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本編
ハーレムの王は……え!?俺!?(終)
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鏡の中に映る男は、いつもだらしなく垂らしている金色の髪を後ろに撫でつけて、真っ白なタキシードに身を包んでいた。
紫の瞳は今日はやけに潤んで見える。
ため息まで鏡に映ってしまいそうで、鏡に背を向けた。
「おお、男っぷりに磨きがかかったな!さすが、俺の息子だ」
バシンと背中を叩かれて悲鳴を上げた。全く親父は加減を知らなすぎる!
今日は王宮で開かれるダンスパーティーの日だ。
親父も正装している。なぜかと言えば、エスコート役が必要なのだそうだ。男同士で何やってんだと疑問しかないのだが、親父は喜んで支度をしていた。
まさか、親父の前でアイツらと婚約がどうとかの話をしないといけないのかと思うと頭が痛かった。
会場までは馬車で一時間ほど、すでに日も沈みかけていて、オレンジ色に染まった街を馬車は進んで行った。
同じ馬車に乗っているが親父も無言だし、俺も言葉が出てこなかった。
俺の決断に親父は何と言うのだろうか、そう考えながら流れていく街並みをただぼんやりと見ていた。
「イエロールーン子爵、ご子息のアリアス様ご到着です」
名前を呼ばれて会場に入った。さすが王宮のパーティー、というかパーティーなんて俺にとっては初参加だった。
絢爛豪華なホールに咲く、色とりどりの豪華な服に着飾った男達。
……なんとも楽しくない光景だ。
すでにたくさんの男達が体を寄せ合ってダンスに興じていた。
俺はもちろんダンスなんてできるはずがない。とりあえずデューク達の姿を探したが人が多すぎてよく分からなかった。
「アリアス先生」
後ろから声をかけられて振り向くと、ルナソルが立っていた。髪と同じ水色の服を着ている。儚げで透明感のあるルナソルによく似合っていた。
「言っておくが、俺をダンスに誘うなよ。冗談抜きで踊れないから」
「それは残念です。でも話をするにはこうして自然と身を寄せておくのが目立たないのです。お伝えする事がありますので、少し頑張っていただけますか?」
ダンスパーティーに来る男の台詞ではなかったが、ルナソルに手を引かれてしまい、あっという間にホールのダンスの輪の中へ連れて行かれてしまった。
「ちょっ…ルナソル、あまり体をくっつけるなよ…」
「どうしましたか?ああ、反応してしまうんですね。今日はとても魅力的なのに、こんなに甘い匂いを出して……可愛いなぁ……」
「んっ…あぁ…だめだって…」
何か話があるはずなのに、ルナソルはベタベタと俺に引っ付いてきて、顔中にキスをしてきた。
ダンスどころではなく、このままだと衆人環視の中で体がおかしくなってしまう。
「ハシュール殿下は今、奥の輪で踊っていらっしゃいます。あちらは王族に近しい方までが入れる輪なので、まだこちらに来られないでしょう。次の曲が終わればフリータイムです。そこで必ず動くはずです。何が起きても先生は静かに事態を見守っていてください」
「あ…あうん。分かった」
「……アリアス、私を選んでくれると信じていますよ。もし別の誰かを選んだら……楽しいダンスパーティーが血みどろの惨劇の場所に……」
「だぁーーーー!ルナソル!何を言って……」
冗談ですよと言いながらふわりと笑ったルナソルは、本気の目をしながら俺から離れていった。
あいつやっぱり怖すぎる……。
緊張で変な汗が出てきたので、水をもらってテラスの方へ移動した。
とにかく人が多すぎて息が詰まりそうになった。パーティーなんて、もう絶対行かないと思っていたら、歓声と拍手の音が聞こえたのでどうやら曲が終わったらしかった。
「やあ、来てくれたんだね。アリアス」
テラスに移動した俺を待ち構えていたかのように、ハシュール殿下がやって来た。背を低くしてお辞儀をすると、目を開けた目の前に靴先があって移動の速さに驚いた。
「ああ、やっぱり…。この匂いだ…、これが忘れられなくて…。他の者を抱いても少しも良いと思えなくてね…飢えていたんだよ」
ハシュール殿下はいきなり俺の腰を掴んで引き寄せてきた。病弱で体の弱い第一王子は政治も後継も希望がないと言われ、ハシュールが時期国王になると言われている。その自信が全身からみなぎっていて、火傷しそうなくらいだ。
「火種になるから妃はあまり持ちたくなかったが、これでは話が別だ。其方ほどアンバランスな魅力に溢れた者はいない。豊潤で華やかな美貌を持ちながら、まるで処女のような危うい香り……全てが私を狂わせる」
変なワインの説明みたいなものをされて、体を掴まれて逃げたくてたまらない。しかも下半身を押し付けられて、ハシュールの硬いアレの感触を感じたら寒気がして吐きそうだった。
「や…やめ……」
「ハシュール殿下!そこまでです!」
必死に耐えたが思わず手が出そうになった時、テラスに響き渡る鋭い声がして手を止める事ができた。
声の方向には黒の正装で立っているジェラルドがいた。その鋭い目には強い力がこもっているように見えた。
「……なんだ、ジェラルド。毎回私を止めるとは……無粋なヤツだ。この私を止めるとはいくらお前でも罪になるぞ!」
「いいえ、むしろこれは殿下のためを思っての進言です。アリアスの体は……」
「スペルマなのであろう。それくらい私もすぐに分かった。スペルマを妃にしても問題ないだろう。前例もある」
騒ぎを聞きつけていつの間にかテラスには人が集まってきた。その中に親父の姿を見つけた。デカい体を縮こませて顔を出してこっちを見ていた。
「スペルマですが、ただのスペルマではありません!アリアスはスペルガです!」
ん?上級魔法に変わった?みたいななんか微妙な名前の変化だが、その言葉を聞いて周囲はザワザワと騒ぎ出した。
「…スペルガ…だと、フザけた出まかせを…」
「出まかせではありません」
ジェラルドの後ろからスッとルナソルが現れた。何やら分厚い資料見たいなものを抱えている。
「アリアス本人の精液を採取して魔法器にかけて確認しました。ここに、その結果をまとめています。こちらは提出させていただきますので、どうぞ王宮で審査にかけていただいて問題ありません」
さらりと恐ろしい台詞を聞いたような気がするが、そこは流さないと恥ずかしくて死にそうなので聞かなかったことにする……あーもう…ルナソル…いつの間に…!
「なんだと……そんな……まさか」
ハシュール殿下はよく分からないがショックを受けて放心状態になっている。追い討ちをかけるようにジェラルドがまた口を開けた。
「スペルガはその身に淫毒を持ち、挿入を許した者を狂わせる傾国と呼ばれています。唯一本能的に相性の良い相手のみ、その毒が通用しないという事も…ご存知でいらしゃいますよね。淫毒を持つ者を妃に迎えるなどご法度。殿下の身を守るためお止めさせていただきました」
「くっ……」
勝ち誇ったようにジェラルドが笑い、ハシュールは悔しさに顔を歪ませていた。周囲からはジェラルドが殿下のピンチを未然防いだという声が上がり拍手まで沸き起こってしまった。
「………よくやった、ジェラルド」
震える声でジェラルドに告げた後、俺を解放したハシュールは下を向いたまま、逃げるようにテラスから早足で中へ消えてしまった。
どうやら俺は、スペルマであるがスペルガらしい。頭がこんがらがってパンクしそうになっていると、見物を終えた人々がホールへ戻っていく流れの中からデュークとライジンが飛び出して、俺の側に駆け寄ってきた。
「アリアス!よく我慢して手を出さなかったな」
「本当だよ。先生、頑張った。ほら俺が消毒してやる。ああ、もう変なのに目をつけられたりしてー」
デカい体のデュークとライジンに両端から抱きしめられて、苦しさでもがいていると、安堵した顔になったジェラルドとルナソルも近づいてきた。
「ジェラルド先生、ルナソル、さっきの…話は…」
「ああ、本当の事だ。ルナソルが自分のかけた魔法の効力を調べる過程で発見してくれた。スペルガはスペルマが進化したものと言われていているが、幻の個体と言われるくらい数が少ないんだ。効果はさっき言った通りだ。毒は俺達には効かないから安心してくれ」
まさかアリアスの体がそんな稀少なものだとは思わなかった。でももしかしたら、それは俺が転生した事でヤツらが勝手に付けた特典かもしれないと、ふと思った。
「さぁ、アリアス。邪魔者はいなくなったし、結婚相手を選んでくれ」
ジェラルドの言葉に一気に現実に引き戻された。ここには全員揃っている。今度は俺が選択する番なのだ。
デュークとライジンの腕の中から抜け出して、背を正した俺はみんなに向かい合うように前に出た。
「ずっと…ずっと考えて…、一人一人と一緒に過ごした事…。夢も希望もなくて、全部投げ出して逃げようって思っていた俺を……何故か分からないけどみんな温かく接してくれて…。俺、適当だしいい加減だし…ろくな人間じゃないのに…、それでも好きになってくれて…」
つらつらと言い訳ばかりが口から出てきて止まらなかった。みんな結論を聞きたいと思うのに、無言で俺の答えを待ってくれている。それが切なくて苦しかった。
「考えて考えて考えたけど、やっぱりデュークもライジンもルナソルもジェラルドも、みんなのこと同じくらい好きなんだ!本当に優柔不断でごめん!!…だ…だから、俺……俺、パラダイス島に行くよ!」
「はぁ!?」
全員の声が一斉に気持ちいいくらい揃った。これが俺が行き着いたもう信じたくない結論だ。
嫌で嫌で嫌すぎるけど、全員が好きだなんて自分勝手なことを言ってそれで許されるものではない。
それならば全員選ばずに、親父の命令通りパラダイス島に向かうのが筋だろうと思ったのだ。
「アホかお前!なんでそうなるんだよ」
「はぁ……、アリアス先生、貴方という人は…仕方がありませんね」
「先生、バカなこと言うなよ!なんでそんな島に行く必要があるんだ」
俺が悩んで悩んで出した結論なのに、一斉にアホだバカだと言われて、ちょっとひどくない?とショックを受けた。
「アリアス、全員好きなら全員と結婚すればいいだろう」
ライジンが空は青いですみたいな当たり前の事を言うような口調でおかしな事を言ってきたので、理解できなくて目をぱちぱちと動かしてとりあえず落ち着こうとした。
「全員か…まあ、それがこの際一番納得がいくだろうな」
「大変不本意ですが仕方ありませんね。アリアス先生を手に入れるなら、受け入れるしかないですから、私はそれで構いません」
まさかの暴走機関車だと思っていたルナソルがあっさりと納得しているので、俺は余計にこんがらがってしまった。
「実はスペルガは複数の夫を持つように決められているんですよ。複数の夫に淫毒を分けて分散させるようにしているんです。影響はありますが効果が薄まるからです。まあ私達の場合、そこは大丈夫ですが、国から認められている制度ですから利用するには問題はありません」
「なっ……え?……ええ!?」
「先生、俺を選んでくれて嬉しいよ。大切にするからさ!好きだよ!」
飛びついてきたデュークに唇を奪われたが、ライジンが抜け駆け禁止とデュークの襟首を掴んで引き剥がした。
「アリアスとの性交は曜日ごとで交代制にしましょう。スペルマは妊娠を操れますから、子供も何人にするかも取り決めをしておきましょう。私は子供は苦手なので、二人ですかね」
「は…!?ルナソル?なっ…なにを…??」
「はいはーい!俺、子供好きだから四人は欲しい!」
「デューク……好きだからって…」
「俺は三人だな。ちなみに三歳差がいい」
「ジェラルド…なぜ年齢差……」
「ゴホン…。俺は…十人は……」
「ライジン!フザけんな!」
みんなが好き勝手言い始めて、どんどんおかしくなっていく。俺は震えながら頭を整理しようと必死になった。
「お前達…、本気でその…全員で俺と結婚するのか?ほ…本当にそれでいいの?」
「いい!」
また全員の声が揃ってしまい、頭がクラクラして倒れそうになった。
「はっはっはっ!なかなか面白いことになったな」
どこで聞いていたのか、のしのしと地面を揺らしながら、熊…じゃなくて、親父が笑いながら歩いてきた。
いや、はっはじゃねーよ!息子大変なんだけど理解してる?とここもまた頭痛がしてきた。
「こんなに家族が増えるなんて、嬉しいことはない。アリアスは頑固なくせに少々抜けてて頼りないが、どうかこの息子に家族の幸せを味合わせてやって欲しい」
「はい!お義父様!喜んで!」
またまた全員の声が揃って、なんだよこれとおかしくなりそうだった。
「……これじゃ…まるで、ハーレムじゃないか」
ボソリと俺が呟いた言葉をデュークが聞き逃さず、楽しそうにニコリと笑った。
「そうだよ。ハーレムの女王、じゃなくて男だから王様だな。アリアスが、俺達の王様だ」
白い歯を見せてニカっと笑ったデュークは太陽のように眩しかった。
主人公様にそう言われたらもうお終いだ。
俺はそこでフラフラとして足元から崩れ落ちた。パラダイス島送りにはならなかったが、俺はついにハーレムの王様になってしまった。
【エピローグ】
ギラギラと焼けるように照りつける太陽の下、撒いたばかりの水が宝石のように光って見えた。
葉に残った水滴を指に乗せると、あっという間に指を伝って地面にこぼれ落ちてしまった。
儚い輝きが綺麗だなと微笑んだ自分だったが、一方で何やってんだと頭の中でツッコんでいた。
そうだ……こんな光景に癒されるほど俺は疲れているらしい。
「こんなところで何をしているかと思えば……水やりなんて庭師に任せておけばいいだろ」
背中に熱を感じた。後ろから抱きしめられたて、その声と匂いで誰だか頭の中で考える。
「放っておいてください。俺の癒しの時間なんです。だいたい今日は貴方の番じゃないですよ、ジェラルド」
「こんなところで無防備に可愛いお前が悪い。ライジンの番だがやつは遠征中だろう。だから俺が代わりを務めることにする」
「そういう日は妻の務めはお休みって言うことでは……んっ…ぁあっ」
耳の中をベロリと舐められて、ジェラルドの指がシャツの中に侵入してきた。このまますぐに胸の頂を征服してしまうだろう。
それを期待して下半身の熱は上がり始めた。
俺は今、ジェラルドのデカい屋敷に暮らしている。正確に言うと、俺の夫達と……という事になってしまった。
婚約期間もなく、すぐに結婚する事になり、全員が暮らせるデカさのこの屋敷に落ち着く事になった。
あれからデューク、ライジン、ルナソルは学園を卒業して、デュークは魔法省、ライジンは王国騎士団、ルナソルは王立研究所に、それぞれ就職して働いている。
俺とジェラルドは学園での仕事をそのまま続けている。もともと遊び人だった俺が保健医として生徒を診るのがジェラルドは気に入らないようだが、そもそも浮気なんて考えられるはずもない。
精神的にも、肉体的にもそんな余裕は一切ない!
何しろ俺の夫達は、ローテーションを組んで毎日のように抱きつぶしてくるからだ。
おかげで毎日ヘロヘロで、疲れが取れない。ジェラルドが疲労回復の魔法を使ってくれるが、回復して間もなく次々と誰かしら襲ってくるので、毎日疲労困ぱいだ。
「…そう言えば聞いたか?ハシュール殿下、不能になったらしくてな。妃達が暴れ回って王宮は大騒ぎだよ」
「んっ…はぁ……ぁぁん……」
くちゅくちゅと水音を立てながら、ジェラルドが俺のペニスを取り出して擦り始めた。
ジェラルドの話は頭に入ってくるが、意味を理解する前にふわふわと消えてしまう。
「あのプライドの高い男が、お願いだからアリアスと俺達が交わっているところが見たいと言ってきた。はははっ…、完全に頭がおかしくなってたな。まぁ、王子はたくさんいるし、国は問題ない」
「はっ…あ…んんっ…い…く、イっちゃう……」
「ああ、可愛い俺の妻よ。淫らにイってくれ」
「ははぁ…ぁあああ……あんんんっっ!!」
ジェラルドにぐちゅぐちゅに擦られて、俺は腰を揺らしながら達した。
飛び散った白濁が葉の上に乗っている。さっきの光景と大違いだ。
口の中に入れられたジェラルドの指を噛んでしまいそうだったがなんとか堪えた。
そうするとジェラルドはいつも良い子だと褒めてくれるからだ。
「あーーーー!やっぱりここだ!抜け駆けしていると思ったけどやっぱりだったな!今日はジェラルドの日じゃないだろう!」
賢者タイムもほどほどに、ぼんやり余韻に浸っていたらデュークの叫び声で現実に引き戻された。
「俺はライジンの代わりだ」
「それなら、私が務めますよ。前回は学会で不在でしたから、ああ、こんなところでイカされて、悪い子ですね」
いつの間にか隣に来ていたルナソルに手を取られて胸の中に捕らわれて、目尻に溜まった涙をペロリと舐められた。
「早くアリアスが成人して子供ができるのが楽しみです」
「ルナソル……子供が苦手とか言ってたのに、一番楽しみにしてるだろう」
「ええ、それはもちろん。貴方との愛の結晶ですから」
ふわりと微笑んだルナソルが口付けしてきたので、俺はぼんやりとした頭のままそれを受け止めた。
なんだかんだ言ってこいつが一番親バカになりそうである。
子作りに関しては俺が成人を迎えてからと決めている。スペルマ特性がよく分からないが、その時期になるとその辺も操れるらしい。妊娠期間も一月でお産も軽く、一週間後には次の妊娠が可能というから、スペルマとは生態系を崩す恐ろしい存在だ。記録にあるものだけだが、実際はそんなに産んでも育てるのが大変なので、子を待つとしても数的には他の人と同じくらいらしい。
ルナソルの口付けを夢中で受けていたら、ぐわっと後ろから子供のように持ち上げられて担ぎ上げられてしまった。
「待たせたなアリアス、今日に間に合うように討伐を終えて帰ってきたぞ!」
「ライジン!」
魔物討伐の遠征に出掛けていたライジンは、長丁場になると聞いていたのに、あっという間に帰ってきてしまった。
騎士団の制服を身につけて、かなりカッコよくてキュンとしてしまうが、ちゃんと仕事をしてきたのかちょっと心配だ。
「今日は俺の番だからな、朝まで離さない」
散々暴れてきたのによくそんな体力があるなと感心するほどだ。
今日担当のライジンの登場に、グダグダ言っていたみんなは大人しく引き下がって、ごゆっくりと手を振ってきた。
交代制で担当の者の邪魔をしない、それがここの、俺のハーレムのルールとなっている。
ライジンの逞しい背中に乗せられて揺られながら、この慌ただしくも過酷すぎる生活も、本音では結構気に入ってしまったなとしみじみ考えていた。
それぞれのことが好きだし、みんなから愛されるのは悪い気はしない……体は大変だが。
「アリアスは少し体力をつけた方がいい」
「えー…これ以上運動するの…やだな」
「……俺の子を十人産んでもらうからな」
「はっ…お前!?それ…本気だったの!?」
とてつもなく大家族になりそうな予感に俺は震えるしかない。
「……やっぱり俺、逃げようかな」
「ほう、逃げれるものなら逃げてみたらいい」
魔王と悪魔と殺戮兵器と鼻が利く犬。
どう考えても逃げ切れる未来が想像できなかった。
「絶対無理だ」
ガクリと項垂れた俺の尻をライジンが鼻歌混じりに楽しそうに撫でている。
女の子とのハーレムを作ろうとしていたのが遠い過去のようだ。とんでもないヤツらに捕まってしまい、地味に生きようとしていた俺の異世界ライフは予想もしなかったところに落ち着いてしまった。
どうやら賑やかになりそうな未来を想像したら胸がほんのり温かくなった。
それが幸せだと気がつくのは、まだほんの少し先のようだ。
□完□
紫の瞳は今日はやけに潤んで見える。
ため息まで鏡に映ってしまいそうで、鏡に背を向けた。
「おお、男っぷりに磨きがかかったな!さすが、俺の息子だ」
バシンと背中を叩かれて悲鳴を上げた。全く親父は加減を知らなすぎる!
今日は王宮で開かれるダンスパーティーの日だ。
親父も正装している。なぜかと言えば、エスコート役が必要なのだそうだ。男同士で何やってんだと疑問しかないのだが、親父は喜んで支度をしていた。
まさか、親父の前でアイツらと婚約がどうとかの話をしないといけないのかと思うと頭が痛かった。
会場までは馬車で一時間ほど、すでに日も沈みかけていて、オレンジ色に染まった街を馬車は進んで行った。
同じ馬車に乗っているが親父も無言だし、俺も言葉が出てこなかった。
俺の決断に親父は何と言うのだろうか、そう考えながら流れていく街並みをただぼんやりと見ていた。
「イエロールーン子爵、ご子息のアリアス様ご到着です」
名前を呼ばれて会場に入った。さすが王宮のパーティー、というかパーティーなんて俺にとっては初参加だった。
絢爛豪華なホールに咲く、色とりどりの豪華な服に着飾った男達。
……なんとも楽しくない光景だ。
すでにたくさんの男達が体を寄せ合ってダンスに興じていた。
俺はもちろんダンスなんてできるはずがない。とりあえずデューク達の姿を探したが人が多すぎてよく分からなかった。
「アリアス先生」
後ろから声をかけられて振り向くと、ルナソルが立っていた。髪と同じ水色の服を着ている。儚げで透明感のあるルナソルによく似合っていた。
「言っておくが、俺をダンスに誘うなよ。冗談抜きで踊れないから」
「それは残念です。でも話をするにはこうして自然と身を寄せておくのが目立たないのです。お伝えする事がありますので、少し頑張っていただけますか?」
ダンスパーティーに来る男の台詞ではなかったが、ルナソルに手を引かれてしまい、あっという間にホールのダンスの輪の中へ連れて行かれてしまった。
「ちょっ…ルナソル、あまり体をくっつけるなよ…」
「どうしましたか?ああ、反応してしまうんですね。今日はとても魅力的なのに、こんなに甘い匂いを出して……可愛いなぁ……」
「んっ…あぁ…だめだって…」
何か話があるはずなのに、ルナソルはベタベタと俺に引っ付いてきて、顔中にキスをしてきた。
ダンスどころではなく、このままだと衆人環視の中で体がおかしくなってしまう。
「ハシュール殿下は今、奥の輪で踊っていらっしゃいます。あちらは王族に近しい方までが入れる輪なので、まだこちらに来られないでしょう。次の曲が終わればフリータイムです。そこで必ず動くはずです。何が起きても先生は静かに事態を見守っていてください」
「あ…あうん。分かった」
「……アリアス、私を選んでくれると信じていますよ。もし別の誰かを選んだら……楽しいダンスパーティーが血みどろの惨劇の場所に……」
「だぁーーーー!ルナソル!何を言って……」
冗談ですよと言いながらふわりと笑ったルナソルは、本気の目をしながら俺から離れていった。
あいつやっぱり怖すぎる……。
緊張で変な汗が出てきたので、水をもらってテラスの方へ移動した。
とにかく人が多すぎて息が詰まりそうになった。パーティーなんて、もう絶対行かないと思っていたら、歓声と拍手の音が聞こえたのでどうやら曲が終わったらしかった。
「やあ、来てくれたんだね。アリアス」
テラスに移動した俺を待ち構えていたかのように、ハシュール殿下がやって来た。背を低くしてお辞儀をすると、目を開けた目の前に靴先があって移動の速さに驚いた。
「ああ、やっぱり…。この匂いだ…、これが忘れられなくて…。他の者を抱いても少しも良いと思えなくてね…飢えていたんだよ」
ハシュール殿下はいきなり俺の腰を掴んで引き寄せてきた。病弱で体の弱い第一王子は政治も後継も希望がないと言われ、ハシュールが時期国王になると言われている。その自信が全身からみなぎっていて、火傷しそうなくらいだ。
「火種になるから妃はあまり持ちたくなかったが、これでは話が別だ。其方ほどアンバランスな魅力に溢れた者はいない。豊潤で華やかな美貌を持ちながら、まるで処女のような危うい香り……全てが私を狂わせる」
変なワインの説明みたいなものをされて、体を掴まれて逃げたくてたまらない。しかも下半身を押し付けられて、ハシュールの硬いアレの感触を感じたら寒気がして吐きそうだった。
「や…やめ……」
「ハシュール殿下!そこまでです!」
必死に耐えたが思わず手が出そうになった時、テラスに響き渡る鋭い声がして手を止める事ができた。
声の方向には黒の正装で立っているジェラルドがいた。その鋭い目には強い力がこもっているように見えた。
「……なんだ、ジェラルド。毎回私を止めるとは……無粋なヤツだ。この私を止めるとはいくらお前でも罪になるぞ!」
「いいえ、むしろこれは殿下のためを思っての進言です。アリアスの体は……」
「スペルマなのであろう。それくらい私もすぐに分かった。スペルマを妃にしても問題ないだろう。前例もある」
騒ぎを聞きつけていつの間にかテラスには人が集まってきた。その中に親父の姿を見つけた。デカい体を縮こませて顔を出してこっちを見ていた。
「スペルマですが、ただのスペルマではありません!アリアスはスペルガです!」
ん?上級魔法に変わった?みたいななんか微妙な名前の変化だが、その言葉を聞いて周囲はザワザワと騒ぎ出した。
「…スペルガ…だと、フザけた出まかせを…」
「出まかせではありません」
ジェラルドの後ろからスッとルナソルが現れた。何やら分厚い資料見たいなものを抱えている。
「アリアス本人の精液を採取して魔法器にかけて確認しました。ここに、その結果をまとめています。こちらは提出させていただきますので、どうぞ王宮で審査にかけていただいて問題ありません」
さらりと恐ろしい台詞を聞いたような気がするが、そこは流さないと恥ずかしくて死にそうなので聞かなかったことにする……あーもう…ルナソル…いつの間に…!
「なんだと……そんな……まさか」
ハシュール殿下はよく分からないがショックを受けて放心状態になっている。追い討ちをかけるようにジェラルドがまた口を開けた。
「スペルガはその身に淫毒を持ち、挿入を許した者を狂わせる傾国と呼ばれています。唯一本能的に相性の良い相手のみ、その毒が通用しないという事も…ご存知でいらしゃいますよね。淫毒を持つ者を妃に迎えるなどご法度。殿下の身を守るためお止めさせていただきました」
「くっ……」
勝ち誇ったようにジェラルドが笑い、ハシュールは悔しさに顔を歪ませていた。周囲からはジェラルドが殿下のピンチを未然防いだという声が上がり拍手まで沸き起こってしまった。
「………よくやった、ジェラルド」
震える声でジェラルドに告げた後、俺を解放したハシュールは下を向いたまま、逃げるようにテラスから早足で中へ消えてしまった。
どうやら俺は、スペルマであるがスペルガらしい。頭がこんがらがってパンクしそうになっていると、見物を終えた人々がホールへ戻っていく流れの中からデュークとライジンが飛び出して、俺の側に駆け寄ってきた。
「アリアス!よく我慢して手を出さなかったな」
「本当だよ。先生、頑張った。ほら俺が消毒してやる。ああ、もう変なのに目をつけられたりしてー」
デカい体のデュークとライジンに両端から抱きしめられて、苦しさでもがいていると、安堵した顔になったジェラルドとルナソルも近づいてきた。
「ジェラルド先生、ルナソル、さっきの…話は…」
「ああ、本当の事だ。ルナソルが自分のかけた魔法の効力を調べる過程で発見してくれた。スペルガはスペルマが進化したものと言われていているが、幻の個体と言われるくらい数が少ないんだ。効果はさっき言った通りだ。毒は俺達には効かないから安心してくれ」
まさかアリアスの体がそんな稀少なものだとは思わなかった。でももしかしたら、それは俺が転生した事でヤツらが勝手に付けた特典かもしれないと、ふと思った。
「さぁ、アリアス。邪魔者はいなくなったし、結婚相手を選んでくれ」
ジェラルドの言葉に一気に現実に引き戻された。ここには全員揃っている。今度は俺が選択する番なのだ。
デュークとライジンの腕の中から抜け出して、背を正した俺はみんなに向かい合うように前に出た。
「ずっと…ずっと考えて…、一人一人と一緒に過ごした事…。夢も希望もなくて、全部投げ出して逃げようって思っていた俺を……何故か分からないけどみんな温かく接してくれて…。俺、適当だしいい加減だし…ろくな人間じゃないのに…、それでも好きになってくれて…」
つらつらと言い訳ばかりが口から出てきて止まらなかった。みんな結論を聞きたいと思うのに、無言で俺の答えを待ってくれている。それが切なくて苦しかった。
「考えて考えて考えたけど、やっぱりデュークもライジンもルナソルもジェラルドも、みんなのこと同じくらい好きなんだ!本当に優柔不断でごめん!!…だ…だから、俺……俺、パラダイス島に行くよ!」
「はぁ!?」
全員の声が一斉に気持ちいいくらい揃った。これが俺が行き着いたもう信じたくない結論だ。
嫌で嫌で嫌すぎるけど、全員が好きだなんて自分勝手なことを言ってそれで許されるものではない。
それならば全員選ばずに、親父の命令通りパラダイス島に向かうのが筋だろうと思ったのだ。
「アホかお前!なんでそうなるんだよ」
「はぁ……、アリアス先生、貴方という人は…仕方がありませんね」
「先生、バカなこと言うなよ!なんでそんな島に行く必要があるんだ」
俺が悩んで悩んで出した結論なのに、一斉にアホだバカだと言われて、ちょっとひどくない?とショックを受けた。
「アリアス、全員好きなら全員と結婚すればいいだろう」
ライジンが空は青いですみたいな当たり前の事を言うような口調でおかしな事を言ってきたので、理解できなくて目をぱちぱちと動かしてとりあえず落ち着こうとした。
「全員か…まあ、それがこの際一番納得がいくだろうな」
「大変不本意ですが仕方ありませんね。アリアス先生を手に入れるなら、受け入れるしかないですから、私はそれで構いません」
まさかの暴走機関車だと思っていたルナソルがあっさりと納得しているので、俺は余計にこんがらがってしまった。
「実はスペルガは複数の夫を持つように決められているんですよ。複数の夫に淫毒を分けて分散させるようにしているんです。影響はありますが効果が薄まるからです。まあ私達の場合、そこは大丈夫ですが、国から認められている制度ですから利用するには問題はありません」
「なっ……え?……ええ!?」
「先生、俺を選んでくれて嬉しいよ。大切にするからさ!好きだよ!」
飛びついてきたデュークに唇を奪われたが、ライジンが抜け駆け禁止とデュークの襟首を掴んで引き剥がした。
「アリアスとの性交は曜日ごとで交代制にしましょう。スペルマは妊娠を操れますから、子供も何人にするかも取り決めをしておきましょう。私は子供は苦手なので、二人ですかね」
「は…!?ルナソル?なっ…なにを…??」
「はいはーい!俺、子供好きだから四人は欲しい!」
「デューク……好きだからって…」
「俺は三人だな。ちなみに三歳差がいい」
「ジェラルド…なぜ年齢差……」
「ゴホン…。俺は…十人は……」
「ライジン!フザけんな!」
みんなが好き勝手言い始めて、どんどんおかしくなっていく。俺は震えながら頭を整理しようと必死になった。
「お前達…、本気でその…全員で俺と結婚するのか?ほ…本当にそれでいいの?」
「いい!」
また全員の声が揃ってしまい、頭がクラクラして倒れそうになった。
「はっはっはっ!なかなか面白いことになったな」
どこで聞いていたのか、のしのしと地面を揺らしながら、熊…じゃなくて、親父が笑いながら歩いてきた。
いや、はっはじゃねーよ!息子大変なんだけど理解してる?とここもまた頭痛がしてきた。
「こんなに家族が増えるなんて、嬉しいことはない。アリアスは頑固なくせに少々抜けてて頼りないが、どうかこの息子に家族の幸せを味合わせてやって欲しい」
「はい!お義父様!喜んで!」
またまた全員の声が揃って、なんだよこれとおかしくなりそうだった。
「……これじゃ…まるで、ハーレムじゃないか」
ボソリと俺が呟いた言葉をデュークが聞き逃さず、楽しそうにニコリと笑った。
「そうだよ。ハーレムの女王、じゃなくて男だから王様だな。アリアスが、俺達の王様だ」
白い歯を見せてニカっと笑ったデュークは太陽のように眩しかった。
主人公様にそう言われたらもうお終いだ。
俺はそこでフラフラとして足元から崩れ落ちた。パラダイス島送りにはならなかったが、俺はついにハーレムの王様になってしまった。
【エピローグ】
ギラギラと焼けるように照りつける太陽の下、撒いたばかりの水が宝石のように光って見えた。
葉に残った水滴を指に乗せると、あっという間に指を伝って地面にこぼれ落ちてしまった。
儚い輝きが綺麗だなと微笑んだ自分だったが、一方で何やってんだと頭の中でツッコんでいた。
そうだ……こんな光景に癒されるほど俺は疲れているらしい。
「こんなところで何をしているかと思えば……水やりなんて庭師に任せておけばいいだろ」
背中に熱を感じた。後ろから抱きしめられたて、その声と匂いで誰だか頭の中で考える。
「放っておいてください。俺の癒しの時間なんです。だいたい今日は貴方の番じゃないですよ、ジェラルド」
「こんなところで無防備に可愛いお前が悪い。ライジンの番だがやつは遠征中だろう。だから俺が代わりを務めることにする」
「そういう日は妻の務めはお休みって言うことでは……んっ…ぁあっ」
耳の中をベロリと舐められて、ジェラルドの指がシャツの中に侵入してきた。このまますぐに胸の頂を征服してしまうだろう。
それを期待して下半身の熱は上がり始めた。
俺は今、ジェラルドのデカい屋敷に暮らしている。正確に言うと、俺の夫達と……という事になってしまった。
婚約期間もなく、すぐに結婚する事になり、全員が暮らせるデカさのこの屋敷に落ち着く事になった。
あれからデューク、ライジン、ルナソルは学園を卒業して、デュークは魔法省、ライジンは王国騎士団、ルナソルは王立研究所に、それぞれ就職して働いている。
俺とジェラルドは学園での仕事をそのまま続けている。もともと遊び人だった俺が保健医として生徒を診るのがジェラルドは気に入らないようだが、そもそも浮気なんて考えられるはずもない。
精神的にも、肉体的にもそんな余裕は一切ない!
何しろ俺の夫達は、ローテーションを組んで毎日のように抱きつぶしてくるからだ。
おかげで毎日ヘロヘロで、疲れが取れない。ジェラルドが疲労回復の魔法を使ってくれるが、回復して間もなく次々と誰かしら襲ってくるので、毎日疲労困ぱいだ。
「…そう言えば聞いたか?ハシュール殿下、不能になったらしくてな。妃達が暴れ回って王宮は大騒ぎだよ」
「んっ…はぁ……ぁぁん……」
くちゅくちゅと水音を立てながら、ジェラルドが俺のペニスを取り出して擦り始めた。
ジェラルドの話は頭に入ってくるが、意味を理解する前にふわふわと消えてしまう。
「あのプライドの高い男が、お願いだからアリアスと俺達が交わっているところが見たいと言ってきた。はははっ…、完全に頭がおかしくなってたな。まぁ、王子はたくさんいるし、国は問題ない」
「はっ…あ…んんっ…い…く、イっちゃう……」
「ああ、可愛い俺の妻よ。淫らにイってくれ」
「ははぁ…ぁあああ……あんんんっっ!!」
ジェラルドにぐちゅぐちゅに擦られて、俺は腰を揺らしながら達した。
飛び散った白濁が葉の上に乗っている。さっきの光景と大違いだ。
口の中に入れられたジェラルドの指を噛んでしまいそうだったがなんとか堪えた。
そうするとジェラルドはいつも良い子だと褒めてくれるからだ。
「あーーーー!やっぱりここだ!抜け駆けしていると思ったけどやっぱりだったな!今日はジェラルドの日じゃないだろう!」
賢者タイムもほどほどに、ぼんやり余韻に浸っていたらデュークの叫び声で現実に引き戻された。
「俺はライジンの代わりだ」
「それなら、私が務めますよ。前回は学会で不在でしたから、ああ、こんなところでイカされて、悪い子ですね」
いつの間にか隣に来ていたルナソルに手を取られて胸の中に捕らわれて、目尻に溜まった涙をペロリと舐められた。
「早くアリアスが成人して子供ができるのが楽しみです」
「ルナソル……子供が苦手とか言ってたのに、一番楽しみにしてるだろう」
「ええ、それはもちろん。貴方との愛の結晶ですから」
ふわりと微笑んだルナソルが口付けしてきたので、俺はぼんやりとした頭のままそれを受け止めた。
なんだかんだ言ってこいつが一番親バカになりそうである。
子作りに関しては俺が成人を迎えてからと決めている。スペルマ特性がよく分からないが、その時期になるとその辺も操れるらしい。妊娠期間も一月でお産も軽く、一週間後には次の妊娠が可能というから、スペルマとは生態系を崩す恐ろしい存在だ。記録にあるものだけだが、実際はそんなに産んでも育てるのが大変なので、子を待つとしても数的には他の人と同じくらいらしい。
ルナソルの口付けを夢中で受けていたら、ぐわっと後ろから子供のように持ち上げられて担ぎ上げられてしまった。
「待たせたなアリアス、今日に間に合うように討伐を終えて帰ってきたぞ!」
「ライジン!」
魔物討伐の遠征に出掛けていたライジンは、長丁場になると聞いていたのに、あっという間に帰ってきてしまった。
騎士団の制服を身につけて、かなりカッコよくてキュンとしてしまうが、ちゃんと仕事をしてきたのかちょっと心配だ。
「今日は俺の番だからな、朝まで離さない」
散々暴れてきたのによくそんな体力があるなと感心するほどだ。
今日担当のライジンの登場に、グダグダ言っていたみんなは大人しく引き下がって、ごゆっくりと手を振ってきた。
交代制で担当の者の邪魔をしない、それがここの、俺のハーレムのルールとなっている。
ライジンの逞しい背中に乗せられて揺られながら、この慌ただしくも過酷すぎる生活も、本音では結構気に入ってしまったなとしみじみ考えていた。
それぞれのことが好きだし、みんなから愛されるのは悪い気はしない……体は大変だが。
「アリアスは少し体力をつけた方がいい」
「えー…これ以上運動するの…やだな」
「……俺の子を十人産んでもらうからな」
「はっ…お前!?それ…本気だったの!?」
とてつもなく大家族になりそうな予感に俺は震えるしかない。
「……やっぱり俺、逃げようかな」
「ほう、逃げれるものなら逃げてみたらいい」
魔王と悪魔と殺戮兵器と鼻が利く犬。
どう考えても逃げ切れる未来が想像できなかった。
「絶対無理だ」
ガクリと項垂れた俺の尻をライジンが鼻歌混じりに楽しそうに撫でている。
女の子とのハーレムを作ろうとしていたのが遠い過去のようだ。とんでもないヤツらに捕まってしまい、地味に生きようとしていた俺の異世界ライフは予想もしなかったところに落ち着いてしまった。
どうやら賑やかになりそうな未来を想像したら胸がほんのり温かくなった。
それが幸せだと気がつくのは、まだほんの少し先のようだ。
□完□
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