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後編
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またもや来てしまった。
天上の世界。
前回はホテルだったが、今回は夜王の自宅で、高層マンション最上階のペントハウスだった。
ホテル並みの豪華な造りで、家具類も使われていないんじゃないかと思うくらい新品同様。
モデルハウスのように生活感のない綺麗な部屋だった。
聞けば他にも家を持っているらしく、毎日使っているわけではないらしいので、なるほどと納得してしまった。
「ワインでいいか? ここに客を呼ぶことがないから、他にまともなものがない」
「ああ、いえ、お構いなく」
キングはドテンと社長椅子に座ったまま動かないのかと思いきや、意外とテキパキとワインとグラスを用意して、ナッツやクラッカーと言ったおつまみまで持ってきてくれた。
器用な人なのだなと思いながら、ワインが注がれたグラスを手渡されてそれを受け取った。
二人でソファーに座りながら、飲み始めることにした。
「俺達は出会ったばかりで特殊な関係になってしまった。まあ、俺が悪いのだが、もっとお互いをよく知り合わないといけないと思うんだ」
「それは……そうですね」
まただ。
横暴な王様かと思っていたのに、意外と気遣いができる男。
この男はいくつの仮面を持っているのだろうか。
「ではまずは、幼少期からスタートしよう。さあ、俺からいくぞ」
ヘンテコな関係の二人がもっとよく知り合うために、よく分からない身の上話大会が始まってしまった。
ますます不思議な人だと思いながら、私は演説を始めるみたいに真面目な顔になった夜王の話に耳を傾けた。
「絵に描いたような御坊ちゃま生活ですね」
「……悪いか」
「いえっ、一般人からしたら羨ましいですよ。恵まれた環境ですから。でも確かにそんなに周りから期待されたら窮屈そうではありますね」
「上に歳の離れた兄がいるが、これがまた自由人でな、中学を出たら放浪の旅に出てしまった。両親は何とか俺をまともに育てないとマズイとそれで加速してしまった」
夜王の話を聞いて出てきた感想といえば、裕福だけど大変そうというものだった。
子供ながらに毎日決められたスケジュール、それも分刻みに詰め込まれて、風邪をひいた時でも休むことは許してもらえなかったと聞いた。
そして、頑張っても頑張っても、両親は褒めてくれず、できなかった時だけ怒られたという、なんとも可哀想に思えるエピソードだった。
過ぎたことだと言いながら、寂しそうな目をした夜王の横顔にキュンと胸が締め付けられてしまった。
「それにしても、大人になるまでコンビニに行ったことがないなんて……。もしかして今でも……」
「っっ……、そんなワケがあるか、年に一度は行く!」
ちょっとムキになって怒る顔も可愛い。
キングキングと呼ばれて崇められているが、こんな一面があることをみんな知っているのだろうか。
チクリと胸が痛んだ気がした。
「規模は小さいですけど、ウチも過保護では似たようなものです。大学生になっても男の人とまともに話したこともなくて……、ちゃんと会話をしたのが元彼が初めてで……」
話しながらこれでは初めてが元彼だったというのがバレバレだなと思った。
しかしお酒の勢いか、それとも夜王の前だからか、今まで人に言えなかったことまで、口から溢れていくのを感じた。
「お互い冷めてたなんて強がってましたけど、こうやって思い出すとやっぱりまだ好きなのかな……。初めてデートした時のこととか、薔薇の花を一本くれたんです。男の人にそんな風に優しくしてもらったの初めてで……嬉しくて……。突然降り出した雨に二人で手を繋いで走ったこと、全部……昨日のことみたいで。フラれるって、私だけ一人取り残されたみたい。やだ……すみません、私……」
気がついたら上ずった声でボロボロと泣いていた。
彼の前でも泣かなかったし、今までずっと感情が壊れてしまったような気がしていた。
それがここにきて、夜王の前で涙が止まらなくなってしまった。
急いでハンカチを当てて止めようと鞄に伸ばした手を掴まれて、ぐっと引き寄せられた。
私はボロボロの顔のまま、夜王の胸の中に飛び込むかたちになってしまった。
そして包み込むようにぎゅっと抱きしめられた。
「我慢するな。泣いて全部忘れてしまえ」
「ううっっ…」
強く抱きしめて安心させるように背中を撫でられた。
それは私が泣き止んで落ち着くまで、止まることなくずっと続けてくれた。
このタイミングで優しくするのは反則だ。
思い出の中に取り残された私に手を伸ばすなんて、そんなの……そんなの……
「優しいんですね、夜王さん」
「鋼だ、名前で呼んでくれ」
「鋼さん、キスしてくれますか?」
無性に寂しくてたまらなかった。
思い出の檻から私を連れ出したのなら、この胸に広がるものまで全部まとめて連れ去って欲しい。
誰もいない世界の果てまで……
鋼は私の問いに答えるように唇を重ねてきた。
わずかに重なって離れ、再び重なって、今度は長く深く重なった。
薄く開いた唇に鋼の舌が入ってきた。熱い吐息を漏らしながら、私もその舌に自分の舌を絡ませた。
くちゅくちゅと音を鳴らしながら、深い口付けは続いた。お互いの口内を順番に舐め合うようにして、時折り唇ごと吸われた。
こんな激しいキスなんてしたことがなくて、私はただ翻弄されながら必死に鋼のキスに応えていた。
鋼の膝の上に乗った私は、いつしか頭に手を当てて指を髪の中に突き入れた。
五本の指の腹を使ってマッサージするように撫でてみると、鋼はビクリと体を揺らして感じているのが分かった。
「鋼さん、下、凄いことになってますよ」
「はぁ……言うなっ、もうヤバいんだ」
膝の上に座っているものだから、直接股間の変化が分かってしまった。
キスをして頭を撫でるたびに、鋼のソコはグングン大きくなって、衣服を押し上げていた。
しかもズボンに沁みまでできていて、本当に凄いことになっていたのだ。
「触っても……いいですか?」
「そっ…それは、今、かなりヤバいというか……」
「大丈夫、優しく触ってあげるから」
あまりに赤くなって可愛らしい反応をする鋼に、私の中で火がついてしまった。
勝手にジッパーを引き下ろして下着をめくり、鋼の欲望を取り出してしまった。
ボロンと下着から飛び出したソレは、元気がよく跳ねるように揺れて腹に付きそうなくらい反り返っていた。
先っぽからは先走りが下着に糸を引くように溢れていた。
「もう、ガチガチですね。ゆっくり擦りますよ」
今日はシャワーを浴びていないので、ほんのり雄の香りが漂ってくる。
そんな野生的な匂いがたまらなく興奮する。
ぬるぬるした先走りを利用して夢中で上下に擦っていたら、鋼がハァハァと息を吐きながら、だんだん声を漏らし始めた。
「あっ………くっ……みひろ……」
「気持ちいいですか? ここ、ピクピクしてる。可愛い……」
「くっ……んああっ………」
「舐めてもいいですか?」
「だっ、だめだ! そんなこと…すぐにでる」
「じゃあ、こっちの手でヨシヨシしてあげます」
鋼の欲望はその言葉にビクンと揺れた。
慰めてくれた優しい鋼のために、私も何かしたいと思ったら、やはりこれだろうと片方の手で頭を撫でた。
「ヨシヨシ、鋼は頑張ってるね。私にも優しくしてくれて、とっても良いこだね」
「……ふっ……あああっ…っ」
耳元で囁きながら撫でてあげると、たまらなかったのか、鋼は腰を揺らしながら達してしまった。
勢いよく飛び出した白いものが私の頬にまで飛んできて、思わず手で取って眺めてしまった。
「だっ、美宏、そんなものを……」
「ん? たくさん出たね。イイコイイコ」
またまた褒めてあげたら、分かりやすく鋼の欲望はビクついて応えてくれた。
顔の方は真っ赤になって目はすっかりトロけている。
可愛い、可愛すぎる。
年上の男性に向かってこんなことを考えるのは嫌がられるかもしれないが、私の根底にある可愛がりたい欲が出てきて、それは私の体にも快感をもたらせた。
「美宏……触りたい、俺も……」
私が頷くと、鋼は私の服に手をかけてゆっくりと優しく脱がせてきた。
「うっっ、なんて体しているんだお前は……」
「それ、褒め言葉ですか?」
クスリと笑った私の問いには答えずに、鋼は私の後ろに手を回してブラを外した。
「ああ……すごい、綺麗だ」
そんなにストレートに体を褒められることなんてなかったので、恥ずかしいながらもじわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「確かにパーティーの時は大きいと思ったが、普段は地味な服の下に、こんなものを隠しているなんて……」
「あの、隠さないといけない部分ですから」
鋼の感想がおかしくてクスクスと笑っていたら、鋼は私の胸をゆっくりと愛撫しながら頬を寄せてきた。
「柔らかい……気持ちいい」
そこを頬擦りされるなんてこれもまた初めてだが、庇護欲たっぷりの私には愛情に飢えた子供のように見えてしまいたまらない気持ちになる。
頬ずりしながら舌を出した鋼は、今度は乳首を舐め始めた。ザラザラした舌先に刺激されてピリッとした電気のようなものが体を走った。
「んっ……あっ……」
私が声を漏らし始めると、鋼の指使いはだんだん大胆になって、口で愛撫しながら、片方の手でもう一つの乳首をこねるように擦り、もう片方の手は私の下半身へと伸びていった。
「はん……ぁぁ……なにっ……へん……熱い……んっっ」
「セックスは挿れるだけじゃない。こうやって全身を使って愛撫するんだ。舐めて、つねって、擦って……ああ、ナカから蜜が溢れてくる」
秘所に手を這わせた鋼は、花唇を優しく指で撫でながら、花芯を刺激し始めた。
そして他の指は蜜壺の中へ入り、ピチャピチャと水音を響かせながら愛液をかき回された。
「ハァハァ……こんなに……同時なんて……あああっ」
上も下も同時に愛撫されるなんて、快感を身体中で感じてしまい気が狂いそうだ。
乳首を甘噛みされて、花芯をぎゅっとつままれたらたまらなかった。
私は背中を弓のようにそらせて、体を突き抜ける快感に身を任せてビクビクと揺れた。
「ああ…あ……ぁぁ……」
「美宏……達したのか、綺麗だ……可愛い……」
体に残る熱を感じながら目を開けると、私を見つめる鋼の情欲に燃えた目が見えた。
ハァハァと荒い息をしながら、目元は興奮で赤くなり堪えるように私を見つめる目。
たまらない。
燃えるように求められる感覚が……
欲しい、この熱さが欲しくてたまらない。
私の中でずっと押し留めていたものが爆ぜたのを感じた。
いや、開花したというのがあっているかもしれない。
「鋼、いい子。上手にできたね。早く、私の中に挿入ってきて。たっぷり可愛がってあげるから」
鋼がゴクリを喉を鳴らして唾を飲み込んだのが分かった。
ベッドに場所を移して、鋼は手早く自身にゴムを付けた。一秒でも惜しいかのように私の上に覆い被さってきた。
言葉をなくした獣のようだ。
ハーハーと胸を上下させながら、私の足を持ち上げて剛直となった自身を花唇にあてがった。
「美宏……美宏、挿れて……挿れていいの?」
「いいよ、そう……ゆっくりね。久しぶりでしょう、お互い気持ちよくならないと」
「ううっ……はぁぁ……熱い…ナカ……熱い」
鋼は言われた通りゆっくりと挿入してきた。
その刺激だけでも我慢できないという堪えた顔をするので、それを見るだけで胸がキュンキュンして、私は中にいる鋼を締め付けた。
「ああ……あんまり……締めないで、すぐに……出ちゃうから」
「我慢できないの? ふふっ、可愛い……ほら、もっと奥まで挿れて、あっ……そう、上手だよ」
タガが外れたのはお互いそうだった。
キングと呼ばれる孤高のライオンみたいな人が、私の中に入ってまるで子供のようになって私を求めてくる。
私だって同じだ。
普段暗くて後ろ向きで地味なくせに、鋼に求められるだけでゾクゾクして、もっと可愛がりたくてたまらなくなる。
私の中に、こんな欲望があったなんて知らなかった。
「美宏……動きたい……熱い、我慢できない」
「いいよ。ちゃんと奥まで突いて、私をイカせてね。そしたら、ご褒美をあげるから……」
汗を垂らしながら目を潤ませてくる鋼に、心臓が高鳴って壊れてしまいそうだ。
もっと、もっと
この男の乱れた姿が見たい。
お願いといって懇願する姿が見たい。
「ああ…美宏、美宏……気持ち…いい……?」
「んっ……ハァハァ……いい、いいよっ……もっと激しく」
すっかり濡れていた愛液の滑りを利用して、鋼はパンパンと音を立てながら腰をぶつけるように私の奥まで突いてきた。
「……ハ……んっ……あっ、あっ……ハァハァ……熱い……お腹……ぐりぐりして……ああっ……もっ……と、もっとぉぉ……」
気持ちいい。
頭がおかしくなりそうだ。
いつも濡れなくて、責められていた私は今ここにいない。
自分より大きくて逞しい男に、激しく求められて、しかも私がその男を可愛がっている。
たまらない。
込み上げてくる快感をそのまま受け入れて、私は雄を咥えたまま達した。
そんな自分がいやらしくて卑猥に思えて、そんなことにすらゾクゾクして気持ち良くなってしまう。
分かっている。
すぐに出るといいながら、鋼が達してないのはご褒美を待っているからだということは……。
「ちゃんと……できたね。気持ちよかったよ。ほら、おいで……」
「美宏…美宏、お願い…褒めて……俺のことたくさん……」
「ああ……気持ちいい、なんて柔らかいの。可愛い可愛い、いい子だよ。鋼、いい子だね」
大きな体を丸めて頭を寄せてきたので、私は髪の毛に手を入れてたっぷりと撫でてあげた。
私の胸に顔をうずめていた鋼は、ブルブルと震えながら声を押さえているように見えた。
「いいよ、鋼。気持ちよかったら声だして。イクときの声を聞かせて」
「美宏、もうだめ……イッちゃうっ、あっ……あっ……イクッ……ああああっ……っ、んっ!」
鋼は腰を揺らしながら、私の奥で爆ぜた。
膣内の鋼がビクビクと揺れていて、私の子宮も疼いてまたぎゅっとなった。
鋼はまるで女の子のように声を上げて達したが、可愛くて愛おしくてたまらない気持ちが湧いてきた。
この関係をなんと呼ぶのだろう。
愛で繋がったわけではない。
お互い心にできた穴を埋めるように抱き合っている。
こんな乱れた関係なんて今までの私からしたら信じられない。
でも、今まで生きてきて、こんなに満たされたのは初めてだった。
「紀野さん」
「はい?」
コピーをとっていたら、いつの間にか後ろにいた上司に話しかけられた。
「あ、使います? 今終わりますから」
「いや、そうじゃなくて、最近頑張ってるなと……。この前は会議の資料助かったよ」
「はあ……、それは良かったです」
私に一言告げて上司は慌てたように頭をかきながら出て行ってしまった。
何がしたかったのかよく分からなくて、ひとりで頭を傾げた。
最近この妙な空気を感じる時が増えた。
パーティーの時のように髪型やメイクを変えたわけでもない。
服装だっていつもと同じシャツとパンツスタイルだ。
それなのに、ふとした時に社内の人から視線を感じることがある。
何か迷惑でもかけてしまったのだろうかとモヤモヤしていた。
「美宏ー! こっちこっち、先にいつもの頼んでおいたよ」
日当たりのいいオープンテラスに座っていた瑠奈が、立ち上がって手を振ってこっちだと教えてくれた。
瑠奈は仕事で外回りが多いので、会社の近くに来た時はよく一緒にランチをしていた。
今日も近くまで来たからとメッセージが入って、二人のお気に入りのレストランで待ち合わせた。
「ありがとう。もう、すっかり暑くなってきたね。ここまでくるのに汗かいちゃった」
薄手のジャケットでも熱いなと思いながら、バサッと脱いで椅子に引っ掛けたら、瑠奈が惚けたような顔で私を見ていた。
「ちょっと、ちょっと……、どうしたの?」
「へ? 何が?」
「いや……見た目はいつもの美宏なんだけど……。なんて言うの? すごい色気が……ムンムン漂ってきて……」
「はい? ちょっ…こんなところで、いつものバーじゃないんだよ」
オフィス街だが、周りには家族連れや、ママ友ランチグループまでいて和やかなムードなのに、その手の話は明らかに相応しくない。
指に手を当ててダメだよという顔をしたが、瑠奈の勢いは収まらなかった。
「それ、キスマーク! 嘘! あの鋼のように固かった美宏が!」
周囲の視線をチラチラと感じて、こりゃダメだと頭に手を当てた。
その鋼に付けられたのは確かで、首元を絆創膏で隠していたが、めざとい瑠奈は気がついてしまったようだ。
「ちょっとぉ、あのキングと上手くイっちゃうなんてぇ。さすが私の弟子、美宏ちゃん。そりゃあんな極上な男に愛されまくってたら、そうなるわ。理解できたわ」
「……愛、とかじゃないし……」
瑠奈の言葉がチクンと胸に響いて、私は違うのだと小さく否定した。
あの日、鋼の部屋で初めて体を重ねてから、二人の関係は続いている。
週末、多い時は週に三日、私を車で迎えに来て、そのままお泊まりコースだ。
そして、毎回あの溺れるようなセックスをして、これ以上ないと思うくらい満たされる。
だけど、本当にこんな関係を続けていいものなのか、私の中で葛藤がある。
恋人同士が愛し合う行為について、鋼から教えてもらいたかったのは確かだ。
鋼の方だって、男性としての機能は問題なく……、ちょっと多いくらい毎回求められる。
満たされるからと割り切ってこの関係を受け入れることはできない。
なぜなら私は鋼に抱かれる度に、どんどん惹かれていくのが分かったから……。
心が弱っていた私を癒してくれて、優しく包み込んでくれた。
そして、甘えることに飢えていて、わたしの手で撫でられただけで射精してしまうような鋼のことが愛しくてたまらない。
「素直に、なってみたら?」
「瑠奈……」
「正直、あの人は異次元すぎて私にはなんのアドバイスもできないけど、美宏のこと、そんなに綺麗に輝かせてくれる人なんて、もうこれは間違いないと思う」
臆病な私の胸の内を悟った瑠奈が手を握って勇気づけてくれた。
そうだ、後ろ向きになって欲しいものから逃げていたらだめだ。
次に会った時に自分の気持ちを伝えてみよう。
私はそう気持ちを決めた。
「やだ、祐介から。メッセージ来た」
ランチを楽しんでいたら、スマホの画面に表示された名前に一気に嫌な気分になった。
「あら、美宏。まだアイツのこと消してないの?」
「祐介の家にネックレスを置いたままなのよ。他のはいいけど。初任給で買ったものだから。それだけ返して欲しくて連絡してたの。やっと返信が……、ああ、今日か」
祐介とのやり取りは別れて以来だ。
郵送で送って欲しいと連絡したが、今日手渡ししたいとメッセージが来た。
「大丈夫? 一緒に行こうか?」
「駅前のカフェだから大丈夫。もらうだけだし、これ以上ひどいこと言われても傷つかないよ」
鋼と一緒に過ごして、祐介との時間がいかに私にとって辛いものだったか思い知った。
優しい言葉をくれて大切にしてもらえて、そんな経験をしたら、もう祐介の顔すら思い出せなくなっていた。
心配そうな目で見てくる瑠奈に大丈夫だと笑いかけて、私は仕事が終わった後、待ち合わせのカフェに向かった。
待ち合わせ時刻の十分前に着いたが、珍しく先に祐介がカフェにいて席に座っていた。
いつも十分は遅刻してくる人だったなと思いながら、祐介の座っている席まで歩いて行った。
「早いのね。私達、一緒にいると奥様にマズいでしょ。お願いしたやつくれる? すぐに行くから」
「美宏、なんだよ。久しぶりなんだから、ゆっくり話そうぜ。それにまだ結婚してないから」
手渡されたらすぐに出るつもりだったのに、それらしいものが机の上に置かれてもいなかった。
仕方なくため息をついて、向かいの席に座った。
「これ、鍵返すから」
「いいって、返してくれなくて。交換しないことにしたから」
「じゃ尚更いらないよ。問題起きて変に疑われたくない」
祐介の前まで鍵を寄せたが、祐介は受け取らず口を強く結んでいた。
「……悪かったと思ってる。今まで、俺ひどい態度だった」
「はあ? 今頃何を……」
「結婚は……するんだけどさ。実は迷ってて……彼女さ、お嬢様だからすごい我儘で手に負えなくて。鬼みたいに連絡して束縛してくるし、もうストレスで最近髪まで抜けて……」
そういえばと久々に祐介の顔をマジマジと見てみたが、十歳くらい老けたように見える。
この状態じゃ結婚しても尻に敷かれる様子が目に見えた。
「お似合いじゃない? とっても上手くいきそうだけど」
「そ、そんなぁ……。美宏、お前が優しかったのを当たり前だと思ってた俺が悪かったよ。やり直せないか?」
「相変わらず、いつも逃げ道を用意しながら、自分の好きなようにしようとするんだね。自分のしている事分かってる? 話にならない! ネックレスはもういいから、捨てて」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、店を出て行こうとしたら、ガッと腕を掴まれた。
「美宏、綺麗になったじゃん。何? 新しい男でもいるの? でもきっとお前のテクじゃ、満足してもらえないよ。俺だったら……」
信じられなかった。
プライドの高いこの男は、人前でこんなに目立つようなことは絶対にしなかった。
それだけ追い詰められているということだ。
それを知ったとして、少しも憐れむ感情が湧いてこなかった。
次の瞬間、突然、黒服の男達が現れて私と祐介の周りを囲んだ。
何事かと目を見開いた祐介と、これはまさかと思う私の後ろからコツコツと靴音が響いてきた。
「その汚い手を離してもらえないか? 彼女は俺の大事な人なんだ」
ハリウッド俳優が飛行機のタラップから降りてきたように、優雅に歩いてきたのは鋼だった。
ロングコートを肩に引っ掛けて、頭にはマフィアみたいな帽子をかぶっていて、映画の撮影が始まったみたいだった。
鋼の瞬きで、呆然としていまだ手を離さない祐介を黒服の男達、鋼の部下達が羽交い締めにして身動きが取れないようにしてしまった。
鋼の前にサッと差し出されたのは薔薇の花束だった。
それも一本ではなく、百本以上ありそうな大量の花束だった。
にっこりと笑った鋼はそれを私に差し出してきた。
受け取ったはいいが、すごい大きさと重さで前が見えなくなった。
「す……すごっ、こ…こんなにたくさん」
「俺の想いは一本では足りない、いや、この一本一本に気持ちを全部込めてある。後で、風呂に浮かべて二人で入ろう」
「ロ、ロマンティック……」
「おい、そこの汚いの。悪いが彼女はもう俺のものだ。ここで殺しはしない。手放したものがどれほど大事なものだったのか、身をもって思い知れ。それと、二度と彼女に近づいたら許さない。彼女の三メートル以内に近づいたら爆発するものを体に埋め込ませてもらう」
「ひぃぃぃ!!」
明らかにヤバい系の人達が現れて、殺すとか爆発とか言われたものだから、祐介は泡を吹いて恐怖で膝から崩れ落ちた。
そんな祐介の姿を汚いものを見る冷たい目で睨んだ後、鋼は私の手を引いて歩き出した。
「さっきのアレ、本当にやるんですか?」
「ただの脅しだ。できないことはないが……、美宏が褒めてくれるなら……やる」
「いっ……いいです。町で気がつかずにすれ違って爆発されたら寝覚が悪いです」
慌てる私を見て、ププっと噴き出した鋼はケラケラと笑った。こんな、ブラックなジョークみたいなので笑えるのは鋼だけだろう。
「どうして、ここが?」
「お前の師匠という女から、救助要請というメールが俺の秘書に来た」
「ああ、瑠奈……」
鋼の運転手兼秘書の男は、瑠奈としっかり繋がっていたらしい。いつの間に交換したのか、さすが仕事ができる人だと感心した。
店を出たら空は暗くなっていて、さっきは降っていなかった雨が降っていた。
車までは距離がありそうだが、いつも鞄に入れていた折り畳み傘を今日は忘れていたことに気がついた。
しまったなと思っていたら、鋼にトントンと肩を叩かれた。
「美宏、好きなものを……」
振り返ると鋼の部下がバカっと開いたスーツケースの中に、数え切れないくらいの折り畳み傘が入っていた。
このまま傘屋でも開そうなくらいだ。
「ゴホンっ、二人で雨の中を走るのもいいが、俺は雨に濡れて美宏に風邪をひかせたくない」
呆然としてスーツケースと鋼を見比べていたが、今度は私が噴き出して大笑いする番だった。
やることが飛び抜けていて、予想すらできない。
薔薇の花も、雨の中走る話も、私が思い出として切なく語っていた話だ。
それを覚えていて、とんでもない量で塗り替えてきた。
驚きすぎて、おかしくて、嬉しくて……
「じゃあ、これに……。一緒に入りませんか?」
花柄の傘を一本手に取って開いた私は、少し高く掲げて鋼に向かって微笑んだ。
鋼は真っ赤になって、相合い傘なんて初めてだと小さくこぼしながら、嬉しそうに傘に入ってきた。
「むっ…ふっ……んんっ、まって……シャワーを」
「待てない、今すぐ欲しい」
車内からキスが止まらなくて、エレベーターに乗り込んでもずっと唇を吸いあった。
なんとか部屋までたどり着いたが、お互い興奮して玄関で始まってしまった。
私の足元に座り込んだ鋼はハァハァと犬のように荒い息をしながら私を見上げてきた。
「どうしたの? 物欲しそうな顔をして」
「ここを……舐めたい、美宏の」
鋼は私の股間に顔をうずめてクンクンと匂いを嗅いでくる。
いいよと言うと、口で器用にズボンと下着を下ろした鋼は、興奮した顔で舌を出して私の花唇をペロペロと舐め始めた。
「は……ぁ……んっっ、ぁぁ……」
「んっ……みひろ、……んんっ」
指で花弁を開くように動かして、舌を使って花芯を舐めたと思ったら、じゅっと吸い付いてきた。
「あ、あ……ん、それっ……だめっ……」
「んんっ、……ん……」
従順に私を喜ばせようと必死に舐めてくれるのは、さっきまで何十人も部下を引き連れて、ナイフのような目をして指示を出していた男だ。
それが私の股の間で唾液を喉元まで溢しながら、美味しそうに私の陰部に食らい付いている。
たまらない……なんて光景だろう。
「上手にできるじゃない。う……んんっ、きもちい……よ。いい子ね、あっ……はがねっ」
「んんんっ……、んんろ……ひろ……んっ」
今日はとってもいい子だから、ご褒美をあげなくてはいけない。
私は花芯に吸い付いている鋼のふわふわの髪に掴むように指を入れた。
可愛い、可愛くてたまらない。
なんて人なんだろう。
優しく、時に揉み込むように撫でてあげたら、嬉しいのか鋼の舌はもっと大胆になって、生き物のように動いて私を追い詰めていった。
「はっ、ぁっ、くる……はがね、イクっ……あっイクッッ!」
快感の強さに鋼の頭を掴みながら、押し付けるようにして私は達してしまった。
ビクビクしながら壁に頭を擦り付けて嬌声を上げた。
「ふーーふーーーはぁ…ふっ……はーはーはー」
私を舐めていた鋼がやっと顔を離した。
荒い息をして、真っ赤な顔で目はトロンとして口から涎を垂らしていた。
その顔を見たらゾクゾクと快感が湧き上がってきた。
淫らな視覚だけで蜜口をキュッと締まって私は軽くイッてしまった。
座り込んだ鋼の高級そうなスーツの股間部分は濡れていて、大きく染みになっていた。
「鋼、またナデナデされて出ちゃったの? ズボンも脱がないで……悪い子」
「美宏、うぅっ、やだっ。お願い、欲しい欲しい、美宏の中に入りたい……」
目を潤ませて懇願してくる鋼は目眩がしそうなくらい可愛い。
つい意地悪したくなってしまうが、早く欲しいのは私も一緒だった。
いいよと、言いながら、鋼の首に腕を絡めてしがみついた。
鋼は私を持ち上げてそのままベッドまで運んで、サッと服を脱いで準備をした。
興奮して待ちきれなかったのか、私をうつ伏せにした後、後ろから挿入してきた。
すでに散々舐められてトロけていた蜜壺は、待ちに待った剛直を愛液でたっぷりと濡らしながら迎え入れた。
「ハァハァ…ハァハァ、みひろ、みひろ、きもちい……、ねぇ、今日はずっとこの中にいたい、朝まで……ずっと」
「あ……あ、あ、あっ…んんっ、いいよ。でも、朝まで我慢できる?」
「できなっ……、すぐでちゃう。でも、いっぱい…たくさん、するから」
「ふふっ……はがねは、私のこと好きなの?」
「すき……すきだよ。みひろ以外、も……かんがえなれな……みひろ、すき…すきだっっ」
ガンガン腰をぶつけながら、私のお尻をぎゅっと掴んだ鋼は中でどくどくと揺れて達したようだ。
頭を撫でずに射精したのは、初めてかもしれない。
「すき……みひろ、俺のこと好きになって……。好きで好きでおかしくなりそう」
私達は肌が合うというのかもしれない。
抱き合えばトロトロに溶けるほど気持ちのいい。
それでいて、普段のツンとしたキングの鋼も、私に撫でられてトロけてしまう鋼も、もう全部欲しくてたまらない。
「私も……好きだよ。初めは嘘の告白からだったけど、今度は本当。可愛くてカッコよくて、鋼のこともう、全部好き」
「美宏……嬉しいっっ」
「あんっ……また……」
私の中に入ったままだった鋼はメキメキと硬度を取り戻して、一気にまた剛直へと姿を変えてしまった。
「だめだよ美宏、今日は両思いの記念日だから、朝までたっぷり可愛がってね」
「んんっ……もう、可愛いやつ」
顔だけ振り向いた私に、鋼はすかさずキスをしてきた。
舌を絡めて吐く息まで吸い合って、甘い声はずっと、終わることなく響き続けた。
私達の愛し合い方は普通とはちょっと違うかもしれないが、甘えん坊の鋼と甘やかしたい私、お互いの相性がぴったり合った最高の相手だと思う。
もちろん彼がベッドの上で甘えてくるのは秘密だ。
そんなこと誰にも知られたくない。
甘い声すら誰にも聞かせたくない。
私は意外と独占欲が強いのだと思い知った。
「私もワンピースとか着ようかな。持つには持ってるんですよ」
「……なんでだ?」
「それは、好きな人に可愛いとか、綺麗って思われたいのは自然な感情ですから」
「……いい」
「え?」
「そのままで…いい」
「えーー」
「着るのはいいが、俺の前だけにしてくれ。じゃないと、他のやつに見られるなんて……町ごと破壊しそうだ」
「……それは困りますね」
「だろ?」
独占欲はお互い様のようだが、それもまた飛び抜けている鋼にもう笑うしかなかった。
□終□
天上の世界。
前回はホテルだったが、今回は夜王の自宅で、高層マンション最上階のペントハウスだった。
ホテル並みの豪華な造りで、家具類も使われていないんじゃないかと思うくらい新品同様。
モデルハウスのように生活感のない綺麗な部屋だった。
聞けば他にも家を持っているらしく、毎日使っているわけではないらしいので、なるほどと納得してしまった。
「ワインでいいか? ここに客を呼ぶことがないから、他にまともなものがない」
「ああ、いえ、お構いなく」
キングはドテンと社長椅子に座ったまま動かないのかと思いきや、意外とテキパキとワインとグラスを用意して、ナッツやクラッカーと言ったおつまみまで持ってきてくれた。
器用な人なのだなと思いながら、ワインが注がれたグラスを手渡されてそれを受け取った。
二人でソファーに座りながら、飲み始めることにした。
「俺達は出会ったばかりで特殊な関係になってしまった。まあ、俺が悪いのだが、もっとお互いをよく知り合わないといけないと思うんだ」
「それは……そうですね」
まただ。
横暴な王様かと思っていたのに、意外と気遣いができる男。
この男はいくつの仮面を持っているのだろうか。
「ではまずは、幼少期からスタートしよう。さあ、俺からいくぞ」
ヘンテコな関係の二人がもっとよく知り合うために、よく分からない身の上話大会が始まってしまった。
ますます不思議な人だと思いながら、私は演説を始めるみたいに真面目な顔になった夜王の話に耳を傾けた。
「絵に描いたような御坊ちゃま生活ですね」
「……悪いか」
「いえっ、一般人からしたら羨ましいですよ。恵まれた環境ですから。でも確かにそんなに周りから期待されたら窮屈そうではありますね」
「上に歳の離れた兄がいるが、これがまた自由人でな、中学を出たら放浪の旅に出てしまった。両親は何とか俺をまともに育てないとマズイとそれで加速してしまった」
夜王の話を聞いて出てきた感想といえば、裕福だけど大変そうというものだった。
子供ながらに毎日決められたスケジュール、それも分刻みに詰め込まれて、風邪をひいた時でも休むことは許してもらえなかったと聞いた。
そして、頑張っても頑張っても、両親は褒めてくれず、できなかった時だけ怒られたという、なんとも可哀想に思えるエピソードだった。
過ぎたことだと言いながら、寂しそうな目をした夜王の横顔にキュンと胸が締め付けられてしまった。
「それにしても、大人になるまでコンビニに行ったことがないなんて……。もしかして今でも……」
「っっ……、そんなワケがあるか、年に一度は行く!」
ちょっとムキになって怒る顔も可愛い。
キングキングと呼ばれて崇められているが、こんな一面があることをみんな知っているのだろうか。
チクリと胸が痛んだ気がした。
「規模は小さいですけど、ウチも過保護では似たようなものです。大学生になっても男の人とまともに話したこともなくて……、ちゃんと会話をしたのが元彼が初めてで……」
話しながらこれでは初めてが元彼だったというのがバレバレだなと思った。
しかしお酒の勢いか、それとも夜王の前だからか、今まで人に言えなかったことまで、口から溢れていくのを感じた。
「お互い冷めてたなんて強がってましたけど、こうやって思い出すとやっぱりまだ好きなのかな……。初めてデートした時のこととか、薔薇の花を一本くれたんです。男の人にそんな風に優しくしてもらったの初めてで……嬉しくて……。突然降り出した雨に二人で手を繋いで走ったこと、全部……昨日のことみたいで。フラれるって、私だけ一人取り残されたみたい。やだ……すみません、私……」
気がついたら上ずった声でボロボロと泣いていた。
彼の前でも泣かなかったし、今までずっと感情が壊れてしまったような気がしていた。
それがここにきて、夜王の前で涙が止まらなくなってしまった。
急いでハンカチを当てて止めようと鞄に伸ばした手を掴まれて、ぐっと引き寄せられた。
私はボロボロの顔のまま、夜王の胸の中に飛び込むかたちになってしまった。
そして包み込むようにぎゅっと抱きしめられた。
「我慢するな。泣いて全部忘れてしまえ」
「ううっっ…」
強く抱きしめて安心させるように背中を撫でられた。
それは私が泣き止んで落ち着くまで、止まることなくずっと続けてくれた。
このタイミングで優しくするのは反則だ。
思い出の中に取り残された私に手を伸ばすなんて、そんなの……そんなの……
「優しいんですね、夜王さん」
「鋼だ、名前で呼んでくれ」
「鋼さん、キスしてくれますか?」
無性に寂しくてたまらなかった。
思い出の檻から私を連れ出したのなら、この胸に広がるものまで全部まとめて連れ去って欲しい。
誰もいない世界の果てまで……
鋼は私の問いに答えるように唇を重ねてきた。
わずかに重なって離れ、再び重なって、今度は長く深く重なった。
薄く開いた唇に鋼の舌が入ってきた。熱い吐息を漏らしながら、私もその舌に自分の舌を絡ませた。
くちゅくちゅと音を鳴らしながら、深い口付けは続いた。お互いの口内を順番に舐め合うようにして、時折り唇ごと吸われた。
こんな激しいキスなんてしたことがなくて、私はただ翻弄されながら必死に鋼のキスに応えていた。
鋼の膝の上に乗った私は、いつしか頭に手を当てて指を髪の中に突き入れた。
五本の指の腹を使ってマッサージするように撫でてみると、鋼はビクリと体を揺らして感じているのが分かった。
「鋼さん、下、凄いことになってますよ」
「はぁ……言うなっ、もうヤバいんだ」
膝の上に座っているものだから、直接股間の変化が分かってしまった。
キスをして頭を撫でるたびに、鋼のソコはグングン大きくなって、衣服を押し上げていた。
しかもズボンに沁みまでできていて、本当に凄いことになっていたのだ。
「触っても……いいですか?」
「そっ…それは、今、かなりヤバいというか……」
「大丈夫、優しく触ってあげるから」
あまりに赤くなって可愛らしい反応をする鋼に、私の中で火がついてしまった。
勝手にジッパーを引き下ろして下着をめくり、鋼の欲望を取り出してしまった。
ボロンと下着から飛び出したソレは、元気がよく跳ねるように揺れて腹に付きそうなくらい反り返っていた。
先っぽからは先走りが下着に糸を引くように溢れていた。
「もう、ガチガチですね。ゆっくり擦りますよ」
今日はシャワーを浴びていないので、ほんのり雄の香りが漂ってくる。
そんな野生的な匂いがたまらなく興奮する。
ぬるぬるした先走りを利用して夢中で上下に擦っていたら、鋼がハァハァと息を吐きながら、だんだん声を漏らし始めた。
「あっ………くっ……みひろ……」
「気持ちいいですか? ここ、ピクピクしてる。可愛い……」
「くっ……んああっ………」
「舐めてもいいですか?」
「だっ、だめだ! そんなこと…すぐにでる」
「じゃあ、こっちの手でヨシヨシしてあげます」
鋼の欲望はその言葉にビクンと揺れた。
慰めてくれた優しい鋼のために、私も何かしたいと思ったら、やはりこれだろうと片方の手で頭を撫でた。
「ヨシヨシ、鋼は頑張ってるね。私にも優しくしてくれて、とっても良いこだね」
「……ふっ……あああっ…っ」
耳元で囁きながら撫でてあげると、たまらなかったのか、鋼は腰を揺らしながら達してしまった。
勢いよく飛び出した白いものが私の頬にまで飛んできて、思わず手で取って眺めてしまった。
「だっ、美宏、そんなものを……」
「ん? たくさん出たね。イイコイイコ」
またまた褒めてあげたら、分かりやすく鋼の欲望はビクついて応えてくれた。
顔の方は真っ赤になって目はすっかりトロけている。
可愛い、可愛すぎる。
年上の男性に向かってこんなことを考えるのは嫌がられるかもしれないが、私の根底にある可愛がりたい欲が出てきて、それは私の体にも快感をもたらせた。
「美宏……触りたい、俺も……」
私が頷くと、鋼は私の服に手をかけてゆっくりと優しく脱がせてきた。
「うっっ、なんて体しているんだお前は……」
「それ、褒め言葉ですか?」
クスリと笑った私の問いには答えずに、鋼は私の後ろに手を回してブラを外した。
「ああ……すごい、綺麗だ」
そんなにストレートに体を褒められることなんてなかったので、恥ずかしいながらもじわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「確かにパーティーの時は大きいと思ったが、普段は地味な服の下に、こんなものを隠しているなんて……」
「あの、隠さないといけない部分ですから」
鋼の感想がおかしくてクスクスと笑っていたら、鋼は私の胸をゆっくりと愛撫しながら頬を寄せてきた。
「柔らかい……気持ちいい」
そこを頬擦りされるなんてこれもまた初めてだが、庇護欲たっぷりの私には愛情に飢えた子供のように見えてしまいたまらない気持ちになる。
頬ずりしながら舌を出した鋼は、今度は乳首を舐め始めた。ザラザラした舌先に刺激されてピリッとした電気のようなものが体を走った。
「んっ……あっ……」
私が声を漏らし始めると、鋼の指使いはだんだん大胆になって、口で愛撫しながら、片方の手でもう一つの乳首をこねるように擦り、もう片方の手は私の下半身へと伸びていった。
「はん……ぁぁ……なにっ……へん……熱い……んっっ」
「セックスは挿れるだけじゃない。こうやって全身を使って愛撫するんだ。舐めて、つねって、擦って……ああ、ナカから蜜が溢れてくる」
秘所に手を這わせた鋼は、花唇を優しく指で撫でながら、花芯を刺激し始めた。
そして他の指は蜜壺の中へ入り、ピチャピチャと水音を響かせながら愛液をかき回された。
「ハァハァ……こんなに……同時なんて……あああっ」
上も下も同時に愛撫されるなんて、快感を身体中で感じてしまい気が狂いそうだ。
乳首を甘噛みされて、花芯をぎゅっとつままれたらたまらなかった。
私は背中を弓のようにそらせて、体を突き抜ける快感に身を任せてビクビクと揺れた。
「ああ…あ……ぁぁ……」
「美宏……達したのか、綺麗だ……可愛い……」
体に残る熱を感じながら目を開けると、私を見つめる鋼の情欲に燃えた目が見えた。
ハァハァと荒い息をしながら、目元は興奮で赤くなり堪えるように私を見つめる目。
たまらない。
燃えるように求められる感覚が……
欲しい、この熱さが欲しくてたまらない。
私の中でずっと押し留めていたものが爆ぜたのを感じた。
いや、開花したというのがあっているかもしれない。
「鋼、いい子。上手にできたね。早く、私の中に挿入ってきて。たっぷり可愛がってあげるから」
鋼がゴクリを喉を鳴らして唾を飲み込んだのが分かった。
ベッドに場所を移して、鋼は手早く自身にゴムを付けた。一秒でも惜しいかのように私の上に覆い被さってきた。
言葉をなくした獣のようだ。
ハーハーと胸を上下させながら、私の足を持ち上げて剛直となった自身を花唇にあてがった。
「美宏……美宏、挿れて……挿れていいの?」
「いいよ、そう……ゆっくりね。久しぶりでしょう、お互い気持ちよくならないと」
「ううっ……はぁぁ……熱い…ナカ……熱い」
鋼は言われた通りゆっくりと挿入してきた。
その刺激だけでも我慢できないという堪えた顔をするので、それを見るだけで胸がキュンキュンして、私は中にいる鋼を締め付けた。
「ああ……あんまり……締めないで、すぐに……出ちゃうから」
「我慢できないの? ふふっ、可愛い……ほら、もっと奥まで挿れて、あっ……そう、上手だよ」
タガが外れたのはお互いそうだった。
キングと呼ばれる孤高のライオンみたいな人が、私の中に入ってまるで子供のようになって私を求めてくる。
私だって同じだ。
普段暗くて後ろ向きで地味なくせに、鋼に求められるだけでゾクゾクして、もっと可愛がりたくてたまらなくなる。
私の中に、こんな欲望があったなんて知らなかった。
「美宏……動きたい……熱い、我慢できない」
「いいよ。ちゃんと奥まで突いて、私をイカせてね。そしたら、ご褒美をあげるから……」
汗を垂らしながら目を潤ませてくる鋼に、心臓が高鳴って壊れてしまいそうだ。
もっと、もっと
この男の乱れた姿が見たい。
お願いといって懇願する姿が見たい。
「ああ…美宏、美宏……気持ち…いい……?」
「んっ……ハァハァ……いい、いいよっ……もっと激しく」
すっかり濡れていた愛液の滑りを利用して、鋼はパンパンと音を立てながら腰をぶつけるように私の奥まで突いてきた。
「……ハ……んっ……あっ、あっ……ハァハァ……熱い……お腹……ぐりぐりして……ああっ……もっ……と、もっとぉぉ……」
気持ちいい。
頭がおかしくなりそうだ。
いつも濡れなくて、責められていた私は今ここにいない。
自分より大きくて逞しい男に、激しく求められて、しかも私がその男を可愛がっている。
たまらない。
込み上げてくる快感をそのまま受け入れて、私は雄を咥えたまま達した。
そんな自分がいやらしくて卑猥に思えて、そんなことにすらゾクゾクして気持ち良くなってしまう。
分かっている。
すぐに出るといいながら、鋼が達してないのはご褒美を待っているからだということは……。
「ちゃんと……できたね。気持ちよかったよ。ほら、おいで……」
「美宏…美宏、お願い…褒めて……俺のことたくさん……」
「ああ……気持ちいい、なんて柔らかいの。可愛い可愛い、いい子だよ。鋼、いい子だね」
大きな体を丸めて頭を寄せてきたので、私は髪の毛に手を入れてたっぷりと撫でてあげた。
私の胸に顔をうずめていた鋼は、ブルブルと震えながら声を押さえているように見えた。
「いいよ、鋼。気持ちよかったら声だして。イクときの声を聞かせて」
「美宏、もうだめ……イッちゃうっ、あっ……あっ……イクッ……ああああっ……っ、んっ!」
鋼は腰を揺らしながら、私の奥で爆ぜた。
膣内の鋼がビクビクと揺れていて、私の子宮も疼いてまたぎゅっとなった。
鋼はまるで女の子のように声を上げて達したが、可愛くて愛おしくてたまらない気持ちが湧いてきた。
この関係をなんと呼ぶのだろう。
愛で繋がったわけではない。
お互い心にできた穴を埋めるように抱き合っている。
こんな乱れた関係なんて今までの私からしたら信じられない。
でも、今まで生きてきて、こんなに満たされたのは初めてだった。
「紀野さん」
「はい?」
コピーをとっていたら、いつの間にか後ろにいた上司に話しかけられた。
「あ、使います? 今終わりますから」
「いや、そうじゃなくて、最近頑張ってるなと……。この前は会議の資料助かったよ」
「はあ……、それは良かったです」
私に一言告げて上司は慌てたように頭をかきながら出て行ってしまった。
何がしたかったのかよく分からなくて、ひとりで頭を傾げた。
最近この妙な空気を感じる時が増えた。
パーティーの時のように髪型やメイクを変えたわけでもない。
服装だっていつもと同じシャツとパンツスタイルだ。
それなのに、ふとした時に社内の人から視線を感じることがある。
何か迷惑でもかけてしまったのだろうかとモヤモヤしていた。
「美宏ー! こっちこっち、先にいつもの頼んでおいたよ」
日当たりのいいオープンテラスに座っていた瑠奈が、立ち上がって手を振ってこっちだと教えてくれた。
瑠奈は仕事で外回りが多いので、会社の近くに来た時はよく一緒にランチをしていた。
今日も近くまで来たからとメッセージが入って、二人のお気に入りのレストランで待ち合わせた。
「ありがとう。もう、すっかり暑くなってきたね。ここまでくるのに汗かいちゃった」
薄手のジャケットでも熱いなと思いながら、バサッと脱いで椅子に引っ掛けたら、瑠奈が惚けたような顔で私を見ていた。
「ちょっと、ちょっと……、どうしたの?」
「へ? 何が?」
「いや……見た目はいつもの美宏なんだけど……。なんて言うの? すごい色気が……ムンムン漂ってきて……」
「はい? ちょっ…こんなところで、いつものバーじゃないんだよ」
オフィス街だが、周りには家族連れや、ママ友ランチグループまでいて和やかなムードなのに、その手の話は明らかに相応しくない。
指に手を当ててダメだよという顔をしたが、瑠奈の勢いは収まらなかった。
「それ、キスマーク! 嘘! あの鋼のように固かった美宏が!」
周囲の視線をチラチラと感じて、こりゃダメだと頭に手を当てた。
その鋼に付けられたのは確かで、首元を絆創膏で隠していたが、めざとい瑠奈は気がついてしまったようだ。
「ちょっとぉ、あのキングと上手くイっちゃうなんてぇ。さすが私の弟子、美宏ちゃん。そりゃあんな極上な男に愛されまくってたら、そうなるわ。理解できたわ」
「……愛、とかじゃないし……」
瑠奈の言葉がチクンと胸に響いて、私は違うのだと小さく否定した。
あの日、鋼の部屋で初めて体を重ねてから、二人の関係は続いている。
週末、多い時は週に三日、私を車で迎えに来て、そのままお泊まりコースだ。
そして、毎回あの溺れるようなセックスをして、これ以上ないと思うくらい満たされる。
だけど、本当にこんな関係を続けていいものなのか、私の中で葛藤がある。
恋人同士が愛し合う行為について、鋼から教えてもらいたかったのは確かだ。
鋼の方だって、男性としての機能は問題なく……、ちょっと多いくらい毎回求められる。
満たされるからと割り切ってこの関係を受け入れることはできない。
なぜなら私は鋼に抱かれる度に、どんどん惹かれていくのが分かったから……。
心が弱っていた私を癒してくれて、優しく包み込んでくれた。
そして、甘えることに飢えていて、わたしの手で撫でられただけで射精してしまうような鋼のことが愛しくてたまらない。
「素直に、なってみたら?」
「瑠奈……」
「正直、あの人は異次元すぎて私にはなんのアドバイスもできないけど、美宏のこと、そんなに綺麗に輝かせてくれる人なんて、もうこれは間違いないと思う」
臆病な私の胸の内を悟った瑠奈が手を握って勇気づけてくれた。
そうだ、後ろ向きになって欲しいものから逃げていたらだめだ。
次に会った時に自分の気持ちを伝えてみよう。
私はそう気持ちを決めた。
「やだ、祐介から。メッセージ来た」
ランチを楽しんでいたら、スマホの画面に表示された名前に一気に嫌な気分になった。
「あら、美宏。まだアイツのこと消してないの?」
「祐介の家にネックレスを置いたままなのよ。他のはいいけど。初任給で買ったものだから。それだけ返して欲しくて連絡してたの。やっと返信が……、ああ、今日か」
祐介とのやり取りは別れて以来だ。
郵送で送って欲しいと連絡したが、今日手渡ししたいとメッセージが来た。
「大丈夫? 一緒に行こうか?」
「駅前のカフェだから大丈夫。もらうだけだし、これ以上ひどいこと言われても傷つかないよ」
鋼と一緒に過ごして、祐介との時間がいかに私にとって辛いものだったか思い知った。
優しい言葉をくれて大切にしてもらえて、そんな経験をしたら、もう祐介の顔すら思い出せなくなっていた。
心配そうな目で見てくる瑠奈に大丈夫だと笑いかけて、私は仕事が終わった後、待ち合わせのカフェに向かった。
待ち合わせ時刻の十分前に着いたが、珍しく先に祐介がカフェにいて席に座っていた。
いつも十分は遅刻してくる人だったなと思いながら、祐介の座っている席まで歩いて行った。
「早いのね。私達、一緒にいると奥様にマズいでしょ。お願いしたやつくれる? すぐに行くから」
「美宏、なんだよ。久しぶりなんだから、ゆっくり話そうぜ。それにまだ結婚してないから」
手渡されたらすぐに出るつもりだったのに、それらしいものが机の上に置かれてもいなかった。
仕方なくため息をついて、向かいの席に座った。
「これ、鍵返すから」
「いいって、返してくれなくて。交換しないことにしたから」
「じゃ尚更いらないよ。問題起きて変に疑われたくない」
祐介の前まで鍵を寄せたが、祐介は受け取らず口を強く結んでいた。
「……悪かったと思ってる。今まで、俺ひどい態度だった」
「はあ? 今頃何を……」
「結婚は……するんだけどさ。実は迷ってて……彼女さ、お嬢様だからすごい我儘で手に負えなくて。鬼みたいに連絡して束縛してくるし、もうストレスで最近髪まで抜けて……」
そういえばと久々に祐介の顔をマジマジと見てみたが、十歳くらい老けたように見える。
この状態じゃ結婚しても尻に敷かれる様子が目に見えた。
「お似合いじゃない? とっても上手くいきそうだけど」
「そ、そんなぁ……。美宏、お前が優しかったのを当たり前だと思ってた俺が悪かったよ。やり直せないか?」
「相変わらず、いつも逃げ道を用意しながら、自分の好きなようにしようとするんだね。自分のしている事分かってる? 話にならない! ネックレスはもういいから、捨てて」
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がり、店を出て行こうとしたら、ガッと腕を掴まれた。
「美宏、綺麗になったじゃん。何? 新しい男でもいるの? でもきっとお前のテクじゃ、満足してもらえないよ。俺だったら……」
信じられなかった。
プライドの高いこの男は、人前でこんなに目立つようなことは絶対にしなかった。
それだけ追い詰められているということだ。
それを知ったとして、少しも憐れむ感情が湧いてこなかった。
次の瞬間、突然、黒服の男達が現れて私と祐介の周りを囲んだ。
何事かと目を見開いた祐介と、これはまさかと思う私の後ろからコツコツと靴音が響いてきた。
「その汚い手を離してもらえないか? 彼女は俺の大事な人なんだ」
ハリウッド俳優が飛行機のタラップから降りてきたように、優雅に歩いてきたのは鋼だった。
ロングコートを肩に引っ掛けて、頭にはマフィアみたいな帽子をかぶっていて、映画の撮影が始まったみたいだった。
鋼の瞬きで、呆然としていまだ手を離さない祐介を黒服の男達、鋼の部下達が羽交い締めにして身動きが取れないようにしてしまった。
鋼の前にサッと差し出されたのは薔薇の花束だった。
それも一本ではなく、百本以上ありそうな大量の花束だった。
にっこりと笑った鋼はそれを私に差し出してきた。
受け取ったはいいが、すごい大きさと重さで前が見えなくなった。
「す……すごっ、こ…こんなにたくさん」
「俺の想いは一本では足りない、いや、この一本一本に気持ちを全部込めてある。後で、風呂に浮かべて二人で入ろう」
「ロ、ロマンティック……」
「おい、そこの汚いの。悪いが彼女はもう俺のものだ。ここで殺しはしない。手放したものがどれほど大事なものだったのか、身をもって思い知れ。それと、二度と彼女に近づいたら許さない。彼女の三メートル以内に近づいたら爆発するものを体に埋め込ませてもらう」
「ひぃぃぃ!!」
明らかにヤバい系の人達が現れて、殺すとか爆発とか言われたものだから、祐介は泡を吹いて恐怖で膝から崩れ落ちた。
そんな祐介の姿を汚いものを見る冷たい目で睨んだ後、鋼は私の手を引いて歩き出した。
「さっきのアレ、本当にやるんですか?」
「ただの脅しだ。できないことはないが……、美宏が褒めてくれるなら……やる」
「いっ……いいです。町で気がつかずにすれ違って爆発されたら寝覚が悪いです」
慌てる私を見て、ププっと噴き出した鋼はケラケラと笑った。こんな、ブラックなジョークみたいなので笑えるのは鋼だけだろう。
「どうして、ここが?」
「お前の師匠という女から、救助要請というメールが俺の秘書に来た」
「ああ、瑠奈……」
鋼の運転手兼秘書の男は、瑠奈としっかり繋がっていたらしい。いつの間に交換したのか、さすが仕事ができる人だと感心した。
店を出たら空は暗くなっていて、さっきは降っていなかった雨が降っていた。
車までは距離がありそうだが、いつも鞄に入れていた折り畳み傘を今日は忘れていたことに気がついた。
しまったなと思っていたら、鋼にトントンと肩を叩かれた。
「美宏、好きなものを……」
振り返ると鋼の部下がバカっと開いたスーツケースの中に、数え切れないくらいの折り畳み傘が入っていた。
このまま傘屋でも開そうなくらいだ。
「ゴホンっ、二人で雨の中を走るのもいいが、俺は雨に濡れて美宏に風邪をひかせたくない」
呆然としてスーツケースと鋼を見比べていたが、今度は私が噴き出して大笑いする番だった。
やることが飛び抜けていて、予想すらできない。
薔薇の花も、雨の中走る話も、私が思い出として切なく語っていた話だ。
それを覚えていて、とんでもない量で塗り替えてきた。
驚きすぎて、おかしくて、嬉しくて……
「じゃあ、これに……。一緒に入りませんか?」
花柄の傘を一本手に取って開いた私は、少し高く掲げて鋼に向かって微笑んだ。
鋼は真っ赤になって、相合い傘なんて初めてだと小さくこぼしながら、嬉しそうに傘に入ってきた。
「むっ…ふっ……んんっ、まって……シャワーを」
「待てない、今すぐ欲しい」
車内からキスが止まらなくて、エレベーターに乗り込んでもずっと唇を吸いあった。
なんとか部屋までたどり着いたが、お互い興奮して玄関で始まってしまった。
私の足元に座り込んだ鋼はハァハァと犬のように荒い息をしながら私を見上げてきた。
「どうしたの? 物欲しそうな顔をして」
「ここを……舐めたい、美宏の」
鋼は私の股間に顔をうずめてクンクンと匂いを嗅いでくる。
いいよと言うと、口で器用にズボンと下着を下ろした鋼は、興奮した顔で舌を出して私の花唇をペロペロと舐め始めた。
「は……ぁ……んっっ、ぁぁ……」
「んっ……みひろ、……んんっ」
指で花弁を開くように動かして、舌を使って花芯を舐めたと思ったら、じゅっと吸い付いてきた。
「あ、あ……ん、それっ……だめっ……」
「んんっ、……ん……」
従順に私を喜ばせようと必死に舐めてくれるのは、さっきまで何十人も部下を引き連れて、ナイフのような目をして指示を出していた男だ。
それが私の股の間で唾液を喉元まで溢しながら、美味しそうに私の陰部に食らい付いている。
たまらない……なんて光景だろう。
「上手にできるじゃない。う……んんっ、きもちい……よ。いい子ね、あっ……はがねっ」
「んんんっ……、んんろ……ひろ……んっ」
今日はとってもいい子だから、ご褒美をあげなくてはいけない。
私は花芯に吸い付いている鋼のふわふわの髪に掴むように指を入れた。
可愛い、可愛くてたまらない。
なんて人なんだろう。
優しく、時に揉み込むように撫でてあげたら、嬉しいのか鋼の舌はもっと大胆になって、生き物のように動いて私を追い詰めていった。
「はっ、ぁっ、くる……はがね、イクっ……あっイクッッ!」
快感の強さに鋼の頭を掴みながら、押し付けるようにして私は達してしまった。
ビクビクしながら壁に頭を擦り付けて嬌声を上げた。
「ふーーふーーーはぁ…ふっ……はーはーはー」
私を舐めていた鋼がやっと顔を離した。
荒い息をして、真っ赤な顔で目はトロンとして口から涎を垂らしていた。
その顔を見たらゾクゾクと快感が湧き上がってきた。
淫らな視覚だけで蜜口をキュッと締まって私は軽くイッてしまった。
座り込んだ鋼の高級そうなスーツの股間部分は濡れていて、大きく染みになっていた。
「鋼、またナデナデされて出ちゃったの? ズボンも脱がないで……悪い子」
「美宏、うぅっ、やだっ。お願い、欲しい欲しい、美宏の中に入りたい……」
目を潤ませて懇願してくる鋼は目眩がしそうなくらい可愛い。
つい意地悪したくなってしまうが、早く欲しいのは私も一緒だった。
いいよと、言いながら、鋼の首に腕を絡めてしがみついた。
鋼は私を持ち上げてそのままベッドまで運んで、サッと服を脱いで準備をした。
興奮して待ちきれなかったのか、私をうつ伏せにした後、後ろから挿入してきた。
すでに散々舐められてトロけていた蜜壺は、待ちに待った剛直を愛液でたっぷりと濡らしながら迎え入れた。
「ハァハァ…ハァハァ、みひろ、みひろ、きもちい……、ねぇ、今日はずっとこの中にいたい、朝まで……ずっと」
「あ……あ、あ、あっ…んんっ、いいよ。でも、朝まで我慢できる?」
「できなっ……、すぐでちゃう。でも、いっぱい…たくさん、するから」
「ふふっ……はがねは、私のこと好きなの?」
「すき……すきだよ。みひろ以外、も……かんがえなれな……みひろ、すき…すきだっっ」
ガンガン腰をぶつけながら、私のお尻をぎゅっと掴んだ鋼は中でどくどくと揺れて達したようだ。
頭を撫でずに射精したのは、初めてかもしれない。
「すき……みひろ、俺のこと好きになって……。好きで好きでおかしくなりそう」
私達は肌が合うというのかもしれない。
抱き合えばトロトロに溶けるほど気持ちのいい。
それでいて、普段のツンとしたキングの鋼も、私に撫でられてトロけてしまう鋼も、もう全部欲しくてたまらない。
「私も……好きだよ。初めは嘘の告白からだったけど、今度は本当。可愛くてカッコよくて、鋼のこともう、全部好き」
「美宏……嬉しいっっ」
「あんっ……また……」
私の中に入ったままだった鋼はメキメキと硬度を取り戻して、一気にまた剛直へと姿を変えてしまった。
「だめだよ美宏、今日は両思いの記念日だから、朝までたっぷり可愛がってね」
「んんっ……もう、可愛いやつ」
顔だけ振り向いた私に、鋼はすかさずキスをしてきた。
舌を絡めて吐く息まで吸い合って、甘い声はずっと、終わることなく響き続けた。
私達の愛し合い方は普通とはちょっと違うかもしれないが、甘えん坊の鋼と甘やかしたい私、お互いの相性がぴったり合った最高の相手だと思う。
もちろん彼がベッドの上で甘えてくるのは秘密だ。
そんなこと誰にも知られたくない。
甘い声すら誰にも聞かせたくない。
私は意外と独占欲が強いのだと思い知った。
「私もワンピースとか着ようかな。持つには持ってるんですよ」
「……なんでだ?」
「それは、好きな人に可愛いとか、綺麗って思われたいのは自然な感情ですから」
「……いい」
「え?」
「そのままで…いい」
「えーー」
「着るのはいいが、俺の前だけにしてくれ。じゃないと、他のやつに見られるなんて……町ごと破壊しそうだ」
「……それは困りますね」
「だろ?」
独占欲はお互い様のようだが、それもまた飛び抜けている鋼にもう笑うしかなかった。
□終□
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好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
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可愛いです、鋼さん。後日談、是非読んでみたいです。
嫉妬深いところが可愛いヒーローって、珍しいですよね。秘書さんと、瑠奈さんも好きです。黒幕っぽい二人の名コンビ(メールで(笑))もナイスです。
四葩様
こちらもお読みいただきありがとうございます(^^)⭐︎⭐︎
前半と後半の鋼の変化っぷりが書いていてとっても楽しい作品でした。
意気投合した、黒幕(笑)二人も気に入っていただけて嬉しいです♪♪
甘えん坊ヒーローお楽しみいただけたら幸いです。感想ありがとうございました☆彡
全部読みました。
鋼が可愛くて可愛くて、どうしよう〜❤️
みひろの前だけ甘々の子供で、可愛がってもらいたくてしょうがないんでしょうねぇ。
たまらん!❤️
ぜひぜひ続きが読みたいです♪♪♪♪♪
書いてくれると嬉しいデス😊
このまま終わるのもったいない〜
れぃな様
お読みいただきありがとうございます。
甘えん坊ヒーロー、お楽しみいただけましたでしょうか。
大人の男の人が甘えてくる感じが可愛いかなと思い、書かせていただきました。
続きが読みたいと言って頂けて嬉しいです。
甘々な後日談を書くのもいいかなと思っておりましたので、思いつきましたらまた投稿させていただきますね。
感想いただけて嬉しいです(^^)
ありがとうございました⭐︎⭐︎