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終章 モブのエンディング

③温かくしてほどほどに。※

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「初めまして……かな。このところ人と会い過ぎてよく覚えてないけど、確か…テラ先輩ですよね?」

 初めまして、ではないのだが、向こうが覚えていないのなら仕方ない。
 説明するのも面倒なので、こちらも初対面ですという顔に切り替えた。

「そうだけど……」

「ああ、良かった。眼鏡の人って他にもいるから、それ以外特徴がないし間違えそうだったんですよね」

 軽いパンチが飛んできた気がするが、見なかったことにして俺は苦笑いした。

「君は、一年のアピスだよね」

「ええ、そうです。末端の人まで僕のことを知ってるんだ。困っちゃうな」

「………」

 いちいちカチンとする言い方なので、このまま無視して帰りたいくらいだが、なぜ俺を呼び止めたのかそれを知りたくて動かずにいた。

「実は最近、テラ先輩がラギアゾフ家のご兄弟の専属学友だということを知りまして。ちょっとお話ししておこうかなって」

「何…?」

「釣り合いって言葉、知っていますか?」

「は?」

「どう考えても、あの方達の側に立つには……ね。誰も言わなそうだし、僕から言うのもあれですけど、見ていて可哀想だなって」

「何が……言いたいんだ?」

「テラ先輩じゃ不釣り合いなんですよ。素朴な顔の男爵家の息子が必死にしがみついてる感じ? すごい出ちゃってますよ。痛々しくて……」

 アピスはいかにも可哀想なものを見る目で俺を見てきた。
 自分が提案したようなキャラではあるが、とんでもない主人公にしてしまったとため息が出そうだった。

「可哀想だと言われても、俺と兄弟達との関係について君には関係ないからね。俺を気に入らないってことだろう。言いたいことはそれだけ?」

 遠回しに嫌味な言い方をしてくるので、ついムッとした顔で返したら、アピスは鼻で笑ってきた。

「いちおう忠告してあげたんですよ。傷つかないうちに離れた方がいいって。これから、テラ先輩はもう必要ではなくなる。あなたがいた場所には僕が立つことになるから」

「は? そ…それはどういう……」

「本当に可哀想なのは、これから…かな」

 意味ありげに口の端を上げて微笑んだアピスは、踵を返して歩いて行ってしまった。

 俺は呆然としたまま廊下に取り残されて、アピスの後ろ姿が小さくなるのをただ眺めるしかなかった。

 いったい何を考えているのだろう。
 アピスの瞳の奥に深い闇のようなものが見えて、聞き返すことができなかった。




 ゲームの流れとして考えたら、今の主人公の状況は順調とは言い難いはずだ。
 三人の兄弟と仲良くなり、それぞれをほどよく落としつつ、攻略対象を決める段階だ。
 だが、ディセルとイグニスには避けられているし、ノーベンは変なノリで理解不能。
 あまりに思い通りに進まないから、近いところにいる俺に牽制しにきた、ということだろうか。
 しかし、ずいぶんと余裕な態度に見えた。
 まるで不利な状況にあっても、形勢逆転できるような術を知っているかのようだ。

 何か胸の奥に引っかかるものがあった。何かを忘れている。いや、記憶はもともと穴あきで完璧ではないが、重要な何かを忘れている気がするのだ。
 考え込んでいて、つい小さく唸ってしまったら、寝返りを打ったイグニスが俺の髪を撫でてきた。

「眠れないのか? テラ」

「あ…ごめん、起こしちゃった?」

「いや…、起きていた」

 週のほとんどは学院帰りに公爵邸にお邪魔して、そのままお泊まりしている。
 すでに親公認の仲なので、両親も何も言わない。むしろ、帰ると心配されるくらいだ。

「何かあったのか? このところ、黙って遠くを見ているだろう……、ウザったいかもしれないが、心配なんだ……」

「ウザくなんて……そんなことない。ありがとうイグニス。……ほら、俺って何も起きてなくても、先回りして悩んじゃうからさ、別になんでもないんだ。……ただ、今の幸せがずっと続いてくれるのか、そんなことばかり考えてしまって……」

「そうか……」

 ゲーム云々の話はうまく説明できないし、余計に混乱させてしまうだろう。
 漠然とした不安、言い換えればそれに近いものがある。

「俺も考えないわけではない」

「え………」

「幸せすぎると、不安になる。辛さを知っている者なら、なおさらそう思うことはあるだろう」

 辛さを知っている者。
 多くの人間がそれに当たるだろう。
 みんなそういう時はどうしているのか、そんな話をするような人は今までいなかった。

「俺は諦めるより足掻く男だ。もし、テラが悪者に攫われたら地の果てまで追いかける」

「え?」

「もし他のやつを愛してしまったと言われたら、また振り向いてもらえるまで何でもする!」

「イグニス……」

「もし何か起きても全力で取り戻す。俺はそういう気持ちでいる」

 イグニスらしい答えだと思った。
 本当に強くて逞しい人だ。

「俺もそんな風に……強く生きれたらいいな」

「強いわけじゃない。不安をかき消すために、強いフリをしているだけだ」

「えっ……」

「何が起きるかなんて誰にも分からない。そうなった時、何とかなる、どうにかできるって言い聞かせておく、フリでいいんだよ。実際その場になったら何もできないかもしれない。それでも不確かな未来に怯えて、今の幸せが信じられなくなるなんて悲しいだろう」

「そうだね…それは悲しいね」

 こうすればいいと言ってイグニスは俺を抱きしめてきた。
 イグニスの温かさと匂いに包まれて、嬉しくてたまらない気持ちになった。

「温かいと幸せな気持ちなるだろう。何も考えず、温もりだけ感じていればいい」

「うん………ありがと……」

 イグニスの広い胸に顔をうずめて頬を擦り付けた。
 ぎゅっとしがみついて、首筋の匂いを嗅いで鎖骨にキスをした。
 どこもかしこも温かくて嬉しくなった。

「テラ………」

「ん?」

「そ……その、もう…一回、してもいいか?」

 胸の中から顔を出してイグニスを見たら、口元を片手で覆って赤い顔をしていた。

「最近……一回では……お…抑えきれなくなってきて…だな……」

 恥ずかしそうに何を言っているのかと思ったら、意味が分かって俺の心臓はどきどきと高鳴ってしまった。

「いっ…いいよ、俺も……実はもっと…シタかったし」

「本当か? なっ…なんだ、あまりしつこいのは…嫌われるかと……」

「……嫌うわけないだろう。むしろ、もっと求められるなんて…う…嬉し……」

「テラっ……!」

「ンッ……ぁ……そこっ……」

 初めて同士だった俺達は常に手探りだ。愛を交わす行為はどのくらい求めていいのか分からなくて、お互い遠慮していたようだった。
 俺を抱きしめた後、イグニスは俺の後ろに指を這わせてきた。

「ナカ、柔らかいな…。指が簡単に入るぞ…。俺が出したやつが溢れてきた」

「だっ…だって、さっき入ってたっ……んっ…イグニス…もう…そんなに……」

「ああ…テラの匂いを嗅いだらすぐこれだ……このまま挿れてもいいか?」

「うん……キテ…」

 寝たままの体勢で俺をうつ伏せにした後、イグニスは後ろから挿入したきた。
 すでに愛を交わしていた蕾は抵抗することなく開いて、すでにガチガチになっていたイグニスのモノをすっぽりと飲み込んだ。

「くっ……ヤバいな……溶けそうに熱い…」

「ぁぁぁっ……、イ…グニス……おおき………ンンンっ…」

「テラ…はぁ…はぁ……テラ……っ…」

 ナカの具合を確かめるようにゆるゆると動いていたイグニスだったが、自分が出したモノの滑りを利用して、大胆に抜いてからまた奥深くまで突き挿れてきた。

「あっううあっ、すごっ…」

「くっ……テラが締めつけて…ああ…たまらない……もっと……強く突きたい…」

「いい…っ、いいよ。…好きなだけ…激しくして……俺…頑丈…だから……」

「テラ……つっ…」

 体力でいったらイグニスになんて到底敵わないが、それでもイグニスにもっと気持ちよくなってもらいたかった。

 イグニスは体の小さい俺にまた遠慮していたのだろう、いいと言ったら、今まで感じたことがないくらい激しく腰をぶつけるように律動を始めた。
 パンパンと音が鳴り響き、俺の声も止まらなくて、涎を垂れ流しながら喘ぎ続けた。

「テラ…テラ…愛してる…」

「んっはぁ…ハッっ…ンンっ…あっあっああっ…奥…気持ちい…あんっあっ…ああ!」

 揺さぶられながら前を擦られて、俺は達してしまった。
 気持ちいい。
 それで頭がうめつくされていく。

「テラ…っっ…くっっ……っっ!」

 ひときわ奥に突き入れたイグニスが、中に熱いものを放ってきた。腸壁に飛沫を感じて俺はブルブルと体を震わせた。

「イグニス…熱いの……嬉し……すき…」

「テラ……可愛いよ。大好きだ……」

 繋がったまま後ろからキスをしてきたイグニスに、俺も舌を絡めて応えた。

 まだまだお尻の奥に熱を感じながら、夢中になってキスをするのは気持ちよくてたまらない。

 イグニスの優しさと熱さに触れて悩んでいた気持ちは溶けていった。
 いつまでもずっと、この熱に溶けていたい。
 そう思いながらキスを続けた。








 腰も尻も重くて動かすとズキズキと痛んだ。机に突っ伏して唸っていると、隣の席のノーベンが呆れた顔で俺のことを見てきた。

 分かる、言われなくても言おうとしていることは分かる。

 調子に乗ってヤリ過ぎた。
 というか、途中から意識をなくしていたが、気がついた時もイグニスは俺に入ったままだった。
 朝まで挿れっぱなしで何回したか分からない。
 求められるのが嬉しいとは言ったが、いくらなんでも限度がある。
 体力オバケだとは思っていたが、イグニスの方は涼しい顔で、ほとんど寝ていないのに朝の剣術訓練に行ってしまった。

「テラ、さ……」

「分かってる、いや、分かってなかった」

「僕達、普通の人間と回復力が違うからね、いちおう言っておく」

「はい……よく分かりました」

 すでに放課後近い時間になってもこれだ。
 次の日が学校の日は無茶をしてはいけない。身にしみて分かった。イグニスは当番で今はクラスを出ていた。
 あまり辛そうにするとイグニスが心配するので、適当なところで背筋を伸ばさないといけない。

「今日は自宅に帰って早く寝た方がいいよ」

「そうする……、もう倒れそう」

 顔を机にくっ付けて唸っている俺の視界に、クラスメイト達がやけに慌てた様子で廊下に出て行く光景が見えた。

「テラ、喧嘩だって」

 騒ぎを聞いたノーベンが話しかけてきた。
 お坊っちゃま学校の学院では、表立って喧嘩するやつらなんていない。
 多少の言い合いくらいはするだろうが、殴り合いなんて御法度だ。
 多分軽い小競り合いだろうと思ってまた唸ろうとしていたら、出てきた名前に驚いて飛び起きてしまった。

「テラ聞いてる? 一年の廊下で喧嘩、ブランソンがアピスの胸ぐらを掴んでいるって……」

「は? 嘘……と…とにかく行こう!」

 停学が解除になり、一年からやり直しているはずのブランソンの名前が出てきた。
 俺とノーベンは慌てて席を立って、一年の教室に向かって走り出した。








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