運命は、もうほらすぐ近くに

朝顔

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15、終わらない夜

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「オメガは成長期に精神的なショックを受けると、自分の発情を無意識に抑え込んでしまうことがあるらしい。発情期が来ないわけじゃないから、そのまま放置されるが体には無理が来るから、後々体調が悪くなるそうだ……、まあ、実誠くんが翔吾に会えたことは運命でもあり幸運だったんだな」

「……ちゃっかり名前で呼ぶな。親しくないだろ」

「えー、なんていうか、もう他人の気がしないっていうかぁ。許してくれるよね、実誠くんー。ねー、お義兄さんって呼んでもいいんだよ」

「実誠、答えなくてもいいからね」

 龍崎が頭を撫でてくれるので、俺はぼんやりした頭で気持ちいいなと感じていた。
 二人の仲が良いんだか悪いんだかよく分からないやり取りをさっきからずっと聞いている。
 口を開けたら変な声が出そうなので、ぎゅっと口を結んだ。

「どうだ? フェロモンの状態は? 悪いがこっちはさっぱり感じないから」

「さっき緊急のを飲ませたけど、どんどん濃くなってきてる。いや……俺の方がやばいかも」

 俺のおでこを撫でる龍崎の手が、徐々に熱くなっているのを感じた。

「最悪、家までもたなければこの車を使え。俺が煽った責任もあるからなぁ……。こんなことになるとは……」

 信号が青になったのを確認した恭弥は、ぐっとアクセルを踏んだ。




 劇の打ち上げをしていた場で、俺のことで一触即発状態になった龍崎兄弟。
 俺のフェロモンを確認するためだったと、誤解は解けていったんは落ち着きかけた。
 恭弥から過去の記憶を掘り起こすように言われた俺は、龍崎と初めて会った時のことを思い出したが、その時の思い出と共に抑え込んでいた発情までが一緒にフラッシュバックしてしまった。
 即ヒート状態に入ってしまい、危うくその場で龍崎も巻き込みそうになったところを止められた。

 薬は飲ませてもらったが、全然収まることのない熱は暴れ狂う寸前で、俺の体にどんどんと溜まっていた。

 こうなったらもう、この場から離れるしかない。
 まさかそこまで俺が爆発すると思っていなかったらしい恭弥は、慌てて車を出すからと言って俺と龍崎を連れて出ることにした。
 そこに和幸が、恭弥さん飲酒してますよと一人冷静なツッコミを入れてきたが、あれはノンアルだと言って三人でその場から逃げるように飛び出した。

 龍崎は俺を抱えて走り、恭弥は自慢の黒塗りのスポーツカーを駐車場から走らせてきた。

 車内で俺は龍崎にもたれかかりながら、今にも開きそうな扉を必死で押さえていた。

「龍崎、ごめん……」

「実誠は悪くないよ。……あんな強引な告白して、俺の方こそごめんね。断られるのが……怖かったんだ」

「っぷっ…ははっ、だったらみんなの前でってか? お前って…本当……ぶっ飛んでるよ。あんなの本当に信じてたのか? 舞台の上で最初のキスをなんとかってやつ」

「うん。でも、我慢できなくてキス以上のことはたくさんしちゃった。……ああ、今すぐもっとしたくなっちゃった。舞台の間も我慢していたのに……」

 そこでキキッとブレーキがかかって恭弥が車を止めた。いつの間にか、一度来たことがある龍崎のマンションの前まで到着していた。
 辺りはすっかり暗くなっていたが、今が何時だかもよく分からない。

「ほら、さっさと行け。保護者として自宅の方には、俺から連絡しておく。体調が悪くなって今夜は泊まること伝えるから落ち着いたら、自分でもかけてくれよ」

「恭弥さ……すみません、ありがとうござ…」

「行くよ、実誠」

 送ってもらったお礼を言おうとしたら、先に外に出た龍崎に引っ張られて、最後まで言えずにバタンとドアを閉められてしまった。





 エレベーターで二人きりになったらもうダメだった。
 俺は熱い息を吐きながら立っていられなくて龍崎に体を預けた。
 ぐるぐると熱が頭まで回って思考力を奪っていく。

 龍崎は鞄の中から何か太い紐のようなものを出して俺の首に巻きつけて首の前でカチッと留めた。

「な……に? ……れ?」

「ネックガード。発情期に噛まれないように防止するものだよ。本当は今すぐ噛んで番いにしたいけど、手順を踏まないと余計な邪魔が入るだろう。そういうのは俺はどうでもいいけど、実誠は嫌がりそうだから……、って聞いてる?」

「……ん……てる」

「ああ、可愛い。もうトロんとしてるね。早く食べたい」

 耳元で龍崎が囁くとその振動だけでソコが反応してぶるりと震えた。
 先ほどからたらたらと溢れているのも知られているかもしれない。
 そんな想像だけで軽くイってしまい、トロリと垂れていくのを感じた。

「りゅ……き、……はや……たべて………んあっっっ」

 龍崎の太腿に下半身を擦り付けてねだると、龍崎は俺の尻を掴んでぐっと自分の方へ引き寄せた。
 ぼんやりした視界に龍崎の喉が上下したのが見えた。

「煽るなんて悪い子だ。ここでぶち込まれたいの?」

「くっ……あああっ」

 龍崎は俺を抱きしめながら、伸ばした手で服の上から後孔をぐりぐりと押してきた。
 そこを弄られたらひとたまりもない。
 目の前がチカチカと光って龍崎にしがみついた。

「ほし……い……ほし……」

 欲しくして欲しくてたまらない。
 必死に保っていた理性は崩壊した。
 身体中からブアッとフェロモンが放出されたような感覚がした。

「くっっ……やば……濃すぎる」

 部屋までの距離がこんなに遠いものだとは思わなかった。
 エレベーターが到着すると龍崎は俺を抱えたまま走って何とか部屋までたどり着いた。

 バタンとドアが閉まった音を、俺は玄関の床に背中をつけたまま聞いていた。
 玄関に下ろされて転がった俺の上に、龍崎がのしかかって来た。
 視界には龍崎と薄暗い室内の天井しか見えない。

「はぁ…ハァハァ……実誠……」

 俺の息も荒いが、気がつけば龍崎の息の方が荒くなってきていた。
 龍崎の目には獲物を捕らえた獣のような獰猛さが宿り、口元には長く伸びた犬歯が見えていた。

 アルファはもともと犬歯が発達しているが、原始的な濃いアルファを受け継ぐ者は、ヒート状態になるとより発達して鋭くなると聞いたことがある。

 恐ろしい話だと思ったけれど、それがまさか自分が体験することになるとは考えていなかった。

 実際目の当たりにして感じたのは恐怖ではなかった。
 ちっとも恐ろしくはない、むしろ、この歯が自分の肉に突き刺さることを想像したら、ゾクゾクと快感の震えが走って涎が垂れそうになった。

「美味そう……なんて美味そうな匂い……。我慢……できない……」

 考えれば今までお互いで触ったりしても、龍崎は俺よりも冷静で楽しんでいたように見えた。
 だが、今の龍崎は違う。
 理性と本能の狭間で揺れている大きな獣に見えた。
 彼もまた限界なのだと悟った俺は、手を伸ばして龍崎の口元に見える尖った歯に触れた。

「がま……し……いでいい……、噛んで……いっぱい……食べて」

「さ…ねみ」

 俺の名を呼ぶ声もいつもの龍崎ではなかった。獣のように咆哮を上げて、龍崎は俺の唇に噛み付いてきた。

「んっふっ……ぅぅ………あっ……はぁ…んっっ………くっ…んぐ……はっ……あっ……」

 口の周りを甘く噛まれた。
 ツキンとした痛みを感じたがすぐにそれも快感に変わった。そのまま口内に龍崎の舌がねじ込んできて、俺の舌を絡みとった。
 歯の裏から舌の根元までぐりぐりと暴れ回るように激しくねぶられて、息継ぎをする暇もない。

 深く口付けを交わしながら、龍崎の手は俺の体を這いまわってあっという間に下着ごとズボンを下ろしてしまった。

 オメガのヒート状態に入った俺の下半身は、ここまで来る間にグズグズに濡れていて、ぶるりと揺れた前からは先走りが糸を引いていた。
 龍崎は切なく揺れるソコではなく、今日は後孔に手を這わせて、そこに指を突き入れてきた。
 ヒート中のそこは何もしなくても自然に受け入れられる状態になるので、龍崎の指を抵抗なくズブズブと飲み込んだ。

「あああっ……、あっんんっ」

 ぐるぐるとかき回すようにされて、快感に腰を揺らしてしまった。
 気持ちいい……けど、足りない。
 指じゃ……そんなんじゃ足りない。

「りゅうざ…き、き……はぁっ……きっきて、ナカに……ほし……いっぱい……ほしい」

 瞑っていた目を開けてみると、膝立ちになった龍崎がズボンの前を開けていた。
 下着の中からぶるりとガチガチになったソレが出てきたのを見たら息を呑んだ。

 あれが自分の中に……
 そう考えると僅かな恐怖が生まれたが、大きな熱の波がそれも簡単に飲み込んでしまう。

 いつも饒舌な龍崎が一言も喋らない。
 龍崎はハーハーと濃い息を吐きながら、目をギラギラと光らせて、上品な王子様とは思えない凶器のような大きさのソレを俺の後ろにあてがってきた。
 足を持ち上げられて腰が上がると、既に流れ出しているものが背中をつたって垂れていった。
 全身が龍崎を求めていた。

「あ……りゅ…ざ……」

 欲しい欲しい欲しい
 空っぽの中を満たされたい。
 欲しい欲しい、俺のアルファ……この世でただ一人、俺だけのアルファ……

「実誠」

 龍崎が俺を名前で呼び出したのはあの舞台の上からだ。
 最近のことなのに、ずっと前からそうやって呼ばれていたみたいに体に馴染んでいる。
 あの路上で初めて会ったあの時から、ずっと呼ばれていたような気がする。

「う……っっ…ぁ……ああああっ…うっ…」

 龍崎が入ってくる。
 俺の中にズブズブと自身を沈めていく。

 めきめきと広がった腸壁は喜びで震えて、侵入してきた大きなモノに絡みつきながら従順に受け入れていく。
 ヒート中の恩恵なのか痛みはなかった。
 ひたすら快感だけが止めどなく押し寄せてくる。

「んっ……んぁあああっ」

 龍崎は苦しそうに息を吐きながら、腰を一気に押し進めた。
 深く奥まで来たのを感じた俺はのけぞって痺れるような快感に身を悶えた。

「実誠、実誠…実誠……」

 全て収めた後、龍崎はしばらく中に入ったまま動かずに、俺の唇に吸い付いて舌を堪能するように舐めていたが、そうするうちに中のモノがぐんと膨らんで大きくなった。

「あぁ……おおき……ああっ」

「くっ……っっ」

 耐えきれなくなったのか、龍崎は一度引き抜いてからぐんと奥まで突き入れた。
 その衝撃で目に火花が飛んで意識が途切れそうになる。
 俺の下半身の熱は弾けて白濁は自分の顔にまで飛んできた。
 しかし一度達しただけでヒートが収まることはない。再び熱はどんどん溜まっていく。

 そんな俺を見て煽られたのか、龍崎は間もなくして激しいピストンを始めた。

「んっあっっ、あっ、あ、あ、あっ…あ、あっ」

 止まらない。
 奥を突かれる度に、快感でぎゅっと龍崎を強く締めてしまう。そうすると龍崎は熱を帯びた目で俺を見下ろして嬉しそうに笑う。

 止まらない。
 何度も何度も激しく揺さぶられて俺はイッてしまうが、龍崎は構わず俺を攻め続ける。
 龍崎の口元に光るものが見えたら本能で震えてしまう。あれで…あれで貫かれたい。

「かん…でぇ……りゅ……かんでくれ……おねが……かんで」

 瞬間、目が獰猛な色に変わった龍崎は深く息を吸い込んだ後、俺の首に噛み付いてきた。

「くぁぁぁっ……んんっ……」

 噛まれている。
 喉仏のあたりに歯が食い込んでいるような感覚がする。
 だが、首に巻かれた太い紐が実際に食い込むことを阻止して留めている。
 それがもどかしい。
 痛みが欲しいのに、疑似の感覚だけ残してそれ以上来てくれない。

 龍崎は激しく俺を突きながら、ガジガジと首に噛み付いてきた。
 本能のまま俺を求めてくれるのが嬉しい、だけど肌に残るモノがないのが寂しく思えてしまう。

「や…やだ……ちゃ…と……かんで…ほし……」

 涙目になって龍崎に訴えると、深く息を吐いた龍崎は俺を起こして、自分の上に乗せて座ったまま抱き合う体勢になった。

「ああっ……すご…い、……おくまで」

 この体位だと中の龍崎が尻の奥深くまで入ってくるので、圧迫感がたまらなく気持ちいい、思わずぎゅっとしがみついて背中に爪を立ててしまった。

「実誠……ここ……噛みたい」

 切羽詰まったような切ない目をした龍崎が俺の肩口に口を寄せていた。
 噛んで欲しいと言ったのは俺だ。
 あの歯で貫かれたらどうなってしまうのか。
 ごくりと喉を鳴らしながら俺は頷いた。

 すぶり。

 龍崎の尖った歯が俺の肩口に食い込んできた。

「ああああっっっ! ああ………っ、ああ……いっ……いた……」

 ピリッとした痛みを感じたのは一瞬。
 食べられる。
 肩口に感じた焼けるような痛みはすぐに全身を貫く快感に変わった。

「だ……め……いいっ、あああ……とける……でちゃう……んっっっ」

 強すぎる快感に全身が痙攣して俺は龍崎にしがみついた。噛まれた瞬間にすでに達していて、イってもイってもまだ、射精感が続いていて気が狂いそうだった。

 中にいる龍崎をぎゅうぎゅうと締め付けて快感に震えていたら、耳元で詰めた声が聞こえてすぐにお尻の奥に熱いものが爆ぜるのを感じた。
 どっぷりと流れて奥を龍崎の熱で染めていく。
 こんなに気持ちのいいものがあるなんて、こんなものを知ってしまって、元の俺に戻れるだろうか。

「おなか……、いっぱい……でてる」

「はぁ……はぁ……」

 たっぷりと注ぎ込んだのか、龍崎が息を吐きながら体を動かしたのが分かった。焦燥感に駆られた俺は、龍崎の背中に手を回してしがみついた。

「りゅざき、だめ……出ていったらだめ」

「……実誠」

「やだ……やだ、もっと…もっとして……おしりのおく……いっぱいがいい」

 足りない足りない。
 今の俺には全然足りない。
 もっともっと壊れるまで揺さぶって、ぼろぼろになるまで噛んで欲しい。

 熱のこもった目で龍崎を見つめた。
 一度達したことで少し落ち着いたように見えた龍崎だったが、いいよと言って再び目に獰猛さを宿して俺を下から突き上げてきた。

「俺のシンデレラ……、どこまで俺を食い尽くせば気がすむの?」

「ああっ…んんっ…、た…べられるの…おれだし……。また……かんで……さっきのほし……」

「いいよ……、好きなだけ……いくらでも。好きだよ……実誠」

「…れも……あっ……、いい…気持ちいいの……もっと……そこっ……ぁぁ」



 今までの俺のヒートとは何だったのか、いつも燻っていた火が一気に燃え上がるように俺は龍崎を求めた。

 痛みも苦しみも全て快感に変わり、快感の波は夜を越えても果てしなく続いた。
 繰り返す絶頂に翻弄されながら、俺は声が枯れるまで龍崎の名前を呼び続けた。





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