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※※ SS&番外編 ※※
モア × スウィート× スウィートハニー
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(全イグニス視点)
※※※※
明け方、眠りが浅くなった頃、嫌な夢を見た。
夢の中で俺はすごく傲慢で頑固で孤独だった。
甘い言葉を囁かれて乗せられて、気がついたら手は血で染まっていた。
周りにはディセルとノーベンの死体が転がっていて、俺の体には蛇が巻き付いていた。
ハッとして飛び起きたが、…やけに現実的で嫌な夢だった。
「……どうしたの?」
夢か現実かの間でぼんやりと座っていたら、横で寝ていたテラが目を擦りながら声をかけてきた。
どうやら起こしてしまったようだ。
寝ている時は眼鏡を外しているので、幼い顔がより幼く見える。
嫌な夢を見て混乱していたが、テラの顔を見たら、スッと心が落ち着いた。
「悪い…起こしたな。少し嫌な夢を見て」
テラの目元を撫でた後ベッドに沈むと、まだ眠気でトロンとした目をしたテラが俺の胸の中に転がってきた。
「どんな夢? 怖いやつ?」
「ああ…、さっきまで覚えていたんだが…。やけに現実のようで嫌な気分になるものだったよ」
頭の中に嫌な湿り気だけ残して、さっきまで見ていた夢は消えていた。
テラと共有できなかったことが、ひどく寂しく思えた。
子供の頃、こんな風に嫌な夢を見た夜、布団をかぶって必死に寝ようとした。
母は弟を産んだ後亡くなってしまい、まだ一歳だった俺はほぼ赤ん坊で、母のことは何も覚えていなかった。
母の代わりに子守兼、教育係として屋敷にやってきた、ベルト夫人は、よく言えば熱心、悪く言えば厳し過ぎる人だった。
父が仕事で忙しくしていて、家の中のことに目が届かないことをいいことに、言うことを聞かなければ手が出て、暴言を吐かれたり、食事を抜かれたりすることも度々あった。
夜は特に厳しかった。
夜更かししたり、騒いだりはもちろん。
早いうちに布団に入っていなければならず、見つかると起きているだけでお仕置きだと言われて叩かれるのだ。
だからどんなに怖くて泣きたくても、声を殺して布団をかぶって耐えるしかなかった。
ディセルは特に良い子だったから夫人のお気に入りだったし、ノーベンは一番幼いということもあったから、叱られるのはいつも俺だった。
なんてダメな子なんでしょう。
兄も弟も良い子なのに、イグニス、あなただけはダメね。
将来はろくな人間になれないわ。
俺は耐えているだけのガキじゃなくて、体が大きくなり力を使いこなせるようになると、反抗しまくって夫人を屋敷から追い出した。
やったぞ、これでスッキリしたと思ったが、胸の中には冷たい風が吹き続けていた。
もう、追い出したはずなのに、夫人の言葉がずっと頭の中に残っていて、事あるごとに俺を追い詰めた。
もうとっくに忘れたと思っていたのに、嫌な夢と一緒にズルズルと記憶の中から引き出されたような気分だった。
「よしよし、大丈夫。俺はここにいるから」
テラの手がふわふわと俺の頭を撫でた。
まるで子供が受けるような行為に一瞬ポカンとしてしまったが、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「あ…ごめん、子供扱いして。なんだかイグニスの顔が…少し幼く見えて…」
俺が無反応だったからか、慌てたように手を離そうとしたテラの腕ごと掴んだ。
「いや、いい。このまま、撫でてくれ」
テラは驚いたように目を開いたが、すぐにクスリと笑っていいよと言ってくれた。
布団の中で震えていた幼い俺に、出ておいでと声をかけて抱きしめてくれたみたいだった。
テラは俺に人の温もりを教えてくれた。
もう嫌な夢も記憶も熱で溶けて消えていった。
優しい温かさに包まれて、眠りにつくことができた。
※※※※
テラと教会で愛を誓い合ってからひと月、ようやく寮生活からも解放されて、町から少し離れたところに家を建てた。
窓から美しい庭園が見えて、太陽の日差しがたっぷりと降り注ぐ明るい屋敷だ。
本家よりはデカくないが、それでもテラは広すぎて迷子になると言って笑っていた。
俺も遠征があって家を開けることも多い、テラも皇宮の仕事で忙しいし、結婚したとしても二人の時間がすぐに増えるわけではない。
しかし、同じ屋根の下で一緒に暮らすというのは、今までよりもっと深く繋がったような気がする。
屋敷には通いの使用人が数名、夜は少数の人間だけ残して、ほとんど二人きりだ。
一緒にいる時は暇さえあればずっとくっ付いていたい。
離れると寂しくてついテラの姿を探してしまう。
俺も困ったものだと思いながら、今は新婚なんだと自分に言い訳して、したいようにしている。
「あ…、え……だめだ…よっ」
「どうしてだ? もうみんな帰っているだろう」
「だけど……こんなところで……」
食事が終わった後のテーブルには残った食器が並び、蝋燭の火が辺りを照らしてる。
片付けを始めようとしたテラの手を止めて抱きしめた後、持ち上げてテーブルの上に乗せた。
すぐに唇に食らいついて激しく舌を絡ませてキスをしたら、テラの力は抜けてトロンとした目になった。
そのままテーブルの上にテラを寝かせたら、だめだだめだと言い始めた。
「今すぐテラを抱きたいんだ。部屋までもたない」
「も…もたないって階段を上がればすぐなのに……え……あぁ…もうこんなに……」
熱く激った下半身をズボンの上からテラのモノに擦り付けた。
硬さに驚いたのかテラは息を飲んで顔を赤くした。
「さっきのケーキを頬張るテラが可愛かった。それを見ていたら元気に……」
「ばっ…そんなことで元気になるなよ」
「しょうがないだろ、力を持つ者は性欲が強いんだ。俺の場合、テラ限定だけどな」
「そんなの聞いてな………んっあああっ…アッ!」
話しながらシャツのボタンを外して前を開けて、真っ赤に色づいた尖りに吸い付いた。初めて触れた時は、陥没気味だったここは毎日のように吸い続けたら、ぷっくりと膨れて赤くなり、ずっと乳首が出たままになってしまった。
テラは薄いシャツを着ると気になって仕方がないと言って怒っていたが、俺が作ったのだと思うと嬉しくてたまらない気持ちになる。
野宿がある騎士ならありえるが、皇宮の事務官が人前で上半身裸になることなんてないので、人に見られる心配はない。
それをいいことに、テラの胸に花びらの痕を残している。どこもかしこも俺の色に染めて、これを見るのが俺だけだと思うとたまらない。
「ひっぁっ、冷たい!」
皿に残ったクリームを取って、テラの胸に塗りつけた。テーブルに寝転んだテラはこう見たらまるでデザートのように見えてしまうからおかしくなった。
「あ…甘いもの…苦手なくせに…」
「これは別物だ」
「あっ…くっ…くすぐたっ……いんっ…ぁ」
大胆に舌を這わせたりチロチロと舐めたり、クリームを舐めとって散々遊びながら愛していると、テラの息が荒くなりもぞもぞと下半身を動かしているのが分かった。
「どうしたんだ? 腰が揺れているぞ」
「んっくくっ……」
「染みまで作って…テラのここは涎を垂らしているみたいだな」
「なっ…、やめろよ…」
わざと避けるように尻や太ももを撫でて焦らしてみると、テラは物欲しそうな目で俺を見てきた。
ゾクゾクと興奮が背中を駆け抜けていく。
この目を見るのがたまらなく嬉しい。
「どうしたいんだ、テラ? そうだ、このまま印を揉んでやるよ」
「や…やめ……あれされると、おかしくなる。印が熱くて……」
テラのお尻についた俺と同じ印、所有を表す印だが、治療が終わった後も濃くなって、今ではしっかりと赤い色がついている。
しかもその部分は敏感らしく、触れたりすると途端にテラは力が抜けてしまう。
そして揉んだりしようものなら……
「ばかっ、触るなって…そこ触ったら…」
「いいだろう、少しくらい」
「ふあぁぁっ…! 揉むなっ! だめっ…だめ……あっ……強すぎる……出ちゃう…だっ…あああっっっ」
本人曰く、まるで第二の性器というくらい快感が得られるらしい。
下着の中に手を入れて、ぐりぐり揉んでやったら、のけ反ったテラは前を触ってもいないのに達してしまった。
下着がじわっと濡れていくのを見て、俺の興奮も最高潮になった。
「ばか……だめだって……でるっていった……」
「ははっ…怒るなよ。可愛かったって。下着もズボンも俺が洗うから、ほら脱がすから腰を上げてくれ」
可愛いテラを見るとつい意地悪したくなってしまう。
目尻に溜まった涙を見ると、もうだめだ。
テラのズボンを下着ごと下ろしてぽいっと投げた。
指に唾液を垂らしてテラの蕾に塗り込んだら、指は思っていたよりスルリと入った。
「ん? 夜勤があったから二日ぶりなのに、ずいぶんと簡単に……もしかしてテラ……」
「へっ…ぁ…しっ…してなっ…! 一人でなんて……」
そこまでポロリと口にしてから、テラはしまったという顔になって手で顔を覆った。
黙っていると眼鏡のせいもあってか、勤勉で頭が良さそうに見えるテラだが、喋るとおバカなヘラヘラ具合がなんとも言えないくらい可愛い。
こんな風に自分から白状してしまうところも、俺の下半身をつついてくる。
「はぁ…あんまり可愛いことするなよ。挿れる前に果ててもいいのか?」
「うぁぁっ…いきなり…そこぉ……だ…め」
緩んでいるのをいいことに、すぼっと指を奥まで突き入れてテラの良いところをぐいぐい押してやった。
急に強い刺激を受けたからか、テラは頭を振って声を上げて感じていた。
「一人で遊ぶなんて、我慢できなかったのか?」
「だっ…て……、イグニス…いな…、…からっぽ……アァッ、……さっ……ぅ…びし……」
指を三本に増やして、ぐるぐるとかき混ぜるように広げたら、目がチカチカすると言って濃い息を吐いていた。
確かにいつも一緒にいるからか、一人で寝る夜はどうも足りなくて困る。
すっぽりと俺の体に収まる柔らかいテラ。テラのナカは熱くて、そこに包まれている感覚が欲しくてたまらなくなる。
物欲しそうな目で見てくるテラの視線に気づかないフリをして、しつこく後ろを広げ続けた。もうすぐテラが限界だと訴えてくるだろう。
「一人でするのはどうだった? 俺の方がいいだろう?」
「っっ…! あたりまえ…だろ…イグニス…欲し…じ…焦らすなよ…」
「いいのか? ここで? テーブルは広いが激しくしたら食器が落ちるかも」
「い…い…いから、も……お願い……挿れて…イグニス……おねが……ああぁ…いれてって……」
ここまで焦らすのもどうかと思うが、この瞬間がたまらない。
目尻に溜まった涙が溢れて頬を濡らし、だらしなく開いた口からは涎も垂れている。
そんな状態で俺を欲して懇願するテラ。
このまま死んでもいいと思えるくらい、最高の光景だ。
本当は俺だって限界を迎えている。すでにアソコは張り詰めて痛いくらいだ。
早くテラの中に入りたくて、ポタポタと雫を垂らしていた。
「挿れるぞ」
テラの柔らかくなった蕾に亀頭をゆっくりと押し込んだ。陰茎を半分挿れたくらいで、テラの中がぎゅうぎゅうと伸縮して俺を喜んで迎えてくれるのが分かる。
「あんまり締めるな、すぐ出るだろう」
「イグニス…やだ……はや……もっと奥に……」
俺が焦らしながら腰を進めていたので、我慢できなくなったテラは自ら腰を上げて俺を深く咥え込んだ。
「んぁぁっ、イイ……きもち…い……あっあああっ」
「こら、待て。まだイくなって」
先っぽがパンパンになってふるふると揺れていたテラのペニスを掴んで、先にぐっと力を入れた。
今にもイキそうになっていたテラは切ない声を上げた。
本当は俺の方がやばくて、テラがイクと中が締まってうねるので、簡単に持っていかれてしまう。
それをごまかすようテラを止めたのだ。
「イグニス…おねが……」
「……仕方ないな、ほら全部入ったぞ」
テラの小さな尻に、自分のモノが収まるのがいつも不思議でならないが、テラの中は俺専用の形になっているかのように、すっぽりとハマる。テラの腰を浮かせて、ぐっと深く押し込めば、全部根元まで収まってしまった。
「あああああぁぁ………ふかい…おかしくなる……」
「好きなだけ…鳴いていい…ぞ。屋敷の中には誰もいない…くっ……っっ」
一度先っぽまで抜いてから、またゆっくりと奥まで挿れる。
それを何度も繰り返す。波のように襲ってくる快感を散らしながら、ひたすらテラの中に楔を打ち込んでいく。
「イグニス…イグニス…も……イき…たい…」
もどかしい動きにいよいよテラが本格的に泣き始めたので良心がぐらりと揺らぐ。しかし興奮の方が勝り、テラを責めるのはやめない。
「くっ…少し…激しくするから」
このためというわけではないが、長テーブルはしっかりした物を特注で作らせた。
テラが一人乗って暴れたとしてもびくともしない。
しかし、腰をぶつけるように強く打ち込んだら、さすがに食器がカタンと揺れる音がした。
背の高いグラスや食器はすでに片付けている。少しくらいなら大丈夫だろうと横目で見て判断した。
抜き挿しの具合を確かめながら、徐々に抽挿を速めていく。
抜いてから深く突き刺す動きになるとさすがに食器はカタカタと音を立てて揺れ始めた。
「あっ……くっぁ……いっ……いい…いいよ……イグニス……いい……俺の…な…か、とけちゃう…」
「ああ、俺も…溶けそう…だ。テラ……テラ、愛してる……可愛い……テラ……っっう…はぁ……くっ…っ…」
射精を促すようにテラの中はぎゅうぎゅうと俺を締め付けくる。たまらず出してしまいそうになるのを何とか耐えながら、パンパンと音を立てながら何度も腰を打ちつけた。
律動が激しさを増すたび、テーブルの上の食器も浮き上がって揺れ始めた。
テラも最初は気にしていたようだが、快感にトロけた顔になった今はもう目線は俺にしかない。
もう少しだけ、もう少し……。
終わりたくなくて、耐えていたが、目を潤ませたテラが口を開けて舌を出してきた。
キスが欲しいのサインだ。
これを見たら俺はもうだめだと思ってしまう。
こんなに可愛いテラを見て我慢などしていられない。
「んっ……うぅぅっっ…んんっ!!」
テラの唇に吸い付いて噛み付くようなキスをしながら最奥で熱を放った。
テラのペニスも解放したらすぐにビクビクと揺れて白濁が飛び散った。
その熱を感じながら、どくどくと一滴残らず中に注ぎ込んで、長い間そのまま入れたままでキスを続けた。
ガシャン!
テラの腕と足が俺に絡みついた時の揺れが最後の一押しだったのか、お皿が一枚床に落ちて派手に割れた音がした。
「割れちゃったな……、掃除しないと……ていうか、ひどいね」
テラの言葉に我に返って当たりを見回すと、脱ぎ散らかした衣服に、床に落ちてはいないが、テーブルの上に転がった食器、飛び散ったソースや食べかす、シュガーポットから溢れた砂糖と、大変なことになっていた。
「ぷっ…っっはっ、ふっふふ、あはははっ」
呆れるか怒るかされると思ったが、テラは吹き出して笑い出した。
「イグニスって…時々、とんでもないことするよな…。いや、付き合っちゃう俺も同じが……ふふふっ、ひどいことになってるけど、なんだろう、おかしくて…笑っちゃうよ」
つい暴走してしまう俺の無茶に、一緒になって付き合ってくれたテラ。
愛おしさが溢れてきてトクントクンと心臓を揺らした。
衣服を直して、掃除を始めようとしたテラの腕を掴んだ。
「テラ、掃除の前に……もう一回だけ」
「は? お前、いい加減に……、こら、だめだって……」
箒を持って暴れるテラを担ぎ上げて、今度はちゃんと部屋まで運んだ。
だめだだめだ言ってくるテラの唇を塞いでまた愛を注ぎ込む。
これでもかと言うくらい、たっぷりと……。
翌朝、使用人の叫び声で飛び起きて目を覚ました俺達は、箒を持って急いで掃除に駆けつけることになった。
※※※
「イグニス、見てみろ。お前目当ての令嬢が窓から見てるぞ」
声をかけられて剣を磨いていた手を止めて顔を上げると、同じ隊の先輩がニヤニヤしながら建物の窓を指差してきた。
興味はないが言われた通り視線を送ると、着飾った令嬢達が扇片手にこちらを観察するように見ていた。
「俺じゃないですよ。ここに何人いると思っているんですか」
「どう見たってお前しか見てないぞ。お前は結婚してるって公表しているのにこれだからな。俺達なんて見向きもしないで、あそこから感じるのは、隙あらばお前をモノにしようというギラついた目ばかりだよ」
確かに先輩の言うことは理解できる。
訓練場は皇宮の建物から見えるところにあり、よく視線を感じることはあった。
気にはしないでいたが、こうやって言われるとさすがに気まずいものがあった。
それにこういう話が結婚相手であるテラの耳に入るのも嫌だったので、勘弁して欲しかった。
「結婚して一年か、さっさと子供作れ。あっ、お前、相手は男だったよな。そうか、なかなか難しいからな」
二十歳を超えると、男同士でも子を作ることはできるが、色々と条件があった。
男の場合は発情期と呼ばれる、妊娠しやすい期間に集中して子作りする必要があって、それが年に一度の一週間しかない。
発情期は男を受け入れることに慣れた体の者がなると言われていて、全員がなるものではない。
テラの場合はまだ、それが来ていないのでいつになるかは分からない。
ただ焦らずにゆっくり二人の時間を楽しむつもりだった。
「あっ、もしかして倦怠期ってやつか?」
「……いや、そんなことは」
「隠すなって。お前の嫁は、確か第三皇子の補佐官だったな。チラッと見たことがあるが、こう言っちゃ悪いが真面目そうで地味でパッとしない男だったな。怒るなよ、正直な感想だ。お前みたいないい男が選ぶのはどうかと思っていたんだ。もったいなく感じるんだよ。美女でも美男子でも好きなだけ選べるのになぁ」
可哀想な人だと思った。
この先輩は確か、男女構わず付き合う遊び人で、薄っぺらい付き合いばかりしていると他のやつから聞いていた。
だから見た目の良し悪しでしか考えられない可哀想な頭だ。こんな先輩の話などどうでもいいので、適当に返事をした。
「俺は男もイケるが、細くて美人系じゃないと勃たないからな。地味な男なんて、味見くらいでも勃つかどうか…」
聞いていられなくて俺は立ち上がった。
周りの連中が俺の機嫌の悪そうな顔を見て、ヤバいヤバいと騒ぎ出した。
本当ならこの空気の読めない先輩をボコボコにしたい気分だったが、俺も一応大人になった。
騒ぎを起こしたとして地方送りにでもされたら、テラとの時間が少なくなってしまう。
それだけは避けなければいけない。
無言で立ち上がって歩き出そうとした。
背を向けたが立ち止まって、やはりムカつくから一発くらい殴ってから行こうとくるりと向きを変えた。
拳を突き上げたところで先輩の後方に見えた人物を見て、ハッとして手が止まった。
「ごめん、イグニス。ちょっといいかな?」
この場にいた隊のやつらの視線が集中して、本人は驚いてビクッと肩を揺らした。
「テラ、どうした? 何かあったのか?」
「ちょっと差し入れ。殿下の注文でディセルのお店に寄ってきたんだけど、注文数を間違えちゃってたくさん貰っちゃったんだよ。こっちでも食べきれないからさ、みんなで食べてくれると嬉しい」
バスケット片手にちまっと立っているテラの姿があった。
普段はここに来ることはないので、よほど困っているのだろう。
差し入れと聞いた男達は目を輝かせてテラの周りにわらわらと集まってきた。
テラが持っているバスケットには、焼き菓子やケーキ、キャンディなどがたくさん入っていた。
「良かったら、みなさんもらってくれますか? 俺がドジしちゃって…それを食べてもらうのも悪いんですけど」
甘いもの好きの男は多い。
とくに訓練で体を動かした後などは、腹が減ったといつも騒いでいるくらいだ。
わらわらと集まった男達は我先にとお菓子を手に取ってあっという間に籠いっぱいにあったものはなくなってしまった。
「おいおい、飢えすぎだろ」
男達はうまいうまいと言いながらバクバク食べているので、もっと味わって食べろと言いたくなった。
そういえばと視線を移すと、テラを地味だとバカにしていた先輩はポカンとした顔で、テラのことを見ていた。
「あの、いつもお世話になっています。これ、良かったら、食べてください。味は保証しますよ」
「あ……ああ、すまない。いただくよ」
なんとテラは渡さなくてもいいのに、先輩に最後に残っていたお菓子の袋を渡したのでムッとしていると、今度は俺に近づいてきた。
「なんだよその顔、自分の分がなくなったってムクれてるのか? 本当、子供みたいなんだから」
「おっ…俺は別に……」
「これ、チョコレートだけど、甘くないやつだから。はい、残りの訓練も頑張ってね」
テラは自分のポケットから出したものを俺の手の上に乗せてきた。
甘いものが苦手な俺のために特別に用意したのだろう、小さなハート型のチョコレートだった。
同僚達の前だからと変に触れることはなかったが、軽く背中を叩いてテラは離れて行ってしまった。
お邪魔しましたーと言いながら、太陽みたいな明るい笑顔を振りまいて、手を振ってテラは職場に戻って行ってしまった。
俺だけ手を振っているつもりだったが、何故か周りの男達もみんな元気に手を振っていた。
テラの姿が見えなくなると一斉に羨ましいと口々に言い出して、何とも言えない状況に頭をかくしかなかった。
「いや……悪いな、あんなこと言って。すごく感じのいい子だったな。お前が羨ましいよ、俺もあんな嫁さん欲しいわ」
掌を返したように照れて嬉しそうにテラからもらった袋を持っている先輩を見て、やはり殴るかとグラついたが、テラからもらったチョコレートを食べて堪えた。
確かに甘くなくて食べやすい。それでいて疲れが癒える味だった。
「隊のやつら、喜んでたぞ。今度、ウチにも遊びに来たいって」
「本当に!? 良かったぁ、困ってたんだよ。美味しいうちに早く食べないともったいいなかったからさ。週末? みんなが遊びに来るなら、食事は多めに用意した方がいいよね」
屋敷に戻って早速今日のことを報告すると、机に向かっていたテラはハリきった顔になって、腕をまくって椅子から立ち上がった。
「いや、いい。断ったから」
「うへっ、何でだよ。せっかく同僚の方々からイグニスの話とか聞けると思ったのに…」
「うるさいから呼びたくない。同僚とは適当にやってるから、気を使う必要なんてない」
「そうは言ってもさ……。イグニスの周りの人なら仲良くしておかないと、何かあった時、力になってくれるかもしれないし」
「ふふっ…すっかりいい嫁だな」
「なんだよ、いい嫁って……」
俺はベッドに座っていたがごろんと転がった。
恥ずかしそうに笑うテラの横顔を眺めていると、腹の中がもやもやとしてくるのを感じた。
「あームカつく」
「何がムカつくんだよ」
「テラが地味だってバカにされるのも、いい嫁って褒められるのもムカつく」
「なんだよそれ」
「俺は心の狭い男なんだ」
言いながらつくづくかっこ悪いと思って、ゴロリと転がってテラに背を向けた。
自分でも自覚はしている。
心は狭いし、へそを曲げてばかりだ。
「イーグニス、一人で寝ちゃうのかよ」
ベッドに入ってきたテラが、俺の背中にしがみついてきた。
振り向きたい気持ちはあるが、まだヘソは曲がり続けていて一人でムクれていた。
そんな面倒くさい俺のことを、テラはクスリと笑って背中に顔を擦り付けてきた。
「俺さ、なんて言われてもいいんだよ。たった一人、俺のこと好きだって言ってくれる人がいるだけで、俺はすごい恵まれてるって思うんだ。好きな人が自分のことを好きになってくれるって、奇跡だと思う。その人をそのことを大事にしたいし、大切にしたい。くだらない言葉や、邪魔者なんかに目が眩んで、大切なものを落としてしまいたくない。ずっとずっと…ぎゅって抱きしめていたいんだ」
静かな時間が流れた。
じんわりと心が温められて、こうやってベッドで抱き合うだけで、ささくれた俺の心は丸くなっていく。
こんな時、いつも思う。
テラは俺にとって太陽だ。
いつかこんな面倒くさい男は嫌だと言われたら俺は生きてはいけない。
「俺も…同じ気持ちだ。……テラ、俺を捨てないでくれよ」
「ばか……大切にしたいって今言っただろ。大切なものを捨てるやつがどこにいるんだ」
テラの顔が見たくなってゆっくり体を反転させると、思った通り、優しい微笑みが迎えてくれた。
「やっと顔が見えた。なんだよ、ちょっと涙目じゃないか。また怖い夢の続きでも見たの?」
首を振ってテラの首元に鼻を寄せた。
テラには俺の匂いが染み付いている。それでもわずかに甘い香りがする。
きっとこれがテラが本来持っている匂いなのだろう。
「もし怖い夢を見たら俺をすぐ起こしていいよ。それで、何を見たのか教えて、その後たっぷり幸せなキスをしよう。夢は夢で現実がずっと幸せなんだって感じられるような。そんなキスをいっぱいしよう」
俺はテラの首元に顔をうずめたまま、分かったと言った。
顔を上げたら臆病な子供に戻って震えて泣いている顔を見られてしまうから。
そんな俺のことなど何でもお見通しなのだろう。
テラはいつまでも俺の頭を優しく撫でてくれた。
「面倒くさい男って最悪だよね」
いつもなら気にしない言葉だが、昨夜の自分を思い出して動揺した俺はお茶を吹き出した。
「大丈夫!? イグニス、ほら拭いて」
横にいるテラが慌てて濡れた服を拭いて背中を撫でてくれた。
「どうしたんだよ。いきなり何の話? ノーベン」
「いやあさ、取引先の男の話なんだけど、とにかくネチネチ細かいところをつついてきて、適当にあしらうとずぅーーっと文句言ってくるし、もう面倒くさいのなんの」
休みの日、屋敷でのんびりしていたら、近くまで来たからと言ってノーベンがふらりと顔を出した。
お茶が飲みたいとうるさいから、応接室に通してテラが淹れたお茶を出した途端、ベラベラと喋り始めた。
「へぇ、頑張ってるんだねノーベン。だいぶ仕事を任されてるみたいだね」
「公爵家継ぐのも楽じゃないよ。僕だってディセルみたいにのんびりお店やりたかったのにさ。まぁ、趣味で何店舗か出すつもりだけど」
「服飾関係だっけ? 謎の美人デザイナー社交界に旋風を巻き起こす! 記事を読んだよ」
「まぁ、当分は顔を出さないでやるつもり。その方が話題性になるし。なんなら、テラの服も作るから、店ができたら一番に招待してあげる」
テラとノーベンは近況を語り合いながら、仲良く笑って話していた。
その中で先程の言葉がいまだに胸に刺さっている俺は何とか外そうと一人でもがいていた。
「とにかく、気分屋ですぐ拗ねたり、面倒くさいのって本当に勘弁して欲しい。扱いづらくて迷惑だよね」
もうすっかり過ぎ去ったと思っていたのに、ノーベンはしつこくその話題に戻してきた。
また一人気まずい思いを飲み込んで頭を押さえていたら、テラはクスクスと笑い出した。
「俺、そういう人嫌いじゃないかも。自分で言うのもなんだけど、面倒見るの好きだし。じっくり話せば意外と素直で可愛いよ」
「あー…確かに、テラはそういうの好きそうだね」
何かに気がついたように、俺を見たノーベンはニヤニヤと笑ってきた。
「なんだよ、ノーベン。何か言いたいことでもあるのか?」
「別にー、あっ一言。ごちそうさま」
そう言って笑ったノーベンはグッとお茶を飲み干した後、まだ仕事があるからと帰って行ってしまった。
「嵐みたいなやつだよね。二人だといつも静かだから、ノーベンが来ると賑やかだよ」
「なんだ? 寂しいのか?」
「それは全然、イグニスがいれば楽しいし」
ノーベンが飲み終わったカップを片付けながら、テラはニコッと歯を見せて笑った。
午後の柔らかな日差しに照らされて、テラの笑顔はいつもの何倍も輝いて見えた。
「……家族が増えたら、きっと嫌でもうるさくなる」
「そっか、そうだね。それは楽しみだ」
テラが俺の手を握ってきた。
俺より小さくて柔らかい手なのに、まるで全て包み込んでくれるように温かかった。
明日も明後日も、この先も。
お互いの顔に皺が刻まれても、ずっとこうやって手を繋いで生きていきたい。
思いを込めて手をぎゅっと握ったら、同じ思いだと言うようにテラも握り返してくれた。
目が合ったらテラは笑ってくれた。
俺もつられて笑顔になり、これが幸せなのだと、心からそう思った。
□おわり□
※※※※
明け方、眠りが浅くなった頃、嫌な夢を見た。
夢の中で俺はすごく傲慢で頑固で孤独だった。
甘い言葉を囁かれて乗せられて、気がついたら手は血で染まっていた。
周りにはディセルとノーベンの死体が転がっていて、俺の体には蛇が巻き付いていた。
ハッとして飛び起きたが、…やけに現実的で嫌な夢だった。
「……どうしたの?」
夢か現実かの間でぼんやりと座っていたら、横で寝ていたテラが目を擦りながら声をかけてきた。
どうやら起こしてしまったようだ。
寝ている時は眼鏡を外しているので、幼い顔がより幼く見える。
嫌な夢を見て混乱していたが、テラの顔を見たら、スッと心が落ち着いた。
「悪い…起こしたな。少し嫌な夢を見て」
テラの目元を撫でた後ベッドに沈むと、まだ眠気でトロンとした目をしたテラが俺の胸の中に転がってきた。
「どんな夢? 怖いやつ?」
「ああ…、さっきまで覚えていたんだが…。やけに現実のようで嫌な気分になるものだったよ」
頭の中に嫌な湿り気だけ残して、さっきまで見ていた夢は消えていた。
テラと共有できなかったことが、ひどく寂しく思えた。
子供の頃、こんな風に嫌な夢を見た夜、布団をかぶって必死に寝ようとした。
母は弟を産んだ後亡くなってしまい、まだ一歳だった俺はほぼ赤ん坊で、母のことは何も覚えていなかった。
母の代わりに子守兼、教育係として屋敷にやってきた、ベルト夫人は、よく言えば熱心、悪く言えば厳し過ぎる人だった。
父が仕事で忙しくしていて、家の中のことに目が届かないことをいいことに、言うことを聞かなければ手が出て、暴言を吐かれたり、食事を抜かれたりすることも度々あった。
夜は特に厳しかった。
夜更かししたり、騒いだりはもちろん。
早いうちに布団に入っていなければならず、見つかると起きているだけでお仕置きだと言われて叩かれるのだ。
だからどんなに怖くて泣きたくても、声を殺して布団をかぶって耐えるしかなかった。
ディセルは特に良い子だったから夫人のお気に入りだったし、ノーベンは一番幼いということもあったから、叱られるのはいつも俺だった。
なんてダメな子なんでしょう。
兄も弟も良い子なのに、イグニス、あなただけはダメね。
将来はろくな人間になれないわ。
俺は耐えているだけのガキじゃなくて、体が大きくなり力を使いこなせるようになると、反抗しまくって夫人を屋敷から追い出した。
やったぞ、これでスッキリしたと思ったが、胸の中には冷たい風が吹き続けていた。
もう、追い出したはずなのに、夫人の言葉がずっと頭の中に残っていて、事あるごとに俺を追い詰めた。
もうとっくに忘れたと思っていたのに、嫌な夢と一緒にズルズルと記憶の中から引き出されたような気分だった。
「よしよし、大丈夫。俺はここにいるから」
テラの手がふわふわと俺の頭を撫でた。
まるで子供が受けるような行為に一瞬ポカンとしてしまったが、じわじわと嬉しさが込み上げてきた。
「あ…ごめん、子供扱いして。なんだかイグニスの顔が…少し幼く見えて…」
俺が無反応だったからか、慌てたように手を離そうとしたテラの腕ごと掴んだ。
「いや、いい。このまま、撫でてくれ」
テラは驚いたように目を開いたが、すぐにクスリと笑っていいよと言ってくれた。
布団の中で震えていた幼い俺に、出ておいでと声をかけて抱きしめてくれたみたいだった。
テラは俺に人の温もりを教えてくれた。
もう嫌な夢も記憶も熱で溶けて消えていった。
優しい温かさに包まれて、眠りにつくことができた。
※※※※
テラと教会で愛を誓い合ってからひと月、ようやく寮生活からも解放されて、町から少し離れたところに家を建てた。
窓から美しい庭園が見えて、太陽の日差しがたっぷりと降り注ぐ明るい屋敷だ。
本家よりはデカくないが、それでもテラは広すぎて迷子になると言って笑っていた。
俺も遠征があって家を開けることも多い、テラも皇宮の仕事で忙しいし、結婚したとしても二人の時間がすぐに増えるわけではない。
しかし、同じ屋根の下で一緒に暮らすというのは、今までよりもっと深く繋がったような気がする。
屋敷には通いの使用人が数名、夜は少数の人間だけ残して、ほとんど二人きりだ。
一緒にいる時は暇さえあればずっとくっ付いていたい。
離れると寂しくてついテラの姿を探してしまう。
俺も困ったものだと思いながら、今は新婚なんだと自分に言い訳して、したいようにしている。
「あ…、え……だめだ…よっ」
「どうしてだ? もうみんな帰っているだろう」
「だけど……こんなところで……」
食事が終わった後のテーブルには残った食器が並び、蝋燭の火が辺りを照らしてる。
片付けを始めようとしたテラの手を止めて抱きしめた後、持ち上げてテーブルの上に乗せた。
すぐに唇に食らいついて激しく舌を絡ませてキスをしたら、テラの力は抜けてトロンとした目になった。
そのままテーブルの上にテラを寝かせたら、だめだだめだと言い始めた。
「今すぐテラを抱きたいんだ。部屋までもたない」
「も…もたないって階段を上がればすぐなのに……え……あぁ…もうこんなに……」
熱く激った下半身をズボンの上からテラのモノに擦り付けた。
硬さに驚いたのかテラは息を飲んで顔を赤くした。
「さっきのケーキを頬張るテラが可愛かった。それを見ていたら元気に……」
「ばっ…そんなことで元気になるなよ」
「しょうがないだろ、力を持つ者は性欲が強いんだ。俺の場合、テラ限定だけどな」
「そんなの聞いてな………んっあああっ…アッ!」
話しながらシャツのボタンを外して前を開けて、真っ赤に色づいた尖りに吸い付いた。初めて触れた時は、陥没気味だったここは毎日のように吸い続けたら、ぷっくりと膨れて赤くなり、ずっと乳首が出たままになってしまった。
テラは薄いシャツを着ると気になって仕方がないと言って怒っていたが、俺が作ったのだと思うと嬉しくてたまらない気持ちになる。
野宿がある騎士ならありえるが、皇宮の事務官が人前で上半身裸になることなんてないので、人に見られる心配はない。
それをいいことに、テラの胸に花びらの痕を残している。どこもかしこも俺の色に染めて、これを見るのが俺だけだと思うとたまらない。
「ひっぁっ、冷たい!」
皿に残ったクリームを取って、テラの胸に塗りつけた。テーブルに寝転んだテラはこう見たらまるでデザートのように見えてしまうからおかしくなった。
「あ…甘いもの…苦手なくせに…」
「これは別物だ」
「あっ…くっ…くすぐたっ……いんっ…ぁ」
大胆に舌を這わせたりチロチロと舐めたり、クリームを舐めとって散々遊びながら愛していると、テラの息が荒くなりもぞもぞと下半身を動かしているのが分かった。
「どうしたんだ? 腰が揺れているぞ」
「んっくくっ……」
「染みまで作って…テラのここは涎を垂らしているみたいだな」
「なっ…、やめろよ…」
わざと避けるように尻や太ももを撫でて焦らしてみると、テラは物欲しそうな目で俺を見てきた。
ゾクゾクと興奮が背中を駆け抜けていく。
この目を見るのがたまらなく嬉しい。
「どうしたいんだ、テラ? そうだ、このまま印を揉んでやるよ」
「や…やめ……あれされると、おかしくなる。印が熱くて……」
テラのお尻についた俺と同じ印、所有を表す印だが、治療が終わった後も濃くなって、今ではしっかりと赤い色がついている。
しかもその部分は敏感らしく、触れたりすると途端にテラは力が抜けてしまう。
そして揉んだりしようものなら……
「ばかっ、触るなって…そこ触ったら…」
「いいだろう、少しくらい」
「ふあぁぁっ…! 揉むなっ! だめっ…だめ……あっ……強すぎる……出ちゃう…だっ…あああっっっ」
本人曰く、まるで第二の性器というくらい快感が得られるらしい。
下着の中に手を入れて、ぐりぐり揉んでやったら、のけ反ったテラは前を触ってもいないのに達してしまった。
下着がじわっと濡れていくのを見て、俺の興奮も最高潮になった。
「ばか……だめだって……でるっていった……」
「ははっ…怒るなよ。可愛かったって。下着もズボンも俺が洗うから、ほら脱がすから腰を上げてくれ」
可愛いテラを見るとつい意地悪したくなってしまう。
目尻に溜まった涙を見ると、もうだめだ。
テラのズボンを下着ごと下ろしてぽいっと投げた。
指に唾液を垂らしてテラの蕾に塗り込んだら、指は思っていたよりスルリと入った。
「ん? 夜勤があったから二日ぶりなのに、ずいぶんと簡単に……もしかしてテラ……」
「へっ…ぁ…しっ…してなっ…! 一人でなんて……」
そこまでポロリと口にしてから、テラはしまったという顔になって手で顔を覆った。
黙っていると眼鏡のせいもあってか、勤勉で頭が良さそうに見えるテラだが、喋るとおバカなヘラヘラ具合がなんとも言えないくらい可愛い。
こんな風に自分から白状してしまうところも、俺の下半身をつついてくる。
「はぁ…あんまり可愛いことするなよ。挿れる前に果ててもいいのか?」
「うぁぁっ…いきなり…そこぉ……だ…め」
緩んでいるのをいいことに、すぼっと指を奥まで突き入れてテラの良いところをぐいぐい押してやった。
急に強い刺激を受けたからか、テラは頭を振って声を上げて感じていた。
「一人で遊ぶなんて、我慢できなかったのか?」
「だっ…て……、イグニス…いな…、…からっぽ……アァッ、……さっ……ぅ…びし……」
指を三本に増やして、ぐるぐるとかき混ぜるように広げたら、目がチカチカすると言って濃い息を吐いていた。
確かにいつも一緒にいるからか、一人で寝る夜はどうも足りなくて困る。
すっぽりと俺の体に収まる柔らかいテラ。テラのナカは熱くて、そこに包まれている感覚が欲しくてたまらなくなる。
物欲しそうな目で見てくるテラの視線に気づかないフリをして、しつこく後ろを広げ続けた。もうすぐテラが限界だと訴えてくるだろう。
「一人でするのはどうだった? 俺の方がいいだろう?」
「っっ…! あたりまえ…だろ…イグニス…欲し…じ…焦らすなよ…」
「いいのか? ここで? テーブルは広いが激しくしたら食器が落ちるかも」
「い…い…いから、も……お願い……挿れて…イグニス……おねが……ああぁ…いれてって……」
ここまで焦らすのもどうかと思うが、この瞬間がたまらない。
目尻に溜まった涙が溢れて頬を濡らし、だらしなく開いた口からは涎も垂れている。
そんな状態で俺を欲して懇願するテラ。
このまま死んでもいいと思えるくらい、最高の光景だ。
本当は俺だって限界を迎えている。すでにアソコは張り詰めて痛いくらいだ。
早くテラの中に入りたくて、ポタポタと雫を垂らしていた。
「挿れるぞ」
テラの柔らかくなった蕾に亀頭をゆっくりと押し込んだ。陰茎を半分挿れたくらいで、テラの中がぎゅうぎゅうと伸縮して俺を喜んで迎えてくれるのが分かる。
「あんまり締めるな、すぐ出るだろう」
「イグニス…やだ……はや……もっと奥に……」
俺が焦らしながら腰を進めていたので、我慢できなくなったテラは自ら腰を上げて俺を深く咥え込んだ。
「んぁぁっ、イイ……きもち…い……あっあああっ」
「こら、待て。まだイくなって」
先っぽがパンパンになってふるふると揺れていたテラのペニスを掴んで、先にぐっと力を入れた。
今にもイキそうになっていたテラは切ない声を上げた。
本当は俺の方がやばくて、テラがイクと中が締まってうねるので、簡単に持っていかれてしまう。
それをごまかすようテラを止めたのだ。
「イグニス…おねが……」
「……仕方ないな、ほら全部入ったぞ」
テラの小さな尻に、自分のモノが収まるのがいつも不思議でならないが、テラの中は俺専用の形になっているかのように、すっぽりとハマる。テラの腰を浮かせて、ぐっと深く押し込めば、全部根元まで収まってしまった。
「あああああぁぁ………ふかい…おかしくなる……」
「好きなだけ…鳴いていい…ぞ。屋敷の中には誰もいない…くっ……っっ」
一度先っぽまで抜いてから、またゆっくりと奥まで挿れる。
それを何度も繰り返す。波のように襲ってくる快感を散らしながら、ひたすらテラの中に楔を打ち込んでいく。
「イグニス…イグニス…も……イき…たい…」
もどかしい動きにいよいよテラが本格的に泣き始めたので良心がぐらりと揺らぐ。しかし興奮の方が勝り、テラを責めるのはやめない。
「くっ…少し…激しくするから」
このためというわけではないが、長テーブルはしっかりした物を特注で作らせた。
テラが一人乗って暴れたとしてもびくともしない。
しかし、腰をぶつけるように強く打ち込んだら、さすがに食器がカタンと揺れる音がした。
背の高いグラスや食器はすでに片付けている。少しくらいなら大丈夫だろうと横目で見て判断した。
抜き挿しの具合を確かめながら、徐々に抽挿を速めていく。
抜いてから深く突き刺す動きになるとさすがに食器はカタカタと音を立てて揺れ始めた。
「あっ……くっぁ……いっ……いい…いいよ……イグニス……いい……俺の…な…か、とけちゃう…」
「ああ、俺も…溶けそう…だ。テラ……テラ、愛してる……可愛い……テラ……っっう…はぁ……くっ…っ…」
射精を促すようにテラの中はぎゅうぎゅうと俺を締め付けくる。たまらず出してしまいそうになるのを何とか耐えながら、パンパンと音を立てながら何度も腰を打ちつけた。
律動が激しさを増すたび、テーブルの上の食器も浮き上がって揺れ始めた。
テラも最初は気にしていたようだが、快感にトロけた顔になった今はもう目線は俺にしかない。
もう少しだけ、もう少し……。
終わりたくなくて、耐えていたが、目を潤ませたテラが口を開けて舌を出してきた。
キスが欲しいのサインだ。
これを見たら俺はもうだめだと思ってしまう。
こんなに可愛いテラを見て我慢などしていられない。
「んっ……うぅぅっっ…んんっ!!」
テラの唇に吸い付いて噛み付くようなキスをしながら最奥で熱を放った。
テラのペニスも解放したらすぐにビクビクと揺れて白濁が飛び散った。
その熱を感じながら、どくどくと一滴残らず中に注ぎ込んで、長い間そのまま入れたままでキスを続けた。
ガシャン!
テラの腕と足が俺に絡みついた時の揺れが最後の一押しだったのか、お皿が一枚床に落ちて派手に割れた音がした。
「割れちゃったな……、掃除しないと……ていうか、ひどいね」
テラの言葉に我に返って当たりを見回すと、脱ぎ散らかした衣服に、床に落ちてはいないが、テーブルの上に転がった食器、飛び散ったソースや食べかす、シュガーポットから溢れた砂糖と、大変なことになっていた。
「ぷっ…っっはっ、ふっふふ、あはははっ」
呆れるか怒るかされると思ったが、テラは吹き出して笑い出した。
「イグニスって…時々、とんでもないことするよな…。いや、付き合っちゃう俺も同じが……ふふふっ、ひどいことになってるけど、なんだろう、おかしくて…笑っちゃうよ」
つい暴走してしまう俺の無茶に、一緒になって付き合ってくれたテラ。
愛おしさが溢れてきてトクントクンと心臓を揺らした。
衣服を直して、掃除を始めようとしたテラの腕を掴んだ。
「テラ、掃除の前に……もう一回だけ」
「は? お前、いい加減に……、こら、だめだって……」
箒を持って暴れるテラを担ぎ上げて、今度はちゃんと部屋まで運んだ。
だめだだめだ言ってくるテラの唇を塞いでまた愛を注ぎ込む。
これでもかと言うくらい、たっぷりと……。
翌朝、使用人の叫び声で飛び起きて目を覚ました俺達は、箒を持って急いで掃除に駆けつけることになった。
※※※
「イグニス、見てみろ。お前目当ての令嬢が窓から見てるぞ」
声をかけられて剣を磨いていた手を止めて顔を上げると、同じ隊の先輩がニヤニヤしながら建物の窓を指差してきた。
興味はないが言われた通り視線を送ると、着飾った令嬢達が扇片手にこちらを観察するように見ていた。
「俺じゃないですよ。ここに何人いると思っているんですか」
「どう見たってお前しか見てないぞ。お前は結婚してるって公表しているのにこれだからな。俺達なんて見向きもしないで、あそこから感じるのは、隙あらばお前をモノにしようというギラついた目ばかりだよ」
確かに先輩の言うことは理解できる。
訓練場は皇宮の建物から見えるところにあり、よく視線を感じることはあった。
気にはしないでいたが、こうやって言われるとさすがに気まずいものがあった。
それにこういう話が結婚相手であるテラの耳に入るのも嫌だったので、勘弁して欲しかった。
「結婚して一年か、さっさと子供作れ。あっ、お前、相手は男だったよな。そうか、なかなか難しいからな」
二十歳を超えると、男同士でも子を作ることはできるが、色々と条件があった。
男の場合は発情期と呼ばれる、妊娠しやすい期間に集中して子作りする必要があって、それが年に一度の一週間しかない。
発情期は男を受け入れることに慣れた体の者がなると言われていて、全員がなるものではない。
テラの場合はまだ、それが来ていないのでいつになるかは分からない。
ただ焦らずにゆっくり二人の時間を楽しむつもりだった。
「あっ、もしかして倦怠期ってやつか?」
「……いや、そんなことは」
「隠すなって。お前の嫁は、確か第三皇子の補佐官だったな。チラッと見たことがあるが、こう言っちゃ悪いが真面目そうで地味でパッとしない男だったな。怒るなよ、正直な感想だ。お前みたいないい男が選ぶのはどうかと思っていたんだ。もったいなく感じるんだよ。美女でも美男子でも好きなだけ選べるのになぁ」
可哀想な人だと思った。
この先輩は確か、男女構わず付き合う遊び人で、薄っぺらい付き合いばかりしていると他のやつから聞いていた。
だから見た目の良し悪しでしか考えられない可哀想な頭だ。こんな先輩の話などどうでもいいので、適当に返事をした。
「俺は男もイケるが、細くて美人系じゃないと勃たないからな。地味な男なんて、味見くらいでも勃つかどうか…」
聞いていられなくて俺は立ち上がった。
周りの連中が俺の機嫌の悪そうな顔を見て、ヤバいヤバいと騒ぎ出した。
本当ならこの空気の読めない先輩をボコボコにしたい気分だったが、俺も一応大人になった。
騒ぎを起こしたとして地方送りにでもされたら、テラとの時間が少なくなってしまう。
それだけは避けなければいけない。
無言で立ち上がって歩き出そうとした。
背を向けたが立ち止まって、やはりムカつくから一発くらい殴ってから行こうとくるりと向きを変えた。
拳を突き上げたところで先輩の後方に見えた人物を見て、ハッとして手が止まった。
「ごめん、イグニス。ちょっといいかな?」
この場にいた隊のやつらの視線が集中して、本人は驚いてビクッと肩を揺らした。
「テラ、どうした? 何かあったのか?」
「ちょっと差し入れ。殿下の注文でディセルのお店に寄ってきたんだけど、注文数を間違えちゃってたくさん貰っちゃったんだよ。こっちでも食べきれないからさ、みんなで食べてくれると嬉しい」
バスケット片手にちまっと立っているテラの姿があった。
普段はここに来ることはないので、よほど困っているのだろう。
差し入れと聞いた男達は目を輝かせてテラの周りにわらわらと集まってきた。
テラが持っているバスケットには、焼き菓子やケーキ、キャンディなどがたくさん入っていた。
「良かったら、みなさんもらってくれますか? 俺がドジしちゃって…それを食べてもらうのも悪いんですけど」
甘いもの好きの男は多い。
とくに訓練で体を動かした後などは、腹が減ったといつも騒いでいるくらいだ。
わらわらと集まった男達は我先にとお菓子を手に取ってあっという間に籠いっぱいにあったものはなくなってしまった。
「おいおい、飢えすぎだろ」
男達はうまいうまいと言いながらバクバク食べているので、もっと味わって食べろと言いたくなった。
そういえばと視線を移すと、テラを地味だとバカにしていた先輩はポカンとした顔で、テラのことを見ていた。
「あの、いつもお世話になっています。これ、良かったら、食べてください。味は保証しますよ」
「あ……ああ、すまない。いただくよ」
なんとテラは渡さなくてもいいのに、先輩に最後に残っていたお菓子の袋を渡したのでムッとしていると、今度は俺に近づいてきた。
「なんだよその顔、自分の分がなくなったってムクれてるのか? 本当、子供みたいなんだから」
「おっ…俺は別に……」
「これ、チョコレートだけど、甘くないやつだから。はい、残りの訓練も頑張ってね」
テラは自分のポケットから出したものを俺の手の上に乗せてきた。
甘いものが苦手な俺のために特別に用意したのだろう、小さなハート型のチョコレートだった。
同僚達の前だからと変に触れることはなかったが、軽く背中を叩いてテラは離れて行ってしまった。
お邪魔しましたーと言いながら、太陽みたいな明るい笑顔を振りまいて、手を振ってテラは職場に戻って行ってしまった。
俺だけ手を振っているつもりだったが、何故か周りの男達もみんな元気に手を振っていた。
テラの姿が見えなくなると一斉に羨ましいと口々に言い出して、何とも言えない状況に頭をかくしかなかった。
「いや……悪いな、あんなこと言って。すごく感じのいい子だったな。お前が羨ましいよ、俺もあんな嫁さん欲しいわ」
掌を返したように照れて嬉しそうにテラからもらった袋を持っている先輩を見て、やはり殴るかとグラついたが、テラからもらったチョコレートを食べて堪えた。
確かに甘くなくて食べやすい。それでいて疲れが癒える味だった。
「隊のやつら、喜んでたぞ。今度、ウチにも遊びに来たいって」
「本当に!? 良かったぁ、困ってたんだよ。美味しいうちに早く食べないともったいいなかったからさ。週末? みんなが遊びに来るなら、食事は多めに用意した方がいいよね」
屋敷に戻って早速今日のことを報告すると、机に向かっていたテラはハリきった顔になって、腕をまくって椅子から立ち上がった。
「いや、いい。断ったから」
「うへっ、何でだよ。せっかく同僚の方々からイグニスの話とか聞けると思ったのに…」
「うるさいから呼びたくない。同僚とは適当にやってるから、気を使う必要なんてない」
「そうは言ってもさ……。イグニスの周りの人なら仲良くしておかないと、何かあった時、力になってくれるかもしれないし」
「ふふっ…すっかりいい嫁だな」
「なんだよ、いい嫁って……」
俺はベッドに座っていたがごろんと転がった。
恥ずかしそうに笑うテラの横顔を眺めていると、腹の中がもやもやとしてくるのを感じた。
「あームカつく」
「何がムカつくんだよ」
「テラが地味だってバカにされるのも、いい嫁って褒められるのもムカつく」
「なんだよそれ」
「俺は心の狭い男なんだ」
言いながらつくづくかっこ悪いと思って、ゴロリと転がってテラに背を向けた。
自分でも自覚はしている。
心は狭いし、へそを曲げてばかりだ。
「イーグニス、一人で寝ちゃうのかよ」
ベッドに入ってきたテラが、俺の背中にしがみついてきた。
振り向きたい気持ちはあるが、まだヘソは曲がり続けていて一人でムクれていた。
そんな面倒くさい俺のことを、テラはクスリと笑って背中に顔を擦り付けてきた。
「俺さ、なんて言われてもいいんだよ。たった一人、俺のこと好きだって言ってくれる人がいるだけで、俺はすごい恵まれてるって思うんだ。好きな人が自分のことを好きになってくれるって、奇跡だと思う。その人をそのことを大事にしたいし、大切にしたい。くだらない言葉や、邪魔者なんかに目が眩んで、大切なものを落としてしまいたくない。ずっとずっと…ぎゅって抱きしめていたいんだ」
静かな時間が流れた。
じんわりと心が温められて、こうやってベッドで抱き合うだけで、ささくれた俺の心は丸くなっていく。
こんな時、いつも思う。
テラは俺にとって太陽だ。
いつかこんな面倒くさい男は嫌だと言われたら俺は生きてはいけない。
「俺も…同じ気持ちだ。……テラ、俺を捨てないでくれよ」
「ばか……大切にしたいって今言っただろ。大切なものを捨てるやつがどこにいるんだ」
テラの顔が見たくなってゆっくり体を反転させると、思った通り、優しい微笑みが迎えてくれた。
「やっと顔が見えた。なんだよ、ちょっと涙目じゃないか。また怖い夢の続きでも見たの?」
首を振ってテラの首元に鼻を寄せた。
テラには俺の匂いが染み付いている。それでもわずかに甘い香りがする。
きっとこれがテラが本来持っている匂いなのだろう。
「もし怖い夢を見たら俺をすぐ起こしていいよ。それで、何を見たのか教えて、その後たっぷり幸せなキスをしよう。夢は夢で現実がずっと幸せなんだって感じられるような。そんなキスをいっぱいしよう」
俺はテラの首元に顔をうずめたまま、分かったと言った。
顔を上げたら臆病な子供に戻って震えて泣いている顔を見られてしまうから。
そんな俺のことなど何でもお見通しなのだろう。
テラはいつまでも俺の頭を優しく撫でてくれた。
「面倒くさい男って最悪だよね」
いつもなら気にしない言葉だが、昨夜の自分を思い出して動揺した俺はお茶を吹き出した。
「大丈夫!? イグニス、ほら拭いて」
横にいるテラが慌てて濡れた服を拭いて背中を撫でてくれた。
「どうしたんだよ。いきなり何の話? ノーベン」
「いやあさ、取引先の男の話なんだけど、とにかくネチネチ細かいところをつついてきて、適当にあしらうとずぅーーっと文句言ってくるし、もう面倒くさいのなんの」
休みの日、屋敷でのんびりしていたら、近くまで来たからと言ってノーベンがふらりと顔を出した。
お茶が飲みたいとうるさいから、応接室に通してテラが淹れたお茶を出した途端、ベラベラと喋り始めた。
「へぇ、頑張ってるんだねノーベン。だいぶ仕事を任されてるみたいだね」
「公爵家継ぐのも楽じゃないよ。僕だってディセルみたいにのんびりお店やりたかったのにさ。まぁ、趣味で何店舗か出すつもりだけど」
「服飾関係だっけ? 謎の美人デザイナー社交界に旋風を巻き起こす! 記事を読んだよ」
「まぁ、当分は顔を出さないでやるつもり。その方が話題性になるし。なんなら、テラの服も作るから、店ができたら一番に招待してあげる」
テラとノーベンは近況を語り合いながら、仲良く笑って話していた。
その中で先程の言葉がいまだに胸に刺さっている俺は何とか外そうと一人でもがいていた。
「とにかく、気分屋ですぐ拗ねたり、面倒くさいのって本当に勘弁して欲しい。扱いづらくて迷惑だよね」
もうすっかり過ぎ去ったと思っていたのに、ノーベンはしつこくその話題に戻してきた。
また一人気まずい思いを飲み込んで頭を押さえていたら、テラはクスクスと笑い出した。
「俺、そういう人嫌いじゃないかも。自分で言うのもなんだけど、面倒見るの好きだし。じっくり話せば意外と素直で可愛いよ」
「あー…確かに、テラはそういうの好きそうだね」
何かに気がついたように、俺を見たノーベンはニヤニヤと笑ってきた。
「なんだよ、ノーベン。何か言いたいことでもあるのか?」
「別にー、あっ一言。ごちそうさま」
そう言って笑ったノーベンはグッとお茶を飲み干した後、まだ仕事があるからと帰って行ってしまった。
「嵐みたいなやつだよね。二人だといつも静かだから、ノーベンが来ると賑やかだよ」
「なんだ? 寂しいのか?」
「それは全然、イグニスがいれば楽しいし」
ノーベンが飲み終わったカップを片付けながら、テラはニコッと歯を見せて笑った。
午後の柔らかな日差しに照らされて、テラの笑顔はいつもの何倍も輝いて見えた。
「……家族が増えたら、きっと嫌でもうるさくなる」
「そっか、そうだね。それは楽しみだ」
テラが俺の手を握ってきた。
俺より小さくて柔らかい手なのに、まるで全て包み込んでくれるように温かかった。
明日も明後日も、この先も。
お互いの顔に皺が刻まれても、ずっとこうやって手を繋いで生きていきたい。
思いを込めて手をぎゅっと握ったら、同じ思いだと言うようにテラも握り返してくれた。
目が合ったらテラは笑ってくれた。
俺もつられて笑顔になり、これが幸せなのだと、心からそう思った。
□おわり□
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夢中で読み終えて、読後幸せな気持ちに浸っています、、。素敵なSSまで読ませて頂き嬉しいです。他の方の感想にもありましたが、いつかまた2人のその後に出会えたら、と思いつつ、暫く妄想に浸りたいと思います。
素敵な作品を生み出してくださり、ありがとうございます。
なっつ様
お読みいただきありがとうございます!
SSまで読んでいただき嬉しいです♪♪
書いてみたいメモなどは、取っているので、上手い具合に膨らんだら、またお届けできたらなと思っています(^^)
こちらこそ、読んでいただけて嬉しいです☆
感想ありがとうございました!
はぁ❤
とっても幸せな気持ちになる物語でした。
ほんと、子どもの話も、他の方々の恋愛とか読んでみたい!
なぁ恋様
お読みいただきありがとうございます!
少し前の作品ですが、今でも読んでいただけて、感想も残していただけるなんて、とても嬉しいです♪♪
幸せほくほくな気分になっていただけたら幸いです(^^)
二人のベイビーと、幸せなみんなの様子、いつか書いてみたいです。
感想ありがとうございました☆☆
とても面白かったです。テラとイグニスの子供とか読んでみたいです。
虎太郎様
お読みいただきありがとうございます。
面白かったと言っていただき嬉しいです(^^)
テラとイグニスのベイビー、女の子だったら強気でわんぱく、男の子なら優しくて甘えん坊になりそうですね⭐︎⭐︎
いつか二人のお話を書いてみたいなと思っています。
お読みいただき、感想まで残していただきありがとうございます♪♪