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⑥ 仲直りのキスが好き。
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「なるほど、いつも通りというのを、純粋に受け取ってくれたわけですね」
納見は付き合おうと握手をしてから、ずっと空回りしていた自分の事情を素直に話した。
本当は仲良くしたかったけど、いつも通りと言われたので我慢していたと聞いて、香坂は頭に手を当てていた。
「本当にすみません……どうするのが正解なのか分からなくて、香坂先生がこんな状態になるまで……」
「謝らないでください。実を言うと私も、お付き合いってものがよく分からなくて、どう距離を詰めていいのか考えあぐねていました。近くに参考になるようなカップルでもいたらいいのですが、私、こう見えて友人が少なくて……」
「ああ、それは私もです。私は見た目そのままだと思いますが、学生時代からろくに人付き合いもできなくて、恋人同士の具体的な話を聞く機会もなくて、大人になってしまいました」
不甲斐ないなと思いながら、頭をかいていたら香坂と目が合った。
二人で顔を見合わせたらおかしくなって、同時にぷっと噴き出して笑ってしまった。
「私達、似たもの同士ですね。お互い遠慮していたみたいです。私達のペースでやっていきませんか? 今回みたいにひとりで悩んで結論を出すんじゃなくて、些細なことでも話し合いましょう。……実は、夜は寂しくて、寝る前とか電話で話したいななんて思っていたんですけど、どうでしょう?」
「も……もちろん! 何時でもいいです! 朝まででも起きています!」
納見は食い気味に香坂が寝ているベッドに乗り出してしまった。クスクスと頬を赤くした香坂は、朝までは疲れちゃいますよと言って笑った。
なんとも言えない、色気を感じて納見の心臓はドキッ飛び跳ねるように揺れた。
「それと、仕事中は別ですけど、プレイ以外でも、二人きりの時は名前で呼んで、敬語はやめませんか? もっと近くなりたいです」
「は……はい、……あっ、う、うん」
職場の同僚として見てきた時間が長いので、どうしてもお互い遠慮してしまうし、年下なので敬語で話してしまうクセが付いているが、もっと近くなりたいのは納見も同じだった。
「よかったぁーー、断られたらどうしようかと思った」
緊張した様子だった香坂は、顔がふにゃっと崩れて、ベッドの端に座る納見に近づいて、膝を枕にするようにしてコロンと頭を乗せてきた。
まるで猫がじゃれついてきたようで、可愛すぎて胸がいっぱいになった。
「断るわけないよ。あ……あと、さっき電話してくれたんだね。大変な時に出れなくてごめんね」
「いーよー、大したことなかったし。でも、ちょっと……寂しかった、かな」
急にデレモードに入った香坂は、納見の太ももに頬を擦り付けて上目遣いで見つめてきた。
「ううっ、可愛い……」
耐えきれなくなった納見はついに口に出してしまったが、嬉しそうに笑った香坂は腰に手を回してしがみついてきた。
「もっと言って、褒めて、可愛がって」
「Good、Goodboy、仁、とっても可愛いよ」
「ああ……最高、陽太の声、脳みそ溶けそ……」
ふわふわした頭を撫でたら、香坂は目をつぶってたまらないという顔をした。
納見もDomとして満たされて気持ちが良くなってきてしまった。
「仁、もっと、Come、Open、口を開けて舌を見せて」
納見のCommandにとろんとした目になった香坂は体を起こしてピッタリと寄せてきた。
そして半開きにした口から可愛らしい舌が覗いたのを見た納見は一気に興奮して頭が熱くなった。
「今日はこっち、俺の舌を舐めて」
恥ずかしそうしながらも嬉しそうな目をして香坂は、納見がべっと出した舌をぺろんと舐めた。
「んっ……」
納見の反応を見るように、また舌を出した香坂は、今度はぺろぺろと唇を舐めてきた。
香坂の舌は猫の舌のようにザラザラしているが、唇と同じく柔らかくて甘い。
一生懸命舐めてくれる香坂の後頭部を掴んだ納見は、今度は自分がとかぶりつくように香坂の唇に食らいついた。
そして口内に香坂の舌を招き入れて、吸いつきながら舌根の奥までぐるりと舐めて丁寧に愛撫した。
「んっ……っは……よう……た……ハァ、ハァ……」
「仁、気持ちいい? ここ、好きなの?」
「はっ……んんっ、もち……い、すき……ああっ」
保健室にはぴちゃぴちゃといやらしい音が響き渡っている。
小さな簡易ベッドをギシギシと揺らしながら、納見と香坂はみっちりと抱き合って、お互いの口内を舐め続けた。
唇が熱で溶けてだんだん感覚がなくなってくる。
そのくせ、歯列までなぞられるとゾワゾワとした快感に体が痺れて、香坂は手を震わせて納見にしがみついてきた。
そんな仕草も可愛くて愛おしいという気持ちが生まれてしまい、納見は香坂の頭を撫でながら気持ち良さそうな声が上がるところを舌で突いて擦って舐めた。
どのくらい時間が経ったのだろう。
辺りはすっかり暗くなって保健室は夜の闇に包まれた。
一度覚えた快感は、それを止めるのを許してはくれない。
キスが気持ちよくてたまらなくて、夢中になって唇を吸い合っていたら、トントンとノックの音がして、二人で驚いてビクッと体を揺らした。
「すみませーん、警備なんですけど、鍵が戻っていないみたいで、誰かいらっしゃいますか?」
「あっ、はいっ、教師の香坂です。少し休んでいて、もう出ま……んんっ……ぁっ」
自分でもよく分からないジリっとした焦りが出てきて、香坂が話している最中だというのに、納見は香坂の唇を奪った。
夢中になっているところを邪魔されたのもあったが、二人の時間に香坂が別の男の声に反応してしまった。
そのことが気に入らなくて、子供のような独占欲がでてしまった。
「大丈夫ですか? 何か助けは必要ですか?」
「い……いえ、だぁ……あふっ、……大丈夫……んんっっぁ!」
明らかに声が漏れてしまったが、警備の人は訝しみながらも、とりあえず大丈夫と聞こえたからいいだろうと結論づけたようで、よろしくお願いしますと言って去っていった。
懐中電灯の灯りがチラチラと動いて消えていったのを見て、納見は香坂をぎゅっと抱きしめた。
「声、我慢できたね。えらいね」
「んんっ、陽太ぁ……でも……」
納見は少し悪戯が過ぎてしまったなと思いながら、香坂を撫でて可愛がっていたら、下を向いていた香坂は涙目になって顔を上げた。
もじもじと居心地が悪そうにしているところを見て、Sayと声をかけた。
「ううっ、でちゃ……、気持ちよくて、ズボンの中でイっちゃっ……た」
月明かりに照らされた香坂のズボンの股間には濡れたシミが広がっていた。
恥ずかしそうに目を赤くして、口を手で覆った香坂を見て、納見は興奮し過ぎて鼻血が出そうだった。
「ああ……なんて、なんて……可愛いの、仁」
思わずめちゃくちゃに愛したい衝動に駆られて、恥ずかしそうにしている香坂の頭をぎゅっと抱きしめた。
この日はまた巡回が来るかもしれないので、そのまま静かに保健室を出て、大人しく家路に着いた。
お互いどうしていいか分からずに戸惑っていたスタートだったが、やっと心を通わせて、自分達のペースで進めていこうと気持ちを確認することができた。
コピー機と格闘しながら、配布用のプリントをコピーしていたら、ポケットに入れたスマホがブルっと震えた。
さっと取り出した香坂は、画面を見て口元を綻ばせた。
(ふふっ、今日は豚の生姜焼きに、豚汁かぁ)
コピー室には誰もいないが、香坂は口元を手で隠しながら嬉しくてニヤニヤしてしまった。
仕切り直して、ちゃんと付き合うと歩み寄ってから、学校では毎日一緒にお昼を食べている。
納見は確か、Dom性が薄いと言っていたが、かなりの世話好きで、二人分のお弁当を作ってきてくれる。
事前に今日のラインナップを送ってくれるので、メッセージを心待ちにしている。
忙しい仕事の中で、お昼に理科準備室まで行くのが楽しくてしょうがない。
同じ職場で恋人なんてと思っていたが、こんなに近くで毎日一緒に過ごせるのはラッキーだと思っている。
教頭の叱責や、長い会議に頭が痛くなっても、納見と会えることを考えると、胸が温かくなって穏やかな気持ちになる。
この気持ちが恋というのだろうか。
生徒ならまだしも、この歳になって自分がそんな事を言うなんてと、香坂は恥ずかしくなった。
最初は穏やかなDom性に惹かれたが、だんだん別の感情が生まれつつあるのを香坂は感じていた。
お昼休み時間、納見の城である理科準備室にお弁当を広げて、今日も楽しいランチタイムが始まった。
「んんっ、美味い。味付けもお肉の柔らかさも最高!」
口にれた瞬間、頬が落ちそうになって、手で押さえた香坂は、もごもごしながら美味い美味いと繰り返した。
「気に入ってくれて良かった。いっぱいあるからたくさん食べて」
そう言いながら、納見は手慣れた様子でポットの中から器に豚汁を入れて、三つ葉を振りかけて香坂の前に置いた。
Domには世話好きなタイプがいると聞いたが、まさに納見はそれに当てはまる。
痒い所に手が届くような気遣いをどんどん見せてくるようになった。
こんな風にお弁当を用意してくれることもそうだし、二人で話しながら歩いて、外のベンチに座ろうとしたら、サッとハンカチを広げられた時はどうしようかと思った。
消極的内向的、そんな言葉が背中に書いてある人に思えていたが、よく付き合ってみると納見はとにかく優しくて温かい人だった。
「仁、ここ、ご飯つぶ付いてるよ」
「あ、ごめ……」
美味しすぎてかっこむようにご飯を食べていたら、口の端に付いたご飯つぶに気がついた納見が手を伸ばしてきた。
納見の長い指が口の端に触れた。
ご飯つぶを指ですくった納見は、それをそのまま自分の口に持っていって、パクッと食べてしまった。
あまりに自然な姿に、香坂は少し驚いてしまったが、目が合うと、納見は口角をきゅっと上げて微笑んできた。
なんの音もしない一瞬のことだったが、あまりに濃厚で刺激的な光景だった。
香坂の心臓は飛び跳ねたように揺れて、ドキドキとうるさく鳴り続けてなかなか止まってくれなかった。
今日もいつものようにモジャ髪に大きなメガネ、首の伸びたヨレヨレのTシャツ姿の納見は、どう見ても魅力的には見えない。
もちろん、メガネの奥に隠れた美少年がいるのは知っているが、今の格好の納見でも、香坂の目には輝いて見えてしまった。
あの唇を知っている。
知っているのは自分だけ……。
(あーもー、昼間っから何を考えて……、次は授業なのにこんな赤い顔で行ったら……)
「仁、たくさん食べてくれたね。嬉しいよ」
空になったお弁当箱を片付けながら、納見は嬉しそうに香坂を褒めてくれた。
こんな些細なことまでいちいち褒めてくれる。
その度に胸がぎゅっと熱くなるのを、香坂はどうしていいか分からなかった。
「Come」
納見の優しいCommandに、ドキドキしていた香坂はよけいに胸が熱くなった。
ぽんぽんと自分の膝の上を叩いている納見を見て、香坂は机を回り込んで、納見の膝の上に向き合うようにお尻を乗せて座った。
「どうしたの? 真っ赤になって。頬がりんごみたい」
「な……なんでもない」
「ふーん、たくさん食べてくれたから、ご褒美をあげようと思ったんだけど、仁は何が欲しい?」
納見の手は赤くなった頬から滑って、背中を撫でてその手はお尻まで落ちてきた。
触れられたら、気持ち良くてすぐに溶けてしまう。
まるで自分は氷の彫刻で、納見は炎のようだと思った。
Sayと言われたら、恥ずかしくても伝えないといけない。
「き、キスが……欲しい」
「よく言えたね。Goodboy。いいよ、目を閉じて」
「ん………」
香坂が目を閉じると、下から唇が重なってきた。
ぴったりと重なってから、下唇をクチュっと吸われてそのまま舌が入ってきた。
香坂も舌を出して絡ませようとした瞬間、昼終わりのチャイムが鳴った。
そのまま続けたかったが、納見はチュッと音を立てて唇を離してしまった。
「可愛い、そんな顔しないで。続きはまた放課後ね」
「う……ん…」
耳元で囁かれたらゾクゾクして震えてしまった。
今日は金曜日で、仕事終わりにデートに行く予定だったので、今すぐにでも行きたくなってしまった。
なぜかまだ経験したことのない後ろが甘く疼いてしまい、欲ばかり膨らんでいく自分が恐くなってくる。
結局、次の授業で赤い顔は元に戻らずに、先生熱があるんですかと生徒に言われるはめになった。
□□□
納見は付き合おうと握手をしてから、ずっと空回りしていた自分の事情を素直に話した。
本当は仲良くしたかったけど、いつも通りと言われたので我慢していたと聞いて、香坂は頭に手を当てていた。
「本当にすみません……どうするのが正解なのか分からなくて、香坂先生がこんな状態になるまで……」
「謝らないでください。実を言うと私も、お付き合いってものがよく分からなくて、どう距離を詰めていいのか考えあぐねていました。近くに参考になるようなカップルでもいたらいいのですが、私、こう見えて友人が少なくて……」
「ああ、それは私もです。私は見た目そのままだと思いますが、学生時代からろくに人付き合いもできなくて、恋人同士の具体的な話を聞く機会もなくて、大人になってしまいました」
不甲斐ないなと思いながら、頭をかいていたら香坂と目が合った。
二人で顔を見合わせたらおかしくなって、同時にぷっと噴き出して笑ってしまった。
「私達、似たもの同士ですね。お互い遠慮していたみたいです。私達のペースでやっていきませんか? 今回みたいにひとりで悩んで結論を出すんじゃなくて、些細なことでも話し合いましょう。……実は、夜は寂しくて、寝る前とか電話で話したいななんて思っていたんですけど、どうでしょう?」
「も……もちろん! 何時でもいいです! 朝まででも起きています!」
納見は食い気味に香坂が寝ているベッドに乗り出してしまった。クスクスと頬を赤くした香坂は、朝までは疲れちゃいますよと言って笑った。
なんとも言えない、色気を感じて納見の心臓はドキッ飛び跳ねるように揺れた。
「それと、仕事中は別ですけど、プレイ以外でも、二人きりの時は名前で呼んで、敬語はやめませんか? もっと近くなりたいです」
「は……はい、……あっ、う、うん」
職場の同僚として見てきた時間が長いので、どうしてもお互い遠慮してしまうし、年下なので敬語で話してしまうクセが付いているが、もっと近くなりたいのは納見も同じだった。
「よかったぁーー、断られたらどうしようかと思った」
緊張した様子だった香坂は、顔がふにゃっと崩れて、ベッドの端に座る納見に近づいて、膝を枕にするようにしてコロンと頭を乗せてきた。
まるで猫がじゃれついてきたようで、可愛すぎて胸がいっぱいになった。
「断るわけないよ。あ……あと、さっき電話してくれたんだね。大変な時に出れなくてごめんね」
「いーよー、大したことなかったし。でも、ちょっと……寂しかった、かな」
急にデレモードに入った香坂は、納見の太ももに頬を擦り付けて上目遣いで見つめてきた。
「ううっ、可愛い……」
耐えきれなくなった納見はついに口に出してしまったが、嬉しそうに笑った香坂は腰に手を回してしがみついてきた。
「もっと言って、褒めて、可愛がって」
「Good、Goodboy、仁、とっても可愛いよ」
「ああ……最高、陽太の声、脳みそ溶けそ……」
ふわふわした頭を撫でたら、香坂は目をつぶってたまらないという顔をした。
納見もDomとして満たされて気持ちが良くなってきてしまった。
「仁、もっと、Come、Open、口を開けて舌を見せて」
納見のCommandにとろんとした目になった香坂は体を起こしてピッタリと寄せてきた。
そして半開きにした口から可愛らしい舌が覗いたのを見た納見は一気に興奮して頭が熱くなった。
「今日はこっち、俺の舌を舐めて」
恥ずかしそうしながらも嬉しそうな目をして香坂は、納見がべっと出した舌をぺろんと舐めた。
「んっ……」
納見の反応を見るように、また舌を出した香坂は、今度はぺろぺろと唇を舐めてきた。
香坂の舌は猫の舌のようにザラザラしているが、唇と同じく柔らかくて甘い。
一生懸命舐めてくれる香坂の後頭部を掴んだ納見は、今度は自分がとかぶりつくように香坂の唇に食らいついた。
そして口内に香坂の舌を招き入れて、吸いつきながら舌根の奥までぐるりと舐めて丁寧に愛撫した。
「んっ……っは……よう……た……ハァ、ハァ……」
「仁、気持ちいい? ここ、好きなの?」
「はっ……んんっ、もち……い、すき……ああっ」
保健室にはぴちゃぴちゃといやらしい音が響き渡っている。
小さな簡易ベッドをギシギシと揺らしながら、納見と香坂はみっちりと抱き合って、お互いの口内を舐め続けた。
唇が熱で溶けてだんだん感覚がなくなってくる。
そのくせ、歯列までなぞられるとゾワゾワとした快感に体が痺れて、香坂は手を震わせて納見にしがみついてきた。
そんな仕草も可愛くて愛おしいという気持ちが生まれてしまい、納見は香坂の頭を撫でながら気持ち良さそうな声が上がるところを舌で突いて擦って舐めた。
どのくらい時間が経ったのだろう。
辺りはすっかり暗くなって保健室は夜の闇に包まれた。
一度覚えた快感は、それを止めるのを許してはくれない。
キスが気持ちよくてたまらなくて、夢中になって唇を吸い合っていたら、トントンとノックの音がして、二人で驚いてビクッと体を揺らした。
「すみませーん、警備なんですけど、鍵が戻っていないみたいで、誰かいらっしゃいますか?」
「あっ、はいっ、教師の香坂です。少し休んでいて、もう出ま……んんっ……ぁっ」
自分でもよく分からないジリっとした焦りが出てきて、香坂が話している最中だというのに、納見は香坂の唇を奪った。
夢中になっているところを邪魔されたのもあったが、二人の時間に香坂が別の男の声に反応してしまった。
そのことが気に入らなくて、子供のような独占欲がでてしまった。
「大丈夫ですか? 何か助けは必要ですか?」
「い……いえ、だぁ……あふっ、……大丈夫……んんっっぁ!」
明らかに声が漏れてしまったが、警備の人は訝しみながらも、とりあえず大丈夫と聞こえたからいいだろうと結論づけたようで、よろしくお願いしますと言って去っていった。
懐中電灯の灯りがチラチラと動いて消えていったのを見て、納見は香坂をぎゅっと抱きしめた。
「声、我慢できたね。えらいね」
「んんっ、陽太ぁ……でも……」
納見は少し悪戯が過ぎてしまったなと思いながら、香坂を撫でて可愛がっていたら、下を向いていた香坂は涙目になって顔を上げた。
もじもじと居心地が悪そうにしているところを見て、Sayと声をかけた。
「ううっ、でちゃ……、気持ちよくて、ズボンの中でイっちゃっ……た」
月明かりに照らされた香坂のズボンの股間には濡れたシミが広がっていた。
恥ずかしそうに目を赤くして、口を手で覆った香坂を見て、納見は興奮し過ぎて鼻血が出そうだった。
「ああ……なんて、なんて……可愛いの、仁」
思わずめちゃくちゃに愛したい衝動に駆られて、恥ずかしそうにしている香坂の頭をぎゅっと抱きしめた。
この日はまた巡回が来るかもしれないので、そのまま静かに保健室を出て、大人しく家路に着いた。
お互いどうしていいか分からずに戸惑っていたスタートだったが、やっと心を通わせて、自分達のペースで進めていこうと気持ちを確認することができた。
コピー機と格闘しながら、配布用のプリントをコピーしていたら、ポケットに入れたスマホがブルっと震えた。
さっと取り出した香坂は、画面を見て口元を綻ばせた。
(ふふっ、今日は豚の生姜焼きに、豚汁かぁ)
コピー室には誰もいないが、香坂は口元を手で隠しながら嬉しくてニヤニヤしてしまった。
仕切り直して、ちゃんと付き合うと歩み寄ってから、学校では毎日一緒にお昼を食べている。
納見は確か、Dom性が薄いと言っていたが、かなりの世話好きで、二人分のお弁当を作ってきてくれる。
事前に今日のラインナップを送ってくれるので、メッセージを心待ちにしている。
忙しい仕事の中で、お昼に理科準備室まで行くのが楽しくてしょうがない。
同じ職場で恋人なんてと思っていたが、こんなに近くで毎日一緒に過ごせるのはラッキーだと思っている。
教頭の叱責や、長い会議に頭が痛くなっても、納見と会えることを考えると、胸が温かくなって穏やかな気持ちになる。
この気持ちが恋というのだろうか。
生徒ならまだしも、この歳になって自分がそんな事を言うなんてと、香坂は恥ずかしくなった。
最初は穏やかなDom性に惹かれたが、だんだん別の感情が生まれつつあるのを香坂は感じていた。
お昼休み時間、納見の城である理科準備室にお弁当を広げて、今日も楽しいランチタイムが始まった。
「んんっ、美味い。味付けもお肉の柔らかさも最高!」
口にれた瞬間、頬が落ちそうになって、手で押さえた香坂は、もごもごしながら美味い美味いと繰り返した。
「気に入ってくれて良かった。いっぱいあるからたくさん食べて」
そう言いながら、納見は手慣れた様子でポットの中から器に豚汁を入れて、三つ葉を振りかけて香坂の前に置いた。
Domには世話好きなタイプがいると聞いたが、まさに納見はそれに当てはまる。
痒い所に手が届くような気遣いをどんどん見せてくるようになった。
こんな風にお弁当を用意してくれることもそうだし、二人で話しながら歩いて、外のベンチに座ろうとしたら、サッとハンカチを広げられた時はどうしようかと思った。
消極的内向的、そんな言葉が背中に書いてある人に思えていたが、よく付き合ってみると納見はとにかく優しくて温かい人だった。
「仁、ここ、ご飯つぶ付いてるよ」
「あ、ごめ……」
美味しすぎてかっこむようにご飯を食べていたら、口の端に付いたご飯つぶに気がついた納見が手を伸ばしてきた。
納見の長い指が口の端に触れた。
ご飯つぶを指ですくった納見は、それをそのまま自分の口に持っていって、パクッと食べてしまった。
あまりに自然な姿に、香坂は少し驚いてしまったが、目が合うと、納見は口角をきゅっと上げて微笑んできた。
なんの音もしない一瞬のことだったが、あまりに濃厚で刺激的な光景だった。
香坂の心臓は飛び跳ねたように揺れて、ドキドキとうるさく鳴り続けてなかなか止まってくれなかった。
今日もいつものようにモジャ髪に大きなメガネ、首の伸びたヨレヨレのTシャツ姿の納見は、どう見ても魅力的には見えない。
もちろん、メガネの奥に隠れた美少年がいるのは知っているが、今の格好の納見でも、香坂の目には輝いて見えてしまった。
あの唇を知っている。
知っているのは自分だけ……。
(あーもー、昼間っから何を考えて……、次は授業なのにこんな赤い顔で行ったら……)
「仁、たくさん食べてくれたね。嬉しいよ」
空になったお弁当箱を片付けながら、納見は嬉しそうに香坂を褒めてくれた。
こんな些細なことまでいちいち褒めてくれる。
その度に胸がぎゅっと熱くなるのを、香坂はどうしていいか分からなかった。
「Come」
納見の優しいCommandに、ドキドキしていた香坂はよけいに胸が熱くなった。
ぽんぽんと自分の膝の上を叩いている納見を見て、香坂は机を回り込んで、納見の膝の上に向き合うようにお尻を乗せて座った。
「どうしたの? 真っ赤になって。頬がりんごみたい」
「な……なんでもない」
「ふーん、たくさん食べてくれたから、ご褒美をあげようと思ったんだけど、仁は何が欲しい?」
納見の手は赤くなった頬から滑って、背中を撫でてその手はお尻まで落ちてきた。
触れられたら、気持ち良くてすぐに溶けてしまう。
まるで自分は氷の彫刻で、納見は炎のようだと思った。
Sayと言われたら、恥ずかしくても伝えないといけない。
「き、キスが……欲しい」
「よく言えたね。Goodboy。いいよ、目を閉じて」
「ん………」
香坂が目を閉じると、下から唇が重なってきた。
ぴったりと重なってから、下唇をクチュっと吸われてそのまま舌が入ってきた。
香坂も舌を出して絡ませようとした瞬間、昼終わりのチャイムが鳴った。
そのまま続けたかったが、納見はチュッと音を立てて唇を離してしまった。
「可愛い、そんな顔しないで。続きはまた放課後ね」
「う……ん…」
耳元で囁かれたらゾクゾクして震えてしまった。
今日は金曜日で、仕事終わりにデートに行く予定だったので、今すぐにでも行きたくなってしまった。
なぜかまだ経験したことのない後ろが甘く疼いてしまい、欲ばかり膨らんでいく自分が恐くなってくる。
結局、次の授業で赤い顔は元に戻らずに、先生熱があるんですかと生徒に言われるはめになった。
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