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本編
きゅう 金持ちの男①
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金満家、黄金邸、ここに来る前に町の人に道を聞いたが、誰もがそう言って小高い山を指差した。
長い槍が折り重なるように連なって、高い外塀となって聳え立っていた。
その入り口に立ったビリジアンは、肺に息を吸い込んでから、ふぅと吐き出した。
緊張で口から胃が出てきそうだ。
あの中で一番金持ちと聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
王国の城下町にある大邸宅。
どこまでも高い塀が続いていて、終わりが見えない。
入り口には警備兵が立っていて、持ち物までチェックされた。
門を通されたビリジアンは、きっちりと結んだタイを緩めた。
庭というには森に近い、はるか遠く、木々の奥に小さな屋根を見つけて、あそこまで歩くのかとため息をついた。
こんなことなら、馬車を出してくれるという向こうの申し出を断らなければよかった。
ホワイト学園長に、エボニーに会いたいと言ったら、すぐに連絡をとってくれた。
地方の仕事から帰宅したばかりだと返事が来たので、だったら週末家に行かせてもらおうと、学園長がだいぶ強引に予定を入れていた。
家に押しかける形になってしまい、あまり負担をかけるのは申し訳ないと、迎えを断ったが、ここまで広いとは思っていなかった。
邸までの長い道を歩いていると、なぜかぼんやりとこれまでの人生を考えてしまった。
小さい頃、イチローはひどく繊細な子だった。
環境が変わるだけで吐いてしまい、周りの子とほとんど関わることなく小学生になった。
小学校に入っても同じで、なかなか環境に馴染めずにいたら、いつの間にかクラスの人間関係ができていて、友達の輪に入れなくなった。
ぼっちを揶揄われていじめられることはなかったが、歳を重ねて体が丈夫になっても、上手く人と関わることができないのは変わらなかった。
誰ともつるまない、変わった人と呼ばれた。
それでも大人になれば、多少のことは誤魔化すことはできる。
社会人になると、もっと友人ができる機会はなくなって、すっかり孤独を好む人になっていた。
だけど本当はずっと、楽しそうに話すクラスメイト達の輪の中に、入りたくてたまらなかった。
勇気を出して話しかけてみても、嫌がられてしまうかもしれない。
小さな失敗が、大きな不安と悲しい妄想ばかり生み出して、足を止めてしまった。
そんな時、同じ会社の女の子に告白されて付き合い始めた。
やっと他人と関わって生きることができる。
もう、殻を破って飛び立ってもいいんだ、と。
一人で舞い上がって、彼女のことが好きでたまらなくなった。
すぐに結婚しようとまで口にして、少しずつ彼女に負担をかけていた気がする。
最初は同じだった熱が、彼女だけ少しずつ冷めていくのを見ないように考えないようにした。
距離を置こう。
そう言われて初めて、自分がとんでもなく重い男になっていたことに気がついた。
そして彼女は転勤で地方勤務になり、ますます距離が空いてしまった。
よせばいいのに見てしまう彼女のSNS。
キラキラした日常。
どことなく見え隠れする男の影。
どうして、なんで。
会えないから膨らむ不安を、彼女にぶつけた。
ごめんもう無理、別れよう。
そう一言連絡が来て、一切の繋がりを切られてしまった時、世界は終わってしまったと思った。
人を好きになるのがこんなに苦しいなら
人と関わるのがこんなに辛いなら
もう、一人で生きていこう……
この世界に来る前、そんな風に思っていた。
そんな自分が、異世界に来てやっているのが婚活だなんて、本当に笑えない話だ。
たらたら考えながら歩いていたら、いつの間にかエボニーの邸までたどり着いていた。
金を掘り当てたというのは本当らしい。
石と木材を使って建てられた邸宅には、所々金が使われていて、見ているだけで眩しい造りになっていた。
玄関には金の像がドカンと置かれていて、その金満家ぶりを見せつけられた。
こちらも金でできた獅子のドアノッカーを叩くと、執事が出てきて、こちらですと丁寧に案内してくれた。
客間に通されて、ソファーに座っていると、すぐにお茶やお菓子が出てきた。
とりあえずお茶をいただいて、豪華な絵が描かれた天井を見上げながら待った。
しばらく待つと、部屋にノックの音が響いた。
「待たせたかな」
「いえ、今着いたばかりです」
「エボニー・ヴァイス、爵位は同じ男爵だ。気楽に話そう」
「……ああ、俺はビリジアン・コンドルト。今日はよろしく」
爽やかな笑顔で手を差し出してきたのは、あの似顔絵の通り、濃いめの顔で目の鋭いガッシリとした体格の男だった。
商談の始まりみたいに握手をして、お互い席に着いた。
経営業と聞いていたが、騎士や軍人だと言ってもおかしくなさそうな雰囲気を持っていた。
「今回の見合いは急な話だったが、ホワイト氏と繋がりを持ちたい者は多い。私もその一人だ」
エボニーはお金があって仕事も順調、健康的で付き合う相手に困ることはなさそうだ。
今すぐ結婚する必要はないが、チャンスだと思って参加したのだと、その言葉から読み取れた。
「俺の方は、学園の教師という立場で、独身であるというのが問題だと国から指摘されてしまったんだ」
「まぁ、そうだろうな。少子化はある程度解消されたとはいえ、もともとの気質が奥手な国民性だからな。手本になって欲しいのだろうな。君の研究対象である魔法生物は、研究費を減らそうという話もでている」
「その通りだ。補助金も減らされて、発表の場も少なくなってしまった」
「なるほど、そういう点では支援できることは多いと思う。金はいくらでもあるからな」
なんて魅力的な提案だと、ビリジアンは目を輝かせた。金目当てだと言われたら、否定できない。
支援してもらえたら、助かることには間違いないのだから。
「ただ一点、こちらには結婚に関して条件がある」
ここまでトントン拍子に話が進んだ。
向こうが自分を気に入ってくれるのかは分からないが、お互いいい歳だということもあって、無駄なものが削ぎ落とされて、淡々とした話し合いだった。
エボニーが譲れないという条件、それは何だろうと、ごくりと唾を飲み込んだビリジアンは、話の続きを待った。
「愛のない結婚、ですか?」
恒例となった準備室での放課後の集まりで、エボニーとの最初の顔合わせについてマゼンダに報告をした。
休憩用のソファーに座ったマゼンダは、ビリジアンの話を聞いて首を傾げた。
「そう、初恋の人が忘れられないんだと。だから、君のことを愛することはない、愛情は期待しないでほしいと言われた。今まで話はたくさんあったそうだが、だいたいこの条件を出すと断られたそうだ」
エボニーが出した条件はそれだけだった。
もちろん、真っ当な仕事を持っているとか、健康であるとか細かい条件はあったが、一番譲れない大きなものがそれだった。
「そらなら、先生の希望と合致しますよね。パートナーが欲しいと仰っていましたから」
「いや、でも……、ちゃんと結婚の義務というか、跡取りが必要だから子供は欲しいらしい。そこさえ、我慢すれば……という感じだな」
「なるほど……、悪くはないんじゃないですか? 地位もお金もある男性で支援も約束してくれる。結婚前に条件を提示してくれたのは、まともな方だと思います」
「そう……だな」
これ以上ない、という相手であるような気はした。
いきなり男と恋愛はできないが、一緒にいればいつか愛情のようなものが湧くかもしれない。
ビリジアンとしてはそんな風に考えていたが、思っていたものとは少し違ってしまった。
しかし、自分の考えも中途半端なものなので、お互い体の関係だけでいこうと言われた方が、自分には向いているのではないかと思った。
「初恋の人か……」
腕を組んで考えていたら、マゼンダが小さくこぼした声を聞いてしまった。
やけに感傷的に聞こえたので、考えていたことが散ってしまった。
「なんだよ、お前にもいるのか? 忘れられない相手が?」
「いませんよ。綺麗な花は愛でて楽しめばそれで終わりです。愛してる、好きだよは、スパイスみたいなもの。言えば盛り上がるし、お互い楽しめるじゃないですか。だからと言って、それに縛られるような生き方、私は嫌ですね」
「おまっ……、なんて生き方をしているんだ」
ゲームの攻略対象者達は、それぞれ複雑な過去を抱えている。
始めは反発し合うが、仲を深めていくにつれて、主人公の優しさに惹かれて、愛に目覚めるとかそんな内容だった。
そういう意味では、まだ主人公と仲を深めていないマゼンダは、愛に対して後ろ向きなのだろうと思った。
「お前見てるとさ、人を好きになるのも辛いけど、なれないのも辛いんだなって思ったよ」
「は? 私が……?」
「お前が言ったことだよ。どう聞いたって、本気で人を好きになれないやつの言葉だ」
そう言うとマゼンダは口を閉じてしまった。
いつも調子よく動く口が、今は押し黙っているので、図星なのだろうと思った。
「気持ちを伝えるのは、そんなに簡単じゃない」
「……そうですか、参考になりました。ありがとうございます」
興味がなかったのか、まるで授業の感想のように話を終わらせた後、マゼンダは持ってきた袋の中に手を入れて、ガサゴソと何やら準備を始めた。
「愛の話はこのくらいにして、そろそろレッスンを始めましょう。エボニー男爵と話を進めるのであれば、相性の確認もありますからね」
マゼンダが取り出したのは、どう見てもご立派なアノ形をした物で、大人の玩具にしか見えなかった。
優美な外見のマゼンダが持っていると、卑猥な凶器とのギャップで目がおかしくなったのかと思ってしまう。
「え……と、それは……なんだ……?」
もしかしたら、肩揉み器ですと言われる可能性に賭けて、問いかけてみた。
「え? ご存知ないのですか? 授業で使うものを借りてきました。男性器を模した魔法性具ですよ。主に女子の授業で使われますが、男子が使用することも可能です」
「や、やっぱりーーー!!」
なんだ知っていたんじゃないですか、と言いながら、近寄って来たマゼンダは、ビリジアンの顔の前に掲げた。
「それで、先生。前回の質問に答えていただけますか? 受けるか攻めるか、どちらを選びますか?」
目の前に、何で作られているのか分からないが、肌色でテカテカ輝く勇ましい象徴が聳え立っていて、これは現実なのかと震えた。
考えていなかったわけではないが、いざ目の前にすると声が出てこなかった。
⬜︎⬜︎⬜︎
長い槍が折り重なるように連なって、高い外塀となって聳え立っていた。
その入り口に立ったビリジアンは、肺に息を吸い込んでから、ふぅと吐き出した。
緊張で口から胃が出てきそうだ。
あの中で一番金持ちと聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
王国の城下町にある大邸宅。
どこまでも高い塀が続いていて、終わりが見えない。
入り口には警備兵が立っていて、持ち物までチェックされた。
門を通されたビリジアンは、きっちりと結んだタイを緩めた。
庭というには森に近い、はるか遠く、木々の奥に小さな屋根を見つけて、あそこまで歩くのかとため息をついた。
こんなことなら、馬車を出してくれるという向こうの申し出を断らなければよかった。
ホワイト学園長に、エボニーに会いたいと言ったら、すぐに連絡をとってくれた。
地方の仕事から帰宅したばかりだと返事が来たので、だったら週末家に行かせてもらおうと、学園長がだいぶ強引に予定を入れていた。
家に押しかける形になってしまい、あまり負担をかけるのは申し訳ないと、迎えを断ったが、ここまで広いとは思っていなかった。
邸までの長い道を歩いていると、なぜかぼんやりとこれまでの人生を考えてしまった。
小さい頃、イチローはひどく繊細な子だった。
環境が変わるだけで吐いてしまい、周りの子とほとんど関わることなく小学生になった。
小学校に入っても同じで、なかなか環境に馴染めずにいたら、いつの間にかクラスの人間関係ができていて、友達の輪に入れなくなった。
ぼっちを揶揄われていじめられることはなかったが、歳を重ねて体が丈夫になっても、上手く人と関わることができないのは変わらなかった。
誰ともつるまない、変わった人と呼ばれた。
それでも大人になれば、多少のことは誤魔化すことはできる。
社会人になると、もっと友人ができる機会はなくなって、すっかり孤独を好む人になっていた。
だけど本当はずっと、楽しそうに話すクラスメイト達の輪の中に、入りたくてたまらなかった。
勇気を出して話しかけてみても、嫌がられてしまうかもしれない。
小さな失敗が、大きな不安と悲しい妄想ばかり生み出して、足を止めてしまった。
そんな時、同じ会社の女の子に告白されて付き合い始めた。
やっと他人と関わって生きることができる。
もう、殻を破って飛び立ってもいいんだ、と。
一人で舞い上がって、彼女のことが好きでたまらなくなった。
すぐに結婚しようとまで口にして、少しずつ彼女に負担をかけていた気がする。
最初は同じだった熱が、彼女だけ少しずつ冷めていくのを見ないように考えないようにした。
距離を置こう。
そう言われて初めて、自分がとんでもなく重い男になっていたことに気がついた。
そして彼女は転勤で地方勤務になり、ますます距離が空いてしまった。
よせばいいのに見てしまう彼女のSNS。
キラキラした日常。
どことなく見え隠れする男の影。
どうして、なんで。
会えないから膨らむ不安を、彼女にぶつけた。
ごめんもう無理、別れよう。
そう一言連絡が来て、一切の繋がりを切られてしまった時、世界は終わってしまったと思った。
人を好きになるのがこんなに苦しいなら
人と関わるのがこんなに辛いなら
もう、一人で生きていこう……
この世界に来る前、そんな風に思っていた。
そんな自分が、異世界に来てやっているのが婚活だなんて、本当に笑えない話だ。
たらたら考えながら歩いていたら、いつの間にかエボニーの邸までたどり着いていた。
金を掘り当てたというのは本当らしい。
石と木材を使って建てられた邸宅には、所々金が使われていて、見ているだけで眩しい造りになっていた。
玄関には金の像がドカンと置かれていて、その金満家ぶりを見せつけられた。
こちらも金でできた獅子のドアノッカーを叩くと、執事が出てきて、こちらですと丁寧に案内してくれた。
客間に通されて、ソファーに座っていると、すぐにお茶やお菓子が出てきた。
とりあえずお茶をいただいて、豪華な絵が描かれた天井を見上げながら待った。
しばらく待つと、部屋にノックの音が響いた。
「待たせたかな」
「いえ、今着いたばかりです」
「エボニー・ヴァイス、爵位は同じ男爵だ。気楽に話そう」
「……ああ、俺はビリジアン・コンドルト。今日はよろしく」
爽やかな笑顔で手を差し出してきたのは、あの似顔絵の通り、濃いめの顔で目の鋭いガッシリとした体格の男だった。
商談の始まりみたいに握手をして、お互い席に着いた。
経営業と聞いていたが、騎士や軍人だと言ってもおかしくなさそうな雰囲気を持っていた。
「今回の見合いは急な話だったが、ホワイト氏と繋がりを持ちたい者は多い。私もその一人だ」
エボニーはお金があって仕事も順調、健康的で付き合う相手に困ることはなさそうだ。
今すぐ結婚する必要はないが、チャンスだと思って参加したのだと、その言葉から読み取れた。
「俺の方は、学園の教師という立場で、独身であるというのが問題だと国から指摘されてしまったんだ」
「まぁ、そうだろうな。少子化はある程度解消されたとはいえ、もともとの気質が奥手な国民性だからな。手本になって欲しいのだろうな。君の研究対象である魔法生物は、研究費を減らそうという話もでている」
「その通りだ。補助金も減らされて、発表の場も少なくなってしまった」
「なるほど、そういう点では支援できることは多いと思う。金はいくらでもあるからな」
なんて魅力的な提案だと、ビリジアンは目を輝かせた。金目当てだと言われたら、否定できない。
支援してもらえたら、助かることには間違いないのだから。
「ただ一点、こちらには結婚に関して条件がある」
ここまでトントン拍子に話が進んだ。
向こうが自分を気に入ってくれるのかは分からないが、お互いいい歳だということもあって、無駄なものが削ぎ落とされて、淡々とした話し合いだった。
エボニーが譲れないという条件、それは何だろうと、ごくりと唾を飲み込んだビリジアンは、話の続きを待った。
「愛のない結婚、ですか?」
恒例となった準備室での放課後の集まりで、エボニーとの最初の顔合わせについてマゼンダに報告をした。
休憩用のソファーに座ったマゼンダは、ビリジアンの話を聞いて首を傾げた。
「そう、初恋の人が忘れられないんだと。だから、君のことを愛することはない、愛情は期待しないでほしいと言われた。今まで話はたくさんあったそうだが、だいたいこの条件を出すと断られたそうだ」
エボニーが出した条件はそれだけだった。
もちろん、真っ当な仕事を持っているとか、健康であるとか細かい条件はあったが、一番譲れない大きなものがそれだった。
「そらなら、先生の希望と合致しますよね。パートナーが欲しいと仰っていましたから」
「いや、でも……、ちゃんと結婚の義務というか、跡取りが必要だから子供は欲しいらしい。そこさえ、我慢すれば……という感じだな」
「なるほど……、悪くはないんじゃないですか? 地位もお金もある男性で支援も約束してくれる。結婚前に条件を提示してくれたのは、まともな方だと思います」
「そう……だな」
これ以上ない、という相手であるような気はした。
いきなり男と恋愛はできないが、一緒にいればいつか愛情のようなものが湧くかもしれない。
ビリジアンとしてはそんな風に考えていたが、思っていたものとは少し違ってしまった。
しかし、自分の考えも中途半端なものなので、お互い体の関係だけでいこうと言われた方が、自分には向いているのではないかと思った。
「初恋の人か……」
腕を組んで考えていたら、マゼンダが小さくこぼした声を聞いてしまった。
やけに感傷的に聞こえたので、考えていたことが散ってしまった。
「なんだよ、お前にもいるのか? 忘れられない相手が?」
「いませんよ。綺麗な花は愛でて楽しめばそれで終わりです。愛してる、好きだよは、スパイスみたいなもの。言えば盛り上がるし、お互い楽しめるじゃないですか。だからと言って、それに縛られるような生き方、私は嫌ですね」
「おまっ……、なんて生き方をしているんだ」
ゲームの攻略対象者達は、それぞれ複雑な過去を抱えている。
始めは反発し合うが、仲を深めていくにつれて、主人公の優しさに惹かれて、愛に目覚めるとかそんな内容だった。
そういう意味では、まだ主人公と仲を深めていないマゼンダは、愛に対して後ろ向きなのだろうと思った。
「お前見てるとさ、人を好きになるのも辛いけど、なれないのも辛いんだなって思ったよ」
「は? 私が……?」
「お前が言ったことだよ。どう聞いたって、本気で人を好きになれないやつの言葉だ」
そう言うとマゼンダは口を閉じてしまった。
いつも調子よく動く口が、今は押し黙っているので、図星なのだろうと思った。
「気持ちを伝えるのは、そんなに簡単じゃない」
「……そうですか、参考になりました。ありがとうございます」
興味がなかったのか、まるで授業の感想のように話を終わらせた後、マゼンダは持ってきた袋の中に手を入れて、ガサゴソと何やら準備を始めた。
「愛の話はこのくらいにして、そろそろレッスンを始めましょう。エボニー男爵と話を進めるのであれば、相性の確認もありますからね」
マゼンダが取り出したのは、どう見てもご立派なアノ形をした物で、大人の玩具にしか見えなかった。
優美な外見のマゼンダが持っていると、卑猥な凶器とのギャップで目がおかしくなったのかと思ってしまう。
「え……と、それは……なんだ……?」
もしかしたら、肩揉み器ですと言われる可能性に賭けて、問いかけてみた。
「え? ご存知ないのですか? 授業で使うものを借りてきました。男性器を模した魔法性具ですよ。主に女子の授業で使われますが、男子が使用することも可能です」
「や、やっぱりーーー!!」
なんだ知っていたんじゃないですか、と言いながら、近寄って来たマゼンダは、ビリジアンの顔の前に掲げた。
「それで、先生。前回の質問に答えていただけますか? 受けるか攻めるか、どちらを選びますか?」
目の前に、何で作られているのか分からないが、肌色でテカテカ輝く勇ましい象徴が聳え立っていて、これは現実なのかと震えた。
考えていなかったわけではないが、いざ目の前にすると声が出てこなかった。
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