ハコ入りオメガの結婚

朝顔

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⑩ 神社【帰り道】※※

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「だめ! 佳純さん!」

 震える声を必死に絞り出して叫んだ。
 もうダメだと思った時、佳純の手が伸びてきた。

 ビクッと揺れた俺の頭を、佳純の手がふわりと撫でた。

「大丈夫です。落ち着いてください。私は平気ですから」

「えっ………」

 恐る恐る見上げると、佳純はいつもの優しい顔で笑っていた。
 恐ろしい想像しかできなかったのに、佳純は俺を安心させるように、頭の次は背中をぽんぽんと撫でてきた。

「急なヒートですね。怖かったでしょう。もう大丈夫ですから、救護テントに運びましょう。私の同級生の医師も来ていますし、抑制剤も用意されているはずです」

 佳純は動けなくなっている女の子に声をかけて、軽々と背負って歩き出した。
 行きましょうと声をかけられたので、俺もすぐ立ち上がったが、どう考えてもおかしい状況が飲み込まなかった。

 途中、倒れている椎崎の側を通ったら、椎崎はすでに気が付いて正気を取り戻していた。ただ、まだ誘発の状態が抜け切らないらしく、先に行ってくれと言われたのでそのまま急ぐことにした。


「篤史は頑丈なので大丈夫です。急なヒート状態からショックを受けて戻ったので、体の熱が冷めるまではそっとしておいた方がいいです」

「……佳純さんは、その、大丈夫なんですか? フェロモンが……」

 同じアルファの佳純がこんなに近くにいて、強烈なフェロモンの匂いになんの反応もしないなんておかしい。
 アルファの中には、フェロモンに無反応の特異体質もいると聞いたことがあるが、俺が発情した時には、確かに佳純も発情していたように思えた。
 どういうことなのか頭が混乱してきてしまった。

「ああ、ちゃんと説明していなかったですね。私の特性です。つまり我慢ができるんです」

「え? 我慢?」

「そうです。オメガのフェロモンを受けても、自分を抑えることができる。つまり、発情をコントロールできるんです。アルファの中では珍しいらしいですね。このせいで最初は自分が本当にアルファなのかも疑わしかったくらいです」

「そんな……特性が……」

 バース性の授業では一般的な話しかしてくれない。
 まだ解明されていないことも多くて、例外はあるとだけ言われていた。
 フェロモンを感じないとか、発情をコントロールできるなど、他にもありそうだ。
 知れば知るほど、バース性とは不思議で理解が難しいと思ってしまった。

「あの……では、私が発情した時はそれに付き合っていただいた感じですか……」

「それなんですが……、あの時は全くコントロールが効かなくなってしまって、私も誘発されて完全に我を失ってしまいました」

「えっ、それは……」

「諒さんだけです……きっと本当に……」

 佳純が何か言いかけた時に、おそらく女の子を探していたのか、彼女の友達グループの子達が集まって来た。

 みんな動揺して泣いていたので、佳純が言いかけた言葉を聞くこともできず、慌ただしく一緒に救護所に行くことになった。
 その後は無事テントまで辿り着くことができて、緊急抑制剤が打たれて、落ち着いた女の子はしばらく休むことになった。



「あの、すみません。白奥さんが声をかけてくれたって聞いて……」

 一時、何が起きたのかと人が集まってきていたが、辺りは静けさを取り戻していた。
 テントを出た時に声をかけられたので振り向くと、宴会の席で俺にチクリと嫌味を言ってきた女の子が立っていた。

「あの子妹なんです……。すみません、ご迷惑をおかけしました。助けてくれてありがとうございました」

「そうだったんですね。落ち着いたみたいでよかったです」

 気まずい気持ちにはなったが、ちゃんとお礼を言ってきてくれたということは、悪い子ではないようだ。
 女の子は俺に向かってペコリとお辞儀をした後、走ってテントの中に入っていった。

 ひと騒動あったが祭りは変わりなく続けられていた。
 椎崎は会場に戻ったようだが、建物の中で休んでいるらしい。様子を見に行った佳純を階段に座って待つことになった。





 思いもよらなかったハプニングがあったが、祭り自体はとても楽しくて、椎崎や地元の人達と過ごす時間はまるで夢の中の世界だった。
 家の中という空間で静かに生きてきたので、外の世界は恐いものだと思い込んでいた。
 それが勇気を出して踏み出したら、佳純のような素敵な人に出会えて、こんな経験ができるなんて、やっぱり現実とは思えないくらい驚きの連続だった。

 一人になって思い浮かべるのは佳純のことだ。

 今まではアルファでなかった自分にショックを受けていたので、オメガについては特別思うことはなかった。
 薬を飲み続ける必要があるのは面倒だが、それに気をつければ生活するのにそこまで不便なことはないからだ。
 でも、今考えてみれば、俺がオメガでなかったら佳純と出会うことはなかったかもしれない。
 そう思うと初めて地面に足をつけて歩いているような感覚がした。
 やっと、自分のことを認めて歩き出せたような……

「あっ、そういえば……」

 宴会に連れて行かれたので、佳純が買ってくれたリンゴ飴をまだ食べていなかった。
 待っている間に味見してみようかなと袋を開けて中身を取り出した。

「……んっ、甘い。美味しいー」

 この毒々しい赤色がまた、何かイケナイものを食べているような背徳感がある。
 そして口の中に広がる甘さと、ジャリジャリという飴の食感がたまらない。
 一気にファンになってしまいそうだと、嬉しくなった。


「お待たせしました。篤史は調子を取り戻してまた屋台の方に戻りました。だいぶ遅くなってしまいましたし、私達はそろそろ帰りましょう」

「んっ……はっ、はい」

 食べるのに夢中になっていて、佳純が来たことにも気が付かなかった。
 慌てて立ち上がってもぐもぐしながら答えたが、変な声しか出てこなかった。

「ふふっ、お腹が空きましたか? 帰ったら、何か用意しましょう」

「いえっ、さっきたくさん頂いたので。これは食べてみたくて、つい」

「いいんですよ。そのために買ったんですから」

 笑顔で近づいてきた佳純はハンカチを取り出して、俺の口元を拭いてくれた。
 食べかすまで付けて夢中で食べていたなんて恥ずかしくなった。

「あ……あの、もう帰りますか?」

「ええ、どこか行きたいお店がありましたか? それなら……」

「いえ、お店じゃなくて……写真を……」

「え?」

 二人で参加した初めてのお祭りだ。
 佳純の美麗過ぎる浴衣姿は記憶に焼き付けたが、思い出として撮っておきたかった。

「二人で一緒に写真を撮ってもいいですか?」

「諒さん……、もちろんです」

 佳純は近くを歩いていた人に声をかけてくれて、夜店をバックにして、二人で並んだ写真を撮ることができた。
 撮ってくれた人にお礼を言って帰ることになった。
 俺は嬉しくてたまらなくて、帰り道を歩きながらスマホの画面を覗いて、撮ってもらった写真をチラチラ見てしまった。

「なかなか、よく撮れてますね。後で私にも送ってくださいね」

「はい、何枚も撮ってくれたみたいですね……。あっ、この佳純さん目を閉じてる、ふふふっ可愛い」

「ううっ、ひどい顔をしていますね。諒さんはとっても可愛い顔なのにー」

 上手く写れなくて子供のように悔しがる佳純はもっと可愛らしかった。
 クスクスと笑いながら目線を横に向けたら、商店街のお店のガラスに映った自分の口がやけに赤く見えた。
 気のせいかと迷いながらそのまましばらく歩いたが、やっぱり気になってしまい、佳純に聞いてみることにした。

「佳純さん、口が切れてしまったのでしょうか? 変に赤い気がして……」

「ああ、それはリンゴ飴の色が付いたのでしょう。かき氷などでも舌が染まることがあります。赤いからビックリしちゃいましたか?」

「そうだったんですね。それなら舌も赤いのかなぁ。佳純さん、どうですか?」

 商店街は過ぎてしまったので、自分で確認ができなかった。
 佳純の浴衣を引っ張って顔を近づけてから、舌をべっとして見せてみた。
 佳純は目を開いて驚いたような顔になった。

「諒さ………もう、貴方は……」

「えっ…………んっっ、んんーーー」

 ガッシリと後頭部を手で押さえられてぐっと引き寄せられた。
 佳純は俺が見せていた舌を自分の舌で絡め取って、そのまま口の中に吸い込んでしまった。
 突然のキス、というか舌を吸われてしまい驚いてバランスを崩しそうになったが、そのまま近くの石塀に押し付けられて、じゅるじゅると舌を吸われてしまった。
 舌を見せて火をつけてしまったようだが、佳純が外でこんな濃厚なキスをしてくるなんて思わなかった。

 ぽんっと空気が抜ける音がして、やっと舌が解放されたが、今度は顔から首筋にキスが雨のように降ってきた。

「あっ……かすみ……さ……」

「こんな色っぽいうなじをして、舌を見せてくるなんて、私を試すのが好きですね」

「んっっ、だっ……め、こんな……ところ……」

 すでに君塚家の門を越えて敷地に入っていて、一般の人は入って来ない。
 だが、藤野のような屋敷に出入りする人間が通る可能性はある。

「ここは裏口の通りなので、家の者は滅多に来ません。それより、諒の舌が甘くて美味しかったです。もっと食べたい……」

「はぁはぁ……ぁぁっ、………あっ………」

 押し付けられた佳純の下半身に昂りを感じた俺は息を呑んだ。
 今はお互いヒートを起こしているわけではない。
 俺に欲情してくれているのだと、喜びで全身が震えた。

「佳純さん、俺に……興奮してくれてるの? 嬉しい……」

「何を……当たり前じゃないですか。私は……諒さんといると、こうなってしまいますよ」

 どこでもそんな風になるわけがないので、きっと大袈裟な表現だと思うが、それでも嬉しかった。

 壁に押し付けられた状態でキスを受けて、俺は佳純の頭の後ろに手を回してしがみついた。
 佳純は腰を押し付けながらまるで本当にセックスをしているみたいに腰を動かしてきて、俺のはすっかり勃ち上がってしまった。
 佳純は俺のはだけた浴衣の間に手を入れて、下着をずらして、そこから大きくなったモノを取り出してしまった。

「ああっ……」

「諒さんのは、こんなところまで綺麗ですね。私のと一緒に……」

 佳純も自分の浴衣をずらして、そこから昂ったモノを取り出した。繊細で美しい外見に似合わず、佳純のソレは大きくて黒く光って卑猥な形をしていた。
 俺のモノと一緒に重ねて擦り合わせたら、気持ち良過ぎて大きく喘いでしまった。

「もっと……、もっと、可愛い声を聞かせてください」

「うっ……ぁぁ、……だめっ、そと……はずかし……いぃんんっ……あっ、アッアッ、んんっ……」

 亀頭の部分を重ねてぎゅっと掴まれてぐりぐり擦られたら、強烈な快感で思わず腰が揺れてしまった。
 思えばヒートの時のセックスはほとんど記憶がなくて、こんな風に欲望のまま肌を触れ合うなんて、俺も興奮してしまい心臓が壊れそうだった。

「あっ、こえ……とまらな……きもちい……かすみ……いいっ……あっ……いいっ」

「ん……私も、気持ちいい……です。このまま、少し激しくしていい……ですか?」

「は……い、かすみ……つよく……して」

 はーはーと息を漏らしながら、やっと答えると、俺を見た佳純はぶるりと震えて、壁を使って俺を持ち上げてから、ガンガン下から突いてきた。
 お互いの陰茎を擦り合わせているだけなのに、まるで挿入されているような快感に後ろの孔はぎゅうぎゅうと締まった。

 貪るように唇を合わせて舌を吸い合いながら、激しく下半身を擦り合わせる。
 こんな光景、今までのぬくぬくと生活してきた俺が見たら卒倒してしまうだろう。

 この快感を知ってしまったら、もう元には戻れない。

 それでいい。
 佳純に溺れて、溺れて。
 どこまでも溺れて生きていきたい。

 全部気持ちよくて、愛おしくて、好きがどんどん溢れてきて止まらない。

「ハァハァ、ぁぁ、あっっ、も……だめ、イク………」

「私も……くっ……限界です。諒、一緒に……」

 ガンッと強く突き上げられて、先をぎゅっと掴まれたら、たまらず俺は達してしまった。
 佳純もまた、俺のモノに擦り付けながらビクビクと揺れて白濁を放った。
 勢いよく飛んだ白濁は、ボタボタと大量に地面に落ちた。

「諒………」

 まるで愛おしいものを離したくないみたいに、佳純は俺のことをぎゅっと抱きしめてきた。
 達した後の気だるさでぼけっとしてしまった俺は、佳純の腕の中でウトウトして寝てしまいそうだった。

「明日帰ってしまうなんて……、またヒートが来てくれたらいいのにと思ってしまいます」

「だいじょぶ……で……、すぐに……あえるから」

 今しかないタイミングだと思って、好きだと言おうと思った。
 でも泥のような眠気が押し寄せてきて、意識はぼんやりとしてしまった。

 幸せ。

 今はこの幸せを感じていたい。

 今夜の最高の思い出を、幸せな気持ちで締め括りたかった。

 温かい気持ちで満たされたまま、佳純の腕の中でそっと目を閉じた。





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