スキル世直し名器で世界を救え!

朝顔

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第一陣

⑧油断は禁物、だけど……

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 どうしてこんな事になったのだろう。

 荷物のように運ばれながら、俺はこの先どうすればいいのか、頭が全然動かなくて途方に暮れていた。
 本当なら今頃、豹柄仮面の男に買われて次の作戦に移っているはずだった。

 それが予想外の男に買われてしまった。
 俺を買ったのは、ブリーストの森で出会った謎の黒馬車に乗っていた男だった。
 あの忘れられない強烈な出会い。
 声を聞いただけで、金色の獣のような瞳と初めて目が合った時の記憶が鮮明によみがえってしまった。

 何者なのか全く分からないが、男は自分のマントを外して俺の頭の上から包むようにかけてくれた。
 このひどい姿を外にいる人間に見られないようにしてくれたので、いちおう気は使えるらしい。
 どこに行くのか分からないが、さっきからズンズンと止まることなく歩き続けている。

 こうなったら。なんとか頭を切り替えるしかない。こいつはいかにもヤバそうだし、普通の人間ではない。
 城でも買えそうなくらいの額をポンと出すなんて、まともな仕事ではありえない。
 ということは、あのリストに載っている可能性が高い。それならば、まだ俺に勝機がある。


「あー……、やっぱり。嫌な予感が当たりました。気に入ったものはなんでも拾ってしまわれる方でしたが……まさか人間まで」

 男の足が止まったと思ったら声が聞こえてきた。
 頭からマントをかぶっているので見えないが、この声にも聞き覚えがあった。
 あの森で俺に剣を向けた騎士だ。

「さっさと開けろ。すぐに出発するぞ」

「会場が騒がしいですね……。何か厄介な臭いがします」

「追跡魔法をかけられたから、おそらく追っ手が来る」

「はあ……、了解しました」

 ふわっと胃が浮くような感覚がしてドサっと尻に衝撃がきた。どうやら馬車の中にでも投げ込まれたらしい。
 すぐにもう一人乗り込んだような揺れがあり、バタンとドアが閉まった音がした。

「もう顔を出していいぞ」

 もそもそマントから顔を出すと、まったく音がしないのだが外の景色が動いていた。

「……ぁ、こっ……これ、動いて……」

「魔法馬車は初めてか? 下を走っている分には他の馬車と変わりない、音がしないだけだ」

 何か嫌なワードが耳に入った気がするが、それどころではないので上手く考えられない。

「おっ…お前、魔力溜まり……、さっきの姿は……偽装していたのか?」

 開け放たれた窓から、並走する騎士が覗き込んできた。もうそんなありきたりな驚きとかに対応する気にもなれない。

「こいつは魔力溜まりではない。似たような容姿をしているが、魔力はお前より低いぞ」

 ぎくっと心臓が掴まれたような衝撃を受けた。
 なんということだ。
 俺の武器が偽物だと見抜かれていたなんて……。

「は……? そんなことがあるのですか? ということは、ただの模造品。なぜこんな奴隷をお買いに……? そもそも、奴隷は好まれなかったのではないですか?」

「……気になったんだ。なぜ、この者の魔力は生まれたてのような輝きに満ちているのか……。まるで赤子が放つような色をしている」

 そうかと俺はやっと気がついた。
 この男は見える眼を持っていると言っていた。
 だから、オークションで俺の魔力を見て、さっき会ったやつだと分かったのだろう。
 魔力に関しては神がくれたものだからとしか分からない。しかし、それを説明するには、まずはコイツを成敗して協力者にしないといけない。

「そんなの……俺にだって分からないです」

「一度、戻ったら解析魔法を使って調べてみよう。気になると確かめずにはいられないんだ」

「そりゃ、好奇心旺盛なことで」

「きっ貴様! 無礼だぞ!」

 つい心の声が出てしまった。
 またもや騎士が剣に手をかけてくるのでヒヤっとしたが、目の前の男の方はさほど気にしている様子は見えない。
 ただ静かに目を閉じていた。

 とにかく馬車の中にまで剣が飛んできそうなので俺は口を閉じた。
 しばらく誰も喋らないし、外は静かだしで、なんとも言えない時間が流れた。

 この男は俺をどうするつもりなのか。
 単純に魔力の色がどうとかの興味で、俺に大金を注ぎ込んだとは思えない。

 サイコ野郎で人体実験でもしているのか。
 それとも……。

 まあいい、人のことを金で買ったんだ。
 どうせ悪人なんてみんな同じだ。
 魔力溜まりではないと知られても、尻を振って突っ込めよって見せれば乗ってくるだろう。
 悪人リストを確認したいが、奴隷が目の前で書類を読み出したらおかしすぎるので手が出せない。
 ちなみに悪人リストはいつでも自由に呼び出し可能。好きな時にどこでもチェックできる。

「来たな」

 男がそう言うと、無音で走行中の魔法馬車がガタンと音を立てて揺れた。
 俺はウトウトしかけていたが、何が起きたのかと目がギンっとなって首を振って周りを確認した。

「アダム」

「はい、行きますか?」

 男が人差し指を立てて自分の唇に当てると、そこからぶわっと青い光が出てきた。
 その光は液体のように伸びて馬車全体を包み込んだ。

「なっ…何? なっ…にが……」

「奴隷、掴まっていろ! この馬車は追跡魔法でアンカーが付けられた状態だ。レインズ様の浮上魔法で追跡を振り落とす」

「う…嘘……まさか……ふっ浮上って、いっ…やだやだやだ!」

 俺がいくら嫌だと言っても逃れられるわけがない。ふわっと内臓が浮くような感覚がして一気に馬車は空へと駆け上った。

「やだぁーーーーーーー!! 落ちる落ちる落ちるってばぁぁぁーーーー!!」

 信じられない。
 遊園地の子供用の回転する乗り物で大泣きする俺が、魔法とかいう謎の力で空を飛ぶなんて……そんなっ……そんなの……


「しっかりしろ、これくらいで泣くやつがいるのか?」

「だっ…だぁぁて……ひんっ…、怖いっ…うぅ落ちると…痛い……死んじゃ……っっ」

 背中をトントンと優しく叩かれた後、頭を撫でられた。
 不思議だった。
 胃が縮んで震えが止まらなかったのに、その手で背中を撫でられたら、さっきまで息ができなくて死にそうだったのに、スッと楽になってきた。
 それでもまだ、怖い気持ちがなくなるわけではない。
 俺は目の前の胸板に顔を押し付けてぎゅっとしがみついた。

 ん?

 しがみつく?


「ふぅー、ここまで来たらさすがに外れましたね。かなりしつこい追跡でしたね……って! おおっおい! 奴隷! おまっ…なんてことを!!」

「いい、このままにしてやってくれ」

 人には、自分が何をしているのか理解したくなくて、思考を止める機能がついているのかもしれない。
 まさに今、そんな感じだ。

 俺は今、絶対ヤバい男にしがみついている。
 しかし気づいたとて離れられない。
 手を離したら、また落ちてしまいそうな恐怖が襲ってきそうだ。
 いいとは言ってくれているが、騎士も慌てているのでいちおう謝っておいた方が身のためかもしれない。

「あの……、ご…ご主人様? 申し訳ございません」

「レインズ」

「俺のことはレインズと呼べ、リヒト」

「は……はい、レインズ」

「こぉのっっ! どアホ! 様をつけろ!」

 さっきから窓の外で話を聞いている騎士、たしかアダムとか言ったが、そいつがいちいち話に入ってきてうるさい。
 本人はどちらでも良さそうだが、仕方ないのでレインズ様と呼び直した。

 どうやら心の広いご主人様のようだ。
 まだ空を飛んでいる感覚がするので、俺はレインズから離れられなくてガッシリしがみついていた。レインズは無表情だが怒る風でもなく指だけ楽しそうに俺の髪に絡めて遊んでいた。

 しばらくしてガタンとまた馬車が揺れたので、どうやらまた地面に戻ったようだ。
 レインズの胸から顔を上げて外を見たら、広い野原が横に流れているのが見えて、やっとまともに息が吸えるようになった。

「よかった……、俺、高いのは苦手なんです。すみません、とんだご無礼を……」

 さっとハンカチを出してきたレインズは俺の涙を拭き取ってしまった。
 ずっと無表情ではあるのだが、さっきからやることがスマート過ぎてキュンとしてしまう。
 あれ、これスパダリじゃねと軽い錯覚を覚えて目眩がした。

「……何か嫌な思いでもしたのか?」

 話のついでなのか、レインズが俺のことを質問してきたので、少し驚いてしまった。どうせ大した興味などないだろうと思いながら、ショック状態で素直な俺は口を開いた。

「俺、子供の時、周りとはあまり溶け込めなくて……、一人だけ好きなものが違ったりとかでバカにされてイジメられてたんです。ある時、木に登ってみろって命令されて、やらないと殴られるし……頑張って登ったら、降りれなくなって……気が付いたらみんな逃げちゃって。真っ暗になっても誰も助けに来てくれなくて……」

 話しながら昔のことを思い出して胸が痛くなってしまった。
 日が暮れて夜になっても誰も探しに来てくれなかった。
 両親は遅くまで働いていたから、いつも一人で帰って夕飯をチンして食べていた。
 だからかなり遅くなるまで誰も気が付かないだろうと木の上で絶望していた。
 いつも俺を探しに来てくれた人は遠いところへ行ってしまった。
 俺がヒーローなら、悪いやつをぶっ倒して……俺がヒーローなら……

「結局、力尽きて落ちちゃったんです。両親には怒られるし、はははっ、ダサい話ですよね。それ以来、高い所は……」

「頑張ったんだな。リヒトは、強い子だった」

 トクンと心臓が鳴った。
 俺の髪を撫でる指先、背中に回された腕の力強さ。
 全てが俺の胸を熱くさせていく。

 ぽたり。

 おかしい、さっき拭いてもらったばかりなのに。
 また頬が濡れてしまった。
 さっきのとは違い、それはやけに熱く感じた。

 会ったばかりのよく知らない男。
 それなのに……、あの時欲しかった言葉を……なぜこんな男が……。

「……ところで、リヒトをいじめたヤツらの名前は覚えているか?」

「……え? なんでですか?」

「大したことではない。純粋な興味だ」

「レインズ様、無駄な殺傷はおやめください。リヒト、あまりレインズ様を刺激しないように」

 よく分からないがアダムがまた話に入ってきて、レインズと目で会話をしていた。
 ブンブンと首を振って怖い顔をしたアダムに、レインズはため息をついて視線を逸らした。

 上司と部下か友人か、今日会ったばかりの俺には全く読めない空気だった。

 俺はそこであることに気がついて、二人が気づかないくらい小さく息を吸い込んだ。

 リヒト、と。
 ずっと俺のことを奴隷と呼んでいたアダムが、俺のことをリヒトと呼んだことに気がついた。

 コイツらはこれから騙して成敗してやろうという悪人達だ。

 それなのに。
 なぜか胸がくすぐったくなって、だめだだめだと思いながら、俺はレインズの膝の上から降りて反対側の席に戻った。

 わけの分からない感情を押し込めようと必死に扉を閉めた。





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