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最終章 儚き薔薇は……
最終話② ゾウの夢を見る。
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「シリウス、大丈夫? 動くよ」
「……んっ……うん」
長い間、繋がって抱き合ったまま動かなかった。
今まで離れていた時間を少しずつうめていくように、じっくりとお互いの熱を感じていた。
俺はまだくっ付いていたかったけど、アスランは限界のようで、さっきから中でどんどん硬くなっていくのを感じた。
我慢できなくて、わずかに腰を動かしている姿が可愛いなと思ってしまった。
思えばアスランに初めて会った時、その透き通るような美しさに魅了された。
儚げに細められた目元を見て、ドクドクと心臓が高鳴った。
あの時も、なんて可愛いんだと思った。
その面影を少し残したまま、規格外の屈強な男に成長してしまったが、それでも可愛いと思ってしまうのだから困ったものだ。
アスランはいつだって、可愛くて愛おしい人。
初めて一つになれたこの日を忘れない。
アスランのおかげで、最高に気持ち良くて幸せだ。
最高に……
………
「あ……アスラ……あの?」
「ん?」
「あ……足が……」
「大丈夫、ちゃんと支えているから」
さっきまでベッドに寝転んでいたのに、アスランに持ち上げられてしまった。
しかも繋がったままの状態で、足がブラブラと宙に浮いていた。
明らかに初心者がやるやつではないと焦ったが、アスランはそんなことはどうでもいいと、興奮しきった顔で俺を揺さぶり始めた。
「うわっ……ァァ……、あっ……すごいっ、おくに……あっんんんっ」
「すごっ……これ、どうなってんの? シリウスの中、やばっ……吸い取られる……おかしくなる」
「ひっ、んっ、はぁ、あっあっ、ふっ……ああっ、だめっ……とんじゃ……」
背中に壁が当たっている。
そのひんやりとした冷たさも、俺の背中に擦られて、すっかり熱を持ってしまった。
相変わらず俺を抱えたまま、アスランは俺の腰を持って激しくピストンを繰り返してくる。
不安定な体位で頼りになるのはアスランだけ。
快感で意識が飛びそうになりながら、必死にアスランにしがみつくと、アスランは興奮するのか、中のモノがどんどん大きくなった。
「……んっ、ふっ……一回……射精していい?」
「あっ、あっ……ふぁ……わっ……んああっ」
俺の耳を舐めながらアスランが限界を訴えてきたが、もうまともに答えることなどできなかった。
涎を垂らして快感に喘ぎ続ける俺は、自分がいつイったのかも分からないほどで、霞む視界にはアスランの胸に飛び散った白いモノが見えた。
「シリウス……んっ、んんんっっあぁ……っっ!」
ひときわ大きく奥深くに打ちつけたアスランは、ぶるりと体を震わせて、俺の中に放った。
どくどくと大量に注ぎ込まれる感覚を受けたら、俺も腰を揺らしてまた達してしまった。
「……まだ、……足りない……足りないよ、シリウス」
今までの思いを込めるように、アスランのモノは少しも落ち着くことはなく、めりめりと俺の中を押し広げて、再び律動が始まった。
「アスラ……せめて、べ……ベッドに……」
「やだっ、離さない! 離したくない!!」
初めてからこんな離れ業をしなくてもいいと思うのに、アスランに懇願されるように言われたら、だめだと言えなくなってしまった。
突然俺が消えてしまい、俺も不安だったが、アスランはもっと不安で苦しかったのだろう。
アスランから、焦りや不安のようなものを感じた俺は、仕方がないとアスランの頭を抱きしめた。
「じゃあ、もっと……ゆっくり……して」
「んっ、シリウス……愛してる」
「うん、俺も」
ゆっくり顔を上げたアスランの唇を、すかさず俺の唇で塞ぐようにキスをした。
アスランの中のモノ丸ごと俺が包み込んで温めてあげよう。
熱くて溶けそうなモノも、小さな焦りや不安も……
全部、俺が大切に抱きしめてあげよう。
これから先も、ずっと。
「しかし、持ち上げたままで疲れないのか?」
「全然、このまま朝までヤリ続けようね」
「ゔええ!?」
「大丈夫、終わったら元に戻しておくから」
「へ? 戻すって……え?」
「さっ、たくさんしよう!」
「まっ……待って、まって……あっ……ちょっ……あっ、ああっ」
この日、気を遣った邸の者達は、俺の部屋には近付かなかったという。
おかげでなんの邪魔も入ることなく、本当に朝まですることになり、ベッドで気がついた時もまだ入ったままだったという、考えられない初めての朝を迎えることになった。
翌朝も、これまた気を遣った兄と父親は、朝早くから仕事へ行ってしまい、顔を合わせる使用人達に、おめでとうおめでとうと言われることになってしまった。
何とも恥ずかしい一日となった。
茜色の空。
沈みゆく夕日を見ながら、あとどれくらい、こんな美しい景色を眺めることができるのだろうとぼんやり考える。
アスランとともに色々な国をまわる中で、いつもそう考えてしまう。
寂しく思えてしまうのは、今が幸せだからだ。
二人きりで夢のような時間を過ごしていると、かつての俺だった時のように、突然その日々が消えてしまうような不安に襲われて立ち止まってしまうことがある。
「シリウス、宿が取れたよ」
一人で小高い丘に座っていたら、走ってくる足音と、アスランの弾むような声が聞こえた。
「それは楽しみだな」
長い外套を翻しながら、俺はアスランに向かって微笑んだ。
二人きりで旅をするようになって、もう三年が経つ。
アスランの移動能力には制約があり、一度訪れた地でないと、直接移動することができない。
だから、大体の場所まで移動してから目的の地を目指す、それが俺達の旅だった。
「サザン高地は寒いって聞いたから、明日は町で防寒着を買って行こうね。シリウスは寒がりだし」
「ああ、そうしよう。これが終わったら、一度帝国に戻ってゆっくりしよう。カノアからそろそろ頼むって連絡が来たからな」
貴族学校を卒業後、俺は世界を旅することを決めた。この世界の光として生まれてくるはずだったと、ゾウの神様に聞いてから、ずっと考えていたことだった。
聖力持ちは負の力の蓄積がやがて体を蝕んで、短命になってしまうと聞いていた。
俺にはその力を安定させて浄化する力があるらしく、それはわずかな触れ合いで効果があるようだ。
シュネイルの一件から、その情報を得た各国の聖力使いから依頼が舞い込むようになった。
そういうことなら、まとめて治していこうと、時々自国に帰りつつ、旅を続けている。
アスランは帝国の騎士団に所属しているが、特例として俺の警護役で一緒に旅をすることが許された。
しかし有事の際は、帝国のために働くこと、それが条件となっている。
アスランと同じ騎士団に所属しているカノアが、アスランの分も働いているらしい。
時々書類や仕事が溜まると、そろそろ戻れという連絡が来る。
アスランは無視するので、俺の元に次々と手紙が運ばれてくるというのが近頃定番になってしまった。
俺とアスランは卒業式の後、二人きりでゾウ神の教会で式を挙げた。
夫婦となり、この先の人生を共にすると誓い合ってから、離れることなくずっと二人で生きていきた。
それはこの上なく幸せで、アスランとともに世界を回る旅は、夢のような日々だった。
「はぁぁーー、疲れた。やっぱり我が家が一番いいわ」
行くまではどこも大変だが、戻る時はあっという間だ。
今回も、無事任務を果たして、帝国の邸に戻ってきた。
ブラッドフォード家の敷地内に、俺とアスランの新居が建てられていて、普段は主にこちらで生活している。
ちなみに兄のアルフォンスは、皇太子補佐官としての仕事が多忙を極めていて、ほとんど自宅には戻れず、独身で恋愛する暇もないと愚痴をこぼしている。
「あーあー、早速迎えのやつが来てるよ。あの様子だと、二、三日前からあそこに立っていたな」
窓から外を見たアスランは、頭に手を当ててため息をついていた。
アスランは聖騎士にこそならなかったが、アスランのような強い聖力持ちはとにかくどこにでも求められていて忙しい。
捕まえてこいと指示があれば、下っ端の騎士が何日でも待っているだろう。
俺が行ってこいと言うと、アスランはつかれたーと言いながら、デカい体を丸めて外へ出て行った。
「……まったく、人気者なんだから」
俺は邸に届いている手紙を整理しながら、友人達の近況を確認した。
リカードは帝国の諜報部、ニールソンは宰相である父親の下で働いている。
イクシオはなんと、イゼルと結婚したのだ。
イゼルの一目惚れで猛アタックの末、付き合うことになり、そのままゴールインした。
今は子だくさんで幸せな家庭を築いている。
シュネイルに嫁いだロティーナからも手紙が来ていた。
シュネイルは平和で豊かな国となり、安定した治世が続いている。
ロティーナもまた、ママとなり忙しくしているようだ。今度遊びに来て、ぜったいよと何度も書かれてきて、おかしくなって笑ってしまった。
それぞれみんな、新しい道を歩んでいるのを嬉しく思いながら、手紙の返事を書くのに一日を費やした。
その夜、アスランは帰って来なかった。
おそらく徹夜になるだろうからと聞いていたので、早めにベッドに潜り込んだ俺は、旅の疲れもあってすぐに眠りについた。
シ………
シ……ウス
シリウス
頭の中に響く声が聞こえて、目を開けると、そこはいつか夢で見た草原だった。
一人で青い草の中に座り込んで、俺は空を見上げていた。
「これは……あの夢? もう見ないと思っていたのに……」
言っただろう
また会おうと……
「ゾウの神様? また会いに来てくれたの?」
そうだ。
世界を旅して、希望の光として頑張っているな
「自分ひとりではとても……、アスランがいてくれるから」
ああ、仲良くやっているようで良かった
二人ならこれからもっと忙しくなっても大丈夫だろう
「もっと忙しく……? 結構色んな所へ行きましたけど、確かにまだ全部の国は……」
幸せを運んでくる、そう言っただろう
おめでとう、シリウス
「え?」
シリウスとアスラン
そして新たな光に……祝福を
ゾウの神様の言葉がよく分からなくて、聞き返そうとしたのに、俺は眩しい光に包まれた。
全身が温かくなって、再び目を開けるとそこは寝ていたベッドの上だった。
また夢を見たのかと思ったが、驚くことにお腹の上が光っていて、その光が丸い玉のようになってぷかぷかと浮かんでいるのが見えた。
「こ、これは……まだ、夢のつづき?」
抱えられるくらいのボールみたいな大きさの光は、少し揺れながら浮かんでいて、思わず指でツンツン突いてみたが形は変わらなかった。
その時、ガチャリと音がして誰かが部屋に入ってくる気配がした。
明け方の時間、この部屋に帰ってくるのはアスランしかいない。
「アスラン!!」
「うわっ、シリウス! 起きていたの? もしかして起こした? ごめんね、カノンのヤツに山のような書類を……」
「ちょっ、こっちに来て! 変なのが……」
その声はやはりアスランで、のんびり話し始めたので、シリウスは急いで来てくれと頼んだ。
アスランはすぐに鞄をドカリと音を立てて落としたあと、足音を鳴らしながら部屋を走ってきて天蓋を勢いよくめくった。
「これは………」
「どうしよう! これ、何? なんか変な光の玉がふわふわしていて……」
「シリウス、夢を見た?」
「へ?」
「ゾウ神の……ゾウ妖精を感じる夢だよ」
なぜアスランが俺の見てきた夢を知っているのかと一瞬驚いたが、ゾウ神はこの世界の神で、ゾウ神の夢を見ることは吉報を表すという意味だと聞いたことがあった。
「見た」
「シリウス!!」
アスランが興奮したように叫んで、ベッドに飛び乗ったので、その巨体の重さで俺は二回くらいバウンドした。
「早く、早く!」
「な、何?」
「こうやって、二人で光の玉を抱きしめるんだ。二人じゃなきゃだめなんだよ」
「二人? 抱きしめる……」
そこで俺はやっとどういう意味なのか理解した。
この世界は男同士でも子を授かることができる。
ゾウ神に認められたカップルの元に、ゾウの妖精が子を届けてくれるというファンタジーなシステムだった。
かつて受けたレッスンでも、子を授かる時のことはその時に知ってくれと軽く流されたので、そういうものかと考えていた。
いつかその時が来るのかな、なんてぼんやり考えていたのだが、それが今なのだとようやく線が繋がった。
「どうすればいい? 俺がこっちから?」
「二人で一緒に触れればいいと教えてもらったんだ。ほら、両側から抱っこしよう」
向かい合った俺とアスランは、二人で一緒に光の玉を抱えるようにして抱きしめた。
そうするとぼんやりした光だったものが、ぶわっと洪水のように光り始めて、その眩しさに思わず目をつぶってしまった。
「目を開けて、シリウス。俺達の光だ。最高に可愛いよ」
恐る恐るゆっくりと目を開けた。
目の前には生まれたばかりの小さな赤ん坊が、スヤスヤと眠っていた。
まだ周りに光を纏っていたが、やがて世界に馴染むようにそれは消えていった。
「これ……この子は……」
「ああ、俺とシリウスの子供だよ」
こんな風に子供を授かるなんて、まるでファンタジーを超えて、宇宙に飛び出したような不思議な気持ちになってしまったが、口元をもぐもぐしながら眠る我が子を見たら、だんだん実感が湧いてきて目頭が熱くなってきた。
「わっ……柔らか……壊しちゃいそう、わぁ、アスランと同じ銀髪だ。可愛いなぁ……ええと、ミルク? お、オムツとかあるのか? 誰か呼んで……」
実感が湧いたらそれはそれでパニックになって慌て出した。
アスランはひとりで冷静なのかと思ったら、プルプルと赤ん坊を持つ手が震えていたので、顔を上げるとアスランはボロボロに泣いていた。
「どゔじよゔゔゔ、うう嬉し……シリウス……嬉しくて……」
「お、落ち着いてアスラン、いったん下そう。このままだと、この位置から落としちゃうから」
泣きながら腕をガタガタ震わせるので、落としたら大変だと、アスランに声をかけて、ゆっくりベッドの上に寝かせることに成功した。
「まず何か、着るものを」
さすがにこの部屋に赤ん坊の服などないので、誰か呼びに行こうとしたら、アスランがちょっと待ってと言って俺の腕を掴んできた。
「まずは挨拶しないとね」
アスランの言葉にハッとして、慌てていた気持ちが少し落ち着いた。
赤ん坊を挟んでベッドに寝転んだ俺達は、柔らかなおでこを指で優しく撫でた。
「はじめまして。俺たちの元に来てくれてありがとう。これからよろしくね」
そう言って、二人で一緒に赤ん坊のおでこにキスをした。
ゾウの神様の運んでくれた幸せ。
その幸せに精一杯感謝をして、これから大切に守り慈しんで立派に育てますと心の中で誓った。
目を閉じた俺はこの気持ちが、ゾウ神に届くようにと願った。
最高の幸せをありがとうございます
これから力強く羽ばたくように生きていきます
ひとりじゃない
大切な人達とともに
「うわっっ、なんか飛び出た!!」
「えっ……、あぁーーそうかぁ、君は男の子だったのか。元気な子だ」
「わわっ、とりあえずこのハンカチで拭いて、後はタオル、服、ミルク、玩具はどこ!?」
「玩具はまだいらないんじゃ……」
慌てて飛び起きたアスランは、勢いよく部屋を飛び出して行った後、使用人達をみんな起こして引き連れて、必要なお世話セットと、どこにあったのかベビーベッドと、山ほどの玩具を抱えてアスランは戻ってきた。
そんな光景を、本当に忙しくなるなと思いながら、俺は笑って眺めていた。
□終□
「……んっ……うん」
長い間、繋がって抱き合ったまま動かなかった。
今まで離れていた時間を少しずつうめていくように、じっくりとお互いの熱を感じていた。
俺はまだくっ付いていたかったけど、アスランは限界のようで、さっきから中でどんどん硬くなっていくのを感じた。
我慢できなくて、わずかに腰を動かしている姿が可愛いなと思ってしまった。
思えばアスランに初めて会った時、その透き通るような美しさに魅了された。
儚げに細められた目元を見て、ドクドクと心臓が高鳴った。
あの時も、なんて可愛いんだと思った。
その面影を少し残したまま、規格外の屈強な男に成長してしまったが、それでも可愛いと思ってしまうのだから困ったものだ。
アスランはいつだって、可愛くて愛おしい人。
初めて一つになれたこの日を忘れない。
アスランのおかげで、最高に気持ち良くて幸せだ。
最高に……
………
「あ……アスラ……あの?」
「ん?」
「あ……足が……」
「大丈夫、ちゃんと支えているから」
さっきまでベッドに寝転んでいたのに、アスランに持ち上げられてしまった。
しかも繋がったままの状態で、足がブラブラと宙に浮いていた。
明らかに初心者がやるやつではないと焦ったが、アスランはそんなことはどうでもいいと、興奮しきった顔で俺を揺さぶり始めた。
「うわっ……ァァ……、あっ……すごいっ、おくに……あっんんんっ」
「すごっ……これ、どうなってんの? シリウスの中、やばっ……吸い取られる……おかしくなる」
「ひっ、んっ、はぁ、あっあっ、ふっ……ああっ、だめっ……とんじゃ……」
背中に壁が当たっている。
そのひんやりとした冷たさも、俺の背中に擦られて、すっかり熱を持ってしまった。
相変わらず俺を抱えたまま、アスランは俺の腰を持って激しくピストンを繰り返してくる。
不安定な体位で頼りになるのはアスランだけ。
快感で意識が飛びそうになりながら、必死にアスランにしがみつくと、アスランは興奮するのか、中のモノがどんどん大きくなった。
「……んっ、ふっ……一回……射精していい?」
「あっ、あっ……ふぁ……わっ……んああっ」
俺の耳を舐めながらアスランが限界を訴えてきたが、もうまともに答えることなどできなかった。
涎を垂らして快感に喘ぎ続ける俺は、自分がいつイったのかも分からないほどで、霞む視界にはアスランの胸に飛び散った白いモノが見えた。
「シリウス……んっ、んんんっっあぁ……っっ!」
ひときわ大きく奥深くに打ちつけたアスランは、ぶるりと体を震わせて、俺の中に放った。
どくどくと大量に注ぎ込まれる感覚を受けたら、俺も腰を揺らしてまた達してしまった。
「……まだ、……足りない……足りないよ、シリウス」
今までの思いを込めるように、アスランのモノは少しも落ち着くことはなく、めりめりと俺の中を押し広げて、再び律動が始まった。
「アスラ……せめて、べ……ベッドに……」
「やだっ、離さない! 離したくない!!」
初めてからこんな離れ業をしなくてもいいと思うのに、アスランに懇願されるように言われたら、だめだと言えなくなってしまった。
突然俺が消えてしまい、俺も不安だったが、アスランはもっと不安で苦しかったのだろう。
アスランから、焦りや不安のようなものを感じた俺は、仕方がないとアスランの頭を抱きしめた。
「じゃあ、もっと……ゆっくり……して」
「んっ、シリウス……愛してる」
「うん、俺も」
ゆっくり顔を上げたアスランの唇を、すかさず俺の唇で塞ぐようにキスをした。
アスランの中のモノ丸ごと俺が包み込んで温めてあげよう。
熱くて溶けそうなモノも、小さな焦りや不安も……
全部、俺が大切に抱きしめてあげよう。
これから先も、ずっと。
「しかし、持ち上げたままで疲れないのか?」
「全然、このまま朝までヤリ続けようね」
「ゔええ!?」
「大丈夫、終わったら元に戻しておくから」
「へ? 戻すって……え?」
「さっ、たくさんしよう!」
「まっ……待って、まって……あっ……ちょっ……あっ、ああっ」
この日、気を遣った邸の者達は、俺の部屋には近付かなかったという。
おかげでなんの邪魔も入ることなく、本当に朝まですることになり、ベッドで気がついた時もまだ入ったままだったという、考えられない初めての朝を迎えることになった。
翌朝も、これまた気を遣った兄と父親は、朝早くから仕事へ行ってしまい、顔を合わせる使用人達に、おめでとうおめでとうと言われることになってしまった。
何とも恥ずかしい一日となった。
茜色の空。
沈みゆく夕日を見ながら、あとどれくらい、こんな美しい景色を眺めることができるのだろうとぼんやり考える。
アスランとともに色々な国をまわる中で、いつもそう考えてしまう。
寂しく思えてしまうのは、今が幸せだからだ。
二人きりで夢のような時間を過ごしていると、かつての俺だった時のように、突然その日々が消えてしまうような不安に襲われて立ち止まってしまうことがある。
「シリウス、宿が取れたよ」
一人で小高い丘に座っていたら、走ってくる足音と、アスランの弾むような声が聞こえた。
「それは楽しみだな」
長い外套を翻しながら、俺はアスランに向かって微笑んだ。
二人きりで旅をするようになって、もう三年が経つ。
アスランの移動能力には制約があり、一度訪れた地でないと、直接移動することができない。
だから、大体の場所まで移動してから目的の地を目指す、それが俺達の旅だった。
「サザン高地は寒いって聞いたから、明日は町で防寒着を買って行こうね。シリウスは寒がりだし」
「ああ、そうしよう。これが終わったら、一度帝国に戻ってゆっくりしよう。カノアからそろそろ頼むって連絡が来たからな」
貴族学校を卒業後、俺は世界を旅することを決めた。この世界の光として生まれてくるはずだったと、ゾウの神様に聞いてから、ずっと考えていたことだった。
聖力持ちは負の力の蓄積がやがて体を蝕んで、短命になってしまうと聞いていた。
俺にはその力を安定させて浄化する力があるらしく、それはわずかな触れ合いで効果があるようだ。
シュネイルの一件から、その情報を得た各国の聖力使いから依頼が舞い込むようになった。
そういうことなら、まとめて治していこうと、時々自国に帰りつつ、旅を続けている。
アスランは帝国の騎士団に所属しているが、特例として俺の警護役で一緒に旅をすることが許された。
しかし有事の際は、帝国のために働くこと、それが条件となっている。
アスランと同じ騎士団に所属しているカノアが、アスランの分も働いているらしい。
時々書類や仕事が溜まると、そろそろ戻れという連絡が来る。
アスランは無視するので、俺の元に次々と手紙が運ばれてくるというのが近頃定番になってしまった。
俺とアスランは卒業式の後、二人きりでゾウ神の教会で式を挙げた。
夫婦となり、この先の人生を共にすると誓い合ってから、離れることなくずっと二人で生きていきた。
それはこの上なく幸せで、アスランとともに世界を回る旅は、夢のような日々だった。
「はぁぁーー、疲れた。やっぱり我が家が一番いいわ」
行くまではどこも大変だが、戻る時はあっという間だ。
今回も、無事任務を果たして、帝国の邸に戻ってきた。
ブラッドフォード家の敷地内に、俺とアスランの新居が建てられていて、普段は主にこちらで生活している。
ちなみに兄のアルフォンスは、皇太子補佐官としての仕事が多忙を極めていて、ほとんど自宅には戻れず、独身で恋愛する暇もないと愚痴をこぼしている。
「あーあー、早速迎えのやつが来てるよ。あの様子だと、二、三日前からあそこに立っていたな」
窓から外を見たアスランは、頭に手を当ててため息をついていた。
アスランは聖騎士にこそならなかったが、アスランのような強い聖力持ちはとにかくどこにでも求められていて忙しい。
捕まえてこいと指示があれば、下っ端の騎士が何日でも待っているだろう。
俺が行ってこいと言うと、アスランはつかれたーと言いながら、デカい体を丸めて外へ出て行った。
「……まったく、人気者なんだから」
俺は邸に届いている手紙を整理しながら、友人達の近況を確認した。
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イクシオはなんと、イゼルと結婚したのだ。
イゼルの一目惚れで猛アタックの末、付き合うことになり、そのままゴールインした。
今は子だくさんで幸せな家庭を築いている。
シュネイルに嫁いだロティーナからも手紙が来ていた。
シュネイルは平和で豊かな国となり、安定した治世が続いている。
ロティーナもまた、ママとなり忙しくしているようだ。今度遊びに来て、ぜったいよと何度も書かれてきて、おかしくなって笑ってしまった。
それぞれみんな、新しい道を歩んでいるのを嬉しく思いながら、手紙の返事を書くのに一日を費やした。
その夜、アスランは帰って来なかった。
おそらく徹夜になるだろうからと聞いていたので、早めにベッドに潜り込んだ俺は、旅の疲れもあってすぐに眠りについた。
シ………
シ……ウス
シリウス
頭の中に響く声が聞こえて、目を開けると、そこはいつか夢で見た草原だった。
一人で青い草の中に座り込んで、俺は空を見上げていた。
「これは……あの夢? もう見ないと思っていたのに……」
言っただろう
また会おうと……
「ゾウの神様? また会いに来てくれたの?」
そうだ。
世界を旅して、希望の光として頑張っているな
「自分ひとりではとても……、アスランがいてくれるから」
ああ、仲良くやっているようで良かった
二人ならこれからもっと忙しくなっても大丈夫だろう
「もっと忙しく……? 結構色んな所へ行きましたけど、確かにまだ全部の国は……」
幸せを運んでくる、そう言っただろう
おめでとう、シリウス
「え?」
シリウスとアスラン
そして新たな光に……祝福を
ゾウの神様の言葉がよく分からなくて、聞き返そうとしたのに、俺は眩しい光に包まれた。
全身が温かくなって、再び目を開けるとそこは寝ていたベッドの上だった。
また夢を見たのかと思ったが、驚くことにお腹の上が光っていて、その光が丸い玉のようになってぷかぷかと浮かんでいるのが見えた。
「こ、これは……まだ、夢のつづき?」
抱えられるくらいのボールみたいな大きさの光は、少し揺れながら浮かんでいて、思わず指でツンツン突いてみたが形は変わらなかった。
その時、ガチャリと音がして誰かが部屋に入ってくる気配がした。
明け方の時間、この部屋に帰ってくるのはアスランしかいない。
「アスラン!!」
「うわっ、シリウス! 起きていたの? もしかして起こした? ごめんね、カノンのヤツに山のような書類を……」
「ちょっ、こっちに来て! 変なのが……」
その声はやはりアスランで、のんびり話し始めたので、シリウスは急いで来てくれと頼んだ。
アスランはすぐに鞄をドカリと音を立てて落としたあと、足音を鳴らしながら部屋を走ってきて天蓋を勢いよくめくった。
「これは………」
「どうしよう! これ、何? なんか変な光の玉がふわふわしていて……」
「シリウス、夢を見た?」
「へ?」
「ゾウ神の……ゾウ妖精を感じる夢だよ」
なぜアスランが俺の見てきた夢を知っているのかと一瞬驚いたが、ゾウ神はこの世界の神で、ゾウ神の夢を見ることは吉報を表すという意味だと聞いたことがあった。
「見た」
「シリウス!!」
アスランが興奮したように叫んで、ベッドに飛び乗ったので、その巨体の重さで俺は二回くらいバウンドした。
「早く、早く!」
「な、何?」
「こうやって、二人で光の玉を抱きしめるんだ。二人じゃなきゃだめなんだよ」
「二人? 抱きしめる……」
そこで俺はやっとどういう意味なのか理解した。
この世界は男同士でも子を授かることができる。
ゾウ神に認められたカップルの元に、ゾウの妖精が子を届けてくれるというファンタジーなシステムだった。
かつて受けたレッスンでも、子を授かる時のことはその時に知ってくれと軽く流されたので、そういうものかと考えていた。
いつかその時が来るのかな、なんてぼんやり考えていたのだが、それが今なのだとようやく線が繋がった。
「どうすればいい? 俺がこっちから?」
「二人で一緒に触れればいいと教えてもらったんだ。ほら、両側から抱っこしよう」
向かい合った俺とアスランは、二人で一緒に光の玉を抱えるようにして抱きしめた。
そうするとぼんやりした光だったものが、ぶわっと洪水のように光り始めて、その眩しさに思わず目をつぶってしまった。
「目を開けて、シリウス。俺達の光だ。最高に可愛いよ」
恐る恐るゆっくりと目を開けた。
目の前には生まれたばかりの小さな赤ん坊が、スヤスヤと眠っていた。
まだ周りに光を纏っていたが、やがて世界に馴染むようにそれは消えていった。
「これ……この子は……」
「ああ、俺とシリウスの子供だよ」
こんな風に子供を授かるなんて、まるでファンタジーを超えて、宇宙に飛び出したような不思議な気持ちになってしまったが、口元をもぐもぐしながら眠る我が子を見たら、だんだん実感が湧いてきて目頭が熱くなってきた。
「わっ……柔らか……壊しちゃいそう、わぁ、アスランと同じ銀髪だ。可愛いなぁ……ええと、ミルク? お、オムツとかあるのか? 誰か呼んで……」
実感が湧いたらそれはそれでパニックになって慌て出した。
アスランはひとりで冷静なのかと思ったら、プルプルと赤ん坊を持つ手が震えていたので、顔を上げるとアスランはボロボロに泣いていた。
「どゔじよゔゔゔ、うう嬉し……シリウス……嬉しくて……」
「お、落ち着いてアスラン、いったん下そう。このままだと、この位置から落としちゃうから」
泣きながら腕をガタガタ震わせるので、落としたら大変だと、アスランに声をかけて、ゆっくりベッドの上に寝かせることに成功した。
「まず何か、着るものを」
さすがにこの部屋に赤ん坊の服などないので、誰か呼びに行こうとしたら、アスランがちょっと待ってと言って俺の腕を掴んできた。
「まずは挨拶しないとね」
アスランの言葉にハッとして、慌てていた気持ちが少し落ち着いた。
赤ん坊を挟んでベッドに寝転んだ俺達は、柔らかなおでこを指で優しく撫でた。
「はじめまして。俺たちの元に来てくれてありがとう。これからよろしくね」
そう言って、二人で一緒に赤ん坊のおでこにキスをした。
ゾウの神様の運んでくれた幸せ。
その幸せに精一杯感謝をして、これから大切に守り慈しんで立派に育てますと心の中で誓った。
目を閉じた俺はこの気持ちが、ゾウ神に届くようにと願った。
最高の幸せをありがとうございます
これから力強く羽ばたくように生きていきます
ひとりじゃない
大切な人達とともに
「うわっっ、なんか飛び出た!!」
「えっ……、あぁーーそうかぁ、君は男の子だったのか。元気な子だ」
「わわっ、とりあえずこのハンカチで拭いて、後はタオル、服、ミルク、玩具はどこ!?」
「玩具はまだいらないんじゃ……」
慌てて飛び起きたアスランは、勢いよく部屋を飛び出して行った後、使用人達をみんな起こして引き連れて、必要なお世話セットと、どこにあったのかベビーベッドと、山ほどの玩具を抱えてアスランは戻ってきた。
そんな光景を、本当に忙しくなるなと思いながら、俺は笑って眺めていた。
□終□
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彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
王子様の耳はロバの耳 〜 留学先はblゲームの世界でした 〜
きっせつ
BL
南国の国モアナから同盟国であるレーヴ帝国のミューズ学園に留学してきたラニ。
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留学してきたレーヴ帝国は何故かblゲームの世界線っぽい。だが、特に持って生まれた前世の記憶を生かす事もなく、物語に関わる訳でもなく、モブとして2年目を迎えた筈が…、何故か頭にロバ耳が生えて!?
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
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フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
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「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
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ちょこ様
お読みいただき、ありがとうございます😭✨✨
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mikaze様
お読みいただきありがとうございます😊✨✨
わわっ(^^;;イチャラブで甘々に進みたいところなのですが、次が最終章になりますのでラスト試練が……^^;(汗)
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引き続きお読みいただき、ありがとうございます(^^)⭐︎⭐︎
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リョウ様
またお読みいただき嬉しいです(^^)⭐︎⭐︎
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