眼鏡モブですが、ラスボス三兄弟に愛されています。

朝顔

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第三章 どきどきイベント編

③ラブイベントは危険がいっぱい。

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 皇宮内に入り馬車を降りると、両親は待機用の施設に行ってしまったので、俺は仕方なく小さくなりながらとぼとぼと会場の森に向かった。

 こんな格好、誰にも見られたくない。
 ビクビクしていたら、笑い声が聞こえてきた。
 誘導されて建物の角を曲がって前に見えたのは、同じく会場に向かう男女のグループだった。全員着飾ってスーツやドレスを着ているが、頭に耳がついていて、尻尾が例の動物の飾りになっている。どうやら、両親の悪い冗談ではなかったようだ。

 華やかな参加者達の中に場違いな男が一人紛れ込んでいるところを想像して、重い気持ちになって歩いていたら、ポンと肩を叩かれた。

「やぁ、君も参加者だよね」

「あ…う…うん」

 肩を叩いてきたのは、リスの耳をつけた俺と同じくらいの背丈の男だった。
 茶髪に茶色い目をしていて、優しそうな顔をしている。人懐っこそうな笑顔が見えて、いかにも草食系っぽい。安心した俺はホッとして笑顔になった。

「あの、俺…、初めてでよく分からなくて…」

「僕もだよ。緊張するよね。父親から言われて参加することになったけど、怖くて仕方がないよ」

 怖いと言うのは人見知りのことだろうか。
 気さくに俺に話しかけてきた感じから、そんな印象は受けなかったが無理をしているのだろうか。

「僕、リオン。平民だけど、父が皇宮に勤めていて、その関係でここに来られたんだ」

「テラ・エイプリルだよ。うちは男爵家だけど最近まで平民だったんだ。話しかけてくれてありがとう。誰も知っている人がいないから良かったよ」

 全く知らない場所で心細かったが、似たような境遇で良い人そうなリオンに会えて運が良かった。
 話し相手がいるだけでも気持ちがずいぶん楽になる。

 会場が近づくに連れて、人も多くなってきた。
 みんなお洒落で工夫を凝らした動物の格好になっているが、白とピンクは俺だけなのでやけに目立って見えて恥ずかしかった。

 ぱっと見た感じでは、女性よりも男の参加者の方が多い。
 みんな腰に剣を下げている。
 心なしかギラギラとした目をした男達もいて何だか嫌な雰囲気だ。
 武器の携帯については聞いていなかったが、薄暗い森なのでなんだか物騒な気配を感じてぶるりと震えた。

「何だか…雰囲気が聞いていたのと違うけど、みんな殺気立ってない? 気に入った人に宝石を渡すだけなのに、こんなに気合が入るものなのかな?」

 隣にいるリオンに小声で話しかけたら、リオンは驚いたような顔になった。

「テラ、君はなんて聞いてここに来たの?」

「え…気軽なナンパ…っいや、野外交流会? だって集団お見合いだろう?」

「……確かに、集団お見合いではあるけど、テラが言ったような気軽なものはもう昔の話だよ。今は何でもありの争奪戦なんだ。気に入った相手を手に入れるために殺さなければ剣で戦ってもいい。宝石が大金に変わるから、それ目当てで参加するヤツもいる。今まで死者は出ていないけど、怪我人は続出している危険なお見合いなんだよ」

「なぁぁぁっっ!!」

 親父ーーーーー!
 変わってるかもしれないどころの話じゃないだろうと、衝撃で顎が外れそうになった。

「それでも、高位の貴族はスリルと出会いを求めて参加するし、他は出会いと金を求めて…参加希望者は後を立たない……」

 冗談じゃない。
 時代の変化に無知な両親のおかげで、過去ののんきな雰囲気を引きずった目立つ格好で来てしまった。

「い……いまから、辞退とか……」

「26番! テラ・エイプリル!」

「はっ…はい!」

 すでに番号が付けられていて、係の者に名前を呼ばれてしまった。

「入り口で宝石を受け取って中へ入れ、自分都合の辞退はペナルティとして参加費の倍額を払ってもらう」

「ゔぇぇ!!」

 さりげなく紙を見せられて、そこに書かれていた金額に目が飛び出しそうになった。
 俺のお小遣い貯金ではとても足りない。辞退したいのに口が震えて何も言えなかった。
 ど真ん中に突っ立っていたら、次の人の受付があるからと係員に押されて入り口から中へ押し込まれてしまった。

「テラ、大丈夫? 僕達草食系は先にスタートできるから、一緒に行こう」

「リオン……助かるよ」

 俺は武器も持たずに手ぶらで参加することになってしまった。乱闘になんて巻き込まれたくないので、とにかくどこかに隠れるしかない。

 その時、やけに強い視線を感じて辺りを見回した。誰か知り合いでもいるのだろうか。
 肉食系の人が集まっている方向から、視線を感じて、目を凝らして見ようとしたら、急に目の前に人が出てきた。

「……よう。お前も来ていたんだな、眼鏡チビ」

「え?」

 すぐに誰だか分からなかったが、緑色のもくもくとした頭を見て、教室で俺が追い詰めた男を思い出した。

「んあああっ…! ぶぶ…ブランソン!」

 ブランソンはキツネの格好をして、肉食系グループの中から出てきた。
 強い視線はこの男だったのか。

「……学院では世話になったな。借りはたっぷりと返してもらうぜ。ウサギちゃん」

 腰に下げた剣をカチャカチャと動かして、俺を舐めるような視線で見てきた。

 こいつ……やる気だ。

「あの……俺、手ぶらなんですけど…」

「関係ねーよ、ここは学院じゃないからな。足の一本くらい美味しくいただいてやるよ」

 俺の耳元でそう言ってニヤリと笑ったブランソンは、笑いながら後発グループの方へ歩いて行った。

「い…いや…こんなの…いやだーー」

 これが本当にお見合いと言えるのか。
 まるで生き残りを賭けたゲームに参加するような展開に頭を抱えて崩れ落ちた。

 俺の悲鳴は開始を告げる笛の音と、参加者達の雄叫びのような声にかき消された。








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