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第二章

①消えたローリエ

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 招待状はシンプルなものだった。

 名前と、ぜひ二年の校舎にお越しください、お待ちしておりますとだけ記されていた。

(こんなに分かりやすいワナがあるのか。誰がいくかよ!)

 何かの証拠になるかもしれないので、一応持っておくことにしたが、まるで主人公が手紙を受け取る話のようで気味が悪い。

 もしかしたら、他の貴族達はこの方法で勧誘されたのかもしれない。ローリエも招待状を受け取ったかどうか聞いてみようと、リリアンヌはローリエを探しに教室を出た。


 □□□□□□□□□□□

「いない…」

 思い当たる所は探してみたが、ローリエの姿はいっこうに見つからない。

 ついには、ユージーンにも、参加してもらい、日暮れを過ぎて、暗くなるまで、あちこち見て回ったが、やはり見つからなかった。
 先に帰ったのかと部屋を訪ねたが、一度も帰って来ていないとメイドも慌てていた。

 翌日、自習状態の教室で、ローリエの姿はなかった。
 ぽっかりと空いた席を見つめて、リリアンヌはどうしたらいいのか全く思い付かずにいた。

 そんな時、エレーナが声をかけてきた。

「リリアンヌ様、私見たのです。ローリエ様は、見知らぬ者から手紙を受け取っていました。ローリエ様はそれを見て招待状だと言っていらっしゃいました。私、危険だとお止めしたのですが、リリアンヌ様には黙っておくように言われまして…」

「それいつのこと!?」

「一昨日の帰りです。私を宿舎まで送っていただく途中で、見知らぬ者からローリエ様だけ声をかけられました」

(どういうこと?なぜ私に話してくれなかったの。心配をかけたくなかったから?昨日調べることがあると言っていたのは、そのことだったの…)

「教えてくれてありがとうエレーナ」

「気を落とさないでください。きっとすぐ戻られますよ」

(どうしよう、どうしたらいい…ローリエを助けに二年の校舎へ行かないと。どうやって侵入しようか?それに行くにしても、まずアルフレッドに相談しないと)

 その時、タイミング良く、教室の入り口にユージーンが現れた。

「姉様!アレックス・グリーンが見つかったよ。談話室に集合!」

 すぐに、エレーナとエリザベスに声をかけて、一行は談話室に急いだ。


 □□□


「結論から言うと、やはり二学年の校舎にいるらしい。しかし幽閉されているわけではなく、本人の意思だそうだ。俺もまだ直接本人に確認したわけではないが、探っていたら友を名乗る人物から接触があった」

「それはまた、怪しいですね」

「今のところ手掛かりはそれだけ。その友人の手引きで、アレックスに今日会うことになった。場所は道具室だ。こっちの校舎だからこちらも動きやすいし危険も少ない」

「その、アルフレッド様お一人で会われるのですか?」

 エレーナが心配そうにアルフレッドの袖に触れる。

「いや、フェル兄さんと一緒だ。向こうが指定してきた。上司だからな、謝る気持ちがあるのかもしれない」

 フェルナンドもと聞いて、胸が苦しくなった。

「私も一緒にいてはだめでしょうか。ローリエが消えてしまった事もあってどうしても心配で」

「ローリエの事は聞いたよ。すぐに探してやりたいところだが、まずはアレックスから何か証言が取れないか確かめる必要がある。申し訳ないが向こうもかなり慎重になっていて、人数が増えるのはヤバいんだ。ここは辛抱して俺たちに任せてくれ」

「分かりました。どうかお気を付けて、良い報告を待っております」

 何もできない事に気持ちは落ち込むばかり、ユージーンに肩を支えられて何とか足元を落ち着かせるので精一杯だった。

 一同は解散し、教室でそれぞれ待つことになった。

(あっ、招待状のこと言い忘れた)

 戻ってから思い出したが、今さら誰も気にしないだろう。
 教室内の人数は減ってばかり、だいぶ少なくなった。
 信者として行ってしまった者もいるが、宿舎に残って登校せずに事態が収まるのを待つ者がほとんどだ。

(あーーー!気になる。もうずいぶんや時間がたったけどどうなったの?)

 エレーナもやきもきしているかと見てみたが、席にはいなかった。
 いつも一緒にいるはずのエリザベスは机に突っ伏して寝ている。

「エリザベス!!エリーナはどうしたの!?」

 慌てて揺り起こしてみると、エリザベスはゆっくり目を開いた。

「ん…あ…、リリアンヌさん?私急に眠くなってしまって…、大変!エレーナ!きっと殿下が心配で見に行ってしまったのよ!!」

 その時、キャーーーーーー!!!という耳を劈くような女の悲鳴が聞こえた。
 まさか、エレーナと思い、エリザベスと目があった。

「リリアンヌさん!」

「ええ、行きましょう。道具室は三年の階の一番奥の部屋ね」



 □□□□□□□□□□□


 三年の階の廊下は人でごった返していた。
 先へ進めないように、途中で止められていて、バタバタと教員達が出入りしていた。

「おい、誰か怪我をしたらしいぞ」

「血がすごいって・・・」

 人だかりから、そんな話が漏れてきて、リリアンヌは生きた心地がしない。

(まさか…嘘でしょ…フェルナンド)

「これより、騎士団の調査がはいる!、生徒達諸君は自分の教室へ戻りなさい!!」

 ついに、サファイアの騎士団のが調査に入ることになったようだ。学園内で重大事件が起きた時にしか、介入しないはずだ。

(という事はやはり……なにか、良くないことが起きているんだ)

 皆、強制的に教室に戻された。少しでも近づきたくて、一人で騒いでねばったけど、騎士団の体躯のいい男に担ぎ上げられて、連れていかれてしまった。

「悪いね!レディにこんな真似したくないんだが、これも仕事なんだ。教室で大人しくしていてくれ」

 騎士団の重そうな西洋甲冑をつけながら、リリアンヌを担ぎ上げるとは、その腕力に驚いた。

「なにがあったのか、教えてくれませんか?中に…大切な方がいたのです…」

「それは、うちの王子の事かな?」

「いいえ、アレンスデーンの王太子です…あの、アルフレッド様も一応心配ですが…」

 教室へつくと、騎士団の男はリリアンヌを下ろした。
 兜を外した男は、燃えるような赤い髪に、緑の瞳で、目付きが鋭く少し強面だか、笑うと優しい印象を受けた。

「うちの王子も一応心配してくれて良かった。安心しな、王子は二人とも無事だ」

 安心して気が抜けて、膝から崩れ落ちそうになるのを、おっとと言いながら、男が支えてくれた。

「俺はレオンハルト・サイロス、サファイア騎士団の副団長だ。レオンと呼んでくれ。貴女はリリアンヌ嬢だろう」

「え?ええ。レオン…なぜ私の名を?」

「王子達から多分困っている美人がいると思うから、丁寧に保護するように言われてな。それにしても、アレンスデーンの王子はそうとうご機嫌が悪かったぞ」
 
 レオンは何故か寒そうにして、顔を震わせた。

「その、中で何があったのですか?なぜお二人に会えないのですか?」

「あぁ、それなんだか。ちょっと厄介な事になってな。お二人は身がらを拘束させてもらう事になった」

 一度ひいた嫌な汗が、また再びじっとりと背中を流れていくのを感じた。


 □□□
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