眼鏡モブですが、ラスボス三兄弟に愛されています。

朝顔

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※※ SS&番外編 ※※

スウィート×スウィート×スウィート(SS集)

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 SS 『あのあと』
(イグニス視点)




 たらりと額から汗が流れて流れていき、顎に溜まってぽたりと落ちた。

「テラ……おい、テラ……」

 噴水のように飛び散った血は何とかシーツで押さえることに成功したが、名前を呼んでも恋人は返事をしない。
 息はしているので大丈夫だと思うが、愛を交わそうとした直前で、恋人は鼻血を出して気絶してしまった。

 ……しかも俺のイチモツを掴んだまま……。

 あまり騒ぐと誰か来ても困る、だがテラは軽く揺さぶったくらいでは気が付いてくれない。かと言って無理矢理引き剥がしたり強く叩くことなどできない。
 ベッドに二人で転がったまま、ずっとこの状態で動けずにいる。
 そしてこんな状況になってまで萎えることのない自身にため息しか出なかった。

「はぁ……テラ……」

 はっきり言って俺は、この手のことは知識不足だ。訓練校で受けた授業とその時の仲間から聞いた話くらいのことしか知らない。
 その手の誘いがなかったわけではないが、全くと言って興味がなくここまで来てしまった。
 思春期でこれだから、きっと自分は淡白で性欲とは縁のない男だとさえ思っていた。

 それがテラと出会ってから、おかしくなってしまったんじゃないかと思うほど、自分が抑えられなかった。
 力持ちの人間は性欲が強すぎるほどあり、子孫をたくさん残すと言われていた。
 半信半疑、くだらない迷信だと思っていたが、いよいよ笑っていられる状況ではなくなってしまった。

 テラの治療の時なんてテラがうつ伏せになっているのをいいことに、力を送りながら勃ってしまったモノを擦り付けて勝手に果てていた。
 こんなことテラに知られたら幻滅されてしまうと思いながら、やめられなかった。

 そしてようやく告白し合って付き合うことになったので、もう、最近はそれしか頭になかったと言っても過言ではない。
 どうにかここまで漕ぎつけたというのに、お預けをくらってしまった。
 切ない気持ちと悶々とする体を抱えて、テラのことを見つめた。

 俺の横で無邪気に目を閉じているテラを見て、クスリと笑ってしまった。
 特別に秀でた容姿ではない。
 絶世の美女でも美男子でもなく、どちらかというと薄い顔立ちだ。
 きっとただ校舎ですれ違うだけの関係なら、テラの魅力に気がつくことはなかったかもしれない。

 あの日、俺のために開かれたくだらないパーティー、面倒でさっさと終わって欲しいとさえ思っていたのに……。
 魔物を怖がって震えているテラを見た時、どうしようもなく守りたくてたまらなくなった。
 それと共に、自分のものにして手に入れて、でろでろに可愛がりたいと喉から手が出るほどの欲求が体を襲った。
 そんな感情は初めてで理解できなくて、最初は怖くて遠ざけて、遠巻きに見て近寄ることもできなかった。
 しかし、一歩近い関係になってからはもうズルズルと吸い込まれるようにテラの魅力に飲まれていった。
 どこにでもいそうな顔立ちは、最高に甘くて可愛く思えるし、大きな丸眼鏡がまた、俺の性欲に火をつけた。
 どこもかしこも舐め回してぐちゃぐちゃに……。
 まるで遅れてきた思春期がドンと重くのしかかってくるように、俺は頭がチンコになってしまった。

 なんたって可愛い…、全てが愛おしくて愛らしい……、それでいて勇敢な心と他者を思いやる強い気持ちを持ち合わせている。
 こんな人を好きにならずにいられるだろうか。
 きっとディセルやノーベンも少し方向が違えば似たような感情を持ち合わせているに違いない。しかし、テラは俺を選んでくれた。
 誰に悪いなんて気持ちは微塵もない。
 みんなから人間的に愛されることはあっても、テラが愛しているのは俺、俺だけなんだ。
 優越感と独占欲、浸れば浸るほどテラが欲しくてたまらない。
 早く体を繋げたいが、初めてのテラに無理強いはしたくない。
 ゆっくりまず今日は触り合って、と考えていた。
 しかし残念ながら、テラは先に眠りの世界へ行ってしまった。

「テラ…可愛い…」

 これくらい許されるだろうと、目の前のテラにキスをした。
 するとその興奮でトロリと先走りが溢れてきた。
 周りが湿ったことでようやくテラが俺のを掴む手が緩んでズルっと抜くことに成功した。

「はぁ……焦った。早くテラの着替えを……」

 俺はテラの体を拭いて衣服を直した。
 ようやく一息ついたが、若さゆえかいっこうに萎えない自分の下半身に気がついて、頭をかいた。

「仕方ない…場所を変えるか……」

 熟睡するテラを前にして、一人で抜くことはまずいような気がして、立ち上がろうとするとガシッと腕を掴まれた。
 気がついたかと思ったが、テラ自身の反応はない。腕だけが気配を察知して俺が離れないようにしっかりと掴んできた。

「おいおい…テラ、生殺しなんだって……」

 そこで横向きになっていたテラがごろんと仰向けに寝返りをうった。
 それでもしっかりと掴まれている腕を見ていたら、視界にこんもりと盛り上がったものが見えた。

「おい……テラ……」

 仰向けになったことでテラの下半身がよく見えたが、その中心が大きく勃ち上がっているのが目に入ってしまった。

 我慢していた壁が崩壊した。
 俺はごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだのだった。





「ほんとーーに、ごめん!!」

「ああ、いいって。俺も急ぎすぎた」

 翌朝、中途半端な状態で気絶してしまったことをテラは頭を下げて謝ってきた。
 良心がちくちくと痛んだが、心の広い男の顔をして何も問題ないと笑った。

「ぶっ倒れてから記憶なくて…、俺変なことしなかった?」

「……いっ…いや、テラは何も…していない」

「そう? それなら良かったけど、体も綺麗にしてくれてありがとう」

「それは…当然だ」

「何だろう、よく眠れたからかな。すごくスッキリしてるんだよね。体も軽いっていうか」

 額に汗をかいている俺とは対照的に、テラはつるんとした顔で快調だとジャンプをして見せてくれた。

「なんだか、お尻が…」

「はっ! そこまではしていな…っ」

「え? なに? 印がちょっと熱いって話なんだけど……」

「あっ…ああ、そうか。……俺と距離が近かったからだろう……」

 俺の言葉を聞いたテラは、そうなんだと言いながら帰り支度をしていたが、その横顔が真っ赤になっているのが見えてしまった。

 恥ずかしがっているテラ、可愛い…可愛すぎる。

「次は……」

「ん?」

「俺、頑張るから……」

 耳まで赤くしながら可愛いことを言って、テラは着替えを始めてしまった。

 ……今から学院に行って、校舎ごと破壊してしまおうかとチラリと頭によぎる。

「イグニス、早く行かないと遅刻するよ」

 着替えが終わって振り返ったテラは、太陽みたいに明るい笑顔だった。

 急ぎ過ぎは禁物だ。
 この笑顔も全て手に入れたいのだから。

 テラに笑い返した俺はやっと自分の支度を始めた。








 □□









 SS『おめでとうパートツー』





「おめでとう!!」

 パチパチと手を鳴らして俺の両親は嬉しそうに笑っていた。
 目尻にほんの少し光るものが見えてしまい、一人息子の俺としては胸がじんとしてしまった。

「ギリギリだったからあまり胸は張れないけど……」

「何を言ってるんだ! 合格は合格だ。こんなに嬉しいことはない!」

「そうよぉ、すっかり可愛いテラから自慢の息子になっちゃって…嬉しいけど寂しいー」

 両親が両側から抱きついてきた。この歳になって照れ臭かったが、それを見ていたイグニスも嬉しそうな顔をしていたので心が温かくなった。

 先週受けた皇宮官吏登用試験の結果出て、無事合格が伝えられた。
 暗記問題の多さに救われて何とか合格することができた。
 早速両親に伝えたら、町のレストランでお祝いのディナーを開いてくれて、俺とイグニスが一緒に招待された。

「ほらほら、お酒も飲めるんだし、どんどん飲んでください。さぁイグニス様どうぞ」

 早速気を回してワインを注文した母がイグニスの前にグラスを用意させた。

「か…母さん、イグニスはこの後、剣の訓練が……」

「いや、いただきます。お祝いですから」

 並々と注がれたワインをイグニスはぐいっと一気に飲んだ。その飲みっぷりの良さに、父親がおぉと声を上げた。

「これは…なんとも素晴らしい。私は息子と杯を交わすのが夢でしたが、ただテラはあの通り一滴で酔ってしまう体質ですから」

「私の父も酒はあまり飲まないので、一緒に飲める人がいるのは嬉しいです」

 母は何度かお茶をしているが、父とイグニスは今まで挨拶程度の関係だったので、仲良くなってくれそうな気配にホッとした。
 花嫁の父親とは違うが、俺はなんだかんだ可愛がられて育てられたので、その辺り上手くやってくれるか心配だった。
 しかし、二人とももう大人であるし、何も問題なさそうでどうやら俺の杞憂だったらしい。

「ところでイグニス様、テラにプロポーズしてくれたと聞きましたけど」

「ちょっ…母さん」

 俺とイグニスは婚約関係というものになるらしい。正式な文書を交わさなくてはいけなくて、つい先日両親に相談したばかりだった。

「ええ、そうです。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」

「そんなことは全然構いません、ただ、テラの腕にアレがないことが不安になりまして……」

 いわゆる結婚の口約束だけして体の関係を持って逃げる、という男がいないでもない。親戚関係の人間でそんな話を聞いていて、母はどうやら不安に思っていたらしい。

「母さん、俺達は大丈夫だから…」

「いえ、心配されるのも当然です。実は気持ちが先に走ってしまいまして、腕輪が準備できていなかったのです。今制作しておりますので、出来上がったらすぐにでも。婚約パーティーには必ず」

「まぁぁ! それは良かった! それでそれで? どんな腕輪にされるんですか?」

「それが実は………」

 夫婦がお互いの腕に付ける腕輪、というのは前世の薬指に付ける指輪みたいなものらしい。
 俺的には何も飾りがないシンプルなものがいいと思っていた。
 イグニスもそれで悩んでいたらしく、なかなかデザインが決めきれないという話を両親にしてくれた。

「こういったことはよく分からなくて……」

「それなら業者から借りた制作見本を持ってきていますのよ。今、馬車にありますので、お持ちしましょうか? テラに合いそうな宝石の見本も選んでいますの! ぜひぜひ!」

 きっとこうなるだろうと予想していたのか、母は準備万端で来たらしい。
 この押しの強さには誰も勝てる人はいない。
 俺やイグニスなど、ぐいぐいと押されて頷くしかなかった。

 何個もあるから手伝ってと言われて、俺は母と外の馬車まで見本の入った箱を取りに行った。




「これとこれと…、あとこれも紹介したいわ。南部で流行しているデザインで、宝石の周りをシルバーで覆ったもので…」

「母さん、まだかかるの? とりあえず全部箱に入れて持って行こうよ」

「えー、男は少しくらい待たせておきなさい。待てのできない男は大きくならないわよ」

 母はアレコレと取り出して悩み出してしまったが、さすがに待たせすぎの時間が流れていた。

「母さんの持論はいいんだけど、あの二人…大丈夫なのかな……二人にして……」

 母があっと言いながら顔を上げた。
 ほぼ初対面に近い二人を置いてきてしまった。絶対気まずい時間が流れているはずだ。

「あの二人じゃ会話は弾みそうにないわね。そろそろ戻りましょうか」

 酒はあっても年齢差のある男二人、いくら父が気を使っても限界があるだろう。
 気まずい沈黙が流れているところを想像しながらレストランに戻ると部屋に入る前から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
 気取った笑い方ではない、爆笑に近いものがあって、母と俺は思わず顔を見合わせた。

 恐る恐る部屋のドアを開けると、イグニスと父親は対面で座り、腹を抱えながら笑っていた。

「ひぃひぃ…はっっははははっっ、それは…面白すぎる! ぜひ見たかった」

「いや…なんど思い出してもこれは……ははははっ…、じゃあ次はテラが七歳の時の……」

 二人とも真っ赤な顔をして机を叩いて爆笑している。叩かれた机の上には空になったワインの瓶が何本も転がって揺れていた。

「………これは失敗したわ。待たせすぎたわね」

 ため息をついた母が箱を机に乗せて頭を抱えた。

「なっ何を…二人で話しているんだよ!」

「おお、テラか。今お前が五歳の時、風呂に入るのを嫌がって裸で外に飛び出した時の話を…ぷぷっ! はっはっははっ、捕獲された時は尻に葉っぱをつけて帰ってきて……」

「見たい! なぜその時俺はここにいなかったんだ! あぁ見たすぎる!」

「だっ…バカじゃないの! 二人とも…そんな事で……」

 酔っ払いに怒っても無駄だ。
 俺が真っ赤になって怒ったら二人とも余計に面白いらしく、のけぞってゲラゲラと笑い出して止まらなくなってしまった。

「十歳の時は従兄弟に木に登れるって自慢してだな、途中で落ちてズボンが木に引っかかって、ひぇーん助けてーってぶらーんぶらーん」

「そっ…それはっっ! なんて光景ですか! ひぃぃぃ…面白すぎる! ははははっ」

 ついに椅子から落ちて笑い出した二人を見て俺と母は同時にため息をついた。

「………帰ろうか母さん」

「ええ、平和で何よりね」



 後日、ラギアゾフ家には山のような腕輪の見本が届けられて、どうにか俺の腕輪は決まったのだった。






 □□


『お仕事中』




「テラくんの腕輪に付いている宝石って、ルビー? すごく濃い赤で綺麗ね」

 本を取ろうと脚立に上がり手を伸ばしていたら、司書のアオイさんに話しかけられた。

「そうです。どうしてもこの色が良くて…わがままを……」

「いいなぁ…、テラくんて結婚していたの?」

「婚約中です、結婚は来年を予定しています」

 俺がそう言うとアオイさんは、緑の長い髪を揺らしながら、いいなぁと言って頬を膨らませた。

 皇宮官吏試験に合格して学院を卒業し、この春から皇宮勤めになった俺は、ルナリス殿下の第三補佐官として配属された。

 と言ってもまだまだ見習いで、仕事は雑用ばかり、覚えることも多く朝から晩まで走り回っていた。
 愛しの恋人は騎士となり、新人期間恒例の寮暮らしをしている。会えるのは週末だけ、寂しい気持ちはあるが、忙しさがそれを紛らわしてくれていた。

 皇宮の先輩達とは仲良くなったが、中でも皇族専用図書室の司書、アオイさん(おそらくアラサー彼氏なし)とは、殿下の本を借りにいく機会が多いのでよくお喋りする仲になった。

 アオイさんは髪と同じ緑の瞳が綺麗な美人さんだ。その緑の瞳を見ると恋人のことを思い出すので俺のちょっとした癒しの時間にもなっていた。

「いい男ってみんな結婚していくのよねぇ。カッコいい系の女の子もいいけどぉ、私はやっぱり男がいいのよ」

「はい……」

「私って見た目もそれなりだし、皇宮勤めで安定職、性格だって明るくて世話好き。それなのになんで独り身なのかしらーー」

「……ご令嬢の婚活事情はわからないですけど、アオイさんはすごく綺麗な方なので、並の男は遠慮してしまう…とかですかね」

「………テラくん。いいね、君、今日飲みに行こう!」

「あっ…ええと、今日は……」

「かぁぁぁ! 週末だもんねー、デートか! もう何年もなくてすっかり忘れてたわ」

 その代わりお茶一杯付き合えと言われて、司書事務室に連れて行かれた。
 ちょうど午後の休憩時間になるので、お茶に付き合うことになった。




「今、社交界での注目と言えば、やっぱりラギアゾフ三兄弟の行方よね」

「ぐっふっ!」

 早速アオイさんが切り出してきた話題にお茶を吹き出しそうになった。

「そりゃ力持ちで恐れ多いけど、超絶イケメンでしょう! 長男のディセル様は家督を継ぐと思われていたのに、突然放棄して事業に夢中らしいわね。三男のノーベン様は変わった方らしいけど、才能に溢れていて見目麗しい……」

 皇宮内の侍女の間でも、兄弟達の話題は事欠かない。高位の貴族のイケメンご令息達だ。黙っていても、みんなが注目してしまうのは仕方ない。
 学院在学中はイグニスとの交際をオープンにしていたが、今は色々と噂になりやすいので、職場環境を考えて聞かれれば答えるという方式をとっていた。
 アオイさんには兄弟達との関係を話していないのでマズイと思ったが、ぐいぐい話を向けられてどう切り出したらいいか分からなくなってしまった。

「あ…あの……」

「でも私からしたらディセル様はイケメンだけど気取っているし裏表あって変な趣味とかありそうじゃない? ノーベン様は自分より綺麗な男ってないでしょ、毎日見る度に絶望に襲われそう、あの二人はムリムリ」

 同僚として日常の軽いトークのつもりで話してくれているようだが、辛口に傾いてしまいますます二人は友人ですと言えなくなってしまった。

「やっぱり次男のイグニス様よね。婚約中なのが残念だけど、あの逞しい体ったら! たまに新人騎士の訓練で見かけるのよぉ、もうあの胸板に齧り付いて触りまくりたい! ぐわんぐわんにして……って、ごめんねテラくんにこんな下世話な話題振って……」

 美人だけどスイッチが入ると暴走するタイプらしいアオイさんの結婚できない理由が、ちょっと分かったような気がする。

「い…いえ、大丈夫です。あの…なんというか…実は…」

 混乱しながらも、やはり伝えた方がいいかと頭をかいていたら、俺の腕輪を見たアオイさんが、アッと声を出した。

「そういえば、そのルビーの色…、どこかで見たと思ったら、イグニス様の髪の……」

 ガラガラと図書室のドアが開けられた音がして、ふらりとブランソンが入ってくるのが見えた。

「あっ、いたいた。テラ! 久しぶり。ここにいるって聞いて…」

「ブランソン! 久しぶりだなぁ! 今日は試験だっけ? どうだった?」

 現在学院の三年生で、皇宮の医師試験に挑んでいるブランソンだったが、試験終わりに会いにきてくれたらしい。

「おう! バッチリだよ。いい報告ができそうだ」

 肩を叩きながら再会を喜んでいたら、続いて図書室に入ってきた人物を見て俺はあっと声を上げた。

「さっきそこで会ったんだよ。テラを探してるっていうから、一緒に来たんだ。相変わらず仲良いなお前達」

 ニヤニヤした顔のブランソンに肩を指で突かれて俺は恥ずかしくて赤くなった。
 勤務後に会おうと約束していたが、どうやら向こうのほうが早く終わったようだ。

 皇宮騎士団の黒い騎士服に身を包んだイグニスが、俺と目が合うとふわりと笑顔になって近づいて来た。

「テラ、今日は早く終わったんだ。先にいつもの店に行ってるから」

「わざわざ伝えに来てくれたの? メモを残してくれたら分かったのに、でもありがとう」

「すぐにでも顔が見たくなってな。我慢できなかった」

 側に来たイグニスは俺をぎゅっと抱きしめて、おでこと目の上にキスをしてきた。
 くすぐったいと言って笑いながら俺も頬にキスを返したところで、ある事に気がついてしまった。

「あっ、やばっ…」

「なんだ、テラ? どうした?」

 ガタンと音がして振り返ると、アオイさんが気まずそうに苦笑いしていた。
 動揺したのか椅子を倒してしまったらしい。

「テラくーん、へぇ……そういうこと」

 黙っていたなとじめっとした鋭い目で見られたので慌てて、イグニスとブランソンをアオイさんに紹介することになった。

「ごめんなさい、どこで話していいか分からなくなってしまって……」

「はぁ……、その腕輪の宝石の色を見て、早く気がつけばよかった。アンタ達、ラブラブ過ぎて喉が渇いてきたわよ」

「本当、毎回これですよ。周りにいる人間なんてお構いなしなんですから、困りますよねー」

 同僚との人間関係で俺が慌てているのだと気がついたブランソンが、アオイさんに調子を合わせてきた。
 ナイスフォローと手を合わせて、ブランソンを見ると、ウィンクを返してくれた。

「そうそう、やっぱりいい男ってすぐに結婚しちゃうのよー、やんなっちゃう」

「あー分かります。急ぎ過ぎるのもアレですよね。本当の宝石を見ずにもったいない…ということもあるかと…」

 さすが空気を読む男、完璧なフォローでアオイさんのご機嫌も治ったらしい。

 俺は引き続き仕事があるので、イグニスとブランソンとは軽く話して別れた。

 まだちょっと気まずいものがあるので、殿下の夜の読書用の本を調達してさっと帰ろうとしたら、何やら企んだような顔をしたアオイさんがドアの前に立ちはだかっていた。

「テラくん……」

 まさかイグニスを好きになってしまったなんて宣言されたらどうしようかとぶるりと震えたら、目をハートにしたアオイさんに両腕を掴まれた。

「ブランソンくんって、年上はいくつまで平気か聞いたことある?」

「えっ……」

「やっぱり体だけいい男より、気の利く男よね! 私が求めていたのは彼だと確信したのよ!」

 どうやら眠っていた肉食恋愛ハンターの血が騒ぎ出してしまったらしい。
 とりあえずアオイさんの男の好みはサッパリ分からない。雑食、という言葉がぴったりと当てはまりそうだ。

「あのーー…俺、そろそろ仕事に行きまーす!!」

「ちょっ…テラくんーー! 待ってーー! 逃がさないわよーー」

 その後、しばらくアオイさんに紹介してと追いかけられる日々が続いた。
 俺の皇宮勤務一年目は、順調だがますます騒がしくなったのだった。






 □□□




 SSおわり
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