眼鏡モブですが、ラスボス三兄弟に愛されています。

朝顔

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第四章 仲良し大作戦編

③公爵からのお願い。

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 かなりオブラートに包んで話したが、俺の話を聞いたファビアン先生は口の端をヒクつかせた後、眉間を指で掴みながらため息をついた。

「俺って本当教師には向いてないわ。だから俺に相談するなって言ったんだよ」

「だって、こんなこと、相談できる人なんて先生しかいないじゃないですか」

 保健室の丸椅子に乗って、俺はくるくると回りながら赤くなった顔を見られないように下を向いた。

「俺…、まさか自分がこんなに変態だったなんて思わなくて……、顔にかけられるのが嬉しいだなんて……」

「あーーーー! 言うな分かったから!」

 放課後、俺にとってのお助け相談役であるファビアン先生の元を訪ねた。
 真っ赤になりながら頭から花が咲いている俺を見て、ファビアン先生は明らかに嫌そうな顔をした。
 しかし、研究対象でもあるので無下に扱えないのだろう、仕方なさそうに椅子に座れと声をかけて話を聞いてくれた。

「支配されたい欲だ」

「え……?」

「テラ、お前にはイグニスの所有印が付いている。つまりイグニスに支配されている、という状態なんだ。だから普通なら嫌がるような行為もイグニスにされると心地よく感じて、屈辱的な行為が快感に思えてしまう、そういうことだろう。まぁ、真っ当な反応だからそこまで気にすることじゃない」

「なるほど……」

 俺はあの顔にかけられる行為が気に入ってしまい、あの後ねだって二回もかけてもらった。
 そしてかけられる度に俺もイってしまうという恐ろしいスパイラルにハマってしまった。

「印を付けなくてもよくなれば正常に戻る。しばらくの辛抱だと思え」

「え……付けなくてもいい? アレをやらなくてもよくなるんですか?」

「ああ、古い文献を探したり今までの記録を確認して導き出した俺の仮説だが、繰り返し力をもらい続けることで、力を持たなかった者もわずかながら自らの力で体内に留めることができるようになるらしい。匂いを感じることができたらそれが成功したということだ」

 やっと死ななくていい未来が見えてきて、俺はホッと胸を撫で下ろした。
 しかし、もうあの行為をしなくてもいいのだと言われると寂しく思えてしまう。あの甘くて苦しい時間を実は待ち望んでいたのかもしれない。

「なるほど…、支配されたい欲が関係してくるんですね。分かりました。先生に相談して良かったです。ありがとうございます」

「あー? スッキリしたのか? そりゃ良かった。好き同士なんだし、あれこれ考えずにイグニスに任せておけばいいだろう」

 自分の欲求というより印が関係していたことにホッとしたが、任せておけというファビアン先生の言葉にそれは違いますとちょっと熱くなってしまった。

「任せるって……、それじゃダメなんですよ。俺がリードしないといけないし、イグニスに満足してもらうためには色々勉強しないと!」

「……は?」

 手をグーにして力を入れている俺を見て、ファビアン先生は力が抜けた声を出してきた。

「気合入ってんな……、リードって、テラが攻め役でもやるつもりか?」

 まるでバカにしたようにファビアン先生が腹を押さえながら笑い出したので、俺はムッとした顔なった。

「……そのつもりです」

「そうかそうか………、って? ええ!? 本気か!?」

「そんなに驚くことですか? サイズ的に考えたらそれが最善だと思いますけど」

「いやぁ……、最善って話ではなくてな。まぁ俺は男とヤル時はネコだから気持ちが分からんでもないが。デカくても入るもんは入るんだ」

「へ?」

「……むしろ、デカくて長くないと奥まで届かないから物足りな……って何言ってんだ俺、ああ…スマン、生徒に……忘れてくれ」

 ファビアン先生は途中まで話してくれたが、頭を抱えた後、もう店仕舞いだと言っていつものように追い出されてしまった。







 イグニスを攻める気満々だったのに、新たな可能性を見出されて、俺はますます迷路の中に入ってしまった。

「……長くないと……物足りない」

「何の話ですか?」

 考え込んでいたらつい心の声が漏れてしまった。すかさず隣にいたディセルが笑いながら問いかけてきたので、ぶわっと汗が噴き出してきた。

「いっ…! ああの、パンの話だよ。ほら、長細いやつ…、あまり短いとやだなぁ…って……」

「ああ、テラはお菓子と同じくらい、パン好きですからね、私も長いのが好きです」

「え!?」

「ん? パンの話ですけど……」

 ディセルの答えに思わず混乱してしまい、慌ててそうだったねと苦し過ぎる返しをした。

 ディセルと話していると、余計なことまで引き出されそうで気まずい気持ちだった。
 早くきてくれないかとドアを見たが、俺達を呼び出した人はなかなか現れなかった。


 学院は明日から長期休みに入る。
 貴族の学校らしく、社交会シーズンというのを優先するらしく、この期間は長期休みになるのだ。
 そして、この休みが明けると、新学期となりいよいよゲームのスタートとなる。

 俺にとっては気が抜けない休みになりそうだったが、そんな休みを前にして俺はラギアゾフ公爵から直々に呼び出された。
 公爵邸の応接用の広間には、俺と同じく呼び出されたディセルが座っている。
 この組み合わせで呼ばれるというのがよく分からない。
 ディセルの柔らかな癒しのパワーで、何でも喋りそうになっていて、さすがにそこまで話せないと口にチャックをして踏ん張っていた。

「公爵が俺を呼んだのって何だろう。専属学友のことで何か不手際でもあった…とか」

「それはないでしょう。テラが私達兄弟と仲良くなってくれてからは、家の中が明るくなりました。いい影響だと父も喜んでいます。もともと、私達を競わせようとしていた方でしたが、よく話し合って、各々好きなことをしていいと言われたばかりですから」

 ディセルはサラリと言ってきたが、俺は驚きで椅子を揺らしそうになった。
 ゲームの中で、父子関係は争いの根幹になる問題だ。武を尊ぶ公爵はとにかく三人を競わせて育ててきた。
 その影響もあって主人公と出会ってからの時期当主をかけた争いが勃発すると言っても過言ではない。
 それが話し合って解決していそうな事態に、おいおいと言葉を無くしてしまった。

「母を亡くしてから、父は強さにこだわるようになったのです。一時期は話も通じないくらい……。でもノーベンがよく母のことを話題にするようになって、父は少しずつ私達の話を聞いてくれるようになりました。これもきっとテラの影響ですね」

 もしかしたらキッカケの一端くらいはあるかもしれないが、やはりほとんどの事は兄弟達が自分達の力で解決している。
 俺はますます温かくなる兄弟達の関係が嬉しくて、にこにこと微笑んだ。

 そこにノックの音が響いて、ガチャリとドアが開けられた。
 執事とともに資料を抱えて部屋に入ってきたのはラギアゾフ公爵だった。
 俺の父親と同年代だと思うが、渋い成熟した男の色気が漂っている。
 盛り上がった腕を見てもまだまだ現役を感じさせる人だと思ってしまった。

「テラくん、悪かったね。急に呼び出して」

「い…いえ、全然大丈夫です」

 お父様の色気に当てられてボケっとしてしまったが、俺は慌てて椅子から立ち上がった。そんな俺を見て公爵はまあ座ってくれと促してきた。

「この前のハントの件は聞いたよ。大活躍だったそうじゃないか」

「ゔええっ…そっそれは……」

 思わず変な声が漏れたが、ディセルにツンツンと肘で突かれて慌てて姿勢を正した。
 あの滅茶苦茶になった集団お見合いハントだったが、ディセルは事態をまとめるために、俺とノーベンとイグニスが予め潜入していたことにしたのだ。
 そのおかげで、皇宮からの調査でも詳しく聞かれることなく、早めに解放してもらえることができた。

 公爵は事情を知っているものだと思っていたのに、どうやらディセルは作った方の話で説明していたらしい。
 それなら話を合わせないといけないので、俺は大したことはしていませんと言ってとりあえず笑っておいた。

「それで……だ。今裏家業の方で難航していることがあってね。ああ、ハントに協力してくれたから裏の仕事の方は聞いているだろう」

「ええ…」

「テラくんにはなぜだか分からないが可能性を感じるんだ。ぜひ君の力を私に貸して欲しい」

「待ってください、テラをあの件に関わらせるのですか?」

「なんだ? 自分だって、ハントの件は手伝ってもらったのだろう?」

 いつも冷静なディセルが珍しく慌てていて、公爵の切り返しに上手く対応できずに言葉が詰まってしまった。

 そんなディセルを横目で見ていたので、次の瞬間目の前に公爵が立っていて、驚きの声を上げてしまった。

「テラくん! ぜひ、力を貸して欲しい!」

 横でディセルが深くため息をつく音が聞こえた。
 公爵はダメ押しなのか、少年のように目を輝かせながら俺の手を握ってまたぜひ頼むと繰り返してきた。

 嫌な予感しかしないし、内容も分からないが、三兄弟のお父様の頼みを俺が断れるはずがない。

 俺は圧力に押しつぶされるように恐る恐る頷いた。そしてわけの分からない状況に震えながら、公爵の次の言葉を待ったのだった。






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