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第二章 成長編(十五歳)
11、踊る悪役令息
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皇宮のパーティー会場は色とりどりの花で飾り付けられて、目がチカチカするくらい鮮やかで、豪華な雰囲気だった。
会場に着いた俺達は、皇宮の役人と打ち合わせをしている様子のアルフォンスを見つけた。どこにいてもすぐに分かるというのは、待ち合わせには便利かもしれない。
「アルフォンス様、お元気そうだね。……相変わらずのセンスだなぁ」
「リカード!? アル……兄のセンスを知ってるのか!?」
「こちらにいた頃に、パーティーでお見かけしたことがあって、一度見たら忘れないセンスの持ち主だとなとは思っていたよ。今日のシリウスの服もそうだし、ここまでくると芸術の域に入ったね」
リカードに背中を叩かれて慰められたのか知らないが、やめてくれと言って俺は頭を抱えた。
そういえば、邸にはアルフォンスの服を集めた部屋があって、同じ男だし何かわざわざ作るより借りた方が早いと使用人に提案したことあった。
誰もが首を振ってやめた方がいいと言ったが、あれは借りたら怒られる、というより、着ない方がいいというセンスの問題だったのかと気がついた。
帰宅したアルフォンスは皇宮の制服を着ていたので、センスなど分かるはずもなかった。
どうして誰もはっきり言ってくれなかったのか、分かっていたら兄に任せきりにしなかったのに……。
「シリウス! やっぱり、思った通り、よく似合うじゃないか! なんて可愛いんだぁ」
入り口に立っているだけで目立つのか、早速俺を見つけたアルフォンスが駆け寄ってきた。
後ろでリカードとニールソンのぷっと笑う声が聞こえてきて、勘弁してくれと頭痛を覚えた。
思った通り、近寄ってきたアルフォンスは俺をガバッと抱きしめて、頬にキスをしてきた。
異国の挨拶なのか知らないが、毎回これをどこでもやるので、恥ずかしくてたまらない。
「アルフォンス樣、ご挨拶させていただいてよろしいですか?」
「シリたん、ここに埃が……ちょっとこっちへ」
どう離れようか考えていたら、さすがに見かねたのか、リカードとニールソンが連携プレーで、自然に間に入ってくれた。
友人ってなんて素晴らしいと感動したが、リカードとアルフォンスの組み合わせに何やら嫌な予感がした。
「シリウスとは友人として仲良くさせていただいております。リカード・スレイマンと申します」
「ああ、君か……へぇ、君だったのか……」
「はい?」
鋭い目になってリカードを睨みつけたアルフォンスを見て、あの事だと察知したが一足遅かった。
「君が、シリウスの初めてを奪った男だな」
「はっ? ええ!?」
「貴様、俺の可愛いシリウスを奪っておいて、よくまあ、ノコノコ顔を出してきたな。なるほど、チャラついた顔をしている」
「ちょっと待ってください! いったいその初めてというのは、具体的にどういう事なのか教えてください!」
「にっ、兄様、その件は……あの、向こうでちょっと話を……」
「待て、初めてとはどういう事か、俺にも説明しろ、リカード!」
「ああ…、ニールソンまで……」
ニールソンもぐいぐい体をねじ込ませて参加してきたので、入り口でこの騒ぎかと気が遠くなってしまった。
兄にあんなことを調子に乗って話すんじゃなかったと後悔していたら、天の助けかベルが鳴らされて皇族の到着が知らされた。
さすがに今騒ぐわけにいかないので、全員階段の下に他の参加者達と集まった。
二階の皇族専用の大扉が開けられる音がして、緊張の空気に包まれた中、まずは皇太子のレンブラントが片手を上げながら入場してきた。
拍手とおかえりなさいという声で迎えられたレンブラントは、口元を上品に上げて微笑を浮かべた。
金髪碧眼の弟、オズワルドとは違い、レンブラントはどちらかと言えば地味だった。
黒髪に黒目で、顔立ちも薄っすらとしていて、どうも印象に残りにくい。
武はあまり得意でないらしく、背も低くて体つきも細っそりとしていた。
学問の方ではかなり優秀な方と聞いていたが、帝国のトップとして君臨するには少し頼りなさそうに見えてしまった。
それは他の者も同じのようだった。
レンブラントが挨拶の言葉を口にした後、後ろからオズワルドが出てきたが、先ほどよりも大きな拍手と歓声で迎えられた。
二人の人気の差が目に見えてしまった。
レンブラントが皇太子と決まっているし、ゲーム内では王位を巡って兄弟間で争うなんて話はなかった。
多少頼りなく見えても、頭はキレる人だろうし、きっと周りに優秀な人間を集めて堅固な政権を築いていくのだろう。
そしてそこには兄のアルフォンスが腹心として仕えていく。
ブラッドフォード家としてはこれほど名誉なことはないだろう。
兄は早速レンブラントに呼ばれて側に付いた。
俺も候補者が挨拶すると呼び出されて、会場の端に向かった。
「ぷっ、嘘でしょう。本当にお兄様、その生地を選んだの? 冗談かと思った」
集合場所と聞かされた場所にはすでにイクシオが来ていて、俺の格好を見て予想通り噴き出した。
イクシオは店を紹介してくれて、その時にアルフォンスと生地を選んでいた。
冗談でピンクにすると言ったのかと思っていたそうで、本当に俺が派手な格好で登場したので驚いた様子だった。
せめてその時に止めてくれよと心の中で泣いた。
「大丈夫、大丈夫。似合ってるからね。ああ、涙目になって……。ほら、こっちに来て、拭いてあげるから」
意外と世話好きのイクシオは、よく気が付いて色々と世話を焼いてくれる。
今も混乱している俺の背中を撫でて目元を拭いてくれた。
「オズワルド殿下はもしかしたら、シリウスをファーストダンスに誘うかもね」
「えっ……」
「だって、レッスンの時もそうだったし、シリウスのこと気に入ってそうなんだよね」
カフェで打ち解けて以来、最近は仲良くしていたが、イクシオとはもともとライバル関係だった。
今まではオズワルドがほとんど関わってこないことで、お互い意識することがなかったが、こういう場に立ってみると距離感が目に見えてしまう。
イクシオが何を言ってくるのか、口の中がほんのり苦くなって、ゆっくりと顔を上げた。
「積極的に応援はしないよ。でも、どちらが声をかけられても恨みっこなしね。それと、ダンスタイムになったら、一緒に踊ろうね」
「えっ、俺と?」
「そうだよ。殿下のことは抜きにしても、僕達、友達でしょう」
「イクシオ……」
まさかあの候補者の中で、こんな風にお互いを認めながら仲良くなれる人ができると思っていなかった。
ちょっと変わった線で繋がった友情に浸っていたら、パンパンと手が叩かれた。
専属の教師がオズワルドの登場を告げて、挨拶を促してきた。
程なくして、前方から歩いてきたオズワルドを確認して全員で頭を下げた。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。若手の貴族が中心だから、気軽に楽しんでいってくれ。それと……ダンスだが、最後まで参加できないので全員と踊ることができない」
集まった者達の中に緊張が走った。
今日、オズワルドから指名されるかどうかで、今後の立ち位置、力関係が決まってしまうからだ。
「私はルルドに参加することにした。よければ皆も参加してくれ」
候補者の間にザワザワと動揺が広がった。
パートナーを決めてのダンスにオズワルドは参加しないと宣言した。さすが型破りというか伝統を嫌う人だ。
ルルドとは参加者が二つの輪になって並び、進行役の合図によって、パートナーを変えてダンスが続けられる。
代わる代わる色々な相手と踊れることが魅力だが、ダンスの中でも軽いもので余興的な扱いだった。
確かに優劣をつけずに穏便に済ませるとしたら、公平な方法ではあるが、ますます候補者は軽んじられていると思われそうだ。
いや、そのつもりであるからこそ、こういう機会に明確にしようとしているのかもしれない。
どちらにしろこの男は、ゲーム通りに順調に進んでいるように思える。
ボケっと見ていたから、候補者を見渡しているオズワルドとバチッと目が合ってしまった。
硬い表情だったオズワルドは、目が合ったら意味ありげな目をしてふわっと甘く微笑んだ。
なぜかゾクっとした俺は反射的にイクシオの後ろにサッと隠れた。
「ルルドまでは皆、好きに踊ってもらって構わない。では、楽しみにしている」
そう言ってオズワルドは颯爽と背を向けて歩いて行ってしまった。
残された候補者達は皆ため息をついた。
それが良いものか悪いものなのか、誰もが自分でも分からない様子で、困惑の色がそれぞれの顔に浮かんでいた。
「まさかルルドだけ踊られるなんて……、シリウスはもちろん出るでしょう?」
「それは……だって、参加しないわけには……、だけどルルドか……」
解散してそれぞれ自由時間となったが、俺は壁にもたれて引き続きため息をついていた。
オズワルドが突飛過ぎて驚くのは確かにそうなのだが、俺の近々の問題としては皆で息を合わせて速いテンポで踊るルルドでちゃんと踊れるかどうかということだった。
「心配ないって、まず開始は僕と踊ろう。上手くリードするから。それで体が慣れたらイケるよ」
「ああ、イクシオ……、本当に君がいなかったらどうしたらいいか」
一人で輪を乱してすっ転ぶシーンしか想像できなくて怯えていたが、イクシオのおかげで少し希望が見えてきた。
会場には音楽が流れ出して、今日の主役である皇太子殿下を囲んで優雅なダンスが披露されていた。
飲み物を取ってくると言ってイクシオは離れて行ったので、気持ちを落ち着かせようと深呼吸していたら、トンと肩を軽く叩かれた。
リカードとニールソンかと思って何も考えずに振り返った俺は、目に飛び込んできた男を見て驚きで息を呑んだ。
「ああ、良かった。やっと会えましたね。シリウス・ブラッドフォード……、いや、トムとお呼びすればいいのか、どちらがよろしいでしょうか?」
なぜこの人がここにという思いで、信じられない人物の登場に背筋がピンと伸びて体が固まった。
目の前には鮮やかな空色の髪を靡かせて、作り物みたいな真っ白な肌に、アスランと同じ赤い瞳の男、シモンが立っていた。
混乱のパーティーに、また一人、混乱しかない男が登場してしまった。
□□□
会場に着いた俺達は、皇宮の役人と打ち合わせをしている様子のアルフォンスを見つけた。どこにいてもすぐに分かるというのは、待ち合わせには便利かもしれない。
「アルフォンス様、お元気そうだね。……相変わらずのセンスだなぁ」
「リカード!? アル……兄のセンスを知ってるのか!?」
「こちらにいた頃に、パーティーでお見かけしたことがあって、一度見たら忘れないセンスの持ち主だとなとは思っていたよ。今日のシリウスの服もそうだし、ここまでくると芸術の域に入ったね」
リカードに背中を叩かれて慰められたのか知らないが、やめてくれと言って俺は頭を抱えた。
そういえば、邸にはアルフォンスの服を集めた部屋があって、同じ男だし何かわざわざ作るより借りた方が早いと使用人に提案したことあった。
誰もが首を振ってやめた方がいいと言ったが、あれは借りたら怒られる、というより、着ない方がいいというセンスの問題だったのかと気がついた。
帰宅したアルフォンスは皇宮の制服を着ていたので、センスなど分かるはずもなかった。
どうして誰もはっきり言ってくれなかったのか、分かっていたら兄に任せきりにしなかったのに……。
「シリウス! やっぱり、思った通り、よく似合うじゃないか! なんて可愛いんだぁ」
入り口に立っているだけで目立つのか、早速俺を見つけたアルフォンスが駆け寄ってきた。
後ろでリカードとニールソンのぷっと笑う声が聞こえてきて、勘弁してくれと頭痛を覚えた。
思った通り、近寄ってきたアルフォンスは俺をガバッと抱きしめて、頬にキスをしてきた。
異国の挨拶なのか知らないが、毎回これをどこでもやるので、恥ずかしくてたまらない。
「アルフォンス樣、ご挨拶させていただいてよろしいですか?」
「シリたん、ここに埃が……ちょっとこっちへ」
どう離れようか考えていたら、さすがに見かねたのか、リカードとニールソンが連携プレーで、自然に間に入ってくれた。
友人ってなんて素晴らしいと感動したが、リカードとアルフォンスの組み合わせに何やら嫌な予感がした。
「シリウスとは友人として仲良くさせていただいております。リカード・スレイマンと申します」
「ああ、君か……へぇ、君だったのか……」
「はい?」
鋭い目になってリカードを睨みつけたアルフォンスを見て、あの事だと察知したが一足遅かった。
「君が、シリウスの初めてを奪った男だな」
「はっ? ええ!?」
「貴様、俺の可愛いシリウスを奪っておいて、よくまあ、ノコノコ顔を出してきたな。なるほど、チャラついた顔をしている」
「ちょっと待ってください! いったいその初めてというのは、具体的にどういう事なのか教えてください!」
「にっ、兄様、その件は……あの、向こうでちょっと話を……」
「待て、初めてとはどういう事か、俺にも説明しろ、リカード!」
「ああ…、ニールソンまで……」
ニールソンもぐいぐい体をねじ込ませて参加してきたので、入り口でこの騒ぎかと気が遠くなってしまった。
兄にあんなことを調子に乗って話すんじゃなかったと後悔していたら、天の助けかベルが鳴らされて皇族の到着が知らされた。
さすがに今騒ぐわけにいかないので、全員階段の下に他の参加者達と集まった。
二階の皇族専用の大扉が開けられる音がして、緊張の空気に包まれた中、まずは皇太子のレンブラントが片手を上げながら入場してきた。
拍手とおかえりなさいという声で迎えられたレンブラントは、口元を上品に上げて微笑を浮かべた。
金髪碧眼の弟、オズワルドとは違い、レンブラントはどちらかと言えば地味だった。
黒髪に黒目で、顔立ちも薄っすらとしていて、どうも印象に残りにくい。
武はあまり得意でないらしく、背も低くて体つきも細っそりとしていた。
学問の方ではかなり優秀な方と聞いていたが、帝国のトップとして君臨するには少し頼りなさそうに見えてしまった。
それは他の者も同じのようだった。
レンブラントが挨拶の言葉を口にした後、後ろからオズワルドが出てきたが、先ほどよりも大きな拍手と歓声で迎えられた。
二人の人気の差が目に見えてしまった。
レンブラントが皇太子と決まっているし、ゲーム内では王位を巡って兄弟間で争うなんて話はなかった。
多少頼りなく見えても、頭はキレる人だろうし、きっと周りに優秀な人間を集めて堅固な政権を築いていくのだろう。
そしてそこには兄のアルフォンスが腹心として仕えていく。
ブラッドフォード家としてはこれほど名誉なことはないだろう。
兄は早速レンブラントに呼ばれて側に付いた。
俺も候補者が挨拶すると呼び出されて、会場の端に向かった。
「ぷっ、嘘でしょう。本当にお兄様、その生地を選んだの? 冗談かと思った」
集合場所と聞かされた場所にはすでにイクシオが来ていて、俺の格好を見て予想通り噴き出した。
イクシオは店を紹介してくれて、その時にアルフォンスと生地を選んでいた。
冗談でピンクにすると言ったのかと思っていたそうで、本当に俺が派手な格好で登場したので驚いた様子だった。
せめてその時に止めてくれよと心の中で泣いた。
「大丈夫、大丈夫。似合ってるからね。ああ、涙目になって……。ほら、こっちに来て、拭いてあげるから」
意外と世話好きのイクシオは、よく気が付いて色々と世話を焼いてくれる。
今も混乱している俺の背中を撫でて目元を拭いてくれた。
「オズワルド殿下はもしかしたら、シリウスをファーストダンスに誘うかもね」
「えっ……」
「だって、レッスンの時もそうだったし、シリウスのこと気に入ってそうなんだよね」
カフェで打ち解けて以来、最近は仲良くしていたが、イクシオとはもともとライバル関係だった。
今まではオズワルドがほとんど関わってこないことで、お互い意識することがなかったが、こういう場に立ってみると距離感が目に見えてしまう。
イクシオが何を言ってくるのか、口の中がほんのり苦くなって、ゆっくりと顔を上げた。
「積極的に応援はしないよ。でも、どちらが声をかけられても恨みっこなしね。それと、ダンスタイムになったら、一緒に踊ろうね」
「えっ、俺と?」
「そうだよ。殿下のことは抜きにしても、僕達、友達でしょう」
「イクシオ……」
まさかあの候補者の中で、こんな風にお互いを認めながら仲良くなれる人ができると思っていなかった。
ちょっと変わった線で繋がった友情に浸っていたら、パンパンと手が叩かれた。
専属の教師がオズワルドの登場を告げて、挨拶を促してきた。
程なくして、前方から歩いてきたオズワルドを確認して全員で頭を下げた。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。若手の貴族が中心だから、気軽に楽しんでいってくれ。それと……ダンスだが、最後まで参加できないので全員と踊ることができない」
集まった者達の中に緊張が走った。
今日、オズワルドから指名されるかどうかで、今後の立ち位置、力関係が決まってしまうからだ。
「私はルルドに参加することにした。よければ皆も参加してくれ」
候補者の間にザワザワと動揺が広がった。
パートナーを決めてのダンスにオズワルドは参加しないと宣言した。さすが型破りというか伝統を嫌う人だ。
ルルドとは参加者が二つの輪になって並び、進行役の合図によって、パートナーを変えてダンスが続けられる。
代わる代わる色々な相手と踊れることが魅力だが、ダンスの中でも軽いもので余興的な扱いだった。
確かに優劣をつけずに穏便に済ませるとしたら、公平な方法ではあるが、ますます候補者は軽んじられていると思われそうだ。
いや、そのつもりであるからこそ、こういう機会に明確にしようとしているのかもしれない。
どちらにしろこの男は、ゲーム通りに順調に進んでいるように思える。
ボケっと見ていたから、候補者を見渡しているオズワルドとバチッと目が合ってしまった。
硬い表情だったオズワルドは、目が合ったら意味ありげな目をしてふわっと甘く微笑んだ。
なぜかゾクっとした俺は反射的にイクシオの後ろにサッと隠れた。
「ルルドまでは皆、好きに踊ってもらって構わない。では、楽しみにしている」
そう言ってオズワルドは颯爽と背を向けて歩いて行ってしまった。
残された候補者達は皆ため息をついた。
それが良いものか悪いものなのか、誰もが自分でも分からない様子で、困惑の色がそれぞれの顔に浮かんでいた。
「まさかルルドだけ踊られるなんて……、シリウスはもちろん出るでしょう?」
「それは……だって、参加しないわけには……、だけどルルドか……」
解散してそれぞれ自由時間となったが、俺は壁にもたれて引き続きため息をついていた。
オズワルドが突飛過ぎて驚くのは確かにそうなのだが、俺の近々の問題としては皆で息を合わせて速いテンポで踊るルルドでちゃんと踊れるかどうかということだった。
「心配ないって、まず開始は僕と踊ろう。上手くリードするから。それで体が慣れたらイケるよ」
「ああ、イクシオ……、本当に君がいなかったらどうしたらいいか」
一人で輪を乱してすっ転ぶシーンしか想像できなくて怯えていたが、イクシオのおかげで少し希望が見えてきた。
会場には音楽が流れ出して、今日の主役である皇太子殿下を囲んで優雅なダンスが披露されていた。
飲み物を取ってくると言ってイクシオは離れて行ったので、気持ちを落ち着かせようと深呼吸していたら、トンと肩を軽く叩かれた。
リカードとニールソンかと思って何も考えずに振り返った俺は、目に飛び込んできた男を見て驚きで息を呑んだ。
「ああ、良かった。やっと会えましたね。シリウス・ブラッドフォード……、いや、トムとお呼びすればいいのか、どちらがよろしいでしょうか?」
なぜこの人がここにという思いで、信じられない人物の登場に背筋がピンと伸びて体が固まった。
目の前には鮮やかな空色の髪を靡かせて、作り物みたいな真っ白な肌に、アスランと同じ赤い瞳の男、シモンが立っていた。
混乱のパーティーに、また一人、混乱しかない男が登場してしまった。
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