。相変わらず目の下にクマがあって不健康そうですね。あ、でもお肌はツヤツヤしている。なんの、クリーム使っていますか?」

「お……お前、本当にあのチェスナットか? ずいぶんと雰囲気が……」

「そりゃ、外国生活を満喫してくれば、性格も変わりますって。というか、もともとこーゆー感じ? まぁ、こうなれたのは、ビリジアン先生のおかげだし、本当ありがとうございます」

 そう言って、チェスナットはポケットから小さな櫛を取り出して、オールバックの髪をぴっちりと整えた。
 片足を近くの段差に乗せて、カッコよくポーズをキメているチェスナットを見てビリジアンは苦笑いをした。

「まぁ、なんだ。歓迎するよ。ようこそ魔法学園へ」

「改めまして、魔法香学の新任教師、チェスナットです。ビリジアン先輩、よろしくお願いします!」

 初めて会った時は、暗い目と暗い表情が特徴的だったチェスナットだったが、今は別人のように生き生きとした顔になっていて、ビリジアンは驚くとともに嬉しい気持ちになった。

 彼と出会ったのは、三年前のお見合い騒動の時だった。
 最初に会うことになったのが、チェスナットで、彼の悩みを聞いて、夢を叶えたいと願う背中を押した。
 調香師になるのが夢だと言っていたチェスナットは、父親を説得して、半ば家出同然で外国に飛び出した。
 外国の学校で学び、在学中から様々な香水を創り出し、それらは大ヒットとなる。
 瞬く間に超人気調香師となったチェスナットは、凱旋して町の中心にチェスナット香水店をオープンした。
 そしてなぜか、ビリジアンが所属する魔法学園で新設された、魔法香学という授業の特別教師としても働き出すことになった。
 おそらく学園長が人気に便乗して声をかけたら、来てくれることになったのだろう。
 不思議な縁だなと思いながら、ビリジアンはチェスナットの背中をポンポンと叩いた。

「あんまり気負いすぎるなよ。教師ってのは力を入れすぎると、生徒達にも伝わってしまう。適当に力を抜いておいた方がいい。その辺は、俺が先輩としてよーく教えてやる」

「よろしくお願いしまっす! ビリジアン先輩!」

 話を聞いた時は、元お見合い相手というのが気まずいなと思ったが、こうやって先輩と呼ばれて、尊敬された目で見られるのはちょっといい気分だった。
 それに、結婚した自分と違って、チェスナットはまだ独身だ。
 学園の教師で独身というのは肩身が狭いので、長年その立場にいたビリジアンは、気持ちは分かると言って、モテない男の悲哀を慰めてやろうと思った。

「よしっ、今日は初日だが、飲みに行くか? 色々と話したいことも多いし、俺が奢るよ」

 何も言われていないが、うんうん頷きながらビリジアンが飲みに誘うと、チェスナットはポリポリと頭をかいた。

「あーそれが、すみません。今日はデートで……」

「ああ、じゃあ別の日でも……」

「女の子達からの誘いが毎日山のようにあって、毎日違う子とデートを、今は半年待ちですね」

「は…………半年…………」

「また、半年後、誘ってください。あ、これ、頼まれていたものです。じゃ!」

 人気のお取り寄せみたいなことを言われて、ちょうどチャイムが鳴ったので、チェスナットはビリジアンに紙袋を押し付けて、颯爽と走って行ってしまった。
 紙袋は自分の店のものらしい。
 大きなハートマークとその中に、パワーアップオブラブと書かれていた。
 
「…………人生、楽しんでいるな」

 どうやらチェスナットは、仕事も恋愛も絶好調らしい。
 自分の出る幕はなかったと、頭をかきながら、ビリジアンは歩き出した。

 
 チェスナットの帰国で、三年前の大変な時期を思い出してしまった。
 あの頃のビリジアンは、仕事もだめで、恋愛なんてもっとだめで、クビ寸前まで追い込まれていた。
 ビリジアンの仕事である魔法生物の研究は、今やラブマジック王国の超重要研究として、世界中から熱い視線が…………
 と、言いたいところだが、そもそもの魔法生物の数が少なく、他の研究者もいるので、ビリジアン一人が注目されることはない。
 魔法生物が安易に戦争などに利用されることを避けるために、今研究は地下深く、極秘扱いで進められている。
 学園の生徒達には、魔法生物の簡単な生態を教えるだけに留めて、他はまだ研究途中だと説明している。
 そもそも魔法生物は個体によって性格が全然違うので、人と仲良くしたい協力したいという子もいれば、人から離れて自然で暮らしたいという子もいる。
 
 ビリジアンが今やっていることは、生まれたばかりの魔法生物のお世話をしながら生態を観察して、その子達がどの道を選ぶのか、その案内役をしているようなものだ。
 過度なストレスを受けると、魔法生物は死んでしまうくらい繊細なので、政府もそれぞれの個体が暮らしやすい環境を整える手伝いをしてくれる。
 研究が進んだおかげで、魔力過多症の人達には、魔法生物は欠かせないパートナーとなっているし、そこで得た魔力を使って、多くの新しい魔法具が開発された。

 立場的には日の当たらない研究者のままだが、ビリジアンは今の仕事に満足していた。
 満足しているのはもちろん、仕事だけではなくて………

 
「ビリジアン先生、お手紙が届いていましたよ」

 職員室に入ると、すぐに声がかけられた。
 ガタンと椅子から立ち上がって、ビリジアンの近くまで来たのはキャメルだった。
 今日も相変わらず色気を撒き散らしながら、ビリジアンに封筒を手渡した。

「ありがとうございます。あれ、キャメル先生、今日から休暇じゃなかったでしたっけ?」

「それが、仕事が残ってしまって、明日からになったの」

「それは大変でしたね。旦那さんとゆっくり旅行を楽しんできてください」

「ええ、ありがとうございます。ミモザのモクタン公演のチケットも手に入ったし、温泉に浸かって楽しんでくるわ」

 キャメルの旅行先は、ミモザの故郷であるモクタン村だ。
 かつては雨が降らず植物も育たない貧しい村だったが、今は驚くほど変わったらしい。
 ミモザの力で最初に井戸ができて、上級魔法士の活躍で温泉まで掘り当ててしまった。
 今では温泉テーマパークとして次々と商業施設ができて、人気の観光地となった。
 先月、モクタン大ホールが完成して、ミモザの公演が開かれることになった。
 チケットの争奪戦を勝ち抜いたキャメル夫婦は、揃って休暇をとって旅行に行くことになった。
 相変わらず、モテモテのミモザは、いつも違う女性を引き連れて、楽しくやっているらしい。
 元気そうでよかったと思いながら、ビリジアンはその話を聞いていた。

 自分の席に戻ったビリジアンは、手紙の差出人を見て、あっと声を上げた。
 そこには、エボニー・ヴァイスと書かれていた。
 久々にその名前を見て、胸が熱くなってしまった。
 手紙を開くとそこには、彼らしいしっかりした丁寧な文字が並んでいた。

 エボニーの手紙には、アッシュのことが書かれていた。
 パロット国にいたアッシュと再会したエボニーは、抱き合って涙して再会を喜んだそうだ。
 しかし、長く満足な治療が受けられなかったアッシュの状態はあまりよくなかった。
 ラブマジック王国に連れて帰り、ありとあらゆる治療を試したらしい。
 その治療の甲斐があって、先月やっと退院したと書かれていた、
 自力で動けるようになり、両手は重いものは持てないが、普段の生活に支障がないくらいまで回復したようだ。
 長く話すことはできないが、エボニーの名前を呼んで冗談を言えるくらいになったそうだ。
 そして、回復したアッシュに、エボニーがプロポーズをして、二人は無事に結婚をした。
 手紙の最後には、近々、身内だけの小さな結婚パーティーを開くことになったので、ぜひ来てほしいと書かれていた。
 気になっていたエボニーの近況に、ビリジアンは思わず目頭を押さえた。

「よかった、本当によかった……」

 もちろんパーティーに行くつもりだ。
 そしてこのことを早く伝えたい相手は一人しかいない。

 仕事を終えたビリジアンは、急いで鞄を掴んで、生徒達を追い抜かしながら家まで走って帰った。



「おかえりなさい、リジー。早かったですね、今お茶を淹れようと……」

 玄関を開けて、ゼェゼェと咳き込んでいると、ピンクのエプロンを着けたマゼンダが、パタパタとスリッパの音を鳴らして迎えに出てきた。
 この三年ですっかり大人の男性へと成長したマゼンダは、イケメンっぷりに磨きがかかり、妖艶な魅力もまた倍増した。
 腰まで伸びた長い髪を、緩く三つ編みして垂らしているが、男でそんな格好が似合うのはマゼンダだけだと思っている。
 今日も美しいマゼンダを見て、ウットリとしてしまったが、手紙のことを思い出したビリジアンは首を振って、マゼンダに手紙を手渡した。

「もしかして、ラブレター?」

「いい知らせだ。差出人を見てみろ」

 手紙をくるっと反対側にして、差出人の名前を見たマゼンダの目が大きく開かれた。



「エボニーさんか、懐かしい。リジーと出会った頃のこと、思い出しちゃうな」

 手紙を読んで、エボニーの近況を確認したマゼンダは、ビリジアンと同じようによかったですねと言って笑った。
 
「パーティーには行くだろう。また水魔法の顔パックをやってくれよ。少しはまともな顔で行かないと」

 コートを脱いだビリジアンが、今度はシャツを脱ごうと手をかけた時、マゼンダがムッとした顔をしているのが分かった。
 
「エボニーに会うからですか?」

「はぁ? もしかして、嫉妬しているのか? ……確かに連れ込み部屋のようなところには行ったが、恋愛感情はお互い皆無で、話だけして終わったし、その話はしただろう」

「………知っています」

「人前に出るなら、ちゃんとしないとさ。マゼンダがいい男すぎて……俺はもう歳も歳だし、お前の隣に立っても恥ずかしくないようにって……まぁ、そういうことだって」

「ビリジアン……」
 
 歳の差を感じているビリジアンは、時々不安になることがある。
 マゼンダはめきめき輝いているし、どこへ行っても視線を集めてしまう。
 嫉妬しているのは自分の方だ。
 マゼンダの愛情はちゃんと伝わっているが、大人の余裕なんて少しもない。
 
「分かった。お肌を整えるのは任せて。その代わり、可愛い顔を見せるのは、俺だけだからね」

 近づいて来たマゼンダに、チュッと目元にキスをされて頬を撫でられた。
 新婚と呼ばれる時期は過ぎているが、二人の時間が合えば毎日のように抱き合っている。
 こんな風に色っぽくマゼンダに見つめられたら、すぐに反応してしまうくらい飼い慣らさせてしまった。
 いい歳して大丈夫なのかと心配になるが、それが心地いいと感じてしまうくらいになってしまった。
 
「ソファーでする? ベッドに行く?」

 マゼンダに耳元で囁かれたら、ビリジアンは近くにあるソファーに目を向けてしまった。
 ベッドまで待てない。
 それはマゼンダも同じのようだ。

「んっ……ん……ふ…………っっ」

 すぐに激しいキスが始まって、お互い服を脱がしながらソファーに転がった。
 早くマゼンダとひとつになりたい、その思いが頭を占めた時、ソファーの近くに置いた鞄が倒れて、中から紙袋が飛び出した。

「ん? 何か買ってきたの?」

「ああ、あれは……」

 紙袋はチェスナットから貰ったものだった。
 紙袋を手に取ったビリジアンは、中身を取り出した。
 中身は、ハート型の可愛らしいガラスの瓶に入った香水だった。
 そういえば、香水を作ってくれなんて話をしたなと思い出した。
 どうやって使うのか分からず、丸いポンプみたいな部分をいじっていたら、プシュっと音がして香水が噴き出した。

「うあっ!」

 香水が自分の顔にかかってしまい、ビリジアンは慌てて手で顔を拭った。

「香水ですか。どれどれ、匂いは……」

 むせているビリジアンに顔を近づけたマゼンダが香水の匂いを嗅いだ。
 魔法香水と書かれているが、甘い匂いがするだけで、普通の香水と変わらない。
 この世界のこういった代物は、もっと何かあるのかと思っていた。
 こんなものかと思っていたら、匂いを嗅いでいたマゼンダの息が突然荒くなった。
 頬が薔薇色に染まり、興奮したような目になって、ハァハァと息をしながら肩を揺らしていた。

「マゼンタ? どうした?」

「はぁ……リジー、可愛い」

「へ?」

「ねぇ、ココ、すごく熱いよ。リジー、触って、もう我慢できない」

「えっ、わっ、マゼンダ……」

 手を取られて導かれた場所は、下着越しでも分かるくらい完全に勃ち上がっていて、じんわりと濡れていた。
 まさかマゼンダがこんなに乱れて、発情したような状態になってしまうなんて、ビリジアンはこれが香水の効果なのかと驚いた。
 いつもビリジアンが乱れるばかりなので、余裕のないマゼンダを見たら、ビリジアンはゴクリと唾を飲み込んだ。
 これはイケるかもしれないと、心臓が高鳴った。

 マゼンダは完全なタチで、下になるのはビリジアンだったが、これは千載一遇のチャンスかもしれない。
 発情状態で快感に弱くなっている今なら、ついに、雄として自分が輝くことができるかもしれない。
 高鳴る心臓を押さえながら、ビリジアンはマゼンダをソファーに押し倒した。

「マゼンダ、今日は俺が可愛がって…………って、え?」

 ここはカッコいい言葉を言わないと、と思っていたら、ビリジアンの視界はくるっと回って、背中にソファーの慣れた感覚が広がった。

「はぁはぁ、リジー、なんて可愛いんだ。たまらない、もう、今日は激しくしたくて泣かせたくておかしくなりそうだ」

「えっ」

 そう言いながら、ソファーの間からマゼンダが取り出したのは、極太のディルドだった。
 しかも二つ。

「こっちが、魔法仕様で、中でぐるぐる回転するネバーエンド、こっちのボコボコしてるのが前立腺にダイレクト攻撃を仕掛けるヤツ、ねぇ、どっちがいい? 我慢できないよ」

 頬に食い込むくらい凶器を当てられて、ビリジアンは震えてしまった。
 てっきり主導権を握れると思ったのに、なぜか攻め力の方がパワーアップしている。

「あ……あ……あの、俺はそれじゃなくて……マゼンダのがほしいなって……」

 困ったビリジアンは、あなたのが欲しいで逃げることにした。いつものマゼンダなら、これを言えばしょうがないなと言ってそっちをくれる。
 にっこりと笑ったマゼンダは、ディルドを持ったまま、ビリジアンの耳元に口を寄せてきた。

「それは、当たり前だろう。散々犯して、ユルユルになった頃にブチ込んであげるよ」

「ひぃぃ」

 パワーアップしたマゼンダは全然許してくれない。
 ソファーから這いずって逃げようとしたビリジアンだったが、両足で挟まれてガッチリと固定されてしまった。

「答えられないなら、両方使おうね。リジー、三本でたっぷり、愛してあげるから」

「マゼンダ……マゼンダ、話し合おう、まっ……うっ……うあああああっ!!」
 

 チェスナットがくれた愛がパワーアップする魔法香水のおかげで、その日、ビリジアンはどろどろになるまで愛されて、動けなくなり翌日は仕事を休むことになった。

 香水は捨てるわけにもいかず、家の中に隠した。
 なんとなくしか記憶がないらしいマゼンダから、香水の行方を何度か聞かれたが、どこかに落としたと言ってごまかしている。
 
 
 

 


(おわり)
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みんなの感想(13件)

なぁ恋
2024.03.01 なぁ恋

もう幸せのオンパレード🕊 ͗ ͗〰︎♡
このカップルもう好き過ぎてツライぃ
((((((( *´꒫`))))))
素敵な愛をありがとう❤❤❤

朝顔
2024.03.02 朝顔

なぁ恋様

お読みいただきありがとうございます!
オンパレード!そう言っていただけて嬉しいです💕
主人公カプに加えて、脇の方々も幸せになれるように頑張りました。
こちらこそ、読んでいただけて嬉しいです☆
感想ありがとうございました。

解除
さくらこ
2023.11.10 さくらこ

面白かった!テンポ良く意外な方に進み楽しかったです。
笑顔になる作品、有難う御座います。

朝顔
2023.11.10 朝顔

さくらこ様

お読みいただきありがとうございます♪♪
テンポが良かったと言っていただけて嬉しいです。
ビリジアンとマゼンダの恋愛を軸に、お見合いを展開していく、ちょっとチャレンジ的な作品になりました。
お楽しみいたいただけたら幸いです。
感想ありがとうございました⭐︎⭐︎

解除
Zop
2023.10.27 Zop

あーーーーーーーーーーーーーーぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙ーー好きだーーー!!!めっちゃくちゃすきです!!!一気に読みました!!本当に本当に本当に本当に本当に本当に本当に大好きです!好きが溢れすぎて、好きだと伝えるためにアルファポリスのアカウントを作りました!(笑)
登場人物も、話も、言葉と表現も、話のテンポも、話の展開も、全てが好きです!!今すぐもう一回読み返したいぐらいです!!とっても素敵なお話をありがとうございます!!

朝顔
2023.10.28 朝顔

Zop様

わわわわわっ。
熱いメッセージ、めちゃくちゃ嬉しいです⭐︎⭐︎
こんなにたくさん好きだと言っていただけたのは初めてです♪♪
アカウントまで作っていただけて、光栄です。がっしりしっかり気持ちを頂戴しました(^^)
完結してしばらく経つと、なかなか感想を頂ける機会がないので、じわじわ余韻に浸っていただける作品になれたら嬉しいなと思っています。
またショートストーリーなど更新しようと思っていますので、お立ち寄りいただけたら嬉しいです。
感想ありがとうございました♪♪

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