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第二章 成長編(十五歳)
【幕間SS】秘密のレッスン
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本編の息抜きに。
ただの下ネタです。
シリウス十七歳くらい、ある日のレッスン。
□□□□□□□□
「はーい、今日のレッスン始めまーす。みんな席に着いてー」
麗かな陽気が気持ちよくて、ウトウトしながら頬杖をついていたが、いつもと違う教師の声に俺は顔を上げた。
すっかり馴染んだおじいちゃん教師ではなく、神経質そうな顔をした若い男性教師が教卓の前に立っていた。
おかしいなと思いながら隣の席のイクシオに声をかけた。
「あれ? 今日は先生が違う……、白衣って、お医者さん?」
「シリウス、先週、聞いてなかったの? 今日は皇宮医の特別授業だよ。だからみんな朝からソワソワしていたのに……」
そういえば今朝部屋に入った時、どこか雰囲気がちがった。
みんなどこか恥ずかしそうな、それでいてウキウキしているような……。
「はい、それじゃ今日は妃としてとても重要な房事、房中術のレッスンになります」
「ぼっ……? 術? なんだ? 今日は体術の心得か何かなのか?」
妃も有事の際は戦える知識が必要ということなのか。イクシオに小声で話しかけると、イクシオは面白そうという目になって、俺を見てふふっと笑った。
「体術、といえば……そうなのかな」
「なんだよそれっ……」
「そこっ! お喋りしない!」
コソコソ話していたのが教師にバレて怒られてしまったので、慌てて口を閉じて前を見た。
「ここにいるみんなは、もちろんまだ未経験、だと思いますが、殿下の婚約者に選ばれたら、すぐに夜伽に呼ばれます。体の相性というのは夫婦にとって大事なものですから、その出来栄えいかんによっては、正式な婚約も解消される可能性がある、というのは覚えておいてください」
俺はパチパチと目を瞬かせた。
これはもしかして……教師の話からするとこの授業は……
「それではー、今から紙を配布しますので、この内容をしっかりと頭に叩き込んでください」
机にぽいっと置かれた紙を見て、俺は真っ赤になった。
そこはリアルすぎるアレコレの絵図と、男男の営みの手順が1番から順に表にまとめられていた。
その横には本当に統計をとったのか知らないが、好きな◯◯という項目でグラフまで作られていた。
これを作った人がこの教師ならすごい人物に思えて、急に緊張してしまった。
「未経験、と言っても、貴族の嗜みですからぁ、それぞれ家庭学習で学んでいると思います。詳しい説明はしません。じゃ、質問は?」
嘘、省いちゃうのと思ったが、教師の声に一斉にはいはいと手が上がった。
みんな興味津々という顔でキラキラしている。
家庭学習でそんな内容を習ったことなどない。
周りを見渡すと、知っていて当然ですという顔をしていた。
「先生、この図二の手で行う時ですが、順手がいいですか逆手がいいですが?」
いや、何その質問……
「んー、ケースバイケースかな」
先生も曖昧だよ
「この、ほどよいところで声を上げるというのは、演技ですか……?」
「んー、相手次第かな。ほら、言うと盛り上がるってやつだから」
やっぱり曖昧……
「ちょっと君達の趣向というか、理想のシチュエーションを聞いてみようかな。じゃあ、シリウスくん」
「はっはい」
ひとり呆れた顔をしていたからか、教師と目が合って名前を呼ばれてしまった。
「図六の表からやってみたいものを選んでみて」
「えっ……、図、六……」
図六には前世の知識を活かしてみても理解できない用語のようなものが並んでいた。
絵も説明文も何もないので文字だけではよく分からない。
いちおう社会人の歳まで生きていたが、俺の知っている知識は、ごくノーマルなものだった。
そんな俺でも、何となく怪しい用語が並んでいるのは分かった。
「す……やりたいもの、ですが? あの……どんな内容かがさっぱりで……」
俺が素直にそう口にすると、クラス内からクスクスとバカにするような笑いが起こった。
そんなことも知らないのという視線が飛んできて、俺は恥ずかしくて真っ赤になった。
隣に座っているイクシオが助けてくれようと小声で話しかけて来てくれたが、俺は大丈夫だという視線を返して止めた。
男としてカチンと来てしまった。
経験なんてさっぱりだけど、そっちの方面でバカにされるのは気に食わない。
よせばいいに変なプライドに火がついてしまった。
意味なんて分からなくても選べばいいだけだ。
とりあえず目に入ったものを、ピックアップして、当然ですと言う顔で俺も言ってやろうと思いついた。
とにかく数字が後半になるほど、レベルの高いものなのだろうと思った俺は後半のワードを二つ選んでみることにした。
二つも選ぶなんて上級者だという目で周りの連中から一目置かれるに違いない。
一つはなんでこれがという言葉で、もう一つは鉄道系の言葉に思えるのだが、ここに入っているのだから、何か特別なものに違いない。
「先生、僕はこの、親子丼で三連結をやってみたいです」
口に出してから、あっ、しまったと思ってしまった。
本来なら、と、と付けるところを、で、と言ってしまった。
これでは二つ掛け合わせるかたちになるので、変な言葉になってしまったなと思ったが、気が付いたらクラス内はシーンと静まり返っていた。
で、と、とを間違えたところを言った方がいいかと思ったが、それどころじゃない、みんな顔を引き攣らせたドン引きという空気を感じた。
「……ま、その……あれだ、あくまで願望なら、先生は別に止めはしない……。頑張ってくれ」
「はい……」
小汗をかいた教師になぜか応援されて、よく分からない空気のままレッスンは終了した。
レッスンが終わり、他の候補者に変な人間を見るような目でチラッと見られてますます何だよと思っていたら、頭に手を当てて何か思案している様子のイクシオが近づいて来た。
「シリウス、あのさ。親子の方は無理だけど……、後半の方なら……」
「え? 何?」
「シリウスは、真ん中、だよね……。殿下は後ろだろうから……僕は前になっても……」
「だから、何の話だよ?」
「ごめっ、想像したら恥ずかしくて無理。忘れて!」
なぜか真っ赤になったイクシオは走って帰ってしまった。
ひとり教室に取り残された俺は、ポカンとして首を傾げた。
後日この日のレッスンの話をリカードとニールソンにしたら、二人に大爆笑されてしまった。
それは秘密のレッスンだから、アスランに言うと暴走するから言わない方がいいよと言われた。
自分でも何となくヤバいことを言ったような気がした俺は、この日のことをそっと胸にしまっておくことにした。
おわり
ただの下ネタです。
シリウス十七歳くらい、ある日のレッスン。
□□□□□□□□
「はーい、今日のレッスン始めまーす。みんな席に着いてー」
麗かな陽気が気持ちよくて、ウトウトしながら頬杖をついていたが、いつもと違う教師の声に俺は顔を上げた。
すっかり馴染んだおじいちゃん教師ではなく、神経質そうな顔をした若い男性教師が教卓の前に立っていた。
おかしいなと思いながら隣の席のイクシオに声をかけた。
「あれ? 今日は先生が違う……、白衣って、お医者さん?」
「シリウス、先週、聞いてなかったの? 今日は皇宮医の特別授業だよ。だからみんな朝からソワソワしていたのに……」
そういえば今朝部屋に入った時、どこか雰囲気がちがった。
みんなどこか恥ずかしそうな、それでいてウキウキしているような……。
「はい、それじゃ今日は妃としてとても重要な房事、房中術のレッスンになります」
「ぼっ……? 術? なんだ? 今日は体術の心得か何かなのか?」
妃も有事の際は戦える知識が必要ということなのか。イクシオに小声で話しかけると、イクシオは面白そうという目になって、俺を見てふふっと笑った。
「体術、といえば……そうなのかな」
「なんだよそれっ……」
「そこっ! お喋りしない!」
コソコソ話していたのが教師にバレて怒られてしまったので、慌てて口を閉じて前を見た。
「ここにいるみんなは、もちろんまだ未経験、だと思いますが、殿下の婚約者に選ばれたら、すぐに夜伽に呼ばれます。体の相性というのは夫婦にとって大事なものですから、その出来栄えいかんによっては、正式な婚約も解消される可能性がある、というのは覚えておいてください」
俺はパチパチと目を瞬かせた。
これはもしかして……教師の話からするとこの授業は……
「それではー、今から紙を配布しますので、この内容をしっかりと頭に叩き込んでください」
机にぽいっと置かれた紙を見て、俺は真っ赤になった。
そこはリアルすぎるアレコレの絵図と、男男の営みの手順が1番から順に表にまとめられていた。
その横には本当に統計をとったのか知らないが、好きな◯◯という項目でグラフまで作られていた。
これを作った人がこの教師ならすごい人物に思えて、急に緊張してしまった。
「未経験、と言っても、貴族の嗜みですからぁ、それぞれ家庭学習で学んでいると思います。詳しい説明はしません。じゃ、質問は?」
嘘、省いちゃうのと思ったが、教師の声に一斉にはいはいと手が上がった。
みんな興味津々という顔でキラキラしている。
家庭学習でそんな内容を習ったことなどない。
周りを見渡すと、知っていて当然ですという顔をしていた。
「先生、この図二の手で行う時ですが、順手がいいですか逆手がいいですが?」
いや、何その質問……
「んー、ケースバイケースかな」
先生も曖昧だよ
「この、ほどよいところで声を上げるというのは、演技ですか……?」
「んー、相手次第かな。ほら、言うと盛り上がるってやつだから」
やっぱり曖昧……
「ちょっと君達の趣向というか、理想のシチュエーションを聞いてみようかな。じゃあ、シリウスくん」
「はっはい」
ひとり呆れた顔をしていたからか、教師と目が合って名前を呼ばれてしまった。
「図六の表からやってみたいものを選んでみて」
「えっ……、図、六……」
図六には前世の知識を活かしてみても理解できない用語のようなものが並んでいた。
絵も説明文も何もないので文字だけではよく分からない。
いちおう社会人の歳まで生きていたが、俺の知っている知識は、ごくノーマルなものだった。
そんな俺でも、何となく怪しい用語が並んでいるのは分かった。
「す……やりたいもの、ですが? あの……どんな内容かがさっぱりで……」
俺が素直にそう口にすると、クラス内からクスクスとバカにするような笑いが起こった。
そんなことも知らないのという視線が飛んできて、俺は恥ずかしくて真っ赤になった。
隣に座っているイクシオが助けてくれようと小声で話しかけて来てくれたが、俺は大丈夫だという視線を返して止めた。
男としてカチンと来てしまった。
経験なんてさっぱりだけど、そっちの方面でバカにされるのは気に食わない。
よせばいいに変なプライドに火がついてしまった。
意味なんて分からなくても選べばいいだけだ。
とりあえず目に入ったものを、ピックアップして、当然ですと言う顔で俺も言ってやろうと思いついた。
とにかく数字が後半になるほど、レベルの高いものなのだろうと思った俺は後半のワードを二つ選んでみることにした。
二つも選ぶなんて上級者だという目で周りの連中から一目置かれるに違いない。
一つはなんでこれがという言葉で、もう一つは鉄道系の言葉に思えるのだが、ここに入っているのだから、何か特別なものに違いない。
「先生、僕はこの、親子丼で三連結をやってみたいです」
口に出してから、あっ、しまったと思ってしまった。
本来なら、と、と付けるところを、で、と言ってしまった。
これでは二つ掛け合わせるかたちになるので、変な言葉になってしまったなと思ったが、気が付いたらクラス内はシーンと静まり返っていた。
で、と、とを間違えたところを言った方がいいかと思ったが、それどころじゃない、みんな顔を引き攣らせたドン引きという空気を感じた。
「……ま、その……あれだ、あくまで願望なら、先生は別に止めはしない……。頑張ってくれ」
「はい……」
小汗をかいた教師になぜか応援されて、よく分からない空気のままレッスンは終了した。
レッスンが終わり、他の候補者に変な人間を見るような目でチラッと見られてますます何だよと思っていたら、頭に手を当てて何か思案している様子のイクシオが近づいて来た。
「シリウス、あのさ。親子の方は無理だけど……、後半の方なら……」
「え? 何?」
「シリウスは、真ん中、だよね……。殿下は後ろだろうから……僕は前になっても……」
「だから、何の話だよ?」
「ごめっ、想像したら恥ずかしくて無理。忘れて!」
なぜか真っ赤になったイクシオは走って帰ってしまった。
ひとり教室に取り残された俺は、ポカンとして首を傾げた。
後日この日のレッスンの話をリカードとニールソンにしたら、二人に大爆笑されてしまった。
それは秘密のレッスンだから、アスランに言うと暴走するから言わない方がいいよと言われた。
自分でも何となくヤバいことを言ったような気がした俺は、この日のことをそっと胸にしまっておくことにした。
おわり
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