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第一章

(26)千年の思い

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 唇が震えて上手く声が出て来なかった。
 それでも私は前を見据えたまま、その名を呼んだ。

「………ラン…来て」

「おい、何をブツブツと気味の悪い……」

「ベル……助けて……」

 黒服の男はついに私の目の前に来てしまった。手を高く持ち上げてガッと指を開いてから私の頭に向かって振り下ろして来た。
 ぐしゃりと髪の毛を掴まれて、痛みが走った。そのまま床に引き倒されそうになった私はお腹に力を入れた。

「ベルトラン!!」

 私はハッキリと大きな声でその名を呼んだ。

 男の姿がスローモーションように見えて、思わず目を瞑ったその時、聞こえてきたのは男のふざけた笑い声ではなく、耳をつんざくような悲鳴だった。

「ううううぉぉぉぉ!! う…腕…腕がぁぁーーー!!」

 目を開けると、目の前には辺り一面、真っ黒な炎が広がっていた。
 私を掴んでいた男は、その腕ごと黒い炎が巻きつくように燃えていて、叫びながら床をのたうち回っていた。

「……遅い。あの三人が部屋に入ってきた時点でさっさと呼べ」

「あぁ…………ぁ……」

 私の耳に聞こえてきたのは、一月ぶりに胸に響く声だった。
 早く会いたいと願っていたのに、いざ耳にしたらまるで幻のように消えてしまいそうで怖くなった。

「い…つから……見ていたの?」

「眠りにつく前に意識だけ切り離して残しておいた」

「……何度も……呼んでいたのに……」

「……体の回復が遅くてな。やっと動くようになった。…悪かったな」

「……いいよ。……ベルトランは何も悪くない。私、怒っていないよ。だから、お願い……どこにいるの? 姿を……見せてよ」

「もう、ここにいる」

 私の周りにボアっと黒い炎が舞って、目の前に回された腕が見えた。
 背中に温かさを感じで、後ろから抱きしめられているのだと分かった。

「…ベルトラン」

「アリサ…待たせた…」

 首を持ち上げて後ろを向くと、大人の姿のベルトランの顔がすぐ目の前にあった。
 私の長い黒髪とベルトランの黒髪が混じってどちらのものだか分からない。
 その黒髪を邪魔だとかき分けるように、ベルトランの顔が近づいてきて私の唇を奪った。

「…んっ…はぁ…ぁ…」

 ぴちゃぴちゃと水音を立てながら、ベルトランが吸い付いてくる。熱のかたまりのような舌に自分の舌を絡ませて夢中で受け止めた。
 どちらとも分からない唾液が私の口の端から流れ落ちていき、首元まで垂れていった。

 完全に二人の世界に入っていたが、ベルトランは私を襲った男を許さなかった。
 私を掴んでいた男は、すでに腕を焼かれていたが、その炎は消えることなくどんどん大きくなり男の体を全て焼き尽くしてしまった。

 残りの二人は仲間を見捨てて、体についた炎を必死ではらいながら、転がるように部屋から逃げていってしまった。

 ベルトランがピンと指を弾くと、黒い炎はまるで水がかけられたかのように、ピタッと消えて無くなってしまった。
 元からただの火ではなかったのだろう。
 部屋の中のものは一つも燃えていない。床に残っていた男の残骸は灰になった後、消えてしまった。

 全てのことを私とキスをしながらやってしまうベルトランは絶好調で恐ろしかった。






「べ…ベルトラン、ま…待って…てば……」

 病み上がりのくせに絶好調過ぎるのか、ベルトランは破るように自分の上の服を脱ぎ捨てて、私をベッドまで運んでしまった。

「どうしてだ? やっと白魔力が完成したんだ。もう、遠慮することなく、アリサを抱けるのだから……。それともまだ待たせるのか?」

「だっ……だって、この行為は……私の体の治療みたいなもの……でしょう?」

「………そうだ」

「だったら…ベルトランは起きたばかりだから心配だし、私はまだ大丈夫だから……」

 無理に魔力吸いをやり続けたことで、ベルトランはディープスリープに入ってしまったのだ。やっと回復したと言うのに、無理はして欲しくなかった。
 私の心配をよそに、ベルトランはムッとした顔になって、ベッドに寝転んだ私の上に覆い被さってきた。

「ヨハネスにはあんなに吸わせておいて、俺には吸血させないつもりか?」

 そこで私は先ほどベルトランが、眠る前に意識だけ置いておいたという話を思い出した。それがどの程度の役割があるものか分からないが、男達が部屋に入ってきたところを見ていたとなると、ある程度見えるということなのかと想像した。

「も…もしかして、私と…ヨハネス様のも……その」

「邪魔されたからハッキリとは見えなかったが、何があったかはだいたい分かる。アイツが義理堅く、大事なものを残していることも……」

 まさかハッキリしないとは言え、見られていたなんて私は動揺して真っ赤になった。
 治療だとしても、ひどく声を上げて乱れてしまったところを見られていたなんて恥ずかしくてたまらなかった。

「今宵、俺がアリサの全てをもらう」

「え……」

 自分の服は引きちぎったくせに、ベルトランは丁寧に私のドレスの紐を解いて、ゆっくりと前を開けた。
 下着ごと取り払われて私の白い裸体が露わになると、ベルトランの赤い瞳は燃え上がるように輝いて、私の全身を見下ろしてきた。

「綺麗だ……アリサ……」

 荒々しくベッドへ運んだくせに、まるで壊れものでも扱うかのように、ベルトランは顔を近づけてきて私の首筋を舐めた。
 猫のベルトランかと思うくらい、ペロペロと丁寧に下に向かってゆっくりと舐めながら、大きな手は胸を包み込んで揉んでいく。柔らかさを確かめるように、そしてここも壊れもののように優しく手を這わせられるので、私は甘いくすぐったさに震えた。

「ここは? 指は入れられていたな」

「なっ…!!」

 見えないと言いつつ、しっかり見ていたじゃないかと動揺する私を構うことなく、上から私の体にずっとキス落としてきたベルトランはついに下半身まで降りてきてしまった。

「あ…うそ……だっ…だめ! 汚いから……ひっ……あっ……うそっ…! んんっぁぁ!」

 丁寧な舌使いは急に大胆になり、ベルトランは私の秘所に舌を這わせてしまった。
 信じられない光景に頭を押して離そうとするが、そうするとガッツリと太ももを掴まれて、激しく舌を動かしてくるので、手の力は抜けて、突き抜ける快感に体を反ってびくびくと腰を揺らしてしまった。

「イったな、アリサ。すっかり覚えたようだ。まったくこんなに妬けるとは…」

「はぁ…はぁ……ベルトラン……だ…め」

 ベルトランは今度は私の蜜壺に指を入れて、中の具合を確かめるように、蜜壁を擦ってきた。ヨハネスの指使いとは違う、これまた丁寧に中を広げるように動かしていく。

「ここに、俺のものが入るのは少しキツいかもしれない」

 翻弄されるままだったが、ここでチラリと見えたベルトランの下半身に、赤黒く聳え立つモノを見つけてしまい、私は思わず腰を引いた。
 確か一連の行為の中に、精を受けて中和するという説明を聞いていた。ヨハネスにもそれが一番効果的であるからと言われていたが、やはり目の前にすると腰が引けてしまう。

 怯えながら見上げた先に、ベルトランの赤い目が光っていた。しかし、いつも自信に満ち溢れているそこは、寂しげに揺れていたので、私の胸はぎゅっと掴まれたように痛くなった。

「……いいよ」

「…………」

「大丈夫だから……」

 私の声に背中を押されたのか、ベルトランはごくりと喉を鳴らした。
 私を寝かせたまま、膝を立たせた足を開いてベルトランはその間に座った。
 自身の怒張を持って、見せつけるように何度か擦った後、私の蜜口から溢れ出たものを塗りつけた。その滑りを利用して中に挿入っていこうするのだと分かった。

「ベルトラン…?」

「…………」

 ここまできて、なぜかベルトランは思い詰めたような表情になった。
 何か思うところがあるのか、思い出しているのか、感情が溢れ出すかのように、顔を震わせていて、涙こそ流れていなかったがまるで泣いているかのように思えた。

「アリサ……」

 思いを振り切るように目に力が入ったベルトランは、私の蜜口にあてがった自身をゆっくりと挿入してきた。

「あっ………くっ………」

 指とは比べものにならない圧倒的な存在感に、私の体は強張って力が抜けなくなった。ベルトランも無理やり押し広げるのは気が引けたのだろう。息を吐きながらいったん動くのをやめた。

「くっ…キツイな……、アリサ、白魔法はどのくらい使える?体の血の流れにそって、下半身に集中できるか?」

 想像以上の痛みに歯を食いしばって耐えていた私は言われた通りに、白い魔力を血に乗せて下半身に集めた。
 すると、今までじんじんと痛みがあったものが徐々に薄らいでいく。それによって強張っていた体の力も抜けた。

「いいぞ……上手だ、アリサ」

 激しい肉壁の抵抗が無くなったからか、ベルトランは息を吐きながら、どんどんと深く自身の挿入していき、額から流れ出た汗が私の頬を濡らすくらいになって、やっと全て収めたようだった。

「痛みは?」

「ん…す…少し……、でも、もっと別のものが……」

「別の?」

 私に問いかけながら、ベルトランは中に入っていた自身の引き抜いてまたぐっと奥まで押し込んだ。

「んっあああっっ」

「別の…なんだ?」

「あっ…だ……だめ、まだ…動いちゃ……」

 私の中にまた新しい快感が生まれた。それはずっと求めていた空っぽの空間が熱いもので満たされる喜び。
 白魔法で抑えつつもわずかに残る痛みがあったが、それを凌駕する快感が私の中で芽生えた瞬間だった。

「あっ……あ……んっ……んぁぁ……」

 私の反応で良しとしたのか、ベルトランは今まで耐えていたのを解放するように、ぐいぐいと腰を動かして奥深くをえぐるように突き入れてきた。
 ぬちゃぬちゃと卑猥な音が聞こえてきて、見せつけるように腰を高く持ち上げられた。
 ベルトランの陰茎が私の中に挿入っているところが見えてしまい思わず息を呑んだ。
 私の蜜壺から溢れ出た愛液は純潔に染まっていて、それが私のお腹まで流れていくのが見えてしまった。

「大丈夫だ…、そのうちコレが欲しくてたまらなくなる。別の男のモノを咥え込んでも、俺の形を覚えておくんだ」

「んっ……ふ……はぁ…はぁ……ぁっっ…」

 ぱんぱんと肌がぶつかる音が室内に響いていく。
 激しくなる抽送で上下に揺さぶられながら、うっすらと開いた目に、ベルトランの鋭く伸びた牙が見えた。
 突然ぎゅうぎゅうと締め付けられたからか、ベルトランは詰めたような声を上げて、ぽたりと汗を垂らした。

「かんで…かんで…ベル……ちょうだい…欲しいの……」

「っっ……、アリサっ。本能の反応だが…なんて……」

 牙を見ると私の頭はトロンと溶けてしまう。そして、いつもありえない台詞を言って求めてしまう。本能の反応、という言葉が頭をぐるぐると回っていた。

 一息ついてベルトランは我慢できないという顔になった後、今までで一番目をギラリと光らせた。そしてガッと口を開けて牙を出して、私の胸の上に噛みついた。

「あああああっっーーー!!」

 胸を反らしながら、ビクビクと揺れて私は蜜口を締め付けた。
 膣内にいるベルトランのものが、ぶるりと震えて次の瞬間熱いものが飛び散るように蜜壁を濡らしていくのが分かった。
 ベルトランが爆ぜて精が中に放たれたのだと分かるとこれ以上ないと思うほど満たされた気持ちになった。
 そして、ごくごくと音を立てながら吸血される快感に、夜を越えても喘ぎ続けた。

 どこもかしこも真っ赤に染められていく。
 何度も熱い飛沫を受けながら、私は今にも泣きそうだったベルトランの顔を思い出していた。

 初めて見た切ない表情が、忘れられそうになかった。






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