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第一章
(16)神殿へと続く道
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「女神イシスの加護がありますように」
全員並んで頭にぱらぱらと聖水をかけられて、お祈りの言葉を言われたのでとりあえず頭を下げた。
ベルトランは猫の姿のまま水をかけられたので、シャーっと威嚇するように口を開けた。ここまで来て帰れと言われたら困るので、私は慌ててベルトランを抱きしめて懐に入れた。
神殿区域に入るためにはまず、聖門と呼ばれる場所を通過する必要があった。人々の通行を管理している神官は全身白い服に身を包んでいた。
「話は聞いております。あなたが聖女様と一緒に召喚されたアリサ様ですね。神殿に入られたら、専用のお部屋を用意しておりますのでご安心ください」
案内に出て来てくれた神官に、これから先の道順について簡単な説明を受けた。
とは言っても一歩道なので迷うことはなさそうだ。
「実は転移者様について、特別な事情ができてしまったんだ。この件について、聖下に相談したいのだが……」
エドワードの言葉に穏やかに微笑んでいた神官は、わずかに眉を寄せた。
「申し訳ございませんが、聖下は滅多にお会い出来る方ではありません。今は不在ですが、戻ってきても次に聖域から出られるのは、聖女様がいらっしゃる時と聞いております。まずは神官長にご相談いただくのがよろしいかと」
神官は先程と同じく穏やかに話しているようだが、蔑むのような目つきをしていた。
お前達のような者が会える人ではないと語っているように思えた。
ここで議論しても仕方がないので、私達は大人しく聖門を過ぎて先に進むことにした。
「見たか、さっきのヤツ。バカにしたような顔しやがって、これだから神殿の野郎は嫌いなんだ」
門が見えなくなってから、綱を握るランスロットは、やっと話ができると言って怒りを表した。
「神殿にいるのは男も女もだいたいあんなヤツらだ。仕方ない、幼い頃から女神を崇拝し、聖下は女神の化身だとか教えられて育ったのだから、俗世の人間など低俗で穢れていると信じているんだ」
ベルトランが私の懐から抜け出して座席の上に飛び降りた。ペロペロと手足を舐めながら、淡々と帝国において、神殿とはどういうところなのか教えてくれた。
神殿は表向きは政治には関わりをもたないとしているが、実際は皇家の次に力を持っていて、国民のほとんどが、イシスの信仰者であり、毎年神殿に参拝に行くことが生活の一部になっているそうだ。
国を思い通りに動かそうとしたら、もしかしたら神殿の方が上手くいくのではとも揶揄されるくらいだとベルトランは言った。
「神殿に着いたら二人はいつまでいてくれるの?」
「とりあえず、アリサの状況を説明して、神官長の判断を仰ぐが、エルジョーカーの動きもあるから、しばらく砦付近で警戒任務に当たるかもしれない」
エドワードの言葉がじっとりと体に染み込んできた。
だんだんと神殿が近づいてくるということは別れを意味している。ベルトランは別として、エドワードとランスロットにもう会えないのかと思うと胸がざわざわと騒いで嫌な気分になった。
そんなこと、分かっていたはずなのに、寂しくて悲しい気持ちになってしまった。
「寂しい?」
「え!?」
頭の中を見透かされたようで私は驚いて真っ赤になった。
「一度離れたとしても、おそらく来月行われる聖女参拝の儀にはまた会えるから…」
対面に座っていたエドワードだが、するりと位置を変えて私の隣に座って来た。
私の頬を触り、熱のこもった目で耳元で囁かれたら、もっと顔が熱くなって湯気が上がりそうになった。
「……おい、エドワード。何してんだよ」
「何って……、アリサが寂しそうだったから、慰めていただけだよ」
ランスロットの呆れたような言葉に、当然のように答えて、エドワードは私の頭を撫でてきた。
おまけに、ね、アリサと言いながら頬に口付けられて私は顔から火を吹いて後ろに倒れそうになった。
町で姉妹ごっこをしてからエドワードとの距離がものすごい近くなった気がする。
女性恐怖症で触れるのが苦手だと言っていたのに、何かと頭を撫でてきたり、手を繋いできたりするのだ。
最初は他の二人が見ていない時だけだったが、最近は慣れたのかお構いなしに触れてくる。女性相手のリハビリのつもりなのか分からないが、その度に心臓がおかしくなりそうだった。
「おい、エドワード。お前がアリサを振り回すから、魔力の溜まりが早くなった」
見かねたのか、ベルトランが注意してきたが、エドワードは目を細めて微笑みながら間近で私の瞳を覗き込んできた。
「それなら俺が全部吸い取ってあげるから大丈夫だ。魔力は訓練でもよく使うし、俺の場合沢山あってこまるものじゃない」
「だっ…!!エドワードいい加減にしろ!っ……おっ…俺だって、次は俺が……!」
「ランスロット! 前! ちゃんと前見て!」
ランスロットが完全に後ろを向いてしまい、というか誰も前方を見ていないので、私が慌てて声を上げて前を向いてもらった。
両側は聖なる森が続き、ひたすら真っ直ぐな道が神殿までずっと伸びているが、たまに向こうから来た馬車とすれ違うので何かあったら大変なことになるところだった。
ほっとして前を向いたら、道のずっと先に今はまだ小さく見えるが、特徴的な白い建物が見えてきた。
あれがこの旅のゴールであり、イシス信仰の聖地、この国の象徴となっている大神殿だ。
貴族が成人を迎えたことを祝う聖人の儀というのも神殿で行われるらしく、その時期にはこの道が人で溢れると聞いた。
そして、一月後に行われるという聖女の初めての参拝、この道に多くの人が跪いて聖女の乗る馬車を迎える。
私も神殿に住む一人として同じように聖女を迎えるのだろう。
セイラは立派に聖女として輝いていて、私もその頃はこちらの生活にも慣れてきっと…。
ここまで考えてから私は頭についた泥を落とすみたいにブンブンと首を振った。
今から考えてもしょうがない。
神殿の最高峰である聖下は女神イシスの声が聞こえるらしい。もしかしたら、何か私にとって助かるようなお告げが下されるかもしれない。
今のところ私が頼れるような情報はそれしかなかった。
まるで西洋の美術館のような太くて長い支柱がズラリと並んだ真っ白な建物、それがイシス大神殿を初めて見た印象だった。
この世界で言うところの魔法建築という技術が使われているらしく、建物は汚れることがなく、ずっと白いままの状態が保たれるらしい。
その他にも、悪意を持つ者は入ることができない場所があるなど、魔法建築というのは色々と便利な機能があるらしい。
神殿に到着した私達は、入ってすぐの部屋に通された。この世界の連絡は、伝書魔法というものが使われていて、手紙や声をメッセージとして魔法に乗せて飛ばすことができる。上級魔法なので一般的な方法ではなく、限られたところでしか使われない。
正門からすでに私達が到着したと連絡が届いていたのだろう、すでにたくさんの人が集まっていた。
全員白い服装で揃っていて、神殿の関係者と見られた。
「初めまして、アリサ様。私はセレストと申します。五人いる神官長の一人です」
だいたい集まったのか、真ん中にいた男が前に出てきた。歳は私の父親と同じくらいだろうか。目が細くて人の良さそうな顔をした男だった。
「初めまして、お世話になります。アリサ・ハトと申します」
「アリサ様は女神イシスに選ばれて、聖女様と同じ世界からいらしたお方です。聖下より心を込めてお仕えするように承っておりますので、ご不便な点は遠慮なく仰ってください」
こちらが恐縮するくらい丁寧にお辞儀をされてしまった。もっと事務的に冷たく対応されるのではないかと思っていたので、驚きながらこちらもよろしくお願いしますと返した。
「こちらがアリサ様のお世話を担当する巫女見習いの………」
「えっ…! リル!?」
セレストの後ろから現れた女の子を見て、私はつい声を上げてしまった。
「違いまーす。私はミルです。皇宮で働いているのは姉のリルです。姉がお世話になりました。私達、双子なんです」
特徴的な赤毛の巻き髪で見た目はそっくりだったので、リルが瞬間移動でもしてきたのかと思ってしまった。
言われてみれば、リルは年齢にそぐわない落ち着きがあったが、ミルの方は無邪気な笑顔で明るい雰囲気に溢れていた。
「…えーゴホン。それではよろしいかな」
すっかりセレストの紹介を忘れて、ミルとこのまま世間話でも始めそうになってしまった。
セレストに苦笑されてしまい、二人でハイ! っと言いながらピシッと背筋を伸ばした。
「ここでの過ごし方はミルから説明を受けてください。……それでは他の方は戻ってください」
後ろに控えていた神殿の関係者達が顔合わせが終わったということでぞろぞろと部屋を出て行った。
部屋の中には、私と二人の騎士、猫のベルトラン、セレストとミルだけが残った。
「さて、私は古い血ですので、目眩しの魔法については気づいております。皇宮からは外見に問題ありと聞いておりますが……」
「その点については俺から説明しよう」
私の腕の中から床に降りて、ぶるぶると体を震わせたベルトランは、次の瞬間、子供のベルトランの姿に変わった。
「お……お前は……厄災の悪魔……」
「俺はアリサの守護者だ」
ベルトランの事は神殿でも知られているようだ。しかし、色々な呼ばれ方をする男だ。
「な…なんだと! 守護者だと……」
「アリサの問題は外見だけではない。彼女はミルドレッドの力を受け継いでいる」
理性的で穏やかな人に見えたが、セレストの顔が明らかに曇ったのが分かった。
皇宮が持て余した転移者、そしてかつての女王の力を受け継いでしまった女。
変化を嫌う神殿からしたら、完全な招かれざる客である。
一気に重くなった空気の中、ベルトランの説明が始まった。
これが終わった後になんと言われるのか、足元がぐらついて私の手は小さく震えていた。両端から伸びてきた二人の騎士の手が、それぞれ私の手を強く握ってくれた。
指先から伝わる温かさが、大丈夫だと言ってくれているように感じて、私はなんとか立っていることができた。
□□□
全員並んで頭にぱらぱらと聖水をかけられて、お祈りの言葉を言われたのでとりあえず頭を下げた。
ベルトランは猫の姿のまま水をかけられたので、シャーっと威嚇するように口を開けた。ここまで来て帰れと言われたら困るので、私は慌ててベルトランを抱きしめて懐に入れた。
神殿区域に入るためにはまず、聖門と呼ばれる場所を通過する必要があった。人々の通行を管理している神官は全身白い服に身を包んでいた。
「話は聞いております。あなたが聖女様と一緒に召喚されたアリサ様ですね。神殿に入られたら、専用のお部屋を用意しておりますのでご安心ください」
案内に出て来てくれた神官に、これから先の道順について簡単な説明を受けた。
とは言っても一歩道なので迷うことはなさそうだ。
「実は転移者様について、特別な事情ができてしまったんだ。この件について、聖下に相談したいのだが……」
エドワードの言葉に穏やかに微笑んでいた神官は、わずかに眉を寄せた。
「申し訳ございませんが、聖下は滅多にお会い出来る方ではありません。今は不在ですが、戻ってきても次に聖域から出られるのは、聖女様がいらっしゃる時と聞いております。まずは神官長にご相談いただくのがよろしいかと」
神官は先程と同じく穏やかに話しているようだが、蔑むのような目つきをしていた。
お前達のような者が会える人ではないと語っているように思えた。
ここで議論しても仕方がないので、私達は大人しく聖門を過ぎて先に進むことにした。
「見たか、さっきのヤツ。バカにしたような顔しやがって、これだから神殿の野郎は嫌いなんだ」
門が見えなくなってから、綱を握るランスロットは、やっと話ができると言って怒りを表した。
「神殿にいるのは男も女もだいたいあんなヤツらだ。仕方ない、幼い頃から女神を崇拝し、聖下は女神の化身だとか教えられて育ったのだから、俗世の人間など低俗で穢れていると信じているんだ」
ベルトランが私の懐から抜け出して座席の上に飛び降りた。ペロペロと手足を舐めながら、淡々と帝国において、神殿とはどういうところなのか教えてくれた。
神殿は表向きは政治には関わりをもたないとしているが、実際は皇家の次に力を持っていて、国民のほとんどが、イシスの信仰者であり、毎年神殿に参拝に行くことが生活の一部になっているそうだ。
国を思い通りに動かそうとしたら、もしかしたら神殿の方が上手くいくのではとも揶揄されるくらいだとベルトランは言った。
「神殿に着いたら二人はいつまでいてくれるの?」
「とりあえず、アリサの状況を説明して、神官長の判断を仰ぐが、エルジョーカーの動きもあるから、しばらく砦付近で警戒任務に当たるかもしれない」
エドワードの言葉がじっとりと体に染み込んできた。
だんだんと神殿が近づいてくるということは別れを意味している。ベルトランは別として、エドワードとランスロットにもう会えないのかと思うと胸がざわざわと騒いで嫌な気分になった。
そんなこと、分かっていたはずなのに、寂しくて悲しい気持ちになってしまった。
「寂しい?」
「え!?」
頭の中を見透かされたようで私は驚いて真っ赤になった。
「一度離れたとしても、おそらく来月行われる聖女参拝の儀にはまた会えるから…」
対面に座っていたエドワードだが、するりと位置を変えて私の隣に座って来た。
私の頬を触り、熱のこもった目で耳元で囁かれたら、もっと顔が熱くなって湯気が上がりそうになった。
「……おい、エドワード。何してんだよ」
「何って……、アリサが寂しそうだったから、慰めていただけだよ」
ランスロットの呆れたような言葉に、当然のように答えて、エドワードは私の頭を撫でてきた。
おまけに、ね、アリサと言いながら頬に口付けられて私は顔から火を吹いて後ろに倒れそうになった。
町で姉妹ごっこをしてからエドワードとの距離がものすごい近くなった気がする。
女性恐怖症で触れるのが苦手だと言っていたのに、何かと頭を撫でてきたり、手を繋いできたりするのだ。
最初は他の二人が見ていない時だけだったが、最近は慣れたのかお構いなしに触れてくる。女性相手のリハビリのつもりなのか分からないが、その度に心臓がおかしくなりそうだった。
「おい、エドワード。お前がアリサを振り回すから、魔力の溜まりが早くなった」
見かねたのか、ベルトランが注意してきたが、エドワードは目を細めて微笑みながら間近で私の瞳を覗き込んできた。
「それなら俺が全部吸い取ってあげるから大丈夫だ。魔力は訓練でもよく使うし、俺の場合沢山あってこまるものじゃない」
「だっ…!!エドワードいい加減にしろ!っ……おっ…俺だって、次は俺が……!」
「ランスロット! 前! ちゃんと前見て!」
ランスロットが完全に後ろを向いてしまい、というか誰も前方を見ていないので、私が慌てて声を上げて前を向いてもらった。
両側は聖なる森が続き、ひたすら真っ直ぐな道が神殿までずっと伸びているが、たまに向こうから来た馬車とすれ違うので何かあったら大変なことになるところだった。
ほっとして前を向いたら、道のずっと先に今はまだ小さく見えるが、特徴的な白い建物が見えてきた。
あれがこの旅のゴールであり、イシス信仰の聖地、この国の象徴となっている大神殿だ。
貴族が成人を迎えたことを祝う聖人の儀というのも神殿で行われるらしく、その時期にはこの道が人で溢れると聞いた。
そして、一月後に行われるという聖女の初めての参拝、この道に多くの人が跪いて聖女の乗る馬車を迎える。
私も神殿に住む一人として同じように聖女を迎えるのだろう。
セイラは立派に聖女として輝いていて、私もその頃はこちらの生活にも慣れてきっと…。
ここまで考えてから私は頭についた泥を落とすみたいにブンブンと首を振った。
今から考えてもしょうがない。
神殿の最高峰である聖下は女神イシスの声が聞こえるらしい。もしかしたら、何か私にとって助かるようなお告げが下されるかもしれない。
今のところ私が頼れるような情報はそれしかなかった。
まるで西洋の美術館のような太くて長い支柱がズラリと並んだ真っ白な建物、それがイシス大神殿を初めて見た印象だった。
この世界で言うところの魔法建築という技術が使われているらしく、建物は汚れることがなく、ずっと白いままの状態が保たれるらしい。
その他にも、悪意を持つ者は入ることができない場所があるなど、魔法建築というのは色々と便利な機能があるらしい。
神殿に到着した私達は、入ってすぐの部屋に通された。この世界の連絡は、伝書魔法というものが使われていて、手紙や声をメッセージとして魔法に乗せて飛ばすことができる。上級魔法なので一般的な方法ではなく、限られたところでしか使われない。
正門からすでに私達が到着したと連絡が届いていたのだろう、すでにたくさんの人が集まっていた。
全員白い服装で揃っていて、神殿の関係者と見られた。
「初めまして、アリサ様。私はセレストと申します。五人いる神官長の一人です」
だいたい集まったのか、真ん中にいた男が前に出てきた。歳は私の父親と同じくらいだろうか。目が細くて人の良さそうな顔をした男だった。
「初めまして、お世話になります。アリサ・ハトと申します」
「アリサ様は女神イシスに選ばれて、聖女様と同じ世界からいらしたお方です。聖下より心を込めてお仕えするように承っておりますので、ご不便な点は遠慮なく仰ってください」
こちらが恐縮するくらい丁寧にお辞儀をされてしまった。もっと事務的に冷たく対応されるのではないかと思っていたので、驚きながらこちらもよろしくお願いしますと返した。
「こちらがアリサ様のお世話を担当する巫女見習いの………」
「えっ…! リル!?」
セレストの後ろから現れた女の子を見て、私はつい声を上げてしまった。
「違いまーす。私はミルです。皇宮で働いているのは姉のリルです。姉がお世話になりました。私達、双子なんです」
特徴的な赤毛の巻き髪で見た目はそっくりだったので、リルが瞬間移動でもしてきたのかと思ってしまった。
言われてみれば、リルは年齢にそぐわない落ち着きがあったが、ミルの方は無邪気な笑顔で明るい雰囲気に溢れていた。
「…えーゴホン。それではよろしいかな」
すっかりセレストの紹介を忘れて、ミルとこのまま世間話でも始めそうになってしまった。
セレストに苦笑されてしまい、二人でハイ! っと言いながらピシッと背筋を伸ばした。
「ここでの過ごし方はミルから説明を受けてください。……それでは他の方は戻ってください」
後ろに控えていた神殿の関係者達が顔合わせが終わったということでぞろぞろと部屋を出て行った。
部屋の中には、私と二人の騎士、猫のベルトラン、セレストとミルだけが残った。
「さて、私は古い血ですので、目眩しの魔法については気づいております。皇宮からは外見に問題ありと聞いておりますが……」
「その点については俺から説明しよう」
私の腕の中から床に降りて、ぶるぶると体を震わせたベルトランは、次の瞬間、子供のベルトランの姿に変わった。
「お……お前は……厄災の悪魔……」
「俺はアリサの守護者だ」
ベルトランの事は神殿でも知られているようだ。しかし、色々な呼ばれ方をする男だ。
「な…なんだと! 守護者だと……」
「アリサの問題は外見だけではない。彼女はミルドレッドの力を受け継いでいる」
理性的で穏やかな人に見えたが、セレストの顔が明らかに曇ったのが分かった。
皇宮が持て余した転移者、そしてかつての女王の力を受け継いでしまった女。
変化を嫌う神殿からしたら、完全な招かれざる客である。
一気に重くなった空気の中、ベルトランの説明が始まった。
これが終わった後になんと言われるのか、足元がぐらついて私の手は小さく震えていた。両端から伸びてきた二人の騎士の手が、それぞれ私の手を強く握ってくれた。
指先から伝わる温かさが、大丈夫だと言ってくれているように感じて、私はなんとか立っていることができた。
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